第1話「さらば、いつわりの平和よ」
前編

 ここは、しあわせ町の児童公民館。一見、ごく普通の建物であるが、その地下には、最新鋭の設備を備えた秘密基地が存在する。そう、シルクネットの平和を守るために作られた基地なのだ。だが、この秘密基地の存在を知っているのは、「通信戦隊シルクファイブ」と呼ばれる5人の勇者達と、鈴木博士だけである。今日も彼等は、基地内で、ネットの定時パトロールをしている。
「ふぁ〜〜〜あ、な〜〜んにも事件は起きてないなぁ。」
「あっ、あくびなんかして、たるんでるわよ!」
「だって、ここ数か月、ネット内で、何一つ異変がないんだぜ。」
「だから、手を抜いてもいいって言うつもり?」
「手抜きなんか、してないさ。ほら、見てみろよ、このデータ。僕は、真面目にパトロールしてるんだ!!」
「おいおい、熱くなるなよ。熱血漢もいいけど、平和な時には、エネルギーの無駄遣いでしかないんだぜ。」
「それにしても、あの敵の秘密組織は、どうして、姿を見せなくなったのかしら。今、敵のデータをあらゆる角度から検討しているところなんですが、秘密組織そのものが消滅したとも思えないし。」
「不気味な静けさだ。」
「そうなの、あたしも、なんだか不安なのよ。今に恐ろしいことが起こりそうな気がしてならないの・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「やあ、諸君。パトロールは終わったのかな?」
「あ、鈴木博士、今日も異常ありません。」

* * * * * * * * * *

 さて、ここで、簡単な人物紹介をしておくとしよう。
「紅の疾風(くれないのはやて)」:男性。職業は、プロのレーサ−。
「黒海(こっかい)」:男性。東都大学の学生。
「あおば」:女性。高校生。
「緑雨堂(りょくうどう)」:女性。コンピュータ雑誌のライター。
「しらかば」:男性。拳法道場の師範。
 この5人が、シルクファイブのメンバーである。尚、名前は、勿論、ハンドルネームである。
 そして、秘密基地を作り、彼等を呼び集めたのが、この児童公民館の館長でもある鈴木博士。ハンドル名は、「発明家(はつめいか)」
 と、いうことで、紹介、終わり。

* * * * * * * * * *

 鈴木博士は、話しはじめた。
「君達も、最近のシルクネットが、あまりに平和で、かえって不安を感じておるじゃろう。緑雨堂くんに頼んで、定時パトロールとは別に、ネット内の調査をしてもらったのじゃが、その結果について、皆に、報告してくれ。」
「はい。シルクネットは、敵に狙われるようになる前から、会員数、規模など、他のネットに決してひけをとらなかったのですが、ここ最近、ますます会員数も増え、発展を続けています。各界の著名人の多くも会員ですし、運営は円滑に行われています。つまりは、敵にしてみれば、更に魅力的なネットとなったはずなのです。にもかかわらず、敵は、影をひそめたまま。データ分析の結果も、異常なし、としか、言えません。」
「では、黒海くん、君の調査結果を教えてくれぬか。」
「俺は、調査、というほどのことはしてない。ま、強いて言えば、他のいくつかの大手ネット会員でもあるから、そっちの方も探ってみただけだな。どうやって調べたかは、ここで言ったら自慢になるから、黙っておくけど、結果だけ言わせてもらえば、敵の気配はない。奴等が他のネットに乗り換えた、ということはありえないってことだね。」
「ふむ、そうか。次は、あおばくんじゃが・・・・・。」
「あ、あたしは、チャットやオフで、会員の様子を調べたりしてるの。文章って、その人の人格がにじみ出るから、変化があれば気付いちゃうのよね。あとね、オフの時には、こっそり会員をセンサーで調べてみるの。敵が会員に化けてるかもしれないでしょ。でも、怪しい人物は、いなかったわ。」
「なるほど。しらかばくんは、どう思うかのぉ。」
「見た目は確かに平和だ。しかし、これは真の平和ではない。」
「では、紅くん、最後に、リーダーとしての君の意見を聞きたい。」
「確かに、ここ数か月、何の事件も起きてはいません。でも、敵の秘密組織が壊滅したという証拠もないのです。奴等がまた卑劣な手口でネットを襲うことは十分あり得るはずです!」
 と、その時、静けさを粉々に砕くような警報の音が鳴り響いた。彼等は、急いで計器を調べる。
「博士!どこかで異常なエネルギーが発生したようです!!」
「コンピューターに解析させます!」
「おい、見てみろよ、こんなの見たことないぜ。」
「こ・これは、まるで・・・・。でも、そんなことって・・・・。」
「生命・・・・か?」
「そうとしか、思えないぜ。どっかで何かが生まれたんじゃねえのか。」
 モニターの前に立ちつくす5人の勇者と鈴木博士。
 これが、新たな戦いの始まりであった。
(つづく)



