月オ回  戦争学の思考(へ)

 

 脚本っぽい形式で書いてます。 

「敵艦艇、出航しました。彼我の距離から推測して、島への到着は20分後」
 司令本部の緊張が一段と高まる。
「第1次防衛ラインへの部隊の展開は?」
 司令長官の質問に、副官は答える。
「完了しております。攻撃態勢で待機しています」
「よろしい。・・・それにしても、参謀長。敵は、とうとう4人でやって来たな」
「はい。自殺行為としか思えません。敵は我らの戦力を知らないのではないでしょうか」
「それにしても、たった4人で敵の本拠地を叩こうとは思うまい」
「戦争映画の見すぎなのかもしれませんね」
 口にした冗談を笑えない。
「どんな策があるというのだ」参謀長は言葉にこそ出さないが、一抹の不安がある。
「長官」
 副官に呼ばれ、長官は振り向いた。
「何かね」
「たった今、情報部から報告が入りました」
「ふむ」
「敵軍の指揮官と思われる人間に関することです。彼は、桃から生まれたとのことです。
「何だと!」
 長官は指揮シートから腰を浮かせた。「情報に誤りはないのか」
「はっ!」
「それでは・・・」
 長官はうめいた。
「それでは・・・敵の指揮官は人間ではないということか」
 静寂が、室内の主となる。
「桃から生まれたということは、その人物は、桃ということになる」
 桃から生まれた以上、その人物がいかに人間そっくりであろうとも、人間という種族ではない。親が桃であるのなら、子も桃であろう。カエルの子は、カエルだ。
「敵軍の構成は、桃が1、犬、猿、キジがそれぞれ1・・・ということか」
 参謀長がつぶやく。
「そうだ。人間は、いないのだ」と、長官。
「とりあえず、軍をひかせるべきかと」参謀長は言った。
「その通りだ。副官、第1次防衛ラインに展開する部隊に、第2次防衛ラインまでの撤退を伝えるのだ」
「はっ・・・」
 副官の返事は、いつもの快活な響きではない。
「不服かね」
「失礼を承知で申し上げます。正直言って、不服です。何故部隊を撤退させるのか、その理由をお聞かせ願いますか?」
「よかろう。ただし、その前に私の命令を伝えるのだ」
「はっ」

 副官は、いつも通り確実に命令を実行した。
 参謀長はうなずいて、口を開いた。
「我らの敵は誰だい?」
「もちろん人間であります。彼らは、平和に暮らすことを願う我ら鬼に、勝手に敵対心を抱いています。その人間に備えるための、我が自衛軍です」
「その通り」参謀長は手を叩いた。
「我らの敵は、飽くまで人間なんだ」
「ですが、現に彼らはこの島に侵攻してきています」
「我らは人間とは冷戦状態にあるが、犬や猿、キジ、ましてや桃とは敵対しておらぬ」
 長官が厳しい語調で言った。
「敵対関係にもない者たちを殲滅させたとあっては、我ら鬼の尊厳がどこにある? しかも、相手はたったの4人なのだぞ」
「私たちは、歴史の裁きを受けることになるだろうね。屈辱的な判決によって」
 参謀長は軍帽を脱いで団扇代わりにした。
「我ら、鬼という種族の沽券に関わることなのだ」と、長官。
「私たちは、はるか昔から、人間の攻撃に、専守防衛を徹底してきた。だからこそ、今の私たちには平和的な種族、という評価がある」と、参謀長。
「では、どうすればいいのです。侵略者に対して無抵抗に敗北するのですか。それとも無条件降伏するというのですか? それこそ我らの沽券に関わるというものではありませんか」
 副官は、声を荒げて言った。
「・・・誰も敗北するとか、無条件降伏するなどと言ってはおらん」
「はっ?」
「敗北とか降伏とかいうものは、相争った集団もしくは個人で成立する関係だ」
 長官の言葉に、参謀長は嬉しそうにうなずく。彼と長官の考えが一致したのだ。
「どういうことでしょうか」副官はわけがわからない。
「戦争をする必要はない、ということさ」と、参謀長。
「では交渉して和議を結ぶのですか」
「まぁ、そんなところかな」
「副官、国家主席へ通信をつないでくれ」
 困惑した顔の副官に、長官は言った。
「はっ・・・」
「あとのきみへの説明は、主席への説明と同時にさせてもらうことにする」
「わかりました」
「敵軍、あと10分で島に上陸します」索敵オペレーターの報告が入った。

 慣れない文章を書くと、疲れます。