第一章 ルウム


人物・組織・艦名事典



 この事典は、『一年戦争記』に登場する人物や組織、軍艦の艦名などについてのレファレンスである。基本的には原作に準じており、組織に関する記述などはホビージャパンの『ガンダムRPG』および『一年戦争史』を参考にしているが、小説のオリジナルの設定もある。また、時間の推移によって職権や階級などの異なる人物もおり、混乱を避けるために各章時点での状況に即した記述とする。ただし、やはり混乱を避けるために、基本的な事項については触れておく。
 また、特に組織などについての概説も併せて行う。各個人の記事を理解する一助になるだろう。
 ただし、以上の記事は、本編を理解するために絶対に必要なものではない。あくまで作者の覚え書きであり、進行に従って変化する可能性もある。そのことについては留意されたい。


連邦軍

 この世界では地球連邦という組織が地球圏を支配している。この地球連邦は、国際連合から発展した組織という設定を行っている。なお、その国際連合の前身は、一般には国際連盟だが、それ以上に連合軍なのである。どちらも英語表記でUnited Nationsである。地球連邦をどう表記するかについては統一があるのかないのか不明だが、ここでは同じUnited Nationsを採用しておく。


・人物編

レビル
中将。連邦宇宙軍第一連合艦隊第二艦隊司令。連邦宇宙軍の創設期からの重鎮で、この小説では陸軍出身としている。後に宇宙軍きっての名将と称された。この時点では、宇宙軍の重鎮ではあるが、絶対的な権威までは持ち合わせていない。しかし、実戦部隊からは強力な支持を得ており、宇宙軍内に持つ派閥も強力である。なお、彼がジオン軍の捕虜となる際の経緯について、一般では「脱出後に捕捉され、捕虜となった」と理解されているが、この小説では彼の命令により、投降している。
参謀長
階級不明(おそらく少将)。レビル投降の際に捕虜となった。ちなみにエルランではない。彼がレビルの参謀長になったのは、もっと後のことである。
チェン
大佐。第四艦隊第四三戦隊戦隊司令。サラミス級巡洋艦『エクゼター』艦長。エリートコースよりも艦長たることを望んだ「船乗り」である。四九歳と、結構いい年。カニンガンとは親交があった。ルウム戦役のラストで、グリフトの対艦攻撃を受け負傷。左腕を失う。名前からしておそらく中国系と思われる。誠実、穏健な正統派のキャラクター。シナプスみたいな感じかな。
ネフ
 第一章の主人公。少佐。『エクゼター』副長。着任までは、艦艇の対空戦闘の専門家として連邦軍のMS開発チームに所属していた。戦隊防空戦副調整官、つまり対MS戦闘の責任者として四三戦隊を実質的に動かし、公国軍の空襲に対処し続ける。アングロサクソン系の三一歳。バリバリのエリートでもある。一見、優等生らしいが、裏面では結構好戦的なキャラである。チェンとはかなり年齢が離れているが、結構うまくやっているようである。
ナン
 大尉。四三戦隊のボール中隊中隊長。パブリクと並んでやられ役の代名詞みたいなボール部隊を率いて一週間戦争から戦い続けてきたせいか、ボールの能力をあまり信用していない。ネフほどではないが。ただし、部隊指揮官としての能力は一級。部下の信頼もあついようだ。インド系の三〇歳。パイロットらしく好戦的な性格をしている。射撃の腕は高い。
ブルー
 少尉。ボール中隊第二小隊小隊長。第七戦隊との間で繰り広げられた前哨戦では、『ニューオーリンズ』の護衛を担当する。護衛任務には成功するが、ノイマンの攻撃を受けて撃墜され、戦死。
ラィツェル、ミユキ、フォーン
 いずれもナンの部下。第一小隊所属。うち、フォーンは戦役ラストで『エクゼター』護衛の任務中、『エクゼター』に取り付いたグリフトを狙撃しようとした際に、ハウザーの狙撃を受けて撃墜され、戦死。あとの二人はナン共々そのうち出てくるだろう。
パク
 大尉。四三戦隊のセイバーフィッシュ小隊小隊長。ルウム戦役後半の、連邦軍撤退作戦を阻止した四三戦隊を生還させた立役者である。名前からしてコリア系だろう。
スコット
 四二戦隊のセイバーフィッシュ小隊小隊長。ルウム戦役後半で、連邦軍の撤収を成功させようと援護に出た四三戦隊に、助っ人として貸し出されたセイバーフィッシュ二機を指揮していた。その甲斐あって撤収作戦は成功したが、彼自身は一六MS大隊の攻撃を受けて部下共々戦死。
カニンガン
 准将。第九艦隊司令代行。以前、レビル中将の副官を務めていた頃には彼の懐刀と呼ばれたほどの逸材。ルウム戦役で、司令部を破壊された第九艦隊の司令代行として、連邦軍の撤収作戦を実行する。見事撤収を成功させるが、最後まで撤収の援護にあたり、旗艦『ネレイド』もろとも戦死。『銀英伝』のウランフみたいだ。三八歳。チェンとは親交があった。
アリ
 大佐。四二戦隊司令代行であり、第四艦隊の三人目の代理指揮官。サラミス級巡洋艦『ニューデリー』艦長。名前からしてインド系かアラブ系だろう。イスラム教圏なら珍しくない姓だ。カニンガンの支援に向かった四三戦隊のチェンのあとを継ぎ、第四艦隊を撤収させる。第四艦隊の代理指揮官であり、チェンと同じ大佐であるが、チェンの方が先任。しかし、彼が指揮官なのだから、チェンに命令すれば彼の行動をやめさせることが出来たはずだ。結局彼はチェンの判断を尊重し、撤収作戦は成功したが、一つ間違えれば混乱を招きかねない。実は、四二戦隊の本来の戦隊司令がチェンよりも先任であり、彼が第四艦隊の二人目の代理指揮官だった。その彼が乗艦ごと沈められ、戦隊司令がアリに戦隊指揮権を委譲した際に、艦隊指揮権も継承したために生じた混乱である。本当ならば、この段階でチェンが艦隊指揮権を継承しなければならなかったのだ。
ボース
 大佐。第二艦隊第二三戦隊戦隊司令。サラミス級巡洋艦『アナスタシア』艦長。十隻以上の公国軍艦隊に追い回され、MSの猛攻を受けながらも凌ぎきった有能な指揮官。あるいはペテン師。軍事的には戦力というのは小出しにしてはならないので、一気に彼らを叩こうとした公国軍司令部の判断はそれほどひどくはない(いくら何でも出しすぎだという気はしなくもないが)。それだけに彼によって引っかき回されたときには腹が立っただろう。名前からしてインド系。なんかインド系ばっかりだ(一応理由はある。後述)。
フォス
 大佐。サラミス級巡洋艦『フィンランディア』艦長。ルウム戦役のラストで撤収作戦を完成させるために単艦しんがりを引き受けたカニンガンが、代理指揮官に指名した。
ティアンム
 中将。この小説ではまだ出ていないが、次の『組織編』のために書いておく。開戦時、連邦宇宙軍第一艦隊司令(バンダイの『戦略戦術大図鑑』では第四艦隊司令だが、他の記事との整合性がとれないので、この小説では第一艦隊の司令とする)。レビルと並んで宇宙軍の重鎮。海軍出身。ルウム戦役直前の一週間戦争では、迎撃艦隊の総司令としてコロニー阻止作戦を指揮した。その際に受けた損害のため、ルウム戦役には参加せず、ルナ2で待機している。


