第3話「地底より愛を込めて」 前編 |
ここは、敵の指令本部内の実験室の一室。魔神獣発生装置が置かれている。ダークスターが、一人でなにやら作業をしている。そこに、総帥がやってきた。 「何をしておるのだ?この指令本部は、全て私の監視下にある。こそこそと何をやっているのだ。」 「ふん、魔神獣の卵を、少し改造しているのさ。おれの計画どおりに動いてくれるようにな。」 「・・・・。ダークスター、勝手なことをするでない。」 「まあ、見ていろ。俺の腕前を。」 ダークスターは、卵を孵卵機に入れ、スイッチを入れた。ヴィ〜ンという音と共に火花が散り、孵卵機から紫色の煙が立ちのぼる。そして、静かになった機械の扉が開き、中から出てきたのは・・・・。 「なんだ、これは。形がないではないか!」 「ふふ、こいつが、俺の魔神獣、ダークスライムだ。さあ、行け!ダークスライム!シルクファイブの秘密基地を破壊せよ!!」 ダークスライムは、デロデロと流れるように移動し、視野から消えていった。 * * * * * * * * * *
「ねぇねぇ、コットンって、何か、芸ができないの?」 「ボクは、普通の犬とは違うの。ロボット犬なんだから、芸なんかできなくても構わないの。」 「ロボットだったら、いろんな能力があるんでしょ。だから、ほら、お手!!」 「いやです!!ボクの美学に反します。」 ここはシルクファイブの地下秘密基地。パトロールも無事終わり、皆、一休みしている。 「おい、あおば、コットンを苛めて楽しんでんのか?」 「違うもん、仲間としてのコミュニケーションをはかっているだけだもん。」 「いいじゃないの。世の中には、無芸なペットはたくさんいるわよ。」 「そうです。それにボクは、ペットでもありません。」 「つまんないの。」 ビービービー!! 突然、警報装置が、けたたましい音をたてた。 「どうしたんだ!!」 「秘密基地に侵入した者がいる!!」 「敵の攻撃か?!」 「最下層の格納庫です。」 「変身して出動だ!!」 「チェンジシルク!」 * * * * * * * * * *
シルクファイブが格納庫に駆けつけると、そこに一人の男が立っていた。 「おい、お前は何者だ!」 「魔神獣じゃなさそうね。」 「いや、人間に化けているのかもしれない。」 5人が身構えているのをじっと見ていた男は、嬉しそうに言った。 「なんだ、ここは、シルクファイブの基地なのか!!」 よく見ると、その男は、見慣れない服装をしており、掘削機を手にしている。格納庫の隅に、穴が開けられ、床に土が散っている。穴の中は、暗闇であった。 「レッド、スキャンしてみたけど、魔神獣ではないわ。でも、普通の人間とも違うの。詳しく調べなければはっきりしたことは言えないけど。」 男は、シルクレッドの方を向いた。 「はじめまして、ぼくは『不比等(fuhito)』です。ネットで君達の活躍は、いつも目にしている。」 「ええっ!不比等さんですって?」 「シルクネット会員の不比等さん!?」 「どうして、基地に侵入してきたんだ?」 「ひょっとして、敵のスパイなのか!」 不比等は、5人を押しとどめた。 「待って下さい。今説明します。あなた方になら、話しても大丈夫でしょう。実は、ぼくは地底人なんです。」 あっけにとられる5人に、不比等は話しはじめた。 * * * * * * * * * *
みなさんは、地球空洞説というのをご存じですか。地球の内部が空洞になっていて、そこに、もうひとつの世界がある、という説です。実際には、空洞なんかありません。しかし、地下深いところに住む地底人は存在していています。 太古、ぼくたち地底人は、地上の人々との交流があり、仲よく暮らしていました。でも、互いに欲が出てきて、侵略戦争が起こりそうになったんです。当時の地底人の長老は、戦争を避けるため、忘却のまじないを使い、地上人に我々の存在を忘れさせ、我々は地下深くに潜りました。 でも、まじまいは、完全に忘却させることはできず、地球の内部世界の話だけは、今もなお、伝わっているのです。 地下だけの生活で、ぼくたちの情報網は、次第に分断され、互いに孤立化してきました。仲間も少なくなってきました。そこで、情報を得るために、シルクネットに入ったんです。 * * * * * * * * * *
「そんなことがあったとはねぇ。」 コーヒーを飲みながら、紅の疾風がしみじみと言った。話を聞いた5人は、変身を解き、不比等を階上の基地へと連れてきたのである。 「でも、どうして格納庫に入ってきたんです?」 「仲間を捜して地底を掘っていたら、ぶち当たってしまったんです。この一帯の地図には載っていなかったので。」 「そりゃぁ、ここがシルクの秘密基地だ!なんて、載せるわけにはいかないからな。」 「地下ケーブルで、電気も電話も使えて、上下水道も確保できてるんなら、地下の生活も楽しいでしょうね。」 「ええ。でも、仲間がいれば、の話です。昨年、両親を亡くし、この地域に住む地底人は、私一人になりました。だから、なおのこと、仲間を捜したいのです。」 「不比等さん、地上で暮らす気はないの?」 「地上人になった仲間もいる、と聞いたことはあります。しかし、私は、代々地下だけで暮らしていたので、体が、地上の生活に対応できないのです。」 不比等のまわりを動き廻っていたコットンが言った。 「不比等さんの言うのは本当さ。今、調べてみたけど、遺伝子的に、地下が適しているみたい。」 「そうか・・・・・・。不比等さん、仲間が早く見つかるといいですね。」 「ありがとう。では、ぼくは帰ります。」 不比等は、格納庫の穴から、帰っていった。 (つづく) |
