算額(S3)・道場研究レポート
☆ 出典図書の解法
確率を足したり引いたりして、重複して数え上げた分を調整していく解法で、
n=3のときベン図を用いて1−p(n)を導出した上で、さらにこれをn≧4の場合に拡張しています。
しかし、ちょっと煩雑ですっきりしないものを感じたので、別解を考えてみました。

☆ 別解の検討当道場で別解を検討しました。
(1)別解1
全く一致しない場合、1〜n-2組で一致する場合、及び全部一致する場合の確率をすべて足すと
1となること、
k組で一致する確率はp(n-k)・nCk/{n(n-1)…(n-k+1)}=p(n-k)/k!  (nCk:組合せ記号)
であることから、次式が導出できます。
p(n)+p(n-1)/1!+p(n-2)/2!+p(n-3)/3!+…+p(3)/(n-3)!+p(2)/(n-2)!+1/n!=1 …@
この式でn=2,3,4…とすることによってp(2),p(3),p(4)…を順次求めていくことができますが、
さらにp(n)の一般式を求めると次のようになります。
まず、@式のままでは突破口が見えてこないので、階差数列を作ることを考えます。
即ち、@式のnをn-1とおくと、
p(n-1)+p(n-2)/1!+p(n-3)/2!+p(n-4)/3!+…+p(3)/(n-4)!+p(2)/(n-3)!+1/(n-1)!=1 …A
p(n)−p(n-1)=q(n)(n≧2),p(1)=0とすると、
(@−A)×n!より、
n!q(n)+n!q(n-1)/1!+n!q(n-2)/2!+n!q(n-3)/3!+…
                         +n!q(3)/(n-3)!+n!q(2)/(n-2)!−n!/(n-1)!+1=0 …B
一方、Bと式の形が似ているものに次の式があります。
(-1)nnCn+(-1)n-1nCn-1+…+nC2nC1nC0=(1−1)n=0…C
BCを比較し、かつ(-1)knCk=(-1)kn!/{(n-k)!k!} であることを考慮すると、
q(k)の一意性より、q(k)=(-1)k/k
!∴p(n)=1/2!−1/3!+1/4!−…+(-1)n/n!
なお、exのテイラー級数と対比すれば、n→∞のとき、p(n)→1/eであることがわかります。

(2)別解2
p(n)に関する2〜3項間の漸化式を作ることを考えます。
その際、思考負担を軽減するために次の記号を作ることとします。
即ち、n個の箱にはそれぞれ1〜nの番号が1つずつ記され、
n枚のカードにはそれぞれ0および1〜n-1の番号が1つずつ記されている場合に、
箱と中に入れたカードの番号が全て一致しない確率をp0(n)とします。
このときp(n)とp0(n)との間には次の関係が成り立ちます(理由は考えてみて下さい)。
p0(n)=1/n・p(n-1)+(n-1)/n・p0(n-1)                  …D
p(n)=(n-1)/n・1/(n-1)・p(n-2)+(n-1)/n・(n-2)/(n-1)・p0(n-2)  …E
DEよりp0を消去して整理すると、
p(n)−p(n-1)={p(n-1)−p(n-2)}・(-1)/n
p(2)=1/2,p(1)=0より、
p(n)−p(n-1)=(-1)n/n!
∴p(n)=1/2!−1/3!+1/4!−…+(-1)n/n!
(1)で示したように、n→∞のとき、p(n)→1/e
☆ まとめ
(1) 出典図書の解法について
イ)
出典図書の解法がわかりにくいと感じたのは、
n=3のときのベン図による説明だけではn≧4への拡張に頭がスムーズについていかず、
また、ベン図に立ち戻って考えようとしても図が急に複雑になるためにそれが困難になってしまったからだ
と思います。
図解は大局的な把握には有効ですが必ずしも万能ではなく、要素が増えるなど条件が複雑化してくると、
表や記号に切り換えた方がわかりやすくなる場合があるようです(例えば、4次元以上は図解が困難)。
この場合、n≧4に拡張する際、一旦ベン図の関係(どの部分を何回重複して数え上げているかの関係)を
表で整理しておくとわかりやすくなると思います。
このことから、
当道場の「学習・思考の奥義」の中の
 ■ 図・表・記号等で思考を可視化・空間化する。 に
 =用いる手段は問題に応じて適切に選択。 を追記することにします。
 学習・思考の奥義のページを確認

ロ)
ところで今、n個の事象が互いに独立で、それぞれ確率rで起こる場合を考えると、
n個の事象のいずれも起こらない確率p(n)は
p(n)=(1-r)n=1−nC1r+nC22−…+(-1)n-1nCn-1n-1+(-1)nn
上式右辺をよく見ると、これはまさしく出典図書の解法、
即ち、確率を足したり引いたりして重複して数え上げた分を調整していく解法に対応しています。
単なる計算で済ましてしまわずに式の意味まで考えてみると
面白いことが発見できるものだなぁと思います。

(2)別解について
別解1は二項定理との連想、という"思いつき"を要しますが、
別解2はこのような"思いつき"が特に必要なく、着実な解法だと思います。
なお、ここでは「確率」を直接扱う方法をとりましたが、
「確率」という概念は直接捉えにくい側面もありますので、
一般にはまず「場合の数」の関係から捉えていく方が考えやすいと思います。

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