・組織編

 連邦軍は、開戦前、地球圏各地に十個の宇宙艦隊を保有していた。第一から第三までのマゼラン級戦艦によって構成された艦隊、第四から第一〇までのサラミス級巡洋艦によって構成された艦隊である。そのうち、サイド5・月・サイド3(ア・バオア・クー、ジオン本国)方面を管轄していた第二宇宙軍に所属する第三・第五艦隊、サイド1・サイド4(及びソロモン)方面を管轄していた第三宇宙軍に所属する第六・第八艦隊、サイド2・サイド6を管轄していた第四宇宙軍に所属する第四・第七艦隊などの艦隊は、サイド6に駐留していた第四艦隊を除き、開戦初頭の奇襲で、そのほとんどがコロニーと運命を共にしていた。
 ルナ2に所属していた第一宇宙軍、つまり第一・第ニ・第九・第一〇艦隊はティアンム中将の指揮する第一艦隊を除いて初動に失敗したため、ルナ2のコロニーを地球に落とそうとしたブリティッシュ作戦に際して連邦軍が動員に成功したのは、第一艦隊とサイド2方面から撤退してきた第四艦隊と第七艦隊の残存兵力のみであった。ティアンム中将は第一艦隊を中心とする、ごくわずかな戦力で公国軍のコロニー落とし阻止作戦に参加したのである。
 ティアンム中将の必死の防御戦により、連邦軍本部のあったジャブローへのコロニー落とし作戦は失敗する。その代わりに参加した戦力はかなりの損害を受け、しばらく行動不能になった。ただし、第四艦隊はこの作戦には艦隊の全戦力を投入しなかった(出来なかった)ため、比較的戦力が残っていた。
 連邦軍は、ブリティッシュ作戦の一週間後に行われたルウム戦役を、第一艦隊を除いた第一宇宙軍(第ニ・第九・第一〇艦隊)に、第四艦隊の残存戦力を統合した第一連合艦隊で戦ったのである。このときの第一連合艦隊の指揮官は、第二艦隊司令のレビル中将だった。ただし、第一〇艦隊に関しては、ルウム戦役の第一段階では参加せず、公国軍を挟撃するよう、やや遅れて参加した。結局、このためにドズル中将はコロニー落としを断念せざるを得ない状況に追い込まれたのである。

