「やだ、もう真っ暗じゃない」
図書室を出るなり、クリーオウはつぶやいた。図書室のドアから差し込んでいたのは中庭――図書室前の廊下に面している――にある外灯の光だったのだ。
出てきたドアを見つめ、顎に手を当てながら真面目な顔でクリーオウはつぶやく。
「カギは……仕方ないわよね」
図書室だけでなく、校内のカギは外側からではキーなしでは開け閉めができない。キーは職員室に保管されているが、この時間では(ついでに、テスト期間中ということもあって)開いていないと見ていい。それに、下手に職員室に行って、何でこんな時間までいるんだとお小言を言われるのもまっぴらだった。
「緊急事態だったんだもの。生徒を一晩中こんなカビっぽいとこに閉じ込めておくくらいなら、蔵書の一つや二つどーってことないわよね」
などとものの数秒で自己完結を済ませ、クリーオウは昇降口へと足を向けた。
その瞬間。
どごぉぉぉおおん!!
校舎を揺るがすほどの轟音が辺りに響いた。
「きゃあ?!」
と、転びそうになりながら、クリーオウはどうにか図書室側の壁にへばりつく。その際に、壁に掲示してあった『本は大切に売り飛ばさないようにしましょう』とかいう図書委員作成のポスターを指でひっかけて破ってしまう。が、そんなことはどうでもいい。
「何……?!」
ちかちかとクリーオウの頭の中で何かが警鐘を鳴らす。いつだったかの、あの夜の出来事が勝手に思い出される。
(そんなわけない。だって、レキはもう返したはず――)
頭の中でしっかりと理論が組み立てられ、自分の思いを否定しにかかる。しかし、目の前の現実と言いようのない感覚がそれをあっさりと打ち砕いた。
「……レキ、なの……?!」
その名前を口に出した瞬間、クリーオウは弾かれたように動き出した。
わからない。何がなんだかわからない。自分が知りうる事実と、目の前の現実で起こったことが無理やりつながろうとしている――
もし、自分の考えが間違っていて、ただの魔術士同士の演習とか、そういうのであればそれでいい。ほっと胸を撫で下ろしてさっさと家に帰ればいいだけのことだ。
でももし、当たっていたら――
ぶんぶんと首を振って全ての考えを打ち消しながら、クリーオウは全力で昇降口へと走った。
(そうよ、わからないなら――見てみればいい。自分の目で、確かめてみればいいことだわ!)
爪が食い込むほどに両手を握り締め、その瞳に宿した強い光をそのままに、少女は夜の校舎内を駆け抜けて行った。