迎えに行く日の朝は晴天だったが、・・・・・・私はワケの分からないプレシャーがピークに達し、吐き気をもよおすほどに気分が悪かった。が、反対に母はやたらとハイだった。
 交番は自宅からは遠く、それにあの犬が電車の旅に耐えるのは難しいと思ったので、車で迎えに行くことになった。
 小一時間ほどで到着し交番の入り口に乗り付けると、交番の玄関先で惰眠を貪っていた犬は、ただならぬ気配に飛び起きた
”〜いつもはのたくたと歩いてやってきて、適当になでたらいなくなってたあの顔見知りが、いったい何をしに来たのっ?!”
と、思っていたかどうかは定かではないが、かなり興奮してしまって持参の綱に付け替えるのに苦労した(結局、せっかく買ったケージには入らろうとしなかったのでまったく無駄だった(汗)まあ、それなら抱きかかえて行けばいいでしょうということになり、差し入れに貰っていたドッグフードの類も譲りうけ、犬を小脇にかかえて車に乗り込むと我々はお巡りさん一家に見送られて出発した。
 車に乗る前の様子から、もっと吠えて喚いて暴れるかと思っていたのだけれど、道程1時間弱の道のりを犬は吠えることもなく、割と大人しく私や母の膝に代わる代わる乗かってきては車に揺られていた。

 家についてひとまずガレージにつなぐことにした見慣れない景色、嗅ぎ慣れない匂いに、犬はそこら中を忙しなく鼻で探って、そしておしっこをした。まあ、こんな遠い所まで連れて来ちゃったからねえ。自分の匂いを存分に付ければいいさね。と思って特に叱ることもしないでするがままにさせていたのだが、まもなく家の中から父が出てきたので。さてどうするのかなと黙って見ていると、父は驚いたことに無言でしゃがんで犬に両手をさし出したではないか。・・・・・・まあ、かなりおっかなびっくりではあったが。

「あらー、お宅も犬を飼ったのねー。」
「ええ!?これでもう大人なんですか?」
「何て種類?」
 家についたのが時間的に丁度犬のお散歩タイムに差し掛かった所だったので、通りすがりの犬連れの人たちが口々に声を掛けて行くのだが、ぱるは興奮状態でいるので相手の犬にけたたましく吠えたてた。
 犬を宥めながら、慣れない応対していると、けたたましい鳴き声に気がついて、齢16才になろうかという柴犬を飼っているお向かいのお宅の奥さんも出てきた。
「あらあ。可愛いわねえ。まだ子犬?なの?え?これでもう大人?あらあら、まあまあ、ちっちゃくて可愛いらしいこと・・・・・・。」
犬は相変わらずハイだった。吠えはしないが柴犬の匂いを嗅ぎ取っているせいか興奮して奥さんにじゃれついている。
「買った犬なの?」
「あ、いえ違うんです、迷い犬を貰ってきて」
私は奥さんにこれまでの経緯をかいつまんで話した。すると奥さんはにっこり笑って、
「ああそう。……じゃあこの子はきっと、そこであなたに飼って貰えるのを待っていたんだよねえ」
奥さんはそう言いつつ犬の頭を撫でた。

 そうだ。この子は縁があったから、私と出会ってそれでうちにきたんだ。そんな素敵な大事なこと忘れて、初心者には扱いにくいだのなんだのって、何をつまんないことでイライラしてたんだろうか。
 そう思ったら何だかすーっと気分が軽くなった。腹腔の、”責任に対するプレッシャー”というナの漬け物石もキレイさっぱり無くなった。そうだ、面倒くさいことも多いけど、きっとこれからは毎日面白いことだらけだ。
 
 そしてその日を境に犬は「シロ」から「ぱる」になった。

 ぱるはこうして、うちの子になったのだ。

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