とうとうクリーオウとまともに話すこともままならぬまま年は明け、そして1月も終わりにさしかかっていた。
先生にレキはどうしたのかと聞くと、まだ校内で保護している状態だそうだ。
幾重にも張り巡らされた結界の中で、大人しくしているという。
春までには元の住処へと返す計画が練られているらしい。
相手は大人しくしているとはいえいつ何時、暴走をするかもしれないディープ・ドラゴンなのだ。計画は慎重に練らなければならない。
このことをクリーオウに伝えようかとも思ったのだが、クリーオウにしてみればレキとはもう会えなくなってしまったものと思い込んでいるだろう。
そこへわざわざ、レキとは本当に会えなくなることを伝えることもない。
そしてもしかしたら、レキのことを忘れかけているのかもしれないし、むやみに思い出させることはよけいクリーオウを傷付けることになる。
(結局、俺は何もできないまま、か……)
夕闇に染まる空を見上げながら、俺はそうひとりごちた。
今日はもう講義もない。バイトも休みだから、急いで帰ることもない。
(帰ったところで、気が晴れるわけじゃないんだけどな)
俺は、一人の少女の心に深い傷を負わせてしまった。
直接の原因が自分にあるわけではないにしろ、その傷を浅くすることはできたはずだ。自分が一番、その原因と彼女の近くにいたのだから。
(……無力なもんだな)
『魔術士って、すごいんでしょ?』
屈託なく笑いながら、そう話し掛けてきた少女。
(……ちっとも、すごくなんかない)
こんなにも、無力なのだから。
これが最後だとばかりにはぁ、と一つ大きく嘆息すると、俺は家路につこうと踏み出す―――
「……?!」
ぞくりと、背筋に悪寒が走る。全身の感覚が急に研ぎ澄まされ、冷や汗が噴き出してくる。
(何だ……?!)
ゆっくりと後ろを振り返る。校舎。先程出てきたばかりの、大学の。
視界の中では何も変わってはいない。だが、この感じは……
(圧倒的な力。弱者は、その前に動くことすらもできない、絶対的な力……)
ぐあっ、と周囲の大気がうねりをあげた。咄嗟に身体は地面に伏せている。本能がそうさせたとしか言い様のない。
次の瞬間、鼓膜が張り裂けそうな爆音と、全てを包み込むような光が俺の前に広がった。
何かもう爆音だの光だのに包まれてばっかですみません。お約束お約束〜(誤魔化すな)