断崖絶壁。
なんということでしょう。二人の人間が、崖から今にも落下してしまいそうです。
両腕だけでかろうじてぶら下がっている状態です。少しでも力を抜けば真下は岩が突き出す荒れ狂う冬の日本海。待っているのは間違いなく死です。
希望が一つあります。崖の上に、一人の人間がいるのです。死にかけている二人の友人です。
あなたがその人だとして、どちらか一人しか助けられないとしたら、どちらを助けますか。
ですが、あなたはそれを考える必要はありません。というよりも、そんな余裕はありません。
なぜなら、あなたは死の世界へ半歩足を踏み込んだ、崖にぶら下がっている二人のうちの一人なのですから。あなたが今、両腕の苦痛に耐えながら考えるべきことは、
「どうすれば、自分を助けてもらえるか?」
という、いたって深刻な問題なのです。
話をおもしろくするために、また冬の寒空の下に血の花を咲かせるために、二人とも助けてもらう、というのはナシにします。
ますます話をおもしろくするために、三人の関係は、幼なじみの女性(大学生)とします。
死にかけている二人は、死ぬ確率に公正を期するため、同じ容姿で、同じくらい崖上の友人とは仲が悪い(これでも友達といえるのです)ということにします。
この状況下ではほとんど関係ありませんが、一応書いておくと、あなたと死にかけているもう一人の人間は大の仲良しです。