 なんだか、文字にするとよく分からないので、もう少し説明を加え、整理してみよう。
 この時代、人類が住むのは、地球と月以外に、七つのコロニー集合体(サイド)に集中していた。サイドは地球と月によって構成されるラグランジュポイントに建設される。ラグランジュポイントとは、力学的に安定した空間のことである。ここ以外にコロニーのような巨大構造物を建造しても安定しない。ちなみに、L1とL2は、他の点よりあまり安定が良くない。サイドが各一つしかないのはそのためだろう。
 連邦軍はこの地球圏を、四つの宇宙軍で管制していた。

 L3のルナ2・サイド7をに配置された第一宇宙軍(第一・第二・第九・第一〇)
 L1のサイド5に配置された第2宇宙軍(第三・第五)
 L5のサイド1・サイド4に配置された第3宇宙軍(第六・第八)
 L4のサイド2・サイド6に配置された第4宇宙軍(第四・第七)

 以上の四つである(かっこ内は所属する艦隊)。第一宇宙軍が総予備。第二宇宙軍が、月・サイド3方面を監視する任務を帯びていたのは言うまでもない。つまり、平時には第二から第四宇宙軍は各コロニーの警備。戦時にはルナ2の第一宇宙軍が制圧に向かうまでの時間を稼ぐという構図である。
 仮想敵がジオン公国である以上、第二宇宙軍が第三・第四宇宙軍より強力なのは当然で、同じ二個艦隊による編成とはいえ、第三艦隊はサラミスではなくマゼランを主力とする編成になっている。マゼランを装備する艦隊は、第一宇宙軍に所属する第一・第二艦隊以外には、第三艦隊のみという点からも、第三宇宙軍の重要性が分かる(図1)。 
 連邦側の勢力を青、公国側の勢力を赤で囲った。連邦側勢力には、駐留している連邦軍艦隊も併記している。L1からL5はラグランジュポイントである。
 なお、この時点で月面諸都市群は、公国基地でもあるグラナダを除いて、一応、地球連邦の傘下にあった(心情的には別である)。このことはサイド6も同様である。
 さて、公国軍の初動は、第三・第四宇宙軍に対するものだった。開戦劈頭の奇襲で、サイド6に駐留していた第四艦隊以外はほぼ全滅している。大きな損害は受けなかったものの、混乱した第四艦隊はとりあえず撤退。ルナ2の第一宇宙軍は初動に失敗したため、サイド5の第二宇宙軍が迎撃に向かうが、充分待ちかまえていた公国軍の迎撃を受け、敗退する(図2)。
 とりあえず連邦軍を駆逐した公国軍は、サイド2の第8番コロニー『アイランド・イフィッシュ』を月のスイング・バイを利用して速度をつけ、地球へ。
 ルナ2の連邦宇宙軍は、とりあえず第一艦隊を動員し、比較的損害の少ない第四艦隊と大損害を受けた第七艦隊、それに公国軍の攻撃を受け、撃破された第三・第五艦隊を編成し直してコロニーの迎撃に向かわせる(図3)。
 結局、ブリティッシュ作戦は、連邦軍が大損害を受けながらも、結果としてコロニーの破壊に成功。辛くもジャブローへの落下を阻止した。その代償として、参加したほとんどの戦力を失い、五億を越える被災者を出すことになったが。

開戦直後(一月三日〜四日) 図2
 公国軍は主力をサイド1・4のL5方面とサイド2・6のL4方面に分け、奇襲攻撃。
 L5方面では、実際にはソロモンからの戦力のみで最初の攻撃を行ったはずで、戦術レベルでも奇襲が成功していると思われる。
 ブリティッシュ作戦の鍵を握るサイド2方面では、戦前からサイド6(リーア)自治政府と何らかの合意が結ばれていたと思われる。これはサイド6の経済力だけの問題でなく、この段階でサイド2に戦力を集中できるということは、公国軍にとって大きな利益が得られると思われるからである。
 連邦軍は、戦略的奇襲を受けたために初動に失敗。各コロニーの駐留軍は各個撃破され、公国に対する牽制の任務を帯びていたサイド5駐留の第二宇宙軍も迎撃に失敗、L4から撤退する第四宇宙軍と合流している。ルナ2から出撃できたのは、ティアンムの第一艦隊のみである。
 なお、サイド5からの連邦軍の撤退後、公国軍による制圧が行われたと思われる。

ブリティッシュ作戦(一月四日〜一〇日) 図3
 サイド2のコロニー『アイランド・イフィッシュ』を月に向けて加速、月のスイング・バイでさらに加速を得て、地球に方向転換。これは元来姿勢制御程度の推進剤しか持たなかったコロニーを推進させるためと、急加速に耐えられないコロニーの強度問題のためである。
 若干の時間的猶予を得られた連邦軍は、編成の終わった戦力から次々に迎撃艦隊を投入。さらには戦略核クラスの弾頭を搭載した対コロニーミサイルで攻撃。巨大なコロニーを守備せざるを得ない公国軍共々、大きな損害を出しながらコロニー落着の瞬間まで戦闘が続いた。
 公国軍は、ブリティッシュ作戦の失敗を確認後、予備作戦としていた第二次ブリティッシュ作戦を開始。使用するのはサイド5の第11番コロニー『ワトホート』である。
 今度は連邦軍も全戦力の投入に成功した。ルナ2に残存する第ニ・第一〇艦隊、サイド7から引き上げてきた第九艦隊、一週間戦争の残存戦力を再編した第四艦隊を統合した第一連合艦隊である。指揮官は第二艦隊司令のレビル中将。ただし、第一〇艦隊のみは、公国軍を挟撃するためにやや遅れて出撃した。
 対する公国軍は、第一機動艦隊(二個戦闘群。ちなみに一個戦闘群は、連邦軍の一個艦隊に相当)のみで迎撃を行った。戦力の分散投入という愚を犯すわけだが、同数の戦力を持っていた第二機動艦隊は、コロニー落としの工作作業を支援するために必要だったため、参加させることが出来なかったのだ。
 一週間戦争の補充も充分ではない公国軍は、第一連合艦隊の半数程度の戦力しか持たず、第一〇艦隊の増援を受けた連邦軍を支えることが出来なかった。仕方なくドズルは、コロニー落としの作業を中止、全戦力を連邦軍に投入したのである(図4)。
 戦術的には正しい判断で、結果として連邦艦隊は壊滅。公国軍は制宙権を確保した(図5図6)。しかし、コロニー落としに失敗した公国軍は、純軍事レベルにおいて、戦争を短期で集結させることに失敗したのである。
 と、まあこういう具合になるわけである。お判り頂けただろうか? かえって混乱を招いたかもしれないが……。まあ、要するに、文字通り、連邦軍の戦力はすりつぶされたわけである。では公国軍はどうか、というと、やはり相当の損害を受けている。ただし、連邦軍と異なり、公国軍の戦力の主軸となるのはやはりMSであり、こちらの方は簡単に損害を計上するのが難しい。というか、まったく資料がない。資料としての信頼性に欠けまくるバンダイの『戦略戦術大図鑑』にすら載っていないので、想像するしかない。一応、作者の個人的推測としては、ほぼ半減と見積もっている。これはパイロットの負傷や修理不可能な機体など、幾つかの要素を考慮に入れた上での判断である。もっとも、判断というよりは思いこみに過ぎないといった方がいいかもしれないが。

ルウム戦役 概略図 図4
 作戦開始から、公国軍第一機動艦隊による迎撃まで(一月一四日〜一月一五日二三〇〇時頃まで)

コロニーに取り付いた工作部隊を攻撃するためにルナ2を出発した連邦軍第一連合艦隊を、公国軍第一機動艦隊が迎撃。連邦軍の半数以下の第一機動艦隊では連邦軍を阻止しきれず、司令官のドズル中将は、二三〇〇時をもって第二機動艦隊の投入を指示する。

ルウム戦役 概略図 図5
 連邦軍の撤退開始から公国軍の追撃終了まで(一月一六日〇四二〇時〜〇五一五時時頃まで)

第二機動艦隊と工作部隊が合流したことにより、戦力的に大きく優位に立った公国軍は、各所で連邦軍を撃破。
〇三一〇時頃にレビル中将の旗艦『アナンケ』が公国軍に投降し、しかも通信環境の悪化と戦闘時の混乱のために、指揮権の譲渡が明確に行われなかったため、連邦軍の指揮系統は崩壊する。
〇四〇〇時頃、第二艦隊司令代理のカニンガン准将は、第一連合艦隊の指揮権を継承し、撤退を決断。
〇四二〇時より三方向に対して撤退行動を開始する。
この時点で両軍の艦艇とも推進剤をほとんど消費し尽くしていた。その例外としてレビル中将が配置しておいた数個戦隊が撤退を支援し、かろうじて撤退作戦に成功する。

図6
〇四二一:四三戦隊反転
〇四二二:二三戦隊反転
〇四三四:一一戦隊触接
〇四三五:二三戦隊再反転
〇四三六:第三戦闘群の追撃失敗
〇四三九:第四戦闘群の機動及びMSの展開を確認
〇四五二:二三戦隊、第四戦闘群と交戦
〇四五三:『ネレイド』反転
〇四五六:四三戦隊到着
:公国軍、追撃目標を修正
〇五〇一:四三戦隊、一六・二四MS大隊と交戦開始
〇五〇三:四三戦隊、交戦終了
〇五一三:『ネレイド』沈没

 わかりにくい図になってしまったが、どうだろうか? 二三戦隊が第三戦闘群を、円を描くような急機動でまき、第四戦闘群のMSとやり合う前段階と、長駆やってきた戦隊が、公国軍に一撃離脱をかけた、という構図である。第三戦闘群をあしらった二三戦隊が、第四戦闘群のMSとやり合うまで時間があるが、これは第四戦闘群がMSを発艦させていたからである。普通ならむしろ攻撃の好機だが、この場合、発艦直後のMSに、五月雨式に叩かれただけでも壊滅してしまうからである。敵の戦力が 全部揃うまで待つ必要があったのだ。また、転回半径がまちまちに見えるが、宇宙空間では地球上とは異なり、方向転換に大きなエネルギーを消費してしまうことに注意して欲しい。


・艦名編

 とはいっても、基本的に人物編でほとんど触れてしまったので、あまり書くことがない。
 そんなわけでいくつか気が付いたことを書く。
 マゼラン級戦艦『アナンケ』は、レビル中将の旗艦で、第二艦隊旗艦だった。これはいいとしてもカニンガンの座乗していた『ネレイド』もマゼラン級だとすると、第九艦隊がサラミス級で構成されていたというホビージャパンの『一年戦争史』の記述とかみ合わない。壊滅した第三艦隊から引っこ抜いたという話も考えたが、あまりありそうにないので……。やはり、各艦隊のうち、一個から二個戦隊を戦艦戦隊とし、残る戦力を巡洋艦戦隊とした方がいいのではないだろうか?
 で、この『アナンケ』と『ネレイド』だが、元ネタは何だろうか? 『ネレイド』は海神だったはずだが、『アナンケ』は判らない。正体不明だ(と書いた後、Jun-Iさんから指摘があったので補正すると、『ネレイド』は海王星の衛星、『アナンケ』は木星の衛星で、どちらもギリシア神話から採られたものだそうな。というわけでこの箇所は、一応確認を取った後に書き直します)
 以上の二隻はすでにデータがあったものだ。『ネレイド』の前に第九艦隊旗艦だった『ヒュウガ』は、日本軍の伊勢級戦艦『日向』より取った。
 第一章で主役を務める四三戦隊の旗艦はサラミス級の『エクゼター』である。『エクゼター』という名は、第二次大戦で活躍したイギリスの巡洋艦で、大西洋ではドイツ軍の『アドミラル・グラフ・シュぺー』と殴り合ってボロボロになり、インド洋にわたったら日本軍の魚雷攻撃を受けてすさまじい水柱を立ち上らせたシーンが思い浮かぶ、あの「歴戦の」艦である(記憶違いがあるかもしれないが)。
 四三戦隊に所属する他の艦、『ヴェスビオス』・『ニューオーリンズ』・『アガノ』については、まず『ヴェスビオス』は、大噴火で街一つを吹き飛ばした有名なイタリアの火山からもらった。元ネタ通り、核攻撃を受けて派手に爆発してくれた。普通、こんな不幸そうな名前を付ける奴はいないと思うが(笑)。『ニューオーリンズ』は、合衆国軍のポートランド級巡洋艦からもらった。確かそうだったと思うが、ポートランド級じゃなかったかもしれない。『アガノ』は、日本海軍の阿賀野級巡洋艦のネームシップからもらった。結局、『アガノ』は沈んだけど、『ニューオーリンズ』はほとんど無傷でルウム戦役を切り抜けた。なかなか強運の艦だ。
 アリ大佐が座乗した『ニューデリー』は、インドの都市からとった。
 ボース大佐が座乗した『アナスタシア』は、……なんだっけ。ニコライ二世の娘だったか、『グルグル』に出てくる理想郷だったか……もっとまともな理由があったような気が……忘れたからいいや。
 『フィンランディア』は、シベリウスの交響曲が元ネタ。
 基本的に、戦艦は過去の有名な戦艦から、巡洋艦は過去の有名な巡洋艦から、もしくは地名から取るようにしている。もっとも、『アナスタシア』や『フィンランディア』みたいにかなりいい加減な理由で名前が付くこともある。『アナンケ』や『ネレイド』の例から、戦艦に関しては衛星名もチェックの対象になるだろう。
 まずつかないであろう名前は『ヤマト』とか、『エンタープライズ』とかいう、なんかすげえ連想力を持った名前である。理由は書くまでもないだろう。あと、ドイツ系の艦名もなるべく避けるようにしている。理由はジオンが付けるから。いくら作者が悪趣味でも、マゼラン級戦艦の『ブリュンヒルト』が、チベ級重巡洋艦の『バルバロッサ』と殴り合うシーンは見たくない。


公国軍

 この小説では、『ジオン』と『公国』とを使い分けている。『ジオン』というのが、第二次大戦中に、連合軍によってドイツ人を『ナチ』と呼んでいたことを連想させ、しかもその『ナチ』という略称は蔑称でもあったことから、連邦側が公国側を呼ぶときのみ用いている。なお、『ナチ』もしくは『ナチス』が蔑称であったのは、日本人をジャップと呼ぶのと同じ理由である。『ナチ』もしくはヒトラーの政党である『ナチス』のどちらもドイツ人は用いなかった。国家(あるいは国民)社会主義ドイツ労働者党の頭文字であるNSDAPをそのまま呼んでいた。NAZIもそれとよく似ているが、意味合いが違う。ただし、『ジオン』とは、建国の祖であるジオン・ズム・ダイクンから取った名前なので、このようなこだわり自体意味がないといえばその通りである。まあ、作者のささやかなこだわりということだ。こんなくだらないことをこだわるのは世界中探しても作者一人だけかもしれない(笑)。


・人物編

ドズル・ザビ
 中将。公国軍宇宙攻撃軍司令官。公国軍実戦部隊の最高責任者である。彼が前線に出るということは、日本海軍の連合艦隊司令長官が陣頭指揮した日本海海戦に匹敵する気合いの入れようだったということである。公国軍の最高権力者はギレン・ザビであるが、彼は軍令(戦略立案)・軍政(軍隊組織関連業務)を管轄し、実戦の指揮はドズルに任せていた。また、彼もその権限をよく果たした。その見た目と最期から、究極の体育会系トゲ付きブラザーだと思われているが、この小説では見た目以上の能力を持っているということにしている(でなきゃデギンはともかく、ギレンやキシリアが黙ってないはずだ)。総旗艦として指揮能力を強化したムサイ級巡洋艦『ファルメル』に座乗し、開戦からここまで指揮を執ってきた。なお、彼はルウム戦役でMSに搭乗して戦闘に参加したとあるが、あくまで戦意高揚のためのパフォーマンスで、基本的には『ファルメル』で指揮を執っていたはずである。ちなみに戦役後、『ファルメル』はシャアに譲っている。とすると、彼の旗艦は何だったのだろうか? やはりグワジン級か?
ハウザー
 大尉。第七戦隊に配属された第一六三MS中隊の中隊長。部隊の指揮能力もさることながら、MS操縦の腕も相当なものである。のちに、上位部隊である、第一六MS大隊の大隊長戦死に伴ってその代行をつとめる。アーリア系というのかゲルマン系というのか、要するに古典的なドイツ軍人風のキャラ。ドイツ軍人といっても腹から機関砲を出したり、ジオンの科学力を絶叫したりしないぞ。二八歳。
グリフト
 軍曹。ハウザーの列機。どういうわけだかジオン軍の編成は三機一個小隊なのだ。ドイツ風というのなら、二機で一個のロッテだろう。というわけなので、彼以外にももう一機列機がいたのだが、ブリティッシュ作戦で戦死したという設定になっている。彼もやはりドイツ人風のキャラ。二一歳。
サイモン
 中尉。一六三MS中隊の先任士官。つまりナンバー2。第二小隊長。基本的に、彼の小隊がハウザーたちの露払いをつとめるという戦術方針を採っている。名前からしてアングロ系か?
ノイマン
 一六三MS中隊、第三小隊長。ハウザーたちほどの腕は持っていない。それでも優秀なパイロットなんだが。名前からしてやはりドイツ系だろう。こんなんばっかりや(やはり理由がある。後述))。
ザルムート
 少将。第四戦闘群指揮官。しゃらくさい機動を取って連邦艦隊の撤退を支援するボースの息の根を止めるためにドズルに送り込まれた。が、結局、ボースにしてやられるわけである。ちなみに公国軍の戦闘群というのは、連邦軍の艦隊に相当する。投入しすぎだと思えるよなぁ。しかもそれでしてやられてたんでは世話がない。ただし、推進剤を盛大にふかし回る宇宙船を追いつめるのは、本当に難しい。まさか推進剤完備の部隊が残っていたとは、誰も思わなかったのがレビルとボースの勝因だ。彼の姓もドイツ系である。
ユーリック
 中佐。第二四MS大隊大隊長。第一戦闘群の艦載MS部隊の指揮官である。だから大隊長のくせに中佐というわけだ。一般に公国軍は連邦軍より一階級ぐらい階級を高めに扱う傾向があるため、中佐といえば連邦軍の大佐にあたるわけである。大佐といえば、大隊長ではなく、その上の連隊長を務めていてもおかしくない階級だ。さすがに旗艦MS部隊の指揮官だ。ネフとパクのペテンにしてやられたわけだが。姓からは彼の人種に見当をつけるのは難しい。東欧系かな?
マルクス
 少佐。二四MS大隊第四中隊長。大隊最先任の中隊長である。少佐なんだから、普通は大隊長をやっていてもおかしくない。名前は、やっぱりもろにドイツ系だ。


