「あれ、お師様?」
体育館裏から校舎前に出ようと中等部の校舎横を通り抜けた時、声がかけられる。
「何だ、マジクか。ずいぶん遅いな」
「ええまぁ。放課後は情報の宝庫ですから」
事も無げに言ってのける(自称)弟子に妙な感心を覚えつつも、とりあえず、そうか大変だな、と相槌を打っておく。
「ところで、クリーオウとちゃんと会えました?」
「いや、会えなかったが……って、何だよ、その『ちゃんと』ってのは」
女生徒の動きのほとんどをカバーしているとの噂もあるマジクのことだ、クリーオウが放課後に体育館裏にいるというのは既にお見通しなんだろう。
そして、そこに通じる道から今しがた俺が出てきたということの意味も。
「ああ、いえ。さっき、大学の方の校舎から、クリーオウが何か……こう、切羽詰った顔で走り出てくるのを見かけたんで、またお師様が何かしたんじゃないかと思って」
「何でそこでそうなるっ! だいたい、俺はさっきまでその大学の校舎にいたんだぞ?」
「あれ、おかしいですね。えーとお師様、それって何時ごろです?」
「あー……そうだな、16時ちょっとすぎくらいまでいたかな」
マジクは懐から取り出した手帳をチェックしながら首を捻る。
「えーと、クリーオウを見かけたのが……15時57分49秒。……変だなぁ。クリーオウが大学の校舎に行く用事なんて、お師様がらみ以外に考えられないんだけど」
「何か引っかかる言い方だが、ともかく俺は会ってないぞ」
「はぁ、そうですか……うーん、またシュミレーションをやり直さないとだなぁ」
鉛筆の後ろで頭をかきながら手帳とにらめっこをするマジクに、何となく嫌な予感がしながらもとりあえず聞いてみる。
「ちなみに、そのシュミレーションって、何のだ?」
「全校生徒(もちろん女生徒のみ)の行動シュミレーションです。放課後だけですけど」
「……そうか」
「? どうかしました、お師様。何か疲れた顔して」
「いや、いい……聞いた俺が悪かった」
真顔で答える(自称)弟子に、俺は力なく、そうとしか答えることができなかった。