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 オクタン価について
■ガソリンの品質を決める重要な要素の一つにオクタン価がある。

 オクタン価とはガソリンエンジンを破壊する一因ノッキングを防ぐアンチノック性を示す値である。ノッキング(スパークノック)は、スパークプラグにより点火された混合気の火炎が広がって行き、熱、圧力の上昇により残りの混合気(エンドガス)が自己着火して、キンキンと燃焼室を叩く現象をいう。
 ノッキングの衝撃波は、ピストンを2000℃にも達する境界層を引き剥がし破壊させる。ノッキングはチリチリくらいの軽い場合はエンジンを破壊する事はないが、ピストンリングを激しく磨耗させるので要注意である。

  • 境界層とはエンジン燃焼室内にできる断熱層(温度境界層)の事で、吸気毎に冷却され、ピストン、シリンダー等を2000℃にもなる燃焼熱から保護している。
     100℃のサウナに入っても火傷しないのは人体にも空気の境界層が形成されているからである。

  • ノッキングと同じくキンキン音を発する現象にプレイグニッションがあるが、こちらは燃焼室内のカーボン
     等の熱点(ホットスポット)により着火する現象で、ピストン等を叩き割る激しい衝撃波を発生する。
     両者は同時に発生する事が多いが、本質的には全く別の現象である。

  • スパークノックとは点火時期を遅角させることでノッキングが泊まる現象をいう。

■オクタン価の種別

 オクタン価には大別してリサーチ法とモーター法の二種類がある。(その他修正ユニオンタウン法がある)両者ともCFRエンジン(可変圧縮エンジン)を用い、標準燃料とノッキングの強度を比較し相当する値でオクタン価を決定している。
 標準燃料とはもっともノッキング゙を起こしにくいイソオクタンと、逆に最も起こしやすいノーマルヘプタンを任意の割合に混合して製作した燃料で、イソオクタン80%、ノーマルヘプタン20%を混合した標準燃料と同じノック強度を示す試験燃料のオクタン価が80%となる。100以上はイソオクタンイ100%の基準燃料を用い、CFRエンジンの圧縮比を上げて相当するノック強度でオクタン価が決められる。

■リサーチ法(RON)とモーター法(MON)

 RON(リサーチオクタンナンバー)とMON(モーターオクタンナンバー)の試験条件を下記する。(一部略)
RON MON
回転数 600rpm 900rpm
吸気温度 40℃ 100℃

 日本ではRONは自動車用ガソリン、MONは航空機(軽飛行機等のレシプロエンジン)ガソリンのオクタン価表示に用られる。日本の自動車用ガソリンのオクタン価は、レギュラーで91、ハイオクで約100であるが、アメリカのNAPRO社の研究室で測定した日本のガソリンのオクタン価は同じメーカー同じグレードのガソリンでも、
その値は買ったスタンドによりかなりバラツキがあった。

  • RONとMONの差

     MONは試験条件が厳しく当然その値は低く出る。RONとMONの差をSensitivity(感度)と言う。S社の内部資料によると、ハイオクはRONで99.5 MONで87であった。両者の平均値は93・25。アメリカ流のオクタン価表示では93となり(アメリカは両者の平均値で表示)アメリカのハイオク95と比べるとやや低い値になっている。

  • ロードオクタン価(走行オクタン価)

     CFRエンジンでは回転数が実走行と比較し低く、実走行における加速時の耐ノック性はRONやMONでは評価し難い。
     実用エンジンを用い加速時の耐ノック性を求めたものがロードオクタン価で、この場合ガソリンの低沸点成分の耐ノック性と混合気の燃焼速度が大きく影響する。
     アメリカのオクタン価表示はRONより、よりロードオクタン価に近い。

  • ガソリンのJIS規格は1号(ハイオク)で95以上となっている。サーキット走行などの連続高負荷走行によりノッキングが原因でエンジンが破壊しても、オクタン価が95以上あればメーカーに責任は問えない。

■オクタン価とガソリン基材、アンチノック剤
 現在の無鉛ハイオクのガソリン基材は、LPGを重合したアルキレートやアイソメレート等が用いられている。かつては四エチル鉛をアルキル化したアンチノック剤が添加されていたが、鉛公害や触媒の被毒のため使用されていない。
 その他のアンチノック剤にアニリン(染料)やカーボニール鉄があるが、現在ではほとんど使われていない。2005年から市販ガソリンにエタノール(エチルアルコール)が3%添加されるようになった(E3燃料)。これは将来のBTL(バイオマス燃料)への道をつけるものでありオクタン価も約1上がる。
 最近の傾向としてETBE(エチルターシャリティーブチルエーテル)が含酸素燃料として添加されているが、かつて盛んに添加されていたMTBE(エチルt-ブチルエーテル)が地下水への公害問題で添加量が制限されたものに替わるもので、この添加もオクタン価向上に寄与している。
  • アルキレート
     イソブタンとブチレンを反応させ、イソオクタン(iso-octane=分枝鎖octane)を主体にしたガソリン基剤(alkylation process)

  • アイソメレート
     alkylation processの原料としてのイソブタンを、ノルマルブタンを異性化して合成したもの。現在ではナフサの低オクタン留分であるノルマルパラフィンの異性化法も含めてisomerization processという。

  • アルキル化
     有機化合物の水素原子Hをアルキル基(CnH2n+1 略してR)で置き換える反応をアルキル化(alkylation)という。
    例 メチル基 CH3 -  エチル基 C2H5

