よお、お嬢ちゃん、せっかくのデートだっていうのに生憎の天気だな。
ん? 俺か? 俺は平気だぜ。
俺の情熱の炎はこれくらいの雨に消えたりはしないさ。
だが、大切なお嬢ちゃんをこれ以上濡らすわけにはいかないな。
・・・震えているのか?
雨に濡れたせいか、それとも俺の傍にいるからか、な?
フッ、それならもっと傍に寄るといい。
俺の熱いハートに触れて、その身体と心を温めるといい。
・・・震えが止まったようだな。
お嬢ちゃんは何て正直なんだ。
この炎の人オスカーが守るに相応しいレディに変身しつつあるということか。
そうだな、ちょっとばかし昔話をしてやろう。
俺が親父に連れられて初めて猟に出かけたときのことだ。
屋敷から出てどれくらい馬を跳ばしただろう。
俺達がキャンプを張った所は見渡す限りの草原で360度の地平線が望めた。
世界の中心にいる、そんな錯覚を覚えさせるような場所だった。
猟は明日からにしよう、薪を集めてくる、そう言って親父がテントを離れて30分ばかり経った頃、
突然空が暗くなり、雨が降り出した。
親父を捜しに行きたかったが、何の目標物もない草原で迷いでもしたら大変だ。
俺はテント中で膝を抱え、ただ雨が通り過ぎ、無事親父が帰ることだけを願っていた。
雨は激しく、小さなテントなど簡単に流し去って行くのではないか、この雨で親父の身に何かあったのではないか、
悪い考えばかりが浮かび、思わず表に飛び出してしまいそうになった時、テントの入り口で物音がすることに気付いたんだ。
人や大型の動物の気配ではなかった。
そっとテントの入り口を覆っている布を上げ、辺りを窺ったその途端、何かが猛烈な勢いでテントの中に駆け込んできた。
そいつはトビネズミだった。
トビネズミって言うのは、後ろ足の発達した臆病な小動物のことだ。
普段は砂漠にいる奴で、草原で見かけるのは珍しいんだが、エサでも探して迷い込んできた挙げ句、雨に降られて闇雲に逃げ回ってきたんだろう。
トビネズミが人に慣れることは滅多にないんだが、こいつは中にいる俺に気付いてじっと見つめた後、あろう事かコトンと横になって眠ってしまった。
よほど安心したのか、脇腹をつついてやったが起きる気配もない。
俺は今まで不安で一杯だった自分が莫迦らしく思えてきた。
こんな臆病な奴が眠れるくらい安全な場所にいて何を不安がることがあるのか、ってな。
よしんばテントが流されたとしても、俺はこいつを守り、ただこの場所で待てばいいんだ。
止まない雨はない。
こんな小さな存在が俺に力を与えてくれる。
不思議だった。
守るべき者があること、それが俺の力になり、強さとなる。
守るべき者が大切であればあるほど、俺は力を増し、強くなれる。
お嬢ちゃん。
いや、その輝く瞳を見て今はっきりわかった。
君は俺の大切なレディだ。
君さえいれば俺のハートが燃え尽きる事はない。
守らせてくれ、君を。
君だけを、俺に。
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雨降りデートシリーズ第十一弾です。
オスカーは、本気じゃないときは、やたら飾り立てたどこまでも気障で聞くだけで恥ずかしい〜って
セリフを平気で吐きますが、本気になっちゃったら別人のように直球勝負になるような気がします。
でも、本人が直球だと思っているだけで、聞く側からするとやっぱり恥ずかしいセリフかもしれません。
何にせよ、恥ずかしいセリフがなきゃオスカーじゃありませんものねー。この、二次創作家泣かせ!
”トビネズミ”はふくやまけいこさんの「砂漠の子」(アニメージュコミックス「ライム」に収録)から借用しました。
2003.4.28
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