「私の体は断線している」

  タップを始めて一番最初に苦労したのは、「ランニングフラップ」だった。コンボイの「ATOM」の中で舘形さんが可憐に、ペンギンのように愛らしく(笑)踏んでいたあれだといえば、合点のいく方も多いと思う。(余談だがコンボイであれだけ華麗に踊る舘形さんは、どうもタップを苦手としている(らしい)ATOMではそれを逆手に振り付けの演出に使っていたけど。でも彼の場合、バレエという基礎があるから多少タップスの出す音がへっぽこ呼ばわりされてても(!)舘様&舘様ファンの方、ごめんなさい)割と気にならないものだなあと。他のダンスをやっている人って動きがしなやかな分、綺麗でかっこよく見えるから羨ましい話だ)

 で、このランニングフラップ、文字通り走りながら「フラップ」というステップを踏む。初心者は、なかなかタップスから自然に音が出ず、またそれを無理矢理出そう出そうとするので、ただ「走りながら飛び跳ねる」という形になってしまいがちだ。私も例にもれず、ひーはーひーはー、息切らせながら歯を食いしばり必死こいてやっていたのだが、やはりなかなか音が出なかった。とうとうある日のレッスン中にふと正面をみあげた時、鏡の中に、熱中する余りに汗だくにあった自分の顔から、キレイに描いた眉がなくなっているのを見つけた時(!)・・・・・・あれは我ながらとってもこわかった。
 
 ちょっとは出来るようになった今だから言えるが、本来、これはそんなに汗みどろになってやるようなステップではないのだ。いかに膝から下の力を自然に抜くか、ただそれだけなのだ。・・・・・・けれど、それまでの人生、自ら進んで体を動かすということをまったくといっていいほどしてこなかった人間の体は(つまりこの私!!)すっかりなまって、しなやかさのかけらもない。それどころか神経そのものが通っているかどうかもはなはだ怪しく、まさに「断線」しているといって良かった。

 更に私の場合、「出来ることしかしない・努力は嫌い・根性論は信じない」(!)という、悪しき信条これのもとに、とんでもなく生ぬるい人生を送ってきたため妙に気位が高く、そのくせ無駄に完璧主義で(※完璧に出来ないくらいなら、はじめから手を出さないという(!)ようするに、何か技系のモノを会得するには非常に不向きな性質だったのだ。

 こんな調子では上達も人より遅くて当たり前なのだが、気位だけはムダに人一倍高い私は、そんな足首一つ自分の思うとおりに動かせない有様が耐えられずに、ある時ある役者さんに、
「いいよね、生まれ持っての才能がある人はさ、そういう風に生まれついてこなかったから、あたしゃ苦労しっぱなしだよ」
と、そんな八つ当たりにもならないようなトンデモナク失礼でみっともない泣き言をいったことがあったのだが(汗)するとその方は怒りもせずに
「なにいってんの、脳みそから一番遠いところを動かすんだから最初は出来なくたって仕方ないの、1%の才能と99%の努力なの!とにかく練習練習」
と、・・・・・・実に当たり前といえば当たり前なことを、えらくまじめーにおっしゃったのだ。

 これ(踊りとかそういう芸事ね)で食ってるような人から、そんなあまりといえばあまりにゴモットモな助言が返ってこられると私は”ひがんで八つ当たりしてる場合じゃないわな”と、ほんとに素直に思った。
 それからは”ダメだから習いに来てるんだ”という適度にお気楽な開き直りも携えて、徐々にだけれど余計なことは考えないで、無心でケイコに励めるようになった。そのおかげか。今ではランニングフラップを眉毛がなくなるまで汗だくになることなく踏むことが出来るようになった。
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