体育館裏から校舎通りに戻ると、既に空は赤く染まっている。
(もうそんな時間だったのか……)
「キリランシェロ!!」
無意識のうちに周囲を気にしつつ声に振り向くと、息を切らして赤毛の男が駆け寄ってきた。
「どうしたんだハーティア。そんな汗びっしょりで」
「お前を探してたんだよ! キリランシェロ、そんな落ち着いてる場合じゃないんだ」
「しっ。声が大きい」
「あ、悪い……って、それよりもやばいことになったぞキリランシェロ」
さっきよりもやや小声で、ハーティアが深刻そうな顔で告げてくる。
「やばいことって……何だよ一体」
「動き出したんだ、奴らが」
「奴らって……まさか」
けほっ、と呼吸を整えずに話しを続けていたせいか、一度ハーティアが咳き込む。
「ああ。さっき6104講堂に忘れ物を取りに行って、奴らの密談現場に鉢合わせしてさ。奴らは今夜にもあれを――レキを始末するつもりらしい」
「本気か?! 相手はディープ・ドラゴンだぞ?!」
「正気の沙汰とは思えないが……まぁ狂信者じみてるからな、学生会執行部ってのは」
「お祈りして勝てるような相手じゃない。それにレキは……」
と、そこでやっと気付く。
一番重要なことに。
「……キリランシェロ?」
「しまった……あいつ!」
「お、おいどうしたんだよキリランシェロ!!」
走り出そうとしたこちらの腕をハーティアが掴んで引き止める。
「離せハーティア! 時間がない!!」
「だからどうしたんだって聞いてるだろ?! 落ち着けキリランシェロ!!」
言われて、とりあえず踏み出そうとしている足を戻す。
ハーティアが腕を離すのを横目で確認しながら、自分を落ち着かせようと小さく深呼吸をする。
「で」
「あ、ああ……。さっき、体育館裏に行ったんだ。そこには、いつもクリーオウがレキと一緒にいるはずなんだ」
「それがどうかしたのか?」
「いなかったんだよ。しばらく待ってみたけど、誰も来る気配がないんで戻ってきた所だったんだ、今」
相槌として軽く頷いたハーティアが、目線で続きを促す。
「今日はたまたま先に帰ったのかと思ったんだが……どうやら違う可能性が高くなってきた。先程マジクから聞いたんだが、ついさっきクリーオウが大学の校舎から出てきたそうだ」
ハーティアがはっとなって、言葉を続ける。
「おいまさかあの娘、先生の話を聞いて……」
否定したくも予見しうる可能性の大きさにそれは叶わず、知らぬうちに舌打ちをしながら、俺は頭を掻きむしった。
「その可能性が高い。もしそうなら……あいつのことだ、レキを連れ出そうとするだろうな」
「わかった。彼女を探すの、ぼくも手伝うよ。一刻を争うことになりかねない」
「ああ、助かる。レキは校内から出れないはずだし、まだ校内にいるとは思う」
「そうだ、とりあえず家の方にも連絡してみろよ。杞憂に終わるかもしれないし」
「ああ」
「……彼女まで傷つけるってことはないと思うけどな、奴らは」
「でも目的のためには手段を選ばない。そういう奴らだろ、学生会執行部ってのは」
「そうだったな……よし、ぼくは中等部の棟から探す」
「わかった。とりあえず、1時間しても見つからなかったらここで集合だ。見つけても、ここで集合。いいな?」
「ああ」
「頼んだぜハーティア!」
そう言って、俺は目の前の高等部の校舎に向けて駆け出した。