第1回

「おい、本当かよ。」
「あったりまえだ、こんな嘘つけるもんか。」

きゅ〜ぎゅるるるー

「お前、また俺のこと脅かそうと思って、シャツの中になんか隠してるんじゃないのか?」
「んなわけないってば。僕、本当に困っているんだから。早く、なんとかしてくれよ。」
「ちょっと待ってろよ、すぐ来るからさあ。」

ぐるぐるきょりょりょりょ〜〜ぐにゅっ

「まったく、そんなことがあるなんてなあ。」
「ああ、モミジの言うことが正しければね。」
 僕は今、友達の鈴木君の部屋で鈴木君に相談している。「モミジ」と言うのは、僕の家に住み着いている小人さんの名前、そして、信じたくないけれど、僕のお腹の中には、カエルが居るらしい。



第2回

 お腹の中にカエルがいる。そう教えてくれたのは、モミジだ。小人さんというのは、たいていの家に住み着いていて、その家を守ってくれている存在だ。でも、人前にはほとんど姿をあらわさないので、それを知っている人はあまりいない。僕だって、この前、鈴木君に教えてもらうまで、小人さんがいるなんて知らなかった。そのうち、小人さんのことを調べてみたいと思うけど、今、僕はそれどころじゃあない。
 それは、昨日から始まったんだ。朝御飯を食べ終わったら、僕のお腹が

んご、げにょげにょにょ

と、大きな音をたてた。
「あら、良く噛んでゆっくり食べないから、空気も一緒に飲みこんじゃうのよ。」
「やだな、下っ品〜。姉として恥ずかしいわ。」
「ははは、ゲップだったら、父さんと同じだけどな。」
家族のみんなにいろいろ言われたけど、その時は全然気にしていなかった。
 でも、その日の給食の後でも、

ぎゃぐぐぐ、ぎゅい

おやつを食べても、

ごにゅにゅ、けろけろ

夕飯の時も、

ぐっ、ぐっ、ぐっ、ごろろろ〜

と、今まで聞いたこともないような音をたてるようになった。



第3回

 別に、どこも痛くないし、熱だってない。気分はちっとも悪くないんだ。それどころか、いつもよりお腹がすいて、夕飯のカレーライスは3杯食べたくらいだ。ああ、どうしちゃったんだろう、僕のお腹は。お姉ちゃんなんか気味悪がって、
「一緒に食べてると、食欲なくすから、あっち行ってよ!」
と言って追い立てるから、食後のリンゴは自分の部屋で、僕一人で食べなきゃならないなんて。ちっともおいしくない。でも、食べると、またお腹が

ぐるぐるけにょっ

と、鳴り始めた。
「クククク・・・・・アハハハ。」
 ん、かすかな笑い声がする。あの声は、たぶん・・・・・。
「おい、モミジだろ、だれもいないから出てこいよ。」
「よっ、ひさしぶり。おまえ、変な特技もっているんだな。」
 ひょいっ、と目の前にモミジがあらわれた。こいつは20センチくらいしか背丈が無いくせに、偉そうな言葉遣いをする。ま、僕よりはるかに年上らしいから、仕方がないんだろうけど、なんとなく癪にさわるなあ。
「ねえ、モミジ、君はずっと昔から生きているんだろ?」
「ん、まあな。仲間の中では、比較的若い方だけど、それでもけっこうな年令なんだぜ。年上は敬えよ。」
「それはいいから。じゃあさあ、このお腹を治す方法を知らないかい?」
 僕は今朝からのことをモミジに話した。
「というわけなんだけど。」
「ん〜・・・・・。それは、蛙だ。」
「へっ?」
「だから、蛙がいるんだ。」
「蛙?あ、あの、あの、あの蛙が?」
「ほら、よく言うだろ、『胃の中の蛙、大海を知らず』ってね。胃の中にはたまに蛙がいるんだ。」
「やめてくれよ、気持ち悪い。」
「仕方ないだろ、本当のことなんだから。」
「・・・・・。んじゃ、どうすれば治るんだよう。」
「それは、知らん。」
「え〜〜〜!!そんな、無責任な!」
「なんだよオレは最初っから、おまえの腹に責任なんかないぞ。」
「・・・・・・・。」
 それじゃあ、一生、このまま、うるさいお腹をかかえて生きていかなきゃならないのだろうか。それも、蛙と一緒に・・・・・。


第4回

「おい、泣くなって。解決方法はある、はずだ。」
「な、泣いてなん、か・・・いな、いないよ。・・・かい、解決方法って、な、な、何なんだよお。」
「オレは知らないけど、もっと年上の小人なら知っていると思う。鈴木家にいる、キンギョってのが、確かオレの倍くらいの年令だ。彼女に聞けばいい答えがもらえると思う。」
「鈴木君とこの小人さん?」
「ああ、キンギョは物知りだから、きっと知ってるはずさ。聞きに行けよ。いい奴なんだぜ。」
「それじゃあ、一緒に行こうよ。」
「だめだめ、オレは、ここを離れることはできないんだ。ま、よろしく伝えてくれよ。」

* * * * * * * * * *

 そして、翌日、つまり、今日のことなんだけど、僕は鈴木君にわけを話して、キンギョに会わせてもらうことになり、鈴木君の部屋にいるってわけなんだ。
「でもさ、君ん家のキンギョに会うにはどうしたらいいんだ?」
「ん、それなら、簡単。心配ないって。」
「え?だって、モミジなんか、いて欲しいときに現れたことって、めったにないぜ。」
「そこがオレん家と、お前ん家の違いってわけ。」
「というと?」
「お前のとこだと、モミジのことを知ってるのって、お前だけだろう?でも、うちじゃあ、家族みんな、いるのが当たり前だと思ってるから、好き勝手に出てくるんだ。」
「えっ!じゃあ、鈴木君のお兄さんも、パパもママも知ってるの?!」
「当然さ。俺、パパから聞いたんだぜ。」
 うわ〜〜、信じられない。僕のお母さんやお父さん、それにお姉ちゃんだったら、絶対に気味悪がって、追い出しちゃいそうなのに。だから、モミジも僕以外の人には姿を見せないようにしているし。
「なんか、すんげ〜家なんじゃない?君のとこって。」
「かもね。でも、よその人には言わないんだ。キンギョも、他人に姿を見られたらどうなるかわかってるし。それに、パパが言ってたけど、普通の人は、ちらっと目の端に動く物が見えても、気のせいとか、風で何か動いたんだろうって言う風にしか思わないから、ちょっとくらいなら、見られても大丈夫なんだって。キンギョの動きもすばやいし。」
「でさあ、どうやって呼びだすんだい?」
「ほら、今お前も食べてるクッキー、俺のママが作ったんだ。うまいだろう。キンギョもママの手作りお菓子が大好きだから、呼べばすぐに来るって。」
「じゃ、早く頼むよ。僕困ってるんだからぁ。」
「わかっているって。お〜い、キンギョ、すぐそばにいるんだろう。クッキーがあるから出てこいよ。こいつなら、大丈夫、モミジの友達だからさ。」
 ひょいっ!と、小人さんがあらわれた。一体、どこにいたんだろう。
「あら、はじめまして、よろしくね。何も、盗み聴きしてたんじゃないんですけど、ちょっと通りかかったら、話し声が聞こえたのよ。んまあ、お困りね。」
 小さいけれどよく通る声で話しているキンギョを、鈴木君は軽くこづいてクッキーを渡した。小さなクッキーも、彼女には、両手で抱えなけりゃならない大きさだ。
「なあ、キンギョ、なんとかならないのか?」
「相談事については、これ食べてからじゃだめなの?私、おなかすいているんだけどさ。」
「だめ、絶対だめ!!」
 僕は急いで答えた。こんな小さな体の小さな口でクッキーを食べてたら、いつまでかかるかわかったもんじゃない。
「ねぇ、僕の話聞いてたんなら、はやく教えてよ。どうして僕のお腹が変な音がするの?本当にカエルなの?どうしたら治るの?ね、早く早く、教えてよ!!」




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