第1話「さらば、いつわりの平和よ」
中編

 場面は変わって、ここは、地下深くの洞窟。正確な場所は、不明であるが、その洞窟の奥に、灯りがともっているらしく、何者かの影が、ゆらゆらとうごめいている。呪文を唱えるつぶやき声は、ときには低く、ときには高くなりながら、止むことなく続いている。薬草を焚いた煙と匂いがたちこめ、空気を緑色に変えている。
 そう、ここは、敵の魔神がまつられている神殿なのである。そして、祈りを捧げているのは、総帥の片腕として働いている女であった。
 女は、闇よりも黒い衣装を身にまとい、深紅の宝石がいくつも嵌め込まれた錫杖を手に魔神に向かって呪文を唱え続けている。
 と、その時、轟音と共に神殿が揺れ、その奥からまがまがしき唸り声が聞こえた。
「おお・・・、魔神様、お怒りをお静め下さい!!魔神様のため、総帥のため、必ずや、シルクファイブを倒し、世界征服を果たします。そのためにも、魔神様、我らに新しき魔神獣をお授け下さい!!お願い致します!!」
 神殿の奥から、閃光がほとばしり、耳を聾せんばかりの叫び声に、女は倒れ込んでしまった。

* * * * * * * * * *

「どうやら、おさまったようだな。」
 警報の鳴り止んだ、シルクファイブ秘密基地では、さっそく原因を調べ始めている。
「でも、今のは、一体何だったっての?!」
「場所はわかりませんが、地下でエネルギーが、大量に放出したようです。」
「地震か?」
「いえ、違うわ。今まで感知したことのない種類のものだけど、物理的というより、生物的なエネルギーなの。」
「これはひょっとして・・・・。」
「断定するのはまだ早い。じゃが、君達、気を引き締めて、調査してくれたまえ。」
「了解!!」
 また、警報が鳴り響いた。今度は、更に強く、計器の針が振り切れそうな勢いである。
「おいおい、まいったぜ。さっきよりもすごい。」
「とにかく、データを集めて調べるんだ!」

* * * * * * * * * *

 敵の魔神の神殿。異変を感知して、総帥が駆け付けてきた。見ると、神殿の前に女が倒れている。総帥は、急いで、抱き起こす。
「これは、どうしたというのだ。おい、しっかりしろ。」
「ああ・・・、総帥。お喜び下さい。魔神様が、新たな魔神獣をお授け下さいました。ほら、これが、魔神獣の生命の種でございます。」
 女が、ふるえる手で指差したのは、砕けた錫杖から外れたいくつもの宝石であった。よく見ると、一つ一つの宝石の中に、小さな粒が浮かんでいる。
「これを、私が作った新しい魔神獣生成装置の中に入れて下さい。さすれば今までよりも格段に強い、魔神獣が生まれます。」
「そうか、でかしたぞ。では、さっそく、作り出してもらうぞ。」
「・・・いえ、私の命の火は、もう、消えかかっております。この命と引き換えに、魔神様が、新たな魔神獣を作り出して下さったのです。」
「おぉ・・・、な、なんということを・・・・。命をかけてまで・・・・。」
 総帥の目に、涙が光る。
「私のような者のために、なみ・だを、なが・・・流して下さるとは・・・・。それだけで、充分幸せでございます。そ・総帥・・・・、わたく・しは、あなた様のことを・・・・・・。」
 女の目がすうっと閉じられ、頭から、ガクっと力が抜けた。それが、女の最期であった。

