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         「数学的な見方や考え方」の観点別評価基準の数値化について

1 「数学的な見方や考え方」の観点別評価基準作成はなぜ難しいか

 説明のために「平行線の性質を用いて,三角形の内角の和について考察することができる。」

 という数学的な見方考え方の評価規準を使います。この評価規準をもとに,従来の方法で評

 価基準を作成すると概ね以下のようになるのでしょうか。

  ・A基準「平行線の性質を用いて,三角形の内角の和についてより広い視野から筋道を立て

   て考察することができる。

  ・B基準は上記評価規準と同じ。

  ・C基準はB基準の否定形,すなわち「・・・・・・考察することができない。」

  従来の方法で3段階の評価基準を文章表現しましたが,これを用いて子どもの数学的活動

 (試行錯誤)を観察し,評価するのはやはりかなり難しそうです。難しい要因として考えられる

 のは以下のとおりです。

  ・数値による評価基準ではなく,文章による評価基準は評価者の主観に左右されやすい。し

   たがって,評価者が代わると同じ子どもでも評価は変わる可能性がある。

  ・評価規準を基に,A基準をつくる際,作成者により難易度の上下が考えられる。

  ・1単位時間の中で,クラス全員ではなくクラスの一部の子どもの数学的活動プロセスを見取

   るにしても,文章による評価基準を当てはめ評価するのは時間的ゆとりがない等。

  ・ルーブリック等の評価指標(評価基準表)も工夫されたものが見られるが,各評価段階にお

   ける子どもの活動の具体的表記も文章表現であるがゆえに,評価者による解釈が同一と

   はならず,違った評価をする可能性がある。


2 「数学的な見方や考え方」の観点別評価基準をなぜ,数値化するかまた,どのように数値化

 するか

  「表現・処理」や「知識・理解」の観点別評価基準は例えば10問中8問正解なので「A」という

 ように,数値による評価基準を設定しやすいと思います。しかし,「数学的な見方や考え方」で

 は主に試行錯誤の思考プロセスを評価することから,評価規準の設定の難しさや,評価基準

 にどうしても文章表現を多用することにより,評価に難しさが伴い,評価が不透明になったり,

 客観性を伴わない評価になる可能性もでてきます。また,評価がきちんと行われないと,子ど

 もへの評価情報の提供や,個に応じたきめ細かな指導,教員の指導方法の工夫・改善が十分

 に行われないということもでてくるのではないでしょうか。また,更に極端な場合,数学的な見方

 考え方の評価がしっかりできないことにより,数学的な見方考え方を育てる指導がいい加減に

 なることも考えられます。この様な理由から評価基準を数値化することを考えてみます。尚,

 数値化の方法としては子どものワークシート等にヒント欄を設け,机間巡視をしながら教師が

 いくつのヒントを子どもに与えるかで数値化をします。例えばヒント数0はA基準,ヒント数1〜2

 はB基準,ヒント数3以上はC基準という具合です。

  以下に具体例(三角形の内角の和が180°になること)を挙げながら説明を進めていきます。


3 三角形の内角の和が180°であることを説明するための数学的活動の段階

 (1)紙製のいろいろな三角形の角度部分を切って,3つの角を一箇所に集め180°になりそ

   うだということを確かめる。

 (2)紙製のいろいろな三角形の敷き詰めを試みる。そうするとすき間なく敷き詰められること

   が確認できる。

  ※(1),(2)の活動を通して3つの角を一箇所に集めることが大きなヒントになります。また,

   これはとりあえずアクションを起こしているので関心・意欲・態度が高まっていると考えられ

   ると同時に,頂点Aを通って底辺を平行線な直線を引く(補助線を引く)大きなヒントとなり,

   数学的な見方考え方を育てていることにもなります。

 (3)三角形の底辺は底辺という名前と共に,平行な2直線の一本の直線(線分)という名前も

   持っていることに気づく。(名付けが完了しないと,底辺と点Aを通る直線だけからでは,平

   行線の錯覚は等しいという事柄は想起できない。)

 (4)平行線の錯覚は等しいという既習の知識を使い,3つの角を一箇所に集める。

  *紙を切って3つの角を一箇所に集める作業を何種類かの三角形について行ったり,コンピ

   ュータで操作を行った子どもの中には,もうこれで三角形の内角の和が180°になると結論

   づける者もいるかもしれませんが,あくまでもこれは有限個しか確かめていないことを理解さ

   せる必要があります。演繹的な論証が必要なことをよく理解させたいものです。


4 数学的活動中のヒントの具体例

 (1)3(1)については三角形の角度部分を切って3つの角度を集めると,180°になりそうだ,

  ということは分かるが切る前の三角形の底辺と180°の角の辺の平行関係が把握しにくい。

  そこで,ヒントとして三角形の輪郭を紙面上に描かせ,そこに,同じ大きさに切った三角形を

  のせ,底辺部分の2つの角を切って,頂点の角に合わせる。

 (2)3(3)については頂点に集まった3つの角が作る角の辺と,切る前の三角形の底辺の2直

  線が平行になりそうだということが認識できるためには,切る前の三角形の底辺は底辺と同

  時にこの底辺を含む直線と考えることもできることを認識させる必要がある。そこで,ヒントと

  して底辺という名付けと同時に,直線の一部という名付けもあることを認識させる。

 (3)最後のヒントとして既習事項の平行線の同位角や錯角の大きさの関係を想起させる。

    では,ここでヒントをまとめてみます。

   ・ヒント1:三角形の輪郭を紙面上に描かせる。

   ・ヒント2:三角形の底辺に重ねて直線を引かせる。

   ・ヒント3:平行線の同位角や錯角の大きさの関係を想起させる。

  まだ,細かくヒントを設定することはできると思いますが,大まかにはこの程度になるでしょう。

  この様に,数学的活動を指導過程の中に仕組み,その活動を完了させるためのヒントを教師

  が用意することは,個に応じたきめ細かな指導の具現化になると共に,教師の教材解釈や指

  導力の向上につながると思います。


5 まとめ

  これまで述べてきたことをまとめると,数学的な見方や考え方の評価は表現・処理や知識・理

 解の評価に比べ難しさが伴う,そこでこの観点の評価を数値で行うことを考えます。具体的には

 数学的な見方や考え方は思考のプロセス(試行錯誤)の中で,つくられていくものなので,教師

 が意図した数学的活動を子どもが完了させるまでに,いくつのヒントを与えたかで評価をしてい

 こうというものです。その際,子どものワークシートに教師がヒントを記入する欄を設けておくと,

 その子のつまずきのレベルを後で知るために役立ちます。また,評価もしやすくなります。

  数値を使った客観性のある評価であれば個に応じたきめ細かな指導も効果的に行うことがで

 きます。尚,数学的な見方や考え方に関する全ての評価場面を数値を使って評価するというこ

 とではなく,指導状況や子どもの活動状況に応じて数値を使用した評価を行うと良いでしょう。

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