平和な午後。その名称が一番似合う空の下……巨大な爆発が起こった。


 それは街から少しはなれた森の一角から始まった。
 圧倒的な力。あまりにも巨大な力その力は緑の光とともに少しづつ広がっていく。物質だけでなく空気すら切り裂き、押しのけ、破壊していった。
 砂塵を舞い上げ、木々を吹き飛ばし草々を消し飛ばしていくその力によって、森の一角を完全に焦土へと化した。
 その破壊の光が消えた後、太陽の光は何事も無かったように緑へと降り注いでいく。そして、爆発の後に残ったものは何も無かった……いや、あった。
 ちょうど爆発の中心に当たる場所。そこに一人の少女が立っていたのだ。
 それはさきほどまで近くの小川で水浴びをしていたクリーオウだった。もちろん頭の上には爆発を起こした張本人、レキがちょこんと座っている。
 少し前まで濡れていた髪の毛はさきほどの爆発で完全に乾いていて、風にたなびいていた。また、急いで着替えたせいかブラウスのボタンが二つ三つ外れかかっている。
 だが、そんなことに彼女は気が付きもしない。ただ、肩を少しだけ震わせ怒りの眼差しをあるものへと向けていたのだった。
「マジク……言い残すことは無いかしら?」
 底冷えするような声でクリーオウは言った。
 言葉を投げかけられた少年、マジクは彼女から数メートル離れた場所にいた。いや、いたというよりかは倒れていたの方が正しいだろう。
 着ている服はボロボロになり、彼自身もすでにズタボロになっている。時々ピクピクと痙攣することから生きていることだけは確かなようだ。
 無論、そんな状態で彼女の呼びかけに応えることなど出来るわけがない。
 だが、そのことに気が付かないかのようにクリーオウは笑み――人が見れば獲物を追い詰めた獣の顔に見えただろう――を浮かべ、ゆっくりと自分の指先をマジクのほうへと伸ばした。そして……
「レキ! やっちゃ――もごっ」
「やめんかぁぁぁぁぁぁ!!!」
 レキに攻撃指令を与えようとしたクリーオウの口を後ろから誰かが悲鳴とともに塞いだ。驚いて後ろを振り返るクリーオウ。
「何するのよ、オーフェン!!」
「それはこっちのセリフだ!また逮捕されてえのか!?」
 そこにいたのは彼女の予想どうり、オーフェンだった。ところどころ焦げているのが気になったが、それを思考に隅に置いて、クリーオウはオーフェンに向かって怒鳴りだす。
「今回もマジクが悪いのよ!!!」
「だからってそのたびに森を焼くんじゃねえ!たまには爆発を起こさずに制裁しろ! 俺も巻き込まれてんだよ!!」
「したわよ! でも最後は何故だか分からないけど爆発しちゃったのよ!」
「やっぱり爆破じゃねえか!!!」
 そこまで怒鳴ってオーフェンはがっくりと肩を落とした。ため息を一つつきクリーオウの頭の上に手を乗せる。
 いつのもポンっと言った感触と違い、頭が軽くなるような感触にクリーオウは視線を上げた。
 そこには半眼でこちらをにらむオーフェンと、彼の手につかまれ、ネコのようにぶら下がっているレキの姿があった。

「ちょっと、オーフェン! まだお仕置きは終わってないのよ!!」
「没収。お仕置きなら別の方法でやれ」
 そう言ってオーフェンはゆっくりと自分たちの野営地へと歩き出した。
 後ろから怒鳴り声が聞こえてきたがそれを無視して歩くオーフェン。
 ふと振り返るとクリーオウがゆっくりマジクのほうