12月11日(火)  16:55     高等部校舎前

 

 

 体育館裏から校舎通りに戻ると、既に空は赤く染まっている。

(もうそんな時間だったのか……)

「キリランシェロ!!」

 無意識のうちに周囲を気にしつつ声に振り向くと、息を切らして赤毛の男が駆け寄ってきた。

「どうしたんだハーティア。そんな汗びっしょりで」

「お前を探してたんだよ! キリランシェロ、そんな落ち着いてる場合じゃないんだ」

「しっ。声が大きい」

「あ、悪い……って、それよりもやばいことになったぞキリランシェロ」

 さっきよりもやや小声で、ハーティアが深刻そうな顔で告げてくる。

「やばいことって……何だよ一体」

「動き出したんだ、奴らが」

「奴らって……まさか」

 けほっ、と呼吸を整えずに話しを続けていたせいか、一度ハーティアが咳き込む。

「ああ。さっき6104講堂に忘れ物を取りに行って、奴らの密談現場に鉢合わせしてさ。奴らは今夜にもあれを――レキを始末するつもりらしい」

「本気か?! 相手はディープ・ドラゴンだぞ?!」

「正気の沙汰とは思えないが……まぁ狂信者じみてるからな、学生会執行部ってのは」

「お祈りして勝てるような相手じゃない。それにレキは……」

 と、そこでやっと気付く。

 一番重要なことに。

「……キリランシェロ?」

「しまった……あいつ!」

「お、おいどうしたんだよキリランシェロ!!」

 走り出そうとしたこちらの腕をハーティアが掴んで引き止める。

「離せハーティア! 時間がない!!」

「だからどうしたんだって聞いてるだろ?! 落ち着けキリランシェロ!!」

 言われて、とりあえず踏み出そうとしている足を戻す。

 ハーティアが腕を離すのを横目で確認しながら、自分を落ち着かせようと小さく深呼吸をする。

「で」

「あ、ああ……。さっき、体育館裏に行ったんだ。そこには、いつもクリーオウがレキと一緒にいるはずなんだ」

「それがどうかしたのか?」

「いなかったんだよ。しばらく待ってみたけど、誰も来る気配がないんで戻ってきた所だったんだ、今」

 相槌として軽く頷いたハーティアが、目線で続きを促す。

「今日はたまたま先に帰ったのかと思ったんだが……どうやら違う可能性が高くなってきた。先程マジクから聞いたんだが、ついさっきクリーオウが大学の校舎から出てきたそうだ」

 ハーティアがはっとなって、言葉を続ける。

「おいまさかあの娘、先生の話を聞いて……」

 否定したくも予見しうる可能性の大きさにそれは叶わず、知らぬうちに舌打ちをしながら、俺は頭を掻きむしった。

「その可能性が高い。もしそうなら……あいつのことだ、レキを連れ出そうとするだろうな」

「わかった。彼女を探すの、ぼくも手伝うよ。一刻を争うことになりかねない」

「ああ、助かる。レキは校内から出れないはずだし、まだ校内にいるとは思う」

「そうだ、とりあえず家の方にも連絡してみろよ。杞憂に終わるかもしれないし」 

「ああ」

「……彼女まで傷つけるってことはないと思うけどな、奴らは」

「でも目的のためには手段を選ばない。そういう奴らだろ、学生会執行部ってのは」

「そうだったな……よし、ぼくは中等部の棟から探す」

「わかった。とりあえず、1時間しても見つからなかったらここで集合だ。見つけても、ここで集合。いいな?」

「ああ」

「頼んだぜハーティア!」

そう言って、俺は目の前の高等部の校舎に向けて駆け出した。