訪問先 ストックホルム市役所都市計画課
ヒアリング者 Mr.Torsten Egero
通訳者 Ms.Sanae Nagamori Holmgren


1.ストックホルム市街形成の歴史について
ストックホルムは13世紀中頃、現在も中世の街なみが残るガムラ・スタン(旧市街)の丘に砦を築き、城壁で囲まれた中に人々が住み始めた。この頃から水路を関所として料金を取り栄えることになる。
17世紀からドイツの技術者を雇い、近代的な都市計画を始めた。
19世紀には、産業革命により好景気になるが、地方からの人口の流入により住宅難となり、北へ市街地が拡大する。
20世紀初頭、パリの街を手本として、都市軸を持った都市計画を始める。この頃より路面電車を作って、郊外の住宅地を拡大していった。公園の中に住宅を造るようにし、緑の多い住宅地を形成していく。
20世紀中頃から地下鉄の建設を開始。それに伴い住宅地も郊外に多く建設されるようになった。この頃はイギリスのニュータウンを手本として、1万人規模の住区を造り、いくつかの住区の中に4万人規模の核となる住区を造り、全体で6万人程度の街を形成した。これは「街の別館」と呼ばれた。
1969年代には、政府が10年間で100万個の住宅を建設するミリオンプログラムを計画。次々にニュータウンが建設された。しかしながら、70年代オイルショックなどにより景気が後退し、移民などが自国へ帰っていき、77年のKISTA(シスタ)の開発を最後にニュータウン建設は幕を閉じた。

2.都市計画について
地域の計画については次のとおりとなっている。
@ 地方計画(REGIONPLAN)
土地利用と主要な都市施設についてLan(県)が定める。
A 都市基本計画(GENERALPLAN)
市町村都市計画マスタープラン
B 地区詳細計画(STADPLAN及びBYGGNADSPLAN)
タウンプラン(STADPLAN)は、公共施設、道路、上下水道について定める。
ビルディングプラン(BYGGNADSPLAN)は、建築物の計画について市が協議する。建築物の高さ、ボリューム等について市が意見し、計画が決定した場合は、法的に拘束される。

上記の計画がされていない土地においては、建築物を建てることができない。また、ストックホルムでは、土地公有政策を取っていることからも、都市計画において住民の合意は必要ない。
(ストックホルム市内の公有地68%。その他の32%は、教会、県議会、民間の所有となっている。また、同市では市外にもレジャー用に多くの土地を所有している。)

近年環境に関する話題として、ストックホルム市が計画した環状線で、国立公園を通る計画となっており、これに環境党が反対した。そこで市は地下にトンネルを掘る計画をし、環境党の合意を得たが、一人の男性が国立公園に道路を通すことは違法だと訴えた。市では合法だと判断され、県においても合法だとされた。しかしながら最高裁判所において、トンネルを掘ることは障害が少ないが、国立公園を侵害するような計画は中止せよとの判決が出た。

3.近年の住宅地開発
最後のニュータウンであるKISTA(シスタ)の開発では、街全体をストックホルム市が購入し、駅の南側に3つの街区をつくり、それぞれをSVENSKA(公団)、HSB(住宅生協)、民間企業が開発した。駅の北側は商業、工業地区とした。駅よりそれぞれの地区まで歩行者専用道路が貫通しているが、自動車は街区をまたぐことはなく、通過交通が無いように計画されている。
この地区の建築物の高さは8階建てまでで、EVが無い建物については3階建てまでとなっている。

最も新しい住宅地開発は、ハンマルビィ地区(Hammarby sjostad)があり、25,000戸の住宅と1万人が働けるオフィス街を計画した。
ここでは、徐々に建設を進めていくことで、様々な年代の人が入れるように計画している。これは、以前のニュータウンで一気に人を入れたことにより、数十年後老人ばかりの住宅団地になってしまった反省からである。

現在のストックホルムの住宅事情は悪く、良質な住宅は不足している。ここでは持家はほとんど無く、毎月家賃を払う賃貸住宅か居住権(借家権、借地権)による住宅が中心で、現在市は居住権による住宅を増やすように進めている。しかし、居住権は100u程度で2000万円から3000万円と決して安くはなく、低所得者層が簡単に手に入れられる物ではなく、街なかの賃貸住宅は不足し、郊外の古い公営住宅に住まなければならない状況にある。