第3話「地底より愛を込めて」 後編 |
翌日、ネットにアクセスしていた不比等は、気になるコメントを見つけた。地質学者と名乗る会員がいるのだが、その文章に、自分と同じ心を感じるのである。夢中になって読んでいると、部屋の換気孔から、デロデロっと不気味な物体が流れるように、入ってきた。 ふと、異様な雰囲気を感じた不比等が振り向くと、すぐ後ろに、魔神獣ダークスライムがいた! 「うっうわ!!なんだこいつは、あ、おいやめろ!!助けてくれ〜〜!!!」 魔神獣は、不比等の足下から這い上がり、不定型の体で、彼の体をすっぽりと覆ってしまった。不気味に光りながら、不比等の記憶を探っている。 ばったりと倒れた不比等。しかし、すぐに立ち上がった。外見は、不比等のままであるが、瞳が赤く、ギラギラと光っている。 「シルクファイブの基地を捜しているうちに、変な奴の処へ来てしまったが、こいつは、基地の場所を知っているようだ。こいつぁいい。侵入するには、アメーバ状の体が便利だが、この方が、攻撃力が増すのだ!グワッハッハ。」 * * * * * * * * * *
シルクファイブの5人が、秘密基地で、ネットパトロールをしていると、また、警報機が鳴った。モニターで調べると、不比等が、格納庫にいる。 「あれ、不比等さん、また来たんだ。」 「ちょっと様子が、変よ。」 「おい、シルクバギーを壊そうとしてるぜ!!」 格納庫に急行する5人。 不比等は、ドリルを使って、バギーに穴を開けようとしている。止めさせようと駆け寄った5人をなぎ倒し、口から、光線を発した。 「おい、こりゃぁ、一体。地底人ってのは、こんなことができたのか?」 「いいえ、こんな能力はないわ。スキャンしたんですもの。」 「にせものなのか。よし変身して闘おう!」 「チェンジシルク!!」 シルクファイブは、技を繰り出そうと、身構えた。そこに、コットンから、通信が入った。 「ちょっと待ってよ。グリーン、もう1度調べてみて。」 「わかったわ。シルクスキャニングビーム!」 4人が不比等を留めている間に、調べるグリーン。 「どう、この前と違うんじゃない?」 「こ、これは!!不比等さんの体の表面を、薄い膜のようなものが覆っているわ。そこから、魔神獣の反応がでてるの!!」 「それじゃ、こいつと闘うと・・・・。」 「不比等さんが傷ついちゃう。」 「どうしたらいいんだ。」 「・・・・。そうだわ、魔神獣を地上へおびきだすのよ!」 「なんのために?」 「いいから、早く!」 シルクファイブは、逃げるふりをして、非常脱出口へと飛び込んだ。後を追う、ダークスライム。 「ぐっふっふ。逃げても無駄だぞ、シルクファイブ。くらえ、レーザーだ!」 しあわせ町児童公園まで逃げてきた5人に、次々とレーザー光線を浴びせる魔神獣。逃げ回るシルクファイブ。 「おい、これじゃ、どうにもならないぜ。」 「もう少しの辛抱よ。ほら、見て!」 不比等は、足がもつれ、ふらふらになってきた。 「うぬ、どうしたことだ。体が動かない。」 「不比等さんは、地底人よ。太陽光線のもとでは、長時間動けないの。前にスキャンしたときにわかったのよ。」 不比等の体から、ドロドロとダークスライムが流れ始めた。 「今よ、ブラック、不比等さんに当たらないように攻撃して。」 「よし、ブラックダイナマイトモデム!」 ブラックの投げたモデムは、不比等の側にある砂場へと命中した。砂煙がもうもうとあがる。 魔神獣は、再び不比等の体を覆い尽くそうとするが、意に反して、体の自由がきかなくなっている。 「なんだ。どうしたことだ。」 「今の砂煙で、砂が大量に体に付着してしまったのよ。そのままでは、元どおりにはなれないわよ!」 「ちくしょうめ!ならば、こいつから離れて闘うまでだ!」 ズルズルっと不比等から離れる魔神獣。 「よし、今だ、ネットワークSiLKレーザー!」 「く・・・・。体の中の砂が邪魔で、逃げられない。」 「くらえ、必殺シャイニングPowerfulボンバー!!」 どっか〜〜ん!! ダークスライムは倒された。 * * * * * * * * * *
「ふふふ、お主が造った魔神獣。あれほどあっさりやられてしまうとは。あまりに情けなくて、楽しい思いをさせてもらった。」 「ふん、これは小手調べだ。次が本番だ。」 マントを翻し、指令本部を立ち去るダークスター。その背中に、総帥は、嘲笑を浴びせかけるのであった。 * * * * * * * * * *
「シルクファイブ、助けてくれてありがとう。」 「いいえ、それより、太陽光線の後遺症はありませんか。」 「大丈夫です。」 「不比等さん、早く仲間に出会えるといいですね。」 「シルクネットの中に、きっと、いますよ。」 「ありがとう、皆さん。今度は、仲間と一緒に来ます。」 5人と固い握手をして、不比等は、自分の世界へと帰っていった。 その背中を見守る5人の勇者達であった。 (第3話おわり) |