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ドリル折損防止微小穴加工機 開発経過

1.研究課題

小径用ドリルの折損防止機能付穴加工機の試作開発

2.研究の目的

ドリルによる穴加工は最も一般的に行われている加工方法である。しかし微小径穴のドリル加工例、例えば光コネクタ用のフェルールの先端穴やプリント基板のスルーホールなどにおいては、ドリル径が小さいことからドリルが折れ易く加工能率を上げることが困難となっていた。小径ドリル加工における折れの主原因は切屑の詰まりによるトルク上昇である。 そのため加工中の切削トルクを測定し、このトルクが予め決められたしきい値を越えたときオーバロード信号を出力しドリルの切込みを停止し、ドリルを一旦引き戻し切屑を排出した後、再び切込むステップフィード加工法が研究されている。しかし、 微小トルクの計測は難しく、またスピンドル側へ組み込めるような小型のトルクセンサーの入手が困難である。 一般のサーボモータと送りネジとナットにより構成される切込み駆動機構、では送りネジの回転慣性が大きいため応答速度が遅く、オーバロード信号を出力してから切り込みを停止するまでの時間遅れが大きい。そのためしきい値を低く設定したり切り込み速度を遅くしたりしなければならず加工能率を大きくできない。 等の問題点があった。この問題の解決策として全く新規に、

●微小トルクの測定が可能な小型で安価な微小トルクセンサー
●摩擦駆動を応用した高速応答の切込み機構

を考案している。
  本研究ではこれら新しく考案した要素技術についてその性能確認を行い、次にこれらをを組み込んだドリル折損防止機能付き微小穴加工機を試作し、小径ドリルの折損防止機能の働きを検証することを目的にしている。

3.研究の内容

(1)トルクセンサの状況

トルクの検出方法には、古くから既に種々の原理ものが製作されている。例えば
  1. ねじり変形する部材にひずみゲージを貼って、ひずみ量を電気抵抗の変化としてとらえ、スリップリングを介して、電気信号を取り出すひずみゲージ式
  2. トーションバーの両端のねじれ量の差を読みとるトーションバー方式
  3. ねじり応力による部材の透磁率の変化から、トルクの大きさを検出する逆磁歪式
などである。しかしいずれの方式にしてもセンサーがかなり大きくなり、小径のドリル加工機に適用できるような小型軽量のものがなく、微小穴加工機のスピンドル(φ30以下)内に組み込むことは極めて難しい。また高価である。 いずれの方式にしてもセンサーがかなり大きくなり、小径のドリル加工機に適用できるような小型軽量のものがなく、微小穴加工機のスピンドル(φ30以下)内に組み込むことは極めて難しい。また高価である。
そこで、この問題点を解決するために新規に、トルクセンサーの開発を行った。
以下にその概要を述べる

(2)新規考案のトルクセンサ概要

ここでは、図1に示すような円筒状の弾性金属材の外周に複数個の斜めスリットを成型した円筒体(ここでは弾性リン グと呼ぶ)の、スリット成形部分を取り囲むように環状の非接触変位計を配置した簡単な構造のトルクセンサーを考案している。
これはトルクによりスリット成型部がトルクを付加する方向によりその半径が縮んだり膨らんだりする原理を応用したもので、弾性リングの変形量は弾性限度内ではトルクの大きさに比例するため、 この変形量を非接触変位センサーで測定することによりトルクの大きさと方向が検出できる。弾性リングと非接触変位センサーの組み合わせという比較的簡単な原理と構造であるため、小型軽量化が可能である(例えば、10Ncmでφ20×20L)。
ここではまず、微小穴加工機を試作する前に、この方式のトルクセンサーのプロートタイプを試作し、その基本特性の測定し、有限要素法による解析結果との比較を行い設計手法の確立を計っている。
(3)トルクセンサに関する研究開発内容

■基本原理の確認

原理確認のための弾性リングの試作と変形テスト円筒状の弾性金属材の外周に複数個の斜めスリットを成型した円筒体(弾性リング)を試作し、トルクを加えたときの変形量の測定を行い、弾性リングの変形量はトルクに比例する事を確認している(図4参照)。

■有限要素法による弾性リングの変形解析

弾性リングをモデル化し有限要素法を用いて変形計算を行ない、上記変形試験結果と対応し、計算と実験がほぼ一致することを確認し、モデルの妥当性を確認した。図2にその計算モデルと結果の1例を示す。    これにより、任意のトルクを測定するための弾性リングの形状が計算により決定でき、設計手法の確立を計ることができた。
(4)トルクセンサ検出部の開発

■弾性リングの半径方向変形量の検出法に関する検討

弾性リングの半径方向の変形量の非接触測定方法としては、静電容量方式、渦電流方式、光学式、磁気抵抗方式など種々の方法が考えられるが、ここでは、図3に示す磁気抵抗式変位計測法について検討を行った。
 これは弾性リングの外周に励磁コイルとリング状の中間磁気コア及び検出コイルをこの順に中間磁気コアがスリットの中央部に来るように軸方向に並べて置いたもので、励磁コイルに交流電流を流すと、軸方向に磁束が発生する。この磁束は図3に示すように、一部は中間コアを通って励磁コイル側へもどり、一部は検出コイル側へ流れる。この検出コイル側へ流れ出てきた磁束に比例した電圧が検出コイルに発生する。検出コイル側へ流れ出てくる磁束は、中間コアと弾性リングの間隙の大きさによりにその量が変化する。したがって検出コイルに誘起される電圧を測定するのことにより、弾性リングの半径の変化量すなわちトルクの大きさを計測することが出来る。
 図4は弾性リングのトルクによる変位とその時の検出コイルの電圧出力特性の一例を示したものであるが、トルクに対しほぼリニアな出力が得られていることが分かる。