・組織編

 うーん、あまり書くことがない。動員が間に合わなかったり、大被害を受けて再編成を行ったりした連邦に比べて、公国の方は順当にいっていたからなぁ。
 ざっと編成を眺めると、公国軍は、八つの戦闘群に艦艇を分け、四つのMS師団を編成していた。一個戦闘群は連邦軍の一個艦隊に相当し、四つの戦隊と四つの大隊からなっている。MS大隊四つで一個MS師団となるので、八個戦闘群というと八個MS師団に相当するわけだ。一個MS師団は、二〇四機のMSを定数としており、それから公国軍の戦力を見ると、四個プラス八個で十二個MS師団、二四〇〇機強のMSというわけである。公国軍が開戦時に有していたMS総数は約四千機ということなので、予備機などを考えると、まあ、そんなものだろうということになる。一見膨大に見えるMS数だが、ブリティッシュ作戦、ルウム戦役、三度にわたる地球降下作戦と続けざまに作戦を行った結果、相当消耗したはずである。何せ公国は人的資源に乏しいため、人員の回復が遅く、予備パイロットなんぞあっという間に消費してしまったはずなので、大戦中期頃からは相当苦しんだ訳で、バーニィとかが学徒動員されるわけだ。しかし、学徒動員の付け焼き刃パイロットがいくら使えなかったとはいえ、ハイテクの固まりであるMSが、よく動かせたものだ。まあ、そのあたりはともかく(実は掘り下げると結構おもしろいのだが)、パイロットが少なく、戦力をフル活動させざるを得なかったあたり、「目一杯作戦」と評されるほど余裕のない戦争をやっていた太平洋戦争の日本軍を思い出させる。そのまんまなのかもしれないが。
 なお、一個機動艦隊とは、ホビージャパンの『機動戦士ガンダムRPG』では、一個戦闘群にMS大隊を加えたものとなっている。しかし、そうすると開戦時に八つも戦闘群をもっていながらルウムで二つの機動艦隊を投入した、つまり二つしか戦闘群を投入しなかったということになり、どうもおかしいので戦闘群の上位組織(連邦軍でいえば宇宙軍とか連合艦隊とかいうレベル)とすることにした。


・艦名編

 連邦軍同様、ほとんど人名編で書いてしまったため、書くこと無いや。
 オリジナルの艦名は、なんかこう、ドイツっぽい名前にしておいた。って、今のところ『ナスホルン』だけか。そんな名前の対戦車自走砲があったしなあ。ところで気になるのは、原作の方のネーミングだ。グワジン級は「GW」で始まり、ドロス級は「DR」で始まる。まあ、このあたりはいい。チベ級とムサイ級はどうなっているのだろうか? 特に、その名前の元ネタは何なんだろう。気になるなぁ。ザンジバル級なんか、島の名前に『リリー・マルレーン』ときているからなぁ。うーん。


