イメージから始め,イメージを抜ける


■太極拳を始める方のほとんどが,まずどこかで太極拳を見たことがあり,それを見て
「あら,優雅な動き」とか,
「ユックリで,自分にでもできそう」
などと思って始められるようです。
 つまり,「はじめにイメージありき」というわけです。私もそうでした。

■太極拳の動きのイメージとは,どのようなものでしょうか。身近な方たちに聞いてみると,
・流れるような優雅な動き
・常に円運動を描く
・どこにも力を入れない

などが多いようです。

■私も各種講習会や老人ホームでのボランティア講習などで,太極拳がはじめての方を対象にする場合は,まずはじめに1つの套路を演武します。大体,音楽をかけて行います。太極拳の雰囲気を感じていただき,イメージをもっていただくことで,その後の講習が効率的に行えるからです。百聞は一見にしかずで,見ていただくだけで身体がのびのびとユックリと動くようになるのです。ところが,ある程度深めますと,今度はこのイメージが邪魔になってきます。 

■「流れるような動き」というイメージがありますと,往々にして重心の移動が,上半身先行になります。上半身が先行しますと,上下にねじれが生じます。
 弓歩などは後ろ脚の力が抜けて,踵が浮いたりしがちです。その分,前脚の膝がつま先を越えていわゆる「前引き」の弓歩となります。これでは,相手にまったく力が伝わらないばかりか,自分の身も危険ですし,健康法としても害があります。(膝の靱帯を痛めます。)やはり,弓歩は両足の裏がしっかりと地球に密着し,後ろ脚から張り出しながら力を出すべきです。
 また,「流れるように」演武しますと,目が先へ先へと動き,それに連れて正中線も動きますので,定式の時に「三尖相合」などの要求が崩れてしまいます。腰の回転,つま先の引き入れ等がすべて浅くなってしまいます。
 私の動きも,まだまだこうした問題点を多くかかえていますが,気をつけなくてはと思っているところです。

■「円運動を描く」というイメージは,実は間違いです。確かに,手は円運動の一部を描きますが,それは一つの動きの一部(大体動き始め)であり,力を相手に伝える段階ではけっこう直線的です。腰が回転しているので,その直線的な動きも,イメージとしては円運動を描くように見えますが。
 それが,円運動のイメージで動くために,必要以上に身体が動き,ねじれてしまったりする場面を多く見ます。

■「どこにも力を入れない」ように見えても,実は弓歩の後ろ脚などは,かなり意識して張り出さないと「萎えた動き」になってしまいます。もちろん,突っ張った動き,あるいは筋肉がギュッと収縮するような動きではないのですが,身体の内側から外に向かう力は,出すように意識しなくてはなりません。その辺を「用意不用力」などと表現する訳ですが,「力を入れない」というイメージが,特に弓歩の後ろ脚や,掌を分け開く動作の指先の「萎え」に結びついてしまっていることも多いように思います。

■イメージを持つことは大切ですが,そうですね,套路が大体覚えられたところくらいからは,イメージを抜けて,よりシビアに技の原理から動きを何度も創りかえていくことが大切だと思います。その意味で,音楽をかけて,あるいはみんなで動きを揃えての套路練習は,多用しすぎないことが大切とも考えます。

  太極拳のトップページへ   サイトのトップページへ