ウォルスタ解放軍

 

 ウォルスタ解放軍。
 全人口の1割に満たない少数派民族ウォルスタ人を中心とする軍である。ウォルスタ人は、長年にわたって弾圧を受けている。それに反対、抵抗するのがウォルスタ解放軍の目的である。指導者はロンウェー公爵である。
 そのロンウェー公爵は、今、ガルガスタン陣営によってアルモリカ城に捕らわれている。しかも、近々処刑が行われるとの噂が流れていた。
 デニムたちは、ロンウェー公爵救出のため、アルモリカ城に向かった。

 ゼノビアの騎士たち──ランスロット・ハミルトンカノープスウォーレンミルディンギルダスの強さは圧倒的であった。数的不利をものともせず、アルモリカ城を解放する。しかも、デニムたちに戦いを指南しながらであった。
 彼らの活躍で、デニムたちはほとんど何もせずにロンウェー公爵救出に成功する。
 聖騎士ランスロットは、神聖ゼテギネア帝国への革命戦争(『伝説のオウガバトル』)では、オピニオンリーダー(指導者)の最初の同士ということ以外、さほど目立ちもせず、華々しい活躍もなかった。だが、この強さを見れば、それはリーダーを立てていたのかもしれないと思える。自分はあまり目立とうとせず、人知れずに活躍していたに違いない。聖騎士の名に相応しい、一廉の人物である。

 救出されたロンウェー公爵は、
「・・・そなたらのおかげで牢から出ることができた。ありがとう。そなたのようなウォルスタの若き同胞に救われたことは、実に喜ばしい。そなたらは、神が我々ウォルスタに遣わされた希望の使者に違いない。うむ、ウォルスタの未来は明るい」
と言うが、デニムたちは大した活躍をしていない。真の立て役者はゼノビアの騎士たちである。
 これは、「若者が指導者を命がけで救出した」という大衆が喜ぶ出来事を大げさに宣伝する意図があったのだろう。それは、16歳の素性も知れぬ少年を正式な騎士としたことからも明らかだし、自ら「そなたら若き英雄たちが騎士となればウォルスタの結束は高まる」と言っている。

 デニムを一躍、英雄にしたランスロットらゼノビアの騎士たちには、ロンウェー公爵は猜疑の視線を向ける。彼らが、こうしてロンウェー公爵の前にいること、すなわちヴァレリア島に来たこと、それ自体が疑わしかった。
「邪悪なローディス教国がロスローリアンを送り込んだように、貴殿らゼノビア王国もまた、ヴァレリアを欲しているのではないか?」
 これはヴァイスも危惧したことである。
 長い間弾圧を受けてきたウォルスタ人は排他的性格を持つようになっていたのかもしれない。特に、ローディスの暗黒騎士団には痛いめにあわされている。異国人に信用がおけなくなっていたとしてもやむを得まい。

 デニムは、ロンウェー公爵から騎士に任命される。
「騎士・・・」
 デニムは呟く。込められた想いはどのようなものか。
「も、もちろん、仰せのとおりに」と興奮するヴァイスのような気分ではなかったはずだ。騎士としてウォルスタ人のために戦えることは嬉しい。その一方、この紛争に直接関わることになる人間になってしまった。騎士ともなれば勝手な行動は許されないし、責任も大きい。
 デニムがここまで考えていたかはわからないが、複雑な心境であったことは間違いない。それを証明するように、ランスロット曰く「忠誠を誓うべき対象がいてこその騎士」という立場がこの後、デニムを大いに苦しめることになるのだから。

 ロンウェー公爵は、ランスロットたちにアルモリカ城の警護と兵士の訓練をまかせる。これは、自分に近いところに置いておき常に監視しておく意図があることは明白だ。
 一方、デニムたちはクリザローの町へ派遣されることになった。この町には、ガルガスタンによるアルモリカ地方の監督官がいる。その監督官を騎士団の長レオナールが追っているのだが、手こずっているからである。
 仇である暗黒騎士団を真っ先に叩きたいデニムたちだが、ロンウェー公爵は、目前の敵であるガルガスタンにまず照準を定めた。強敵ロスローリアンと戦うには、自らの足場がしっかりとしていなくてはならない。本拠地の安定を目指した、正しい選択と言えよう。

 デニムは、騎士としてはじめての任務に赴く。ゼノビアの騎士たちはもういない。