* * * * * * * * * *

 シルクファイブ秘密基地では、まだ調査を続けていたが、依然、エネルギーの正体は不明である。
「これだけ探ってもわからぬとは・・・。しかたないのう。今日は、とりあえず、解散じゃ。諸君、いつ、呼び出されてもいいようにだけ、していてくれたまえ。」
「了解!!」

* * * * * * * * * *

 敵の指令本部。総帥は、一つの宝石を、魔神獣生成装置の中に入れ、スイッチを入れた。ウィ〜〜ンと唸るような音を出し、装置が作動する。そして、装置のドアが開くと、魔神獣が現れた。
「行け、魔神獣、デストラーよ、シルクファイブを倒すのだ!!!」
「グワ〜〜ォ〜〜!」

* * * * * * * * * *

 ツーツーツーツー!
 ブレスレットの発信音が、魔神獣出現を告げた。
「シルクファイブ、出動せよ!!」
「了解!!」
 現場に到着したシルクファイブ。そこに、彼等を待ち受ける、魔神獣の姿があった。
「やはり、お前達は、まだシルクネットを狙っていたんだな!」
「ネットの平和は我々が守る!!」
「ぐるる・・、果たして、俺様を倒すことができるかな?」
「いざ、我らの攻撃を受けてみろ!!」
 シルクファイブと魔神獣の戦闘が開始された。
 5人は、次々と技を繰り出し、攻撃をするが、なかなか、決着がつかない。しかし、魔神獣の一瞬のすきをついて、合体技を出した。
「シルクパワーネット!!」
「ぐっふっふ・・、こんなもの、俺には効かぬぞ!」
「えっ、パワーネットが、弾き飛ばされるなんて・・・・。」
「これではどうだ!!、必殺、スーパーPowerクラッシュ!!」
「ぐははは・・・、痛くも痒くもないわ!」
「そ・そんな、スーパーPowerクラッシュまで効かないなんて!!」
 ブレスレットから、鈴木博士が呼び掛ける。
「諸君、とりあえず、退却したまえ!」
 仕方なく退却するシルクファイブの5人。彼等をあざ笑う魔神獣。
 果たして、シルクファイブは、魔神獣に勝てるのか・・・・・?
(つづく)



第1話「さらば、いつわりの平和よ」
後編

 魔神獣デストラーは、次々と、アクセスポイントを破壊し、乗っ取っていく。その様子を、モニター画面で見ている、シルクファイブと鈴木博士。
「ちくしょう!どうして、あんなに強いんだ。」
「シルクパワーネットもスーパーPowerクラッシュも効かないなんて、どうしたらいいの?」
「このままでは、シルクネットは魔神獣の手に落ちてしまうわ!」
 ネットには、助けを求める会員達の声が続々とUPされている。
「シルクファイブ、助けて!」
「彼等は、どこへ行ったんだ?我々を見捨てたのか。」
「あの通信戦隊シルクファイブは倒されたのか?」
「もう、おしまいだ!!」

* * * * * * * * * *

 敵の総帥も、モニター画面を眺めていた。
「デストラーよ、もっと暴れろ。ネットを我が手中におさめるのだ。」
 うす暗い総指令室。モニターの灯りが、総帥の顔を照らす。その顔は、不気味なまでに無表情であるが、瞳の輝きは、燃えているかのようだ。

