エイプリールフールは神様が 〜前編〜

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「もう! 止めてくださいっ、オリヴィエ様」
「ダ・カ・ラ、絶対似合うってば。ねっ、夢の守護聖オリヴィエが腕によりをかけてメイクしてあげるって言ってるんだからさ、 恥ずかしがらずにこっちおいでよ」
「恥ずかしいとか、そんなんじゃなくって、ぼくは男なんですってば」
「イイじゃない、そんなの」
「よくありませんっ! 失礼します!」
緑の守護聖マルセルが逃げ去った執務室のドアを、名残惜しげに夢の守護聖が見つめていました。
オリヴィエ様はメイクが得意で、自分にメイクするのも、他人にしてあげるのも好きでした。
ただ、残念なことに、オリヴィエ様にメイクをしてもらうのが好きな人はいなかったのです。だって、九人の守護聖はみんな男の方でしたから。
「今日は逃げられちゃったけど、今度こそ腕を振るわせてもらうからね」
マルセルに聞こえるはずもありませんが、オリヴィエ様は声にして言ってみました。そうするといくらか気分が良くなりました。 そして、罠を張って獲物を待つ蜘蛛のように、次に執務室を訪れる誰かをどう言いくるめてメイクしてやろうかと画策し始めました。 こういう時のオリヴィエ様は本当に楽しそうです。

マルセルはオリヴィエ様の執務室から飛び出して庭園に来ていました。
『オリヴィエ様のメイクしたがり症って何とかならないのかなぁ』
歩きながらいろいろと考えました。すると、ピカッと電灯が点いたように頭の中にある考えが浮かびました。
『ううん、ダメ。ウソをつくのはいけないことだもん』
マルセルはせっかく浮かんだ考えを心の片隅に追いやろうとしましたが、ふと思い出すことがありました。
以前、地の守護聖ルヴァ様に、一年に一日だけ嘘をついても許される日があると聞いていたのです。

その日はエイプリールフールと言って四月一日なんですけどね、その日の午前中だけは嘘をついても神様がお許し下さるそうなんですよ。 でもね、人を傷つけたり、後味の悪い嘘はいけませんよ。かついだ人も、かつがれた人も楽しくなるような嘘って難しいですよね。 だからマルセル、いくら嘘をついてもいい日だと言っても、よく考えてからにしてくださいねー。
ルヴァ様は穏やかな笑顔でそうおっしゃいました。
嘘をついても許されるその日ならマルセルの計画も上手くいきそうです。でも、計画には仲間が必要です。 口が堅く、絶対に嘘をつきそうにない仲間が。
マルセルが東屋まで来ると、ハープの音が聞こえてきました。水の守護聖リュミエール様が弾いてらっしゃるのでしょう。
マルセルの瞳がキラーンと輝きました。計画を実行する仲間にリュミエール様ほどの適任者はいません。 あとはリュミエール様を口説き落とすだけです。

「リュミエール様、素敵な調べですね」
「ふふ、ありがとう、マルセル。私に何かご用があるのですか?」
「はいっ、お願いしたいことがあるんです。リュミエール様に手伝ってもらえたら絶対上手くいきます。 ぼくのお願い、聞いてもらえますか?」
「お話を聞かせてください」
リュミエール様は小首を傾げてマルセルの話を聞いていましたが、全部聞き終わるとこうおっしゃいました。
「オリヴィエのあの性癖には私も困っていたのですよ」
そしてにっこり笑って協力を約束してくださいました。
気を良くしたマルセルは宮殿に向かいました。女王補佐官のロザリア様にもお願いしなくてはいけません。
「こんにちは。ぼくお願いがあって来たんです」
ロザリア様もマルセルの話を聞くと、楽しそうに笑いながらおっしゃいました。
「ふふっ、私に任せてちょうだい。上手くいくといいわね」
これで用意は整いました。

風の守護聖ランディ様と鋼の守護聖ゼフェル様はマルセルの仲良しですから協力しないわけはありません。
それに、このお二人もオリヴィエ様のメイク攻勢にはうんざりしていたのです。
「なぁ、おい、オリヴィエの奴、オレにまで化粧しよーとしたんだぜ。ったく信じられねーぜ」
「まったくだよ。俺、オリヴィエ様の趣味をどうこう言うつもりはないけど、無理強いはいけないよな」
そういうわけで味方は四人。残りの四人はロザリア様が何とかしてくださるでしょう。
後は四月一日を待つばかりです。

………続く


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