  • 脱硫黄
     ガソリン中の硫黄分は触媒被毒、硫黄酸化物(SOx)による大気汚染のみならずノッキング誘発剤でもあり、2005年から含有量10ppm以下の低硫黄のガソリン、軽油が供給されるようになった。脱硫黄にはエネルギー消費を伴うが(CO2排出)、それ以上のメリットがある。



■エピソード
 第二次世界大戦は航空機の戦いだった。参戦した各国は燃料の量的確保と質の向上を図ったが、アメリカとドイツ以外は実現出来なかった。
 アメリカは当時すでにアルキレート基材による燃料を開発していて、優れたアンチノック剤の相伴ってオクタン価120〜140を使用していた。しかも、ノッキングを防ぎパワーを上げる水+アルコール噴射(水は気化潜熱で吸気を冷却、アルコールはノッキング原因の低温酸化反応抑制効果をもつ)さえもいちはやく実用化していた。(航空機はインタークーラーのスペースがない)
 日本の場合はどうだったか?
 海軍は開戦を想定し91〜92オクタンの燃料を大量に作り備蓄していた。陸軍は87オクタンの燃料を用意したにすぎなかった。(陸軍はドイツのB4ガソリン=87オクタンを参考にしていた。ドイツはバトルオブブリテンの後期にはC3=96オクタンを開発していた)

 MONとRONどちらのオクタン価であるかの記録がないので断定は出来ないが、航空機燃料からしてMONと推定すると陸軍の87オクタンは、現在の自動車用ハイオクくらいのオクタン価しかなかったと言えよう。この事はエンジン開発に大きな影響を与えた。
 大戦末期実用化された「ル号」エンジンは(海軍名=誉 陸軍名=ハ45)空冷2重成型18気筒の離昇馬力2000hp(オーバーブート)の日本期待のエンジンだったが、気筒間の混合気バラツキが大きくノッキングが多発していた。特に決戦機四式機「疾風」の開発中に多発したノッキングに手を焼いた陸軍は、海軍の開発用の95オクタン燃料をもらい対策した程であった。
  • 「る号」エンジン(型式名NK9H)
     中島飛行機の中川良一(後日産専務)が27歳の時設計した日本初の2000馬力級の航空機エンジン。陸軍の四式戦キ84「疾風」、海軍の「紫電」「紫電改」「彩雲」「銀河」等に搭載され期待されたが、直径をぎりぎりまで切り詰めた究極の設計がクランクピンのサイズ不足をまねき、メタル焼き付きトラブル対策に時間がかかった。オイル、燃料、その他補機類の質低下により未完成のまま終戦を迎えた。

  • 星型エンジン
     5〜9正奇数角型に気筒(シリンダー)を配置し、コンロッドは1番気筒がメインの正奇数星型(5気筒ならヒトデ型?)で、残りは副コンロッドとして正奇数角形につながれる。全気筒に均等に冷却空気があたり、気筒、ヘッドが全気筒共通で、整備性、信頼性は高いが、液冷エンジンより空気抵抗が大きく高速機には不利だった。

■現在の自動車とオクタン価
 
 優れたノックセンサーとコンピュータ制御の燃料噴射装置付の今の車がノッキングでエンジンを損傷する事は極めて稀である。ただし、ECUのデータを変えたり(ADV=点火時期、KMR=燃料調量その他過給圧アップ)、サーキット走行等連続高速走行する場合は注意が必要。
 またオクタン価が低いガソリンが入った場合はノックセンサーが感知してECUが自動的に点火時期を遅らせ、ノッキングは回避するものの遅角した分、パワー、トルクは低下する。(燃費にも悪影響が出る)
 しかし、実際にはエンジンからでるノッキング音を聞いたことのないドライバーも多い。低オクタン価のガソリンが給油されても、知らずに乗っているわけだが登坂路などでは余計にアクセルペダルを踏まなければならなくなる。
 レギュラーガソリン仕様車でどうも力がないといった場合、ハイオクを混ぜると回復する事がある。これはノックセンサーによる遅角の代償によるパワー。トルクの低下が、オクタン価が上がりECUが自動進角させ回復したことによる。

 「レギュラーガソリン仕様車に、プレミアムガソリン(ハイオク)を使用してもそれを感知して効果が出るような点火時期などをコントロールする機能を持っていない」との主張も見受けられるが、これは事実に反する。
 ノックセンサー+ECU制御の現代の車は、たとえレギュラーガソリン仕様車でもノックコントロールのプログラムがすべての車に存在する。ADV,KMRのマップはレギュラー用の一面でも、ノックコントロールプログラムは、また別の制御プログラムである。
 
 サーキット走行する場合のノッキング対策には、有効なオクタン価向上剤の添加と、ガソリン温度を下げることが効果的である。ドライアイスを小片に割り、少しずつガソリンタンクに投入するだけでガソリン温度を下げることが出来る。ドライアイスは二酸化炭素が固形化したものでガソリンその物に何ら悪影響はない。
 一度に多く投入すると注入口よりガソリン泡が逆流してくるので走行一時間前より小片を少しずつ入れていく。湿度の高い日はドライアイスに霜が付着しそのまま投入するとガソリンタンクへ水分が貯留するので
よく拭き取ってから入れる事。
  • ドライアイスは-70℃以下の低温なので直接手で触れないこと。
    一kg約300円で入手出来るので、是非お試しあれ。

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