よりよい中学校関数指導を目指して
1 関数に関する指導の状況
前回でも述べたとおり,平成15年度の教育課程実施状況調査の意識調査の結果,関数に
ついては生徒も教師も,この学習に対して否定的な意識を持っていることが明らかになったとの
ことです。また,関数学習の実現状況は他の指導内容よりも良くないことが明らかになっており,
関係概念の取り扱いには一層の改善が必要とのことです。しかしこの傾向は今回の調査から表
面化してきたことではなく,ずっと以前からも関数指導の難しさは言われ続けてきていました。で
は,なぜ関数指導は難しいのでしょうか。
2 関数の定義について
(1)定義の変遷
@ライプニッツが関数の概念を初めて用いました。
Aオイラーは関数を以下のように定義しました。
「一つの変数xの関数とは,・・中略・・・された解析的な式である。」
Bコーシーは関数を以下のように定義しました。
「前略・・・通常一つの変数によって他の変数を表すと考えて,初めの変数を独立変数とよび,
他の変数をその関数という。」
Cディリクレの関数の定義は現在,以下のように述べられています。
「2つの集合A,Bがあって,Aの任意の要素に対してBのある要素が一意的に対応する時,
その対応をfとすれば,fはAからBへの関数(写像)という。」
(2)検定済教科書中学校数学科の関数の定義
現在の第2学年の検定済教科書中学校数学科用を見ると,どの教科書も多少の表現の違
いはあっても「ともなって変わる2つの数量x,yがあって,xの値を決めると,それに対応するyの
値がただ1つ決まるとき,yはxの関数であるという。」というものです。この定義は上記の(1)B
のコーシーの定義に近いようです。なぜなら,見て分かるとおり,コーシーの定義では従属変数
を関数と呼んでいます。しかし,ディリクレの定義では2つの集合の要素間の対応関係をfとすれ
ば,そのfのことを関数と呼んでいます。
3 指導の難しさの原因は?
さて,現在の検定済教科書の関数の定義はy(従属変数)をxの関数と呼んでいます。しかし,
このことによって,ある種の混乱を生徒に引き起こしているような気がします。なぜなら,生徒
は「yはxの関数である。でも,yは(従属)変数である。関数と変数は同じものを表しているのだ
ろうか・・・」このあたりから生徒は関数を「訳の分からないもの」と捉え,敬遠し始めるようです。
そこに指導の難しさの原因があるように思われます。
岩波「数学辞典」の関数に関する記述は以下のとおりです。(一部抜粋)
「関数 f の定義域と値域とをそれぞれ X,Y とするとき,X を変域とする変数 x を f
の独立変数,Y を変域とする変数 y を f の従属変数とよぶ。このとき ’y は x の
関数である’ といい, y=f(x) とかき表すこともある。」
これをみると,関数はあくまでも f であり,y は f の従属変数とよんでいます。そして,そ
の表現方法のひとつとして,’y は x の関数’といい, y=f(x) とかき表すこともあるよう
です。しかし,中学校の検定済教科書には f をなぜか使っていないので,’y は x の関数
である’だけが強調され,分かりにくい表現になっているように思われます。
そこで,もう一度,学習指導要領を確認すると以下のように記述されています。
「具体的な事象の中から二つの数量を取りだし,それらの変化や対応を調べることを通して,
一次関数について理解するとともに,関数関係を見いだし,表現し考察する能力を養う。」
(学習指導要領から)
この記述からは「関数関係を見いだす」「表現し考察する」ことが大切だと読みとれますが,
関数をyとした時点で生徒は(関数を変数と捉えてしまっている)関数関係を見いだそうにも
何をしたらいいのか見当がつかなくなります。また,関数関係を表現し考察することについ
ても何をしたらいいのか分からないと思います。(実際に,教育課程実施状況調査結果から
問題で表やグラフが与えられているなど,数学化された問題については,生徒の学習状況
はよい状況だが,事象の中から関数関係を見いだしたり,グラフから変数間の関係の特徴
を読み取ったりする問題については,課題があることが明らかになったとのことです。)
学習指導要領の趣旨に沿うならば,2つの変化する数量の間に,「機能」や「働き」としての
関数(function)を生徒に思考させることが必要だと思います。(関数を変数ではなく,機能や
働きとして捉える)そうすれば,「関数関係を見いだす」「表現し考察する」ことも生徒にとって,
「意味のある活動」として捉えられると思います。これが関数教育の本質だと思いますが・・・。
また,この部分が改善できれば教育課程実施状況調査の意識調査中,「一次関数の意味と
特徴を理解すること」の設問に対する回答もより良い方向に向かうのではないかと思います。
因みに,この設問に対する生徒の回答の割合は以下のとおりです。
よく分かった 35.2% よく分からなかった 40.1% 無回答 24.7%
好きだった 23.1% 嫌いだった 48.8% 無回答 28.1%
役に立つと思った 23.9% 役に立つと思わなかった 40.7% 無回答 35.4%