エイプリールフールは神様が 〜後編〜

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四月一日の朝、ロザリア様からジュリアス様とクラヴィス様とルヴァ様とオスカー様に手紙が届きました。
中にはただ一行だけ書かれてあります。

今日の午前中に限り、誰に何を聞かれようと「そのようだが、他言無用」と答えること

光と闇と地と炎の守護聖様は首を傾げましたが、女王補佐官の命令ならば是非もありません。

同じ頃、オリヴィエ様は庭園でコソコソと話をしているランディ様とゼフェル様に気づき、耳をそばだてていました。
「しっかし、見事にだまされてたぜ。まさかマルセルが女だなんてよ」
「しっ! ゼフェル、声が大きいぞ! マルセルにだっていろいろと事情があったんだよ。 とにかく俺たちはこの事が女王陛下や補佐官の耳に入らないように気を付けなくっちゃな」
「わかってるって。こんなことがバレたらあいつもタダじゃ済まねーだろうし、 もしかしたら守護聖辞めさせられちまうかもしれねーもんな」
オリヴィエ様はビックリしました。マルセルが女の子だというのです。
まさかとは思いましたが、ひょっとしたら、ということもあります。
オリヴィエ様は守護聖のことなら何でも知っているはずの首座、ジュリアス様の所へ行って真偽のほどを確かめることにしました。

「やっほー、ジュリアス。相変わらず難しい顔だねェ。そんな顔ばっかりしてると楽しいコトが逃げて行っちゃうよ」
「おまえに心配してもらう謂われはない。用件はなんだ?」
「んっとね、マルセルのことなんだけど、マルセルって実は女の子だったりするの?」
ジュリア様は眉ひとつ動かさず答えました。
「そのようだが、他言は無用だぞ」
ジュリアス様が言う以上本当のことでしょう。でもオリヴィエ様はなんとなく得心がいきません。 そこで、他の守護聖にも聞いてみることにしました。
「はぁい、クラヴィス。ちょっと聞きたいんだけど、マルセルって実は女の子なの?」
「・・・? ああ、そのようだな。だが、他言は無用だ」
オリヴィエ様はまだ納得できないようです。
「オスカー、いる? ねェ、マルセルが女の子だなんてウワサ、本当なの?」
「うっ、あ、いや。それは質問だな? なら答えはこうだ。そのようだが、他言は無用」
オリヴィエ様は溜息をつきました。どうやら本当のことのようです。
「ルヴァ、ねぇってば、マルセルが女の子だったなんて、あんた知ってた?」
「えー?! あ、そ、それはですね。そうみたいなんですけど、他の人に言っちゃだめなんですよー」
ルヴァ様にまでこう言われたら信じないわけにはいきません。
オリヴィエ様は意を決してマルセルに会いに行くことにしました。本人に会って確かめるためです。 うやむやにしてしまうのは性格的に嫌でした。

「マルセル、入るよ」
執務室のドアを開けると、マルセルと、リュミエール様がいました。
「ああ、オリヴィエ、マルセルにご用事ですか? それでは私は失礼いたしますね」
「あ、待ってください、リュミエール様。あの、オリヴィエ様、別にいいですよね?」
「私はできたらあんたと二人きりで話がしたかったんだけど?」
「ぼくは困ります!」
「何も取って食いやしないよ。ただ、大切な話だからさ」
「あー! オリヴィエ様、聞いちゃったんだ! 誰に? 誰があなたに教えたの?」
「教えられたってゆーか、聞こえちゃったんだよねェ」
オリヴィエ様は悪びれもせず答えました。
「ひど〜い! 立ち聞きしたんだ! ぼく、出来るだけ秘密にしてたのに・・・。 ぼく、陛下に嘘をついてたなんてわかったら、きっと守護聖も辞めさせられちゃうね・・・」
「大丈夫ですよ、マルセル。オリヴィエは人に話すような人ではありません。そうですよね?」
「言っちゃった、って言ったらどうする?」
「オリヴィエ、あなたという人は・・・」
「でも、大丈夫だよ。みんな知ってても誰にも話す気はないみたいだったから」
「くすん。オリヴィエ様ったら、ぼく、一生懸命隠していたのに、メイクしようなんてするし、 そんなのことして女の子だってわかったらどうするの?」
「そうですよ。男性に化粧を無理強いするのも良くありませんが、女の子であることを隠している人に化粧などしては一目瞭然。 女王陛下の耳にもすぐ届いてしまいますよ」
「はい、はい、ワルかったよ。でもさ、なんか論点がずれてない?」
「そんなことはありません」
「オリヴィエ様、もう二度とぼくにメイクしようなんてしないでね。 それから、ロザリアや陛下には絶対黙っててね」
「ま、事情が事情だからね。わかったよ」
「マルセル、口約束は信用できませんね。文書にしていただいたらどうでしょう?」
「ちょと、リュミエール! 私の言葉が信用出来ないってゆーの?」
「リュミエール様、これでいいですか?」
「見せてください。【私こと、夢の守護聖オリヴィエは、緑の守護聖マルセル、及び他の守護聖に対して、 今後メイクを強要しないことを誓います】ええ、いいと思いますよ。ではオリヴィエ、ここにサインを」
「あんたたち、私の言うこと、全然聞いてないでしょ?」
「オリヴィエ様ぁ? だめ? やっぱりぼくは聖地から出て行くしかないんだ・・・」
「わかった! サインでもなんでもしてあげるよ。な〜んか、上手く乗せられたような気もするけど」
オリヴィエ様はサラサラとサインをしました。
サインの入った紙をさっと取り上げると、リュミエール様は満足そうににっこりと笑ってマルセルに手渡しました。
マルセルは受け取った紙をしっかりとカギの閉まる引出にしまうと、こらえていたものが吹き出すように笑いはじめました。
窓の外で成り行きを見守っていたランディ様とゼフェル様もたまらず笑い出しました。ゼフェル様などは笑いすぎて体をくの字に曲げて苦しんでいる始末です。
「!? ちょっと、何よ、みんなして。どうゆーこと?」
マルセル様が涙を浮かべて笑いをこらえながら、看板を取り出して掲げました。

エイプリールフール
ご協力ありがとうございました

綺麗にレタリングされた文字で書いてあります。
「エイプリールフール? マルセルは女の子じゃなかったってコト?」
「ええ、もちろんです。今日のこの日は嘘を付いても神様がお許しくださるそうですよ」
言葉の出ないマルセルに代わってリュミエール様が説明しました。
「でも、サインは本物ですからね。これは今日が終わっても残るものです。マルセルの作戦勝ちですね」
「あんたさぁ、キレイな顔して言ってくれるよ。・・・ふふっ、まいったなぁ、今日のトコロは引き下がるしかないね。 ま、いいさ、ケッコウ楽しかったよ」
オリヴィエ様はただ引き下がった訳ではありません。どうやってお返しをしようかと考えていました。
でも、【お返し】は実行に移されることは無かったようです。【お返し】よりも楽しいこと。女王試験が再び始まったのです。 そしてオリヴィエ様は何より楽しいことが好きな方。聖地の平和はしばらく続きそうです。

おしまい

さりらさんにキリ番200番を踏んでいただいき、リクエストしてもらったお話です。
さりらさんのご厚意で「お話」の部屋で公開の運びとなりました。
マルセルとオリヴィエとリュミエール。この三人を出して欲しいとのリクエストにマジ悩みました。
守護聖達は女王試験中以外はきっと退屈なんだろうな、って思って考えたお話です。マルセルに振り回されるオリヴィエはちょっと可哀相ですね。
さりらさん、こんなんでお楽しみいただけたでしょうか・・・?

2002.3.8


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