3.バリアフリーに関しての質疑応答
@ バリアフリーのまちづくりには、市民の意見を聞くことが重要と考えられますが、ストックホルムではそのような機会を設けていますか。

・ 市が何かを造るときに反対されることはない。(前出のとおり、住民の合意無しに計画を実行することができる。)文化・歴史的なものについては、官庁が意見することはあるが住民からは無い。
都市計画に関しては、公開して意見を求めている。決定した場合も市庁舎や図書館で公開している。

A バリアフリーのまちづくりでは、車いす使用者以外に、視覚障害者、聴覚障害者、内部障害者など様々な人が対象となりますが、それぞれどのような対応をされていますか。

・ 年間1億スウェーデンクローネ(1SEK=12円)の予算を使って、車椅子使用者のための、道路公園等の段差解消や、視覚障害者に対する誘導設備の設置を行っている。また視覚障害者が車道と歩道を区別できるように県で歩道の段差は2センチと定められた。
障害者はそれぞれの障害ごとに協会を作っており、県の評議会(委員会?)に各協会の代表が入っており、行政の代表者と話し合いを行っている。
また、市に18の行政地区があり、それぞれの地区にも評議会がある。
 バリアフリーのまちづくりに関してのパンフレットや、公共施設のバリアフリーチェックの本なども作っている。

B 日本の建築物におけるバリアフリー対策は、新設の建築物を対象としており、既存の建築物については、対応が遅れています。貴国においては、古い建築物が多く存在しますが、それらの対応はどのようにされていますか。
法的対応、技術的対応について教えてください。

・ 政府は新しい建築物にはバリアフリー対策を行うように定めた。
内容は、EVの設置(住宅は3階建て以上、業務施設は2階建て以上。)やドアの幅を大きくする等。
古い建築物では改築の時にEVの設置が必要であるが、一部歴史的なものや技術的にできないものについては除外している。
これらは、市が建築許可の際、国が定めた規則をチェックしている。

C 近年、施設介護から在宅介護へ移行していると聞きましたが、高齢者の居住形態の推移を教えてください。

・ 推移は分からないが、居住形態は次のとおり
T サービスハウス(共同の食堂や図書室などを持ち、必要なケアも受けられる)
U グループホーム(主に痴呆性老人や障害者が5,6人で共同生活をする)
V 老人ホーム(日本の老人ホームと同じ。大規模な施設が多い)
W ナーシングホーム(重度の介護や、医療手当が必要な人が入る)

20年から25年前に、政治家が「老人が施設に住むのはかわいそう。在宅の方が、精神的にも経済的にも良い。」と言って在宅を進めた。
ただし、老人の中には多くの人と生活する方が良いと言う人もいて、老人ホームの順番待ちは多い。
また、これまで家事援助などのサービスも市が行っていたが、最近は本人の介護(入浴、食事、投薬など)が中心である。

D 住宅に関する補助制度について教えてください。
  (家賃に対する補助、建設費に対する補助等)

・ ミリオンプログラムの時は、建設補助金が出たが、現在は住宅部局における補助金は無い。もちろん高齢者・障害者に対する住宅改造は行うし、低所得者に対する補助金もある。これらは市のサービスである。

E 建築物の景観について規制はありますか。

・ 特に法的な規制は無い。しかしながら、ストックホルムにおいては、土地のほとんどが市の所有であり、地区詳細計画には建築物の形態やボリュームを定めているし、土地利用契約の時に色やデザインを契約条項として盛り込むことで、景観のコントロールを行うことができる。

F ロードプライシングの導入について

・現在スウェーデンには有料道路はありません。それはすべての人が(富める人も貧しい人も)公平に使えるようにするためです。ロードプライシングについては3,4年前政治的な戦いがあり、結局止めることとなった。

参考 ストックホルム市役所ホームページ
   http://www.stockholm.se/


ストックホルム市庁舎

設計 ラグナル・エストベリ
竣工 1923年

ストックホルム中央駅から歩いて約5分。
ノーベル賞受賞パーティーが開かれる場所として有名。
意外と新しいが中世風の建物で、市庁舎と言うよりはお城の様に見える。
高さは106mで、全体を赤煉瓦で覆っている。
観光で黄金の間や塔の内部を見学することが出来る。
が、時間があると余裕をかましていたら、結局見ることが出来ませんでした。
日本語のガイドもやっていたような・・・
ちなみに都市計画課のある建物は、市庁舎からかなり離れていました。
お間違いの無いように。

TOP PAGE