結婚式のスピーチ

 40歳を過ぎると,教え子の結婚式に招かれることが多くなります。
 新卒以来,子供たちと別れるときは,いつも言ってきたことがあります。
「これから,私と別れたら私のことなど思い出す暇がないほど充実した時間を過ごしてほしい。年賀状は,いらない。どこかの試験に合格したとき,思うとおりの会社に入れたときも連絡はしなくていい。結婚式も呼んでくれなくていい。でもね,人生は思うようにいかないこともある。辛く,悲しくて立ち上がれないときもある。そんな時,そばに頼りになる人がいてくれたらいいね。もし,頼りになる人がいないとき,そのときは私でよかったら連絡をちょうだい。電話をくれれば,すぐに駆けつける。あなたがいるところが北海道じゃないときは,できるだけ早いうちに駆けつける。約束するよ。だから,絶望してとんでもないことをしてはいけない。何年離れていても,あなた方は,私の教え子なのだから。」
 そんな言葉を信じてくれて,本当に何年かぶりで相談を持ちかけてくれる子もいます。

 両親が離婚して,静岡県から手紙をくれた子には,冬休みに会いに行きました。
 旭川の公衆電話から,「今,彼と別れた。」と泣き続ける子とは,岩見沢で会って朝方まで話しました。
 高校を中退した子の家で,大検対策を話し合ったりもしました。
 そうやって,子供たちの役に立てることは,本当に教師冥利に尽きると思っています。

 結婚式に招かれるのは,私の遺言とは違った意味で,やはりうれしいものです。
 数年前,招かれた式では,新婦がすばらしいドレスでキャンドルサービスに私の座るテーブルにやってきて,私のすぐそばからキャンドルに点火しました。目をうるうるさせて座っている私を上から見て,彼女は一言。「先生,ハゲたねえ!」
 思わず,「うるさい!苦労させたのはだれだ!」などと言い返しつつ,本当にうれしかったものです。
 
 でも,と思うのです。順調な人生を歩んでいる子,幸せな子は,そのまま前を向いて歩いていけばいい。もし,先が見えなくて,後ろを見たとき,遠い記憶の中の私に,かすかな光を感じられたら,そのときこそが私の本当の出番なのだと。よく,自分の教え子が一流と呼ばれる大学に入ったり,有名だったりすると,自慢げに話す教師がいますが,私はそういう生き方は自分に合わないと思っています。

 さて,ここに紹介するのは,私が新卒の時に,冬の林間学校(札幌市教委主催の社会教育事業)で2泊3日受け持った子の結婚式に招かれたときのものです。当時,その子は5年生の女の子でした。そのときの子供たちにも,私は冒頭に紹介したようなメッセージを贈りました。
 その後,彼女は学校で,家庭で様々に悩みながら,その悩みを私に電話や手紙で相談しつつ成長していきました。その間,結婚,出産,離婚を経験しています。彼女が授かったのは,障害のあるお子さんで,そのために前のご主人とは相容れなくなったのでした。
 その彼女が,再婚することになりました。披露宴は媒酌人は立てずに行うので,2人の出会いも含めてスピーチをしてほしいと請われました。そして,事前の打ち合わせに二人で我が家へ来てくれました。
 以下は,その際のスピーチ原稿の一部です。


(まず二人の出身や出会い,両家へのお祝いの言葉を,簡単に述べる。二人とも再婚なので,出会いの部分の方をくわしく話した後,)

 さて,A子さんのご両親の席に,M君が座っています。M君は,今H養護学校の1年生です。M君は,生まれながらにして障害をもっています。生まれてから,札幌医大に何度も入院して検査や治療を重ね,今はこうして元気に生活しております。先日,お二人は私の家を訪れてくれたのですが,その際M君はSさん(新郎)のことを「お父さん」と呼び,とてもなついていました。
 よく「障害をもった子供は,その障害を受け入れることができる親のところに神様が届けてくれる」などと申します。しかし,私は教員をしておりますので,障害をもったお子さんとも何度か出会いましたが,残念ながらそうだとは言えない場合も多いのです。もちろん,ご夫婦が気持ちを一つにして,お子さんの幸せのためにがんばっている家庭もあります。しかし,障害をもった子どもが産まれたために,夫婦の気持ちが離れていく場合もあります。私の経験から言いますと,どちらかというと,こちらの方が多いのではないかと思われます。

 しかし,A子さんは間違いなく神様が選んだ親の一人です。医大に入院しているとき,私も何度か見舞いに訪れましたが,彼女からM君についてのぐちを聞いたことは1度もありません。いつもそのままにM君を受け入れ,愛してここまでやってきました。そして,その彼女を,M君ごと愛するSさんと,今日から新しい生活が始まります。この前,我が家に来てくれたお二人を見て,私は「ああ,神様って本当にいるんだなあ!」と,神様とSさんに手を合わせたくなりました。

 しかし皆さん,この生活は正直言って大変です。このお二人なら,一緒に苦労を喜んで受け入れながらやっていけるとは思います。しかし,それは周りに十分な理解があれば,という話です。周りの目が冷たければ,苦労は大きく大きくなります。そう思い,あえてM君のことに触れさせていただきました。

 A子,ここまでよくがんばった。A子が私の教え子であることを,私は誇りに思うよ。
 Sさん,どうかA子とM君をよろしくお願いします。
 そして,皆さん,お二人とM君へのご支援を心からお願いします。
 本日は,本当におめでとうございました。

バック がらくたボックストップページへ