(5)ドリル折損防止機能付き微小穴加工機の開発

■微小な穴工におけるドリルの折損を防止するには、切削トルクを検出するには回転するスピンドル側にトルクセンサーを設ける必要があること、及び検出したトルクと予め設定したしきい値との比較と、検出トルクがしきい値を越えたときにオーバロードを出力する検出システム並びに、オーバロード信号に基づいてドリルの切り込みを停止し、引き戻し切り屑を排出した後再び切り込み点まで、早送りし、切り込み送りにて切削を再会するステップフィードを行う切り込み制御が必要である。
 切り込みの制御は、市販の穴加工機では、送りねじとサーボモータの組み合わせで行われている。しかしこの方式では、サーボモータと送りねじの回転慣性モーメントがかなり大きく、トルクがしきい値を越えオーバロード信号を出力してから、サーボモータの回転が停止し、切り込みがストップするまでにかなりの時間が掛かる。その間にドリルが切り込んで、トルクが上昇しすぎて折損に至る場合がある。また、切り込みが行き過ぎても折損しないようにするには、しきい値を低く設定する必要があり、この場合、頻繁にオーバロード信号が出力され、加工能率が低くなる等の問題があり、オーバロード信号が出力されてから、停止するまでの時間が短い高速応答の切り込み機構が求められた。
 そこで、本研究では以下で述べる摩擦駆動による切り込み機構を考案している。

■ドリルの折損を防止するための重要な要素技術としてオーバロードを検出してから、瞬時に切込みを停止し、ドリルを引き戻さなけらばならないが、このため図5に示す摩擦円盤による主軸駆動法を考案している。
 これは回転する主軸の側面に摩擦円盤を押し当て、主軸の軸方向への移動を可能にするものである。原理は図5に示すように、主軸の中心軸に対し摩擦円盤の回転中心軸を上方にオフセットして摩擦円盤を主軸に押し当てると、主軸には摩擦円盤との接触点において摩擦力が働く。この摩擦力は摩擦円盤の半径に対する中心位置のオフセットの量の比だけ、その方向が主軸の軸方向に傾く。主軸には接線力と軸方向推力が働き(図5(b))、推力は主軸を軸方向へ移動させる。主軸の移動を停止するには摩擦円盤と主軸の接触を解除するだけでよい。また主軸を引き戻すには、摩擦円盤の接触位置を左から右に移すだけ(図5(c))でよく、この移動量は極わずかであり、極めて短時間に移動することが可能であるので、高速応答で切り込みの停止及び後退ができる。
 また、切り込みの推力は摩擦円盤の摩擦力の軸方向分力に等しいため、過大なスラスト力が掛かったとき摩擦円盤と主軸がスリップし切り込みがそれ以上行われないという安全機構にもなっている。そして摩擦円盤の主軸への押しつけ力を変化させることにより、推力の制御が可能である。
 ただし、摩擦力を利用しているので、大きな推力は得られず加工できる穴径に限界がある。

■ドリル折損防止機能付き微小穴加工機の試作

 上記した弾性リング方式のトルクセンサーと摩擦駆動切り込み機構を有するドリル折損防止機能付き微小穴加工機を試作した。写真1及び図6にその概要を、表1にその仕様を示す。
表1 ドリル折損防止微小穴加工機仕様
項 目 仕 様
対象ドリル直径 0.1〜1.0mm
主軸回転数 6000rpm
主軸全ストローク 100mm
主軸切込ストローク 40mm
検出トルク 10N・cm
早送り速度 〜300mm/min
切り込み速度 10〜50mm/min
ドリルコレットチャック径 3.175mm
ワーク側 回転スピンドル, XYテーブル

■トルク検出ドリル折損防止穴加工実験

試作したドリル折損防止機能付き微小穴加工機用いて微小径(直径0.6mmドリル)の穴加工実験を行った。その1例を図7に示す。
 切り込み(青線で表示)が深くなるに従いトルク(赤線)が上昇し、しきい値を越えるとオーバロード信号(緑線)が出力され、切り込み(青線)が引き戻されている。
 これよりトルクセンサーよる切削トルク検出と切り込み制御によりドリル折損防止機能が動作していることを確認した。

4.研究の成果

  1. 新規考案のトルクセンサーについて、まず原理確認のため試作を行い、その基本特性の測定を行った。その結果、負荷トルクに対しリニアな出力が得られ、穴加工機へ適用できることを確認した。
  2. 弾性リングの有限要素法を用いた変形解析と実験との比較を行い、よい対応がとれることを確認し、弾性リングの設計基準を作成した。
  3. 弾性リング方式のトルクセンサーと摩擦駆動切り込み機構を備えたドリル折損防止機能付き微小穴加工機を試作した。
  4. この試作機を用いて穴加工実験を行い、トルクセンサーにより切削トルクの検出が行われていること、及び摩擦駆動の送り機構による切り込み制御も良好に作動し、ドリル折損防止機能が有効に働いていることを確認した。

参考文献

1) 高巣周平他3:微小穴加工機の開発(第1報)-摩擦駆動方式の切込み装置:
  1998年度精密工学会春期大会学術講演開講演論文集 P233

2) 高巣周平他3:微小穴加工機の開発(第2報)-微小トルク検出装置:
  1998年度精密工学会春期大会学術講演開講演論文集 P234

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