・人名編

 地球が宇宙移民を始める時代については、もう一度ゆっくりと考えてみる必要があるだろう。なぜ必要だったのか。どのような状況だったのか。あり得る可能性としては、人口爆発と環境破壊に耐えかねた人類が、かなりひどい規模の戦争を繰り広げ、マジでやばいと危機感を募らせた人たちが、国連を通して宇宙移民を始めたというのだが、現状を考えるとまだもう一ひねり二ひねり欲しいところである。ひねりすぎると佐藤大輔みたいに、日米英を中心にした諸国がEUと手を組んだ国連諸国と 本気の殺しあいをやり、ズダボロに後者を引き裂いて(ほぼ全滅状態)宇宙に飛び出したとなってしまう。こっちの方がありそうだとか思えてくるあたり、結構こちら(作者)も救われない。
 まあ、このあたりうまくいったとした場合、宇宙世紀で一番多いのは中国系で、次がインド系のはずだ。連邦側の人名にこの二つが多いのはそのためである。じゃあ、公国は? どうなるかねぇ。今更東欧移民じゃあるまいし……。とにかく、何らかの理由で、ドイツ系の住民が大量に、しかも移民時代末期に宇宙に出ていったと考えるしかないだろう。
 移民時代末期というのは、サイド3が一番面倒な環境にあるからである。もっと早かったら、もっとましな位置に移民するはずだ。サイド1と2は、事実安定したラグランジュポイントに建造されている(このあたりは連邦軍の「組織編」を参照のこと)。4と6も、1と2と同じポイントに建造されており、安定性は高い。つまりいい物件だ。3と5、それに最後に建造が始まった7があまりよろしくない位置にある。その中でも太陽から一番遠い(正確には遠くに遠日点を持つ)サイド3が、一番環境が悪いわけだ(閉鎖式コロニーというのが一つの傍証だ)。ただし、月に近いから、その意味では良い場所かもしれない。閉鎖式コロニー建造に必要な大量な資材も、比較的楽に手にはいるだろう。うむ。だから、早いナンバーを持っていても、建造には手間(と資金)がかかっただろうし、発展したのはずいぶん後だろうと推測できるわけだ。
 で、その「遅れた」「田舎の」コロニーに、移民時代末期(つまり、かなり悪い状況と動機で移民を始めた時代の)に移民してきたドイツ系主体の住民が、苦労の末にコロニーを発達させ、地球に対して反抗の狼煙を上げたと。
 うーむ、まだ穴だらけだけど、こんなところだろうな。このあたりはまだまだ変更の余地があるでしょうねぇ。


・参考出典

 まあ、こういうのは形が付いてからやるもんだとは思うけど。
 基本資料としては、バンダイのENTERTAINMENT BIBLEシリーズがまず第一。

『機動戦士ガンダム MS大図鑑 [PART.1 一年戦争編]』 『ENTERTAINMENT BIBLE.1』 1989年、バンダイ
『機動戦士ガンダム MS大図鑑 [PART.2 グリプス戦争編]』 『ENTERTAINMENT BIBLE.2』』 1989年、バンダイ
『機動戦士ガンダム MS大図鑑 [PART.3 アクシズ戦争編]』 『ENTERTAINMENT BIBLE.3』 1989年、バンダイ
『機動戦士ガンダム MS大図鑑 [PART.4 MS開発戦争編]』 『ENTERTAINMENT BIBLE.4』 1991年、バンダイ
『機動戦士ガンダム MS大図鑑 [PART.6 デラーズ紛争編(上)]』 『ENTERTAINMENT BIBLE.42』 1992年、バンダイ
『機動戦士ガンダム MS大図鑑 [PART.7 デラーズ紛争編(下)]』 『ENTERTAINMENT BIBLE.46』 1992年、バンダイ
『機動戦士ガンダム MS大図鑑 [PART.8 スペシャルガンダム編]』 『ENTERTAINMENT BIBLE.52』 1993年、バンダイ
『機動戦士ガンダム 戦略戦術大図鑑』 『ENTERTAINMENT BIBLE.39』 1991年、バンダイ
『機動戦士ガンダム メカニック大図鑑』 『ENTERTAINMENT BIBLE.37』 1991年、バンダイ

 世界設定などは、ホビージャパンの『ガンダムRPG』が中心となった。バンダイの『戦略戦術大図鑑』は、刊行年次が古いこともあって、あまり信用が出来ない記事が多かったためだ。もっとも、ルウムの戦闘全体ではこちらの記事がベースになった部分も多かったが。

『機動戦士ガンダムRPG』 1997年、ホビージャパン
『一年戦争史』 1997年、ホビージャパン

 以上に加えて、ホビージャパンの『RPGマガジン』のガンダムに関する記事を幾つか拾い上げて参考にしている部分もあるが、煩雑に過ぎるので号数の出典まではご容赦いただきたい。

 また、このレファレンスの記事に関してはJun-I氏に幾つか助言をいただいたことをここで述べておく。



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