▼2000-09-26<TUE>▼

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┃1┃インターネット活用原論(前編)
                      横藤雅人@活法研
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「教室ドットコム活用方法研究会」(略称「活法研」)による論文第1弾です。活法研では,kyositu.comの「活用方法」について研究し,ますます広めていくためにそれを論文化していきます。
 さまざまな活用方法を研究していきたいと考えていますが,第1回目はkyositu.comに限定するのでなく,学校におけるインターネッ
ト活用全般について問題提起を行います。

1.教育の課題とインターネット
 インターネットは,人類3大発明の一つであると言われます。人によって様々ですが「火,言葉,インターネット」とか「印刷技術,蒸気機関,インターネット」などと言われるほどの革新らしいです。
 事実,家庭や学校でインターネットに接続すると,学習,ライフスタイルがガラリと変わります。世界が狭くなります。世界の今の動きが手に取るように伝わってきます。こうした新しい時代に対応し,子供の学習スタイルにも新たな課題が生じてきています。それは「新しい問題解決学習」と言われます。
 問題解決学習は,古くからある教育思想・方法ですが,今インターネットの普及に伴い,新しい問題解決の思想と方法を確立することが急務となっているのです。

 まず,「子供の問題解決」とはどのようなものか,簡単に整理しましょう。ここでは3つの視点から述べます。

 第1に,具体的な活動の中で,子供が自分で問題を発見し,企画を立て,時には友達と違う追究活動を自分で展開するということです。
 第2に,活動の過程で3つのHが十分に,そして相互に働くということです。3つのHとは,Heart(心情),Hand(具体的な活動),そしてHead(知的な気付き)です。
 第3に,企画,追究する中で,企画や調べ学習の技能,表現力,人とのつながり,地域社会への愛着,自分への自信などを獲得していくことです。

 これらを,インターネット活用の中でも実現することが大切なのです。子供がインターネットを使っていても,それがバーチャルな世界の中のみで終わり,例えば,どこか冷めていたり,人とのつながりを断ちきるものであったりしては,逆効果だと言えるでしょう。

2.インターネットの利点と課題
 問題解決が効果的に行われるように,まずインターネットの利点と課題を整理してみましょう。それぞれ5点ずつ挙げてみます。
(利点)
○時空を越えた情報,リンク機能などにより関連する情報を容易に収集することが出来る
○情報の発信がとても容易である
○情報の加工や保存,追加等が容易である
○情報発信者とのやりとり(質問や感想の送付等)が容易である
○調べ学習,表現学習をデータベース化し,積み上げていくことができる

(課題)
○コンピュータに向かって情報を得ることで,手足が退化しやすい(Handなしでも分かったつもりになる)
○学習が個別化,孤立化しやすい
○情報にムダが多く,探しているうちに当初の目的を見失いやすい
○予想を立てたり,手近な人に聞いたり,図書室の本を探したりという活動の前に,すぐインターネット,何でもインターネットとなりやすい。そして,インターネットで情報が得られなければ,そこで追究を諦めてしまうことも多い
○著作権,プライバシーの保護,有害情報やネット詐欺からの保護,メールやりとりのマナー,有益な情報以外は思い切って捨てる等,これまでにない指導を計画的に行う必要がある

3.インターネット活用の実際から
 北海道蘭越町にある名駒小学校は,児童数11名の小さな学校です。児童数の減少により,平成12年度いっぱいで閉校する予定ですが,学校にはインターネットに接続したパソコンが7台あり,子供たちは,日常的にインターネットに親しみ,活用しています。
(名駒小学校http://www.ne.jp/asahi/nakoma/es/)
 この小さな学校で,平成12年9月に公開研究会が開催されました。「コンピュータなどのメディアの活用法を工夫しながら」というサブタイトルの付いた研究です。

 5,6年生が台風についての調べ学習の成果を発表していました。子供たちは,全部で6名。その子たちが,4つのテーマに分かれて調べ学習を展開していたのです。
・「台風はなぜ,どのように発生するか」
・「台風はどのように進むのか」
・「台風による天気の変化について」
・「今までにあった大きな台風と被害について」
 この4つのテーマについて,子供たちはインターネットを中心に調べ,インターネット上のデータや画像を自分のパソコンに取り込んで,ワードの画面上に貼り付け,それを液晶プロジェクターで投影しながら発表していました。発表のあとには,5択クイズも出され,楽しい雰囲気で発表は続いていきました。
 「積乱雲」について説明している途中,画面の「積乱雲」という部分をクリックすると,大きな積乱雲の写真が表れたりするなど,コンピュータ,インターネットを使ったからこそ可能なプレゼンテーションが展開されていました。これから,このようなスタイルの授業が増えていくことでしょう。

