定式の指導における棒の活用

◇私がお手伝いをしているあるサークルは,太極拳を始めて3ヶ月。8式の入門太極拳がひととおりできるようになってきたところです。(平成13年7月末現在)
 この時期の課題は,定式(ひとつの技が決まった状態)において,動作の規格基準にきちんと合った動きができるようにすることです。

◇たとえば,弓歩(ゴンブ)の定式においては,足だけでも
(1)前足の向き〜まっすぐに前に向ける
(2)前足の膝とつま先は垂直線上にある
(3)後ろ足の向き〜約45度つま先を外に開く
(4)後ろ足の膝を萎えさせないでしっかりと蹴り伸ばす
(5)両足とも足の裏は床から浮くことなくしっかりと足裏全体で踏む
(6)両足の間隔は,握り拳2つ分くらい空ける
などの規格の要求があります。
(そして,たとえば「(4)がきちんとできていれば,(2)は自然にそうなる」というようにすべて連係しているのです。)

◇しかし,初心の方たちにとっては,まず自分の動作が規格に合っているかどうかがよく分からないのです。そこで,それを「見える」ようにするため,私は棒を活用しています。

これは,2人一組になって
(1)前足の向き〜まっすぐに前に向ける
(2)前足の膝とつま先は鉛直線上にある
のチェックを行っているところです。一人(Aさん)が一つの技をし,定式になったところでBさんに「どう?」と声をかけます。すると,Bさんは棒をAさんのつま先に当て,膝がその垂直線上に来ているかどうかをチェックするのです。

膝がかぶってしまっている方,あるいは十分に前脚に乗れず,踏み込みの浅い方は,これで正しい位置を知ることができます。

私は,生徒さんたちの間を回って歩き,「後ろ足がしっかりと蹴られていないでしょう。だから,前脚に乗れないんですよ。」とか,「膝で引っ張って弓歩を作っているから行き過ぎるの。」などと指導して歩きます。とても効率的です。
これは,
(1)前足の向き〜まっすぐに前に向ける
(6)両足の間隔は,握り拳2つ分くらい空ける
のチェックを行っているところです。
Aさんが,定式になったところで「どう?」,BさんはAさんの前足の内側に棒を沿わせます。初心のうちは,弓歩の横の歩幅を取るのがなかなか難しいものです。棒の延長と後ろ足のかかとの間が一直線になる方や,延長線が後ろ足にぶつかってしまう方がこれでしっかりチェックできます。

これらは,収脚(ショウジャオ)〜転腰(ズァンヤオ)の不十分さが原因です。そこを個別に指導します。

◇初心の方を指導していていつも感じるのですが,初心の方のほとんどは「自分の体の状態が分からない」のです。そうことを,指導する側は十分に意識し,そこを分かるように工夫すべきだと思います。私が太極拳を始めた頃,ある講習会で講師の方から「こんなことも分からないのか」と言われたことがあります。
「分かる」とは,「分けて認識することができる」ということですね。普段の生活の中で,普通に暮らしている方は前脚だけを折って,後ろ脚を伸ばすという動作をまずとることはないでしょう。そんな動作をする中で「膝とつま先を合わせよ」と指示を出しても,「膝の位置」を他の脚部と「分けて」認識するのはかなり難しいでしょう。
しかし,棒を使うとそこが「見える」ようになるのです。見て「分かれ」ば,というささやかな私の工夫です。全国の先輩の皆様のご意見をいただければ幸いです。

  太極拳のページへ  トップページへ