形にする・なる

太極拳の練習の仕方・考え方についての私の考え方です。先輩諸氏のご批正を戴ければうれしいです。

■例えば,弓歩(ゴンブ)の要領を,日本武術太極拳協会のテキストは次のように解説しています。

脚を前後に開いて,足裏前面を着地する。前脚の膝を曲げ,足先を前に向ける。前脚の膝は足先を越えず,足先とほぼ垂直。後脚は膝を突っ張らない程度に自然に伸ばし,足先を約45〜60°斜め前に向け,踵で床面を蹴るように,前に向かって踏ん張る。足裏の外側や踵を浮かさない。前脚は膝を曲げて床面を踏みしめる。

 これは,本当によく練られ,表現されているものだと思います。
 弓歩とは,まったくこの通りのものです。

 さて,問題はこの要領をどのように我々愛好者が受け止め,練習するかです。

■次のような練習方法があります。
「弓歩の前後の幅は,これぐらいで…。横幅は,ちょっと足りないかな,…よしこれで直った。膝はつま先よりも出ていないかな。鏡を見てみよう。うん,これでよし。」
 このように,チェックして正しい形に「する」練習をしていきます。私も,入門して3年くらいはこうした練習をしていました。そして,形がとれれば,それで「弓歩ができた」と思っていたのです。

■しかし,この頃の練習方法はちょっと違います。
まず,さっと弓歩を作ってみます。そして,そのままの姿勢で足の裏から点検していきます。
「足の裏が,床(地球)から力をもらえているだろうか。小指側がやや虚になっているようだ。もっと足の裏全体で踏み,地球から力をもらわなくては。おや,今度は踵が虚になってきそうだ。こうやって,足の裏が落ち着かないのはなぜだろう。ちょっと前後左右に弓歩のままスワイショウしてみよう。…ははあ,左の股関節の内側に変に力が入っているぞ。これのせいで,右足裏が変なんだな。」
このように,私は身体の中の意識を弓歩の形の中で点検していくのです。ただし,これは上のように言葉ではなく感覚で行います。
すると,体のあちこちがゆるみ,意識がすみずみまで通り,少しずつ弓歩の正しい形に「なる」のがわかります。

■腰の位置を決めれば,膝はつま先よりも出なく「なる」のです。
 自然に後脚からの力を前に運ぼうとすれば,後脚の足の角度は45〜60°に「なる」ものなのです。
 軽く壁などに指先を付けておいて,9割方完成した弓歩の状態から,弓歩の定式に入ると,壁にズンという感じで力がかかります。その際は,後脚の足裏が一部でも床から浮いていると,うまく力が伝わりません。床から足裏の一部が浮いた状態で,あるいは付いていても虚の状態で定式にはいると,背中や腰に変な感触を覚えます。それをなくすようにと意識すると,足の裏は床に密着というか粘るように「なる」のです。

■同じように弓歩の正しい形を目指すのですが,形に「する」練習と形に「なる」練習ではだいぶ違うようです。形に「する」練習では,どうしても力が入りがちです。反対に「なる」練習では,力が抜けてゆるんでいけるように感じています。時間はかかりますが。太極拳はどんどん競技スポーツ化する方向にあります。健康法として,あるいはレクリエーションとして太極拳を楽しむ方もいることでしょう。それはそれで,一つの道です。否定はしません。しかし,太極拳をしていて,膝を痛めたりする方も多いのです。それは,体との対話を通していないから,と言ったら言いすぎでしょうか。太極拳の喜びは,自分の身体意識の開発,そして陰陽・調和の哲学を身体を通して学ぶことにあると私は考えていますので,形に「する」練習方法には疑問を感じます。

■なお,必然的に,同じ歩形で連続して立つことになりますから,上の練習方法は粘椿功にもなっていると思います。
 (話は変わりますが,以前粘椿功をすると,3分もすると太ももの表側の大腿四頭筋がすぐにチカチカしてきて辛かったのですが,この頃は20分くらいやってもあまり辛くなくなりました。それは,意識が太ももの裏側や股関節の辺りにも通ってきたせいではないかと思います。)

■最後に私の課題です。上のような意識を通す点検・練習では,多くの場合股関節や肩甲骨,そして内肩がゆるまないこと,また脚部や背中にゆるやかにふくらみ張り出す力(ポンケイといいます)が出てこないことが今の私の課題になっています。

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