算額(10)・師範の考察,解答
n次多項式を改めてF(x)と書くことにします。
(1)まず、
  Fn(x)=a0+a1x+a2x2+…+an-1xn-1+anxnとおき、これを用いて証明すべき命題を表現すると、次のようになります。

  a0                   =N0
  a0+ a1+  a2+…+   an-1+  an=N1
  a0+2a1+22a2+…+2n-1an-1+2nan=N2
           …
  a0+na1+n2a2+…+nn-1an-1+nnan=Nn   (N0,N1,…Nnは整数)              
  ならば
  任意の整数kについて
  a0+ka1+k2a2+…+kn-1an-1+knan=Nk   (Nk:整数)
  が成り立つ。

  さて、この証明の有効な手段として数学的帰納法をすぐに思いつくのですが、
  この表現ではどうにも展開できません。
  つまり、数学的帰納法では、
  本題がn=mのときに成り立つと仮定した上で、n=m+1のときも成り立つことを証明しなければならないわけですが、
  n=mのときの仮定をn=m+1のときの証明に取り込むことがどうしてもできないのです。

(2)イ)そこで、Fm+1(x+1)-Fm+1(x)がm次多項式であることに着目し、Gm(x)とおきます。
   すなわち、Gm(x)=Fm+1(x+1)-Fm+1(x)
  ロ)いま、本命題がn=mのとき成り立つ(数学的帰納法上の仮定P)と仮定します。
   このとき、Fm+1(0),Fm+1(1),…,Fm+1(m+1)が整数(n=m+1のときの本命題の仮定Q)ならば、
   Gm(0),Gm(1),…,Gm(m)も整数となりますから、
   仮定Pより、
   任意の整数kについてGm(k)は整数となります。
   よって、
   ・k≧1のとき
   Fm+1(k)=Fm+1(0)+{Gm(0)+Gm(1)+…+Gm(k-1)}=整数
   ・k=0のとき
   Fm+1(k)=Fm+1(0)=整数
   ・k≦-1のとき
   Fm+1(k)=Fm+1(0)-{Gm(-1)+Gm(-2)+…+Gm(k)}=整数
   となって、
   本題はn=m+1のときも成り立ちます。
  ハ)本命題がn=1のときに成り立つことは容易に証明できるので、
   本命題が証明できたことになります。

(3)イ)別解として次のような解法も考えられます。
   m+1次多項式Fm+1(x)を次のように表します。
   Fm+1(x)=ax(x-1)(x-2)…(x-m)+Gm(x) …@
   ここでaは定数、Gm(x)はm次多項式とします。
  ロ)いま、本命題がn=mのとき成り立つ(数学的帰納法上の仮定P)と仮定します。
   このとき、Fm+1(0),Fm+1(1),…,Fm+1(m+1)が整数(n=m+1のときの本命題の仮定Q)ならば、
   Gm(0),Gm(1),…,Gm(m)は整数 …A
   このAと仮定Pより、
   任意の整数kについてGm(k)は整数 …B
   このBよりGm(m+1)は整数だから
   a(m+1)!は整数 …C
   となります。
  ハ)また、aをa=±M/N【既約分数】(M,Nは自然数) …Dと表すと、
   Cより、
   N=(m+1)!の約数 …D’
  ニ)次に、kを任意の整数として
   x=kを@に代入すると、
   Fm+1(k)=ak(k-1)(k-2)…(k-m)+Gm(k) …E
  @)k=0,1,…,m+1のとき
    仮定QよりFm+1(k)=整数
  A)k≦-1,k≧m+2のとき
    Eの右辺第1項において
    k(k-1)(k-2)…(k-m)はm+1個の連続正整数または連続負整数の積だから、(m+1)!の倍数
    aはD,D’の要件を満たす整数または分数
    よって、Eの右辺第1項は整数
    Eの右辺第2項もBより整数
    ゆえに、Eは整数となり、本命題はn=m+1のときも成り立ちます。
  ホ)上記(2)でも述べたように、本命題がn=1のときに成り立つことは容易に証明できるので、本命題が証明できたことになります。

(4)上述のとおり、(1)はすぐに行き詰まってしまったのに、(2),(3)はうまく証明できました。
  その分岐点はn次多項式の表記形式にあると思います。
  一般に,n次多項式は
  a0+a1x+a2x2+…+an-1xn-1+anxn と表せるわけですが、
  これでは仮定P,Qとの整合性が悪いために、証明がうまく展開できませんでした。
  定義どおりのスタンダードな表記形式ですが、そういうものが常に優れているとは限らないのであって、
  仮定P,Qとの整合性を考慮してn次多項式の表記形式を工夫することが大切なのでしょう。

  (2)ではF(x)の形で留め、多項式であることを表立って表記していませんが、
  多項式が持つ性質に基づいてGm(x)=Fm+1(x+1)-Fm+1(x)を提示しています。
  そして、この表記形式は仮定P,Qをすんなり取り込むことができます。
  また、(3)ではn次多項式を(2)よりは具体的な形で設定していますが、
  仮定P,Qとの整合性がいいように工夫しており、
  Fm+1(k)=ak(k-1)(k-2)…(k-m)+Gm(k)
  としています。
  面白いのは、(3)では倍数、約数などの整数の性質を用いるのに対して、
  (2)ではせいぜい整数−整数=整数であることを用いる程度で済んでいます。
  (2)の表記形式はm次多項式とm+1次多項式の関係を繋ぐとともに、xに関する漸化式の形になっているのですが、
  そのことで証明がこんなにもシンプルになることは不思議な感じがします。

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