何しろ憧れは強かった割に実践的なことはまったくのビギナーなので、翌日、交番にお巡りさんの奥さんがいらしたので犬の予防注射のこととか普段どんなものを食べさせているかを聞いたりしたが、実際何をどう用意したらいいものか皆目見当もつかないでいたが、最近はインターネットなんていうものがあるおかげで、巷の愛犬家愛猫家の皆さんが実に熱心なHPを開設して下さっていたが、、餌そのもの選び方や、成犬からのしつけについて、獣医の選び方、注射の種類などなど思いつく疑問の殆どをありがたいことに解消する事が出来たのだが、色々調べているうちにふと、
”子犬から飼うんじゃないんだから、少しでも最短コースで家に馴染めるように、元々の犬種としての性質を知っておいた方がいい。”
そんなことを思いついた私は、膨大な犬種と性質が載せてあるケンネル系のHPで調べて見ることにしたのだが、ここで一つ疑問がわき起こった。
”ところであいつって、何犬なんだろーか???”
ぱっと見には子犬と見間違うくらいのちびこさで顔も四角いテリア系だったので、洋犬の改良種の血が混じってることには間違いないが、茶色いまだらが白い毛の下に見え隠れしているし目は日本犬に多い真っ黒ででかい。
”そういえば交番の奥さんは、テリアと日本犬の雑種なんじゃないかって、いってたな。”
そこで私は何種類かのテリアの説明を片っ端から読んでみたのだが、
攻撃性が高く、プライド高い、神経質、スタミナ抜群、初心者には荷が重い”
 何故かこんな表現ばかりが目に付くのだ。
 
 確かに貰いうけようとしているその犬は、落ち着きがなく怖がりで喧嘩っ早い。特に男の人が嫌いですさまじい勢いで吠える。(でもお巡りさんのことは怖がらなかったらしい。ついていこうとした位だし)私と遊んでいてもすぐに他の人が気になってそっちへいこうとする。でもまあそれは前の飼い主に似てるからかもしれないし、あちこち渡り歩いてきたんだから、今が多少情緒不安定気味なのは、仕方ないんじゃないんだろうかと攻撃性とかスタミナの件は、私の中で片付いたのだが、しかし問題は最後の“初心者には荷が重い”という単語だった。
 
 今まで犬なんて飼ったこともない超初心者が成犬、しかもそんな扱いにくい犬を飼うようなことになっていいのだろうか。手に負えかねて一家全員ノイローゼになってしまうんじゃないだろうか。そしたら結局返すか誰かにあげるのか?それとも……いやいやそんな無責任な事は出来ないからそしたら最悪自分の手で保健所に……。

 父を一喝してなんとなく腹が据わってきていたもののいざ具体的に、”それでは今度の週末に引き取りに来ますので”などというお約束事がお巡りさんとできてしまうと、だんだんと犬を飼うという”責任”が、まるで漬け物石のようになって私の腹腔をずーん、と圧迫し始めたのだ。
 今ならまだ間に合う。私が思いきって飼うのをやめようといえばそれで済むのだ。何の義理も責任もないんだから、「やっぱりダメでしたごめんなさい」も、引き取る前の今なら通用するんだし、・・・・・などとほんとに、今思えば何てばかばかしいことで悩んでいたものかと思うのだが、もともと私があまりプラス思考ではなく悪く考えようとすれば幾らでも考えられたので。・・・・・・ようは私も父と同様、怖じ気づいてしまったのだ。

 日が経つにつれてその腹腔の漬け物石はどんどん重くなり、私はひどく落ち込んだ気分になっていった。・・・・・・あんなに飼いたいと喚きつづけた犬がやってくくるというのにだ。そんな私の愚かな苦悩を余所に、母はせっせと犬用品を買いあさり父は相変わらず黙って蚊帳の外だった。
 そうこうしているうちに、約束の週末がやってきてしまった。

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