……………………
俺はどうなったのだろうか?
わからない。ただ、全身を言い様のないけだるさが包んでいる。が、妙に身体がふわふわとしていて逆に気持ちいいくらいだった。
(……死んじまったってことか? そーいや痛みもねぇし。目の前も真っ白だ……)
と、そこで一つの疑問にぶち当たる。
(……あいつは、どうなったんだ?)
瞬間的に思考がめまぐるしく動き出した。記憶を探り、手がかりを見つけようと頭の中を引っ掻き回す。それと共に、全身に感覚が戻り始める。
触覚、
(……土、の……上?)
味覚、
(鉄分……ああ、血の味か)
嗅覚、
(焦げたような……土が焼けたような匂いがする)
聴覚、
(……? 何か……聞こえるが……よく聞き取れない……何だ? 聞き覚えのあるような……)
最後に、視覚。
(夜空?)
「……た……」
先ほども聞こえた、聞き覚えのある声にがばっと身体を起こす。全身に引きつるような痛みが走った。
が、構わず声の主を探す。
目の前には大きなクレーターができており、さらに視界を凝らすと所々に結界を張っていた魔術士が倒れていた。時折風にのって聞こえてくるうめき声から察するに、死んでいるというわけではなさそうである。
その事実にいささか安堵しながら、さらに視界を広げて周囲を見渡す。
そして――声の主たちは、自分の右斜め後ろにいた。
爆風で転がされたのか、土だらけの制服で、金の髪をぼさぼさにして、所々擦り傷を作りながら――
「よかったぁ……」
ぺたんと地面に座ったまま、小さくなったレキ――何やら苦しそうにもがいている――を胸にぎゅっと抱き締めたクリーオウが、そこにいた。
「……クリーオウ」
自分でも驚くくらい、呆けたような声が出た。クリーオウはその声にぱっと顔を上げる。
「オーフェン!」
痛みを訴える身体を無視して、ふらふらとクリーオウへと歩み寄る。クリーオウはうっすらと浮かべた涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、こちらを見上げ――そして、笑顔で言った。
「えへへ……わたし、やったわ、オーフェン」
「ああ。よくやったな、クリーオウ」
ぽん、と彼女の頭に手を乗せる――それは思いのほか、自分に安堵を抱かせた。
「うん……」
次の瞬間、くしゃ、と顔を歪ませてクリーオウはぽろぽろと大粒の涙をこぼし始めた。その頭を何度もぽんぽんと叩いてやる。
周囲の者も気が付いたようで、それなりに手傷を負いながらも、こちらへと駆け寄ってくる。チャイルドマン先生や、ハーティアの姿も見える。
(一件落着……とはいかないまでも、一応の決着はついたってことか……)
そう思い、俺はクリーオウの頭を優しく叩いてやりながら――まるで何事もなかったかのように佇む夜空を見上げた。