グラウンド中の視線が、一斉に小柄な少女に集中した。
金の髪が夜の闇に妙に際立って、走りながらそれが宙にばらばらと舞う様は荘厳な鳥の羽を思わせた。
高等部の昇降口からグラウンド中央のレキに向かって、迷うことなく一直線に駆け込んでくる。
その瞳は――以前と何も変わることなく、けして揺るぐ事のない、たった一つの光を湛えていた。
「レキ……レキ!!」
走りこみながら、精一杯の音量で黒い悪魔の名前を呼ぶ。少女が駆け抜けていくのを誰一人として止めることなく――いや、止める事などできるはずもなく、その場にいた人間――それどころかレキですらも――全てが硬直したまま事の成り行きを見守っていた。
巨大化したレキを見上げられる位置まで来て、クリーオウはようやっとその足を止めた。そして、呼吸を整えもせずまた叫ぶ。
「レキ! 何やってる、の……こ、んなことしちゃ、ダメだっ、て……言ったじゃない!」
呼吸が苦しいのか所々妙な所で言葉を途切れさせながらも、クリーオウはレキを見据えたまま叫んだ。誰も、この悪魔と直に目を合わすことなどできなかったというのに。
「レキ!! ……レキ?」
と、クリーオウが怪訝な顔をする。前に一緒にいた時と、何かが違うことに気付いたのだろうか。
「聞こえてないの、レキ? わたしの声、聞こえないの……?! レキ!!」
なおも必死で呼びかけるクリーオウ。
周囲の者が真実を伝えようとするも、下手に動く事はできない。この類まれなる幸運の下に生じた均衡を、崩すわけにはいかないからだ。
そう、この小柄な少女がこの場に現れたというだけで黒い悪魔の動きは――一時的ではあるが――停止したのだから。
なおもクリーオウが呼びかけようとする。が、それを遮るように、
「クリーオウ、離れろ!!」
俺はそう叫んでいた。そのまま走り出し、一気に構成を編み上げる。
(間に合うか?!)
「え?」
クリーオウが不思議そうな声をあげたのが耳に入った――