■ノックコントロールとECU
予混合火花着火のガソリンエンジンには、エンジンの機械的限界とは別にノッキングによる限界が存在
する。いかにノッキング発生を押さえて最大のトルクを引き出すかがポイントになる。
最大トルクを得る為の点火時期をMBT(Minimum Spark Advance For Best Torque)と言い、問題は、このMTBとスパークノック発生の点火時期がオーバーラップする領域が、エンジンの中回転、中負荷に存在する事である。(ガソリンのオクタン価で変化する。)
かつての機械式点火進角(ガバナー、バキュームアドバンサー)装置では、ノック発生寸前のところにディストリビューターをセットして点火時期を調整していた。(排ガス対策後は規定の位置にセット)
これでは低、高回転領域のトルクを犠牲にしていた訳で、ノックセンサーとECUによる精密なノックコントロールがその解決策となった。
- ノックコントロールの原理
シリンダーブロックに設置したノックセンサー(セラミック系が多い)からの高周波出力(周波数6〜9kHz単位mV)がECU内のROMに書き込まれた設定値を超えると、ノック発生と判定し、センサー出力に応じた量の点火タイミング遅角が行われる。また、設定された時間にセンサー出力が無い場合は、ノック発生なしと判定し、自動的に進角し、トルクが増大する。
*ROM内のノック判定値をスライスレーベルと言う。自動的に進遅角する値はBETA補正と言い、センサーの数、エンジン回転数によるそれぞれに細かく設定されている。
- スライスレーベル(TSL)とADVチューニング
国産車 6気筒 2.6リッター ツインターボエンジン
TSLの判定値は低回転で低く回転上昇と共にその値は増加し、或る回転以上は判定しないように設定されていて、その判定値はかなり低い値でノック発生と判定している。
このことは早め早めに点火時期を遅角し低回転におけるトルクを減じていることを表している。
ここでTSLを上げてBETAの高回転の値を下げて設定すれば、ノッキング発生を押さえながら全回転域のトルクを上げる事が可能となる。
実際のROMを書き換えてみると、5速ギアでアクセルペダルを離しての低速走行が可能となり、その状態からズムーズな加速も出来た。
「スライスレーベルとBETA補正の実際」
下記データはROM格納されている実際のデータである。
車種 2000cc DOHC 4バルブ 4気筒 ハイオク仕様 150ps
■スライスレーベル(TSL)
18 |
27 |
36 |
44 |
54 |
64 |
6B |
72 |
72 |
ハイオク |
UNIT=20mV |
1A |
24 |
2E |
3C |
48 |
59 |
5F |
65 |
65 |
レギュラー |
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*計算法
18→10進変換すると16+8=24 24×20mV=480mV 0.48V
低回転ではセンサー出力 0.48Vでノック発生と判定する。
■BETA補正(KLM)
00 |
0A |
0A |
00 |
07 |
07 |
00 |
05 |
05 |
ハイオクレギュラー |
UNIT=1deg/CA |
00 |
0A |
0A |
00 |
07 |
07 |
00 |
05 |
05 |
このエンジンはディストリビューターによる高圧配電方式の古いタイプで、TSLは気筒判別がなく、ノック判定後は全気筒の点火時期を遅角する。最新の気筒毎に点火コイルを装着するダイレクトイグニッションでは、TSLも気筒別に設定され遅角は当該気筒のみとして、トルクダウンを最小に止めている。
- チューニングポイント
ADV(点火進角)、KMR(燃料調量)各種リミッター類だけのチューニングだけでなく、TSLのレベルを低回転時と高回転で上げる。これはノーマルデータがノッキングを恐れてあまりに低値に設定されているからで、現車と使用ガソリンのオクタン価に応じてレベルを上げれば、よりMBTに近い点火時期を得られる。KLMの数値を00に落としてしまうチューナーが多いが、これでは低速トルクが犠牲になり、扱い難いエンジンになる。KLM値は高回転のみ落とし、低回転ではむしろ上げた方が良好な結果が得られる。
*但し、ターボ車においては現車のチューニングレベルに合わせて設定する。
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