* * * * * * * * * *
「僕は、行く!」
「ちょっと待って下さい。どうやって闘うつもりなんですか!?」
「デストラーにやられるだけだぜ。」
「奴の動きを少しでも封じなければ。このままではネットが!!」
「必殺技は効かぬ。」
「会員の悲しみの叫びが聞こえないのか!!」
 今まで無言であった鈴木博士が、立ち上がった。
「とうとう、この日が来てしまったのか。」
「博士、我々が勝つ方法はないんですか?」
「・・・・・、一つだけ、ある。しかし・・・・。」
「それは、一体何なんです?」
「新しい技を会得するのじゃ。だが、そのためには、諸君の命を危険に曝すことになるのじゃ。」
「・・・・。僕は、かまいません。」
「今までだって、危険な目に会い続けてきたんだぜ。何を今更。」
「そうよ。シルクネットが敵のものになることを考えたら。」
「私も、新たな可能性に賭けてみます。」
「覚悟はできている。」
 博士は、5人を見渡し、話を続けた。
「新たな技を会得するためには、苛酷な訓練が必要なのじゃ。君達自身が強くならなければ、技は、君達のものにはならぬ。」
「僕達は挑戦します。」
「じゃが、5人のうち、一人でも、試練に負けてしまうと、君達全員が死んでしうかもしれぬ。そんな危険な目に君達を会わせることは・・・・。」
「・・・、それが、僕達に残された、たったひとつの道ならば、僕は、恐れはしない!!」
「お願いします、博士!」
 5人は口々に叫んだ。
「諸君の気持ちはよくわかった。では、わしの後についてきてくれたまえ。」
 鈴木博士は、秘密基地の更に地下にある部屋へと5人を連れて行った。
「さあ、ここが、訓練室じゃ。この中に、諸君が入ると、扉は閉じられる。この扉が再び開くとき、諸君が生き延びていることを祈る。」
 5人の勇者が部屋に入ると、扉は、音も無く閉じられ、博士は、5人の無事を祈るのであった。

* * * * * * * * * *

「デストラーよ、シルクネットの様子はどうだ?」
「ぐるるる・・・、全てが総帥のものとなる日も、もうすぐでございます。」
「そうか。でかしたぞ。」
「しかし、シルクファイブが出てこぬのでは、張り合いがありません。」
「だが、奴等は、きっと、現れる。心してかかれよ。」
「ははっ!」

* * * * * * * * * *

 魔神獣は、また、アクセスポイントを破壊するために、出現した。次第に、ネットの中心部へと破壊の手を伸ばしている。
「ぐわっはっはぁ。これで、また、総帥にほめてもらえる!」
 どっか〜ん!
 突然、デストラーは、衝撃波を受けて倒れた。
「ぐぐ、何者だ。」
「デストラー、よくも、シルクネットの会員を恐怖に陥れたな。これ以上、お前の好きなようにはさせないぞ!!」
「でたな、シルクファイブ。また、やられに来たのか?」
「ええい、覚悟しろ!!」
 魔神獣と闘う5人の戦士。しかし、今までの技は、全てかわされてしまう。
「何度やっても同じことよ。うざったい、どこかへ消えてしまえ!」
「そうはいくか!ようし、皆、いいか?」
「おおっ!」
「これでもくらえ!ネットワークSiLKレーザー!」
「く・くそ、どうしたことだ、この網は破れない!」
「いくぞ、必殺、シャイニングPowerfulボンバー!!」
「げげげ〜〜〜!!!」
 5色の閃光の中、魔神獣は砕け散った。

 こうして、シルクファイブは、新たな技を身に付け、シルクネットを救うことができた。しかし、敵は、ますます強大な魔神獣を作り出し、ネットを襲うであろう。だが、シルクファイブは闘う。シルクネットに真の平和が訪れる、その日まで。
(第1話おわり)




第2部序章

しあわせ町大バザール

第2部第2話