どうすれば自分が助けてもらえるか、考えてみましょう。
始めに言っておきますが、しょーもない考えばかりです。もし、まだ「哲学」という言葉に固いイメージを持っている方は、読まない方がいいかと思います。
ただ、最後のほうにちょっとだけ、真面目なことが書いてあります。ホントにちょっとだけです。「プロ野球珍プレー好プレー」系のテレビ番組における、好プレーくらいちょっとです。比率にしたら10パーセントありません。
自分の意志を伝える上で、言葉は大切です。自分の気持ちを素直に声に出してみましょう。「助けて」と言うのが、一番確実です。こんな緊急の時に、「助けて欲しいと思わないことはけしてない」などと、二重否定を使って自分の気持ちの強さを表現しても効果があるとは思えません。しかし、ただ「助けて」ではダメですね。なんといっても、この場合、私にはライバルがいるのです。隣で私同様、死にかけている親友がいます。便宜上、彼女をF子と名づけましょう。このF子が私以上に強い気持ちを表現した「助けて」を言ったら、私が助けてもらえる可能性が下がってしまします。
どうしたらいいでしょうか。シンプルに考えてみましょう。即ち、金銭でつります。崖上の仲の悪い友人(便宜上、Y美と名づけましょう)にこう言います。
「私を助けてくれたら、100円あげるわ」
随分ケチだな、と思いますか。これでいいのです。F子も死にたくありませんから「それなら、私は200円だすわ」と言うに決まってます。つまり、オークションになるわけです。最初に高い値段をつけると、結果的に買値が高くなります。お金は大切にしなくてはなりません。
とはいっても、助けてもらえさえすればお金を払う必要など全くありませんから、1億でも1兆でも好きなだけ金額を上げてかまいません。
しかし、これは生命がオークションの対象です。人間の命は地球よりも重い、というのが現在の一般的な意見なので、最終的に、金額は地球以上のもの、という価値のつけがたいものになり、決着がつかないことになりそうです。確実ではありません。
金銭を使うのは、あまりにストレートすぎました。子どもに聞かれたら「大人はキタナイ」とか言われそうです。変化球を使いましょう。Y美に、こう言います。
「バカ、アホ、マヌケ、トンチンカン」
通称、悪口四天王、と言われるヤツです。ちなみに、この四天王の起源は、平安時代に貴族を罵るために使われたのが最初だそうです。信じてくれた方、あなたはとてもいい人です。その心を、いつまでも失わないでくださいね。
さて、本題に戻ります。
こんなことを言ったら、逆効果と思われますが、さにあらず。仲の悪い友人にこんな悪口を言われ、黙っているようなヤツは女ではありません。
「なに、この子、チョーむかつく。めちゃブルー入ったわ。ちょっと表出なさいよ」
と、こうなります。このように、先を読まなくてはなりません。
私は「いつでも相手になってあげるわ」と挑発的に言います。すると、Y美は私を引っ張り上げ殴りつけることでしょう。無意識のうちに助け出させることに成功するのです。命が助かるのですから殴られるくらいの痛みは我慢しましょう。あとで、裁判所に訴えればいいのです。
しかし、この手段はフィフティー・フィフティーです。
悪口四天王を言い終わる前に、Y美が、唯一の命綱である私の手を思いっきり踏みつける可能性があるのです。私がY美なら、そうします。成功確率に不安が残ります。
発想を転換させてみましょう。
自分が助かる方法を考えるのではなく、相手、即ちF子を突き落とすことを考えればよいのです。F子がいなくなる=自分が助けてもらえる、ということです。
崖上のY美にこう言ってみます。
「私を助ける必要はないから、F子を突き落としてよ」
隣から浴びせられる視線が痛いですが、視力が悪くて見えない、と自分に言い聞かせてごまかしましょう。
Y美は、F子を突き落としました。やりました。これで助かります。Y美が言いました。
「助ける必要はないのよね」
この問題では、Y子は、二人とも助けることはできない、という規定はありますが、どちらか一人を助けなければならない、という規定はありません。どちらも助けなくてもいいわけです。道徳的にどうかはともかくとしてですが。
これでは、寿命がF子よりわずかに延びただけです。意味がありません。
強気に行きましょう。Y美にこう言います。
「私は、あんたの秘密を知ってるわよ」
人には、一つや二つ、知られたくないヒミツがあるものです。この場合、昔から知っている幼なじみという関係が、このウソにリアリティーを持たせます。
「ウソ! ホント?」
お前は何が言いたいんだ、と言いたくなる反応をY美は示しました。
「ばらされたくなかったら、私を助けなさい」
この脅迫はなかなかいい手です。ですが、Y美もなかなか頭がキレます。
「あんたがここで死ねば、その秘密はばれないわね」
確かに・・・。と、納得している場合ではありません。この方法は逆効果になってしまいましたが、まだ望みはあります。Y美には、ばらされて困るヒミツがあることはわかったのです。ならば、第三者にしゃべってしまうぞ、と脅せばいいのです。
「F子に言っちゃうわよ」
実は、これは、最悪の選択です。
「私を巻き込まないでよ」とF子は必死の形相で言いました。
「それなら、二人とも死んじゃえば、永遠にばれないわね・・・」
崖上のY美は、不気味に笑いました。
後半に続きます。真面目な話は、本当にあるのでしょうか。