 ところで,この発表の中で,先に述べた問題解決にかかわる場面がいくつか表れました。


▼2000-10-01<SUN>▼

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┃1┃インターネット活用原論(後編)
                      横藤雅人@活法研
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4.インターネットの活用と問題解決(1)〜そのまま取り入れてはいけない

 これは,インターネット固有のことではないのですが,子供たちの調べ学習は,ともすると「資料の丸写し」になりがちです。よく意味も分からずに,難しい資料を写し,それをたどたどしく棒読みするような発表では,問題解決をしているとは言えません。
 まだ,本や紙の百科事典等の場合は,書き写しながら意味を考えたりすることもありますが,インターネットの情報は,とても手軽にコピー&ペーストできますから,その辺りをより意識しないといけません。
 名駒小では,「台風の速度は,弱いもので(?)ノットです。」などと発表していましたが,発表している本人も,聞いている子も,参観している教師のほとんども,「ノット」という単位で説明されてもよくイメージできないのではないかと思いました。
 私は,感想を述べる機会をいただいたときに,「プレゼンテーションの画面には,画像のみを提示し,あとはノー原稿で説明するようにさせた方がよいのでは。」と発言しました。

5.インターネットの活用と問題解決(2)〜具体的な活動との融合を

 名駒の発表で,すばらしい場面がありました。それは,降水量の説明で,雨量100mmを小さな色画用紙を使って,「100mmの雨量というのは,この画用紙の大きさにどれくらいの雨が降るか分かりますか?…何と,これだけ降るのです。」と,20リットルのポリタンクを提示したのです。
 聞いていた子も参観者も「おーっ。」とうなりました。これは,単なる数値をそのままにせず,計算から身の回りの具体的なものに置き換えるという,具体的な活動を,この子自身がプロデュースできたということです。
 前号に,問題解決には3つのHが必要と書きました。インターネットを活用するとは,インターネットから得た情報を,自分で具体的な活動を通して自分のものにすることでなくてはなりません。
自然を美しく描いた映画をいくら見ても,草原を転げ回るのに比べたら,得られる実感には雲泥の差があるでしょう。「分かったつもり」は,問題解決の敵なのです。

6 インターネットの活用と問題解決(3)〜調べ方,表し方への支援

 問題解決には,「調べる」「表す」という活動が必須です。これなしには,問題解決は成立しません。調べ方,表し方は個々多様であって良いのです。この調べ方と表し方へは,支援を惜しんではいけません。インターネットは,居ながらにして世界中の情報を得ることが出来る便利なものです。しかし,便利なだけに子供たちは何でもインターネットで調べようとしがちです。また,ワープロソフトやプレゼンテーションソフトをある程度使えるようになると,表し方は皆そこに向かおうとしがちです。
 ここに,支援の必要があります。子供たちの調べ学習では,インターネットの情報より本や辞典類を使った方がよい場合も多いのです。CD-ROMの辞典も,とても有効です。インターネットの検索は,ムダもかなり多いものです。インターネットで1時間以上もあれこれ検索して,そうしても見つからず,仕方がないので国語辞典を見たら結構詳しく載っていたなどという場合もあります。子どものしたいことに合わせて,適切なメディアを紹介することが大切です。表し方も,実物や画用紙に描いた絵の方がより伝わる場合も多いものです。

7 インターネットの活用と問題解決(4)〜ネチケット
 先に触れた著作権などについては,特別な指導を要します。また,ホームページの管理者に質問等のメールを出す際には,自分が何者で,何のために訪問したのか,何を聞きたいのかをきちんと表現することが大切です。メールを送信する前に,教師が一度目を通す必要があります。また,疑問への回答が得られたら,お礼や学習の成果を知らせるメールを出すことまで,きちんと指導したいものです。

8 インターネットの活用と問題解決(5)〜全体への位置付け
 インターネットは個別化,孤立化しやすいと指摘しました。調べ,表したことが,単に発表会などで紹介されただけでは不十分です。その調べ,表したことが他の子にとってどんな貢献をしたのかを見えるようにしてやらなくてはなりません。
 子供は,いえ私たち大人だって,「あなたのおかげで助かった」と言われればうれしいものです。「I need you.」は,殺し文句です。問題解決の学習でも,それは同じことです。自分のためだけでなく,人の役にも立っているという実感をもたせるような,交流を演出するのは大切なことです。

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