「アンジェリーク、リュアンヌを守護聖たちに紹介したいのですがよろしいでしょうか」
帰って来るなり水の守護聖リュミエールは、生まれたばかりの赤ん坊を抱く妻のアンジェリークに言った。
「そうですね。リュアンヌも生まれて一か月たつし、明日の検診が終わって、陛下にお目通りが叶ったら、みなさんにお披露目しましょうか」
快い返事を聞けてほっとした表情のリュミエール。
「ああ、よかった。あなたのお許しがいただけて。実は毎日のようにリュアンヌを見たいという方がいらっしゃって、返答に困っていたのです。それでは、明後日ということでよろしいでしょうか」
「はい、いいですよ。うふっ、リュアンヌ、明後日は素敵なお兄さんたちがいらっしゃるのよ。未来の旦那様がいたりしてねー」
「アンジェリーク?」
「やだ、リュミエール様、そんなコワイ顔しないでくださいよぉ。冗談ですってば」
「本当ですか?」
「くすくすくす。今からそれじゃあ、リュアンヌがおっきくなったら心配のし過ぎで病気になっちゃいますよ」
「そうしたらあなたが看病してくださるのでしょう?」
腕の中のリュアンヌごとふんわりと抱きしめられて、アンジェリークはびっくりして水色の瞳を覗き込んだ。
青緑色の瞳を見つめ返したリュミエールは、にっこりと笑い、愛しい妻子にキスをして手を離した。
「私の妻になり、リュアンヌの母になった私の愛しい天使。・・・ありがとう」
「ど、どうしたんですか、いきなり」
「ふふっ、どうもしません。ただ、感謝の言葉が言いたかったのです。あなたは多くのものを手放さなくてはいけなかったというのに、その上でより多くのものを私にくださる・・・」
「リュミエール様、私、あなたからどれくらいおっきなものをもらったか知ってます? 私今、本当に幸せなんです。お礼を言うのは私の方です、ありがとうございます」
「では、お互い様ということですね。これからも末永くよろしくお願いします」
笑いながら丁寧にお辞儀をされて、アンジェリークも慌ててお辞儀を返した。
「よっ、来たぜ。へぇ、こいつがリュミエールとアンジェリークの子供か。・・・ちっちぇーな」
「ゼフェル、ちっちゃいのは当たり前だろ? 生まれたばかりなんだから。かわいいなぁ。アンジェリーク、その、抱いてもいいかな?」
「ええ、いいですよ。首がすわってないから、落ちないように抱っこしてくださいね」
リュミエールが心配そうな視線を投げかけたが、アンジェリークは大丈夫という風ににっこり笑い、夫を制するように隣に座った。
「わぁ、上手だね、ランディ。あはは、手と足をばたばた動かしてるよ」
「ははは、俺には年の離れた妹がいたから慣れてるんだよ。ああ、この感じ、懐かしいな。マルセルも抱いてみるかい?」
「えっ? ぼく? あ、大丈夫だよ、アンジェリーク、そんなに心配そうな顔しないで。ぼくちゃんとやるから」
「なんだ、おめー結構上手じゃねーか。こいつ、何か嬉しそうじゃねーの?」
「こいつじゃなくて、リュアンヌ。女の子をこいつ呼ばわりしないでよ。じゃあ、次ゼフェルの番ね」
「な、何ーーーっ! わっ、何だ、ぷにゃぷにゃしててどこ支えたらいーんだよ! おいっ」
「あー、ゼフェル、そんなに騒いだらリュアンヌがびっくりしてしまいますよー。ほら、首がすわって無くて頭が落っこちちゃうでしょう? だからここに手を入れて。あー、大丈夫そうですね。ふふっ、何だか珍しそうにあなたを見てますよ」
「何が珍しいんだか。まぁ、こい・・・リュアンヌにとっちゃ珍しいモンだらけだろーな。ほらよ、ルヴァ、子守はおめー得意だろ」
「得意と言うほどでは・・・。ああ、可愛いですねー。この子はリュミエール似ですか。将来が楽しみですねー」
「ふふーん、ホーント、可愛い子じゃない。でもあんたに抱かれてると難しそうな顔してない?」
「そ、そーですか?」
「キャハハハ。きっと説教でもされてる気になってるんだ。じゃ、代わって。ほーら、楽しそうな顔になった。リュアンヌ、あんたって素直ないい子だねぇ」
「そうやってると母親みたいに見えるぜ」
「もう、オスカー。あんたってホント素直じゃないね。私の美しさを認めるのに母親って言葉は無いと思うけど?」
「誰が認めるか」
「ふーん、じゃ、父親になった気分でも味わってみなさいよ」
「!」
リュアンヌを受け取り、顔を覗き込んだオスカーは、赤ん坊が今にも泣きそうになっているのに気づき、慌てて次の守護聖に託した。つまりは光の守護聖ジュリアスに。
ここに来てついにリュアンヌは泣き声を上げた。
「オスカー、何をする。私に子守が出来るはず無いであろう? なぜ私に託す? おお、よしよし、泣くな」
必死に赤ん坊をあやそうとするジュリアスに手を差し伸べる者は誰もおらず、両親さえも面白そうに成り行きを見守っていた。
しかし、尚も泣き続けるリュアンヌを引き取ろうとリュミエールが立ち上がった時、ドアが開き闇の守護聖が入ってきた。
「遅くなった。・・・ジュリアス、何をしている?」
「見ればわからぬか!?」
「赤子を泣かして楽しいのか?」
「!! ならばそなたがあやせばよかろう」
火がついたように泣き叫んでいたリュアンヌは、クラヴィスの腕の中に収まった途端泣くのを止め、不思議そうに紫色の瞳を見つめるような仕草をし、やがて小さなあくびをして眠ってしまった。
「わぁ、さすがは安らぎを司る守護聖様ですね。眠っちゃいました。あの、もうしばらく抱っこしていただけます? 今ベットに移すと起きちゃうと思いますから」
「ああ、かまわぬ」
クラヴィス以外の守護聖は皆礼を言ってリュミエールの屋敷を辞し、アンジェリークは食事の用意をしにキッチンへ向かった。
「今、笑ったぞ」
「えっ? あの、何か仰いましたか?」
「可笑しなものだな。眠っているのに確かに笑った」
「それは・・・。クラヴィス様のお心に触れたからではないでしょうか」
「私の? ならばなぜ笑う。私の心に触れて笑うなど・・・」
「赤ん坊は本能的に本質を知るのでしょう」
「フッ・・・。おまえの言葉、とても信じられぬが悪い気はせぬ」
クラヴィスは腕の中で眠るリュアンヌを愛しげに見つめた。
小さな命はあたたかな光でクラヴィスを満たす。
心の奥の深い闇にまで光は届く。
照らされた闇は居心地が悪そうに道を空ける。
あたたかで優しい光。
この光が強く、歓喜に満ちた光となってクラヴィスを満たすのは後の話となる。
fin
えっと、「輪」の続き、というか、前のお話です。クラヴィス(と他の守護聖たち)とリュアンヌの出会いを書いてみました。
生まれたばかりの赤ん坊って、本当に笑うんですよね。目も見えない筈なのに。うちの母はよく「地蔵さんがあやしてる」と言っていました。
ならばクラヴィス=お地蔵さん・・・(^^;)
「輪」を読んでさりらさんがリュアンヌのイラスト描いてくださいました\(^○^)/
す〜〜〜っごく可愛いリュアンヌのイラストはこちらです。jpg圧縮の前は綺麗な紫色(クラ様色?)の服だったそうです。
圧縮後、青色(リュミ様色?)になってしまったそうですが、青も素敵ですよね。
下絵段階の、背景の所に悩めるリュミ様と取りなすアンジェのイラスト付きはこちらです。
リュアンヌのイメージにピッタリですね。さりらさん、本当にありがとうございます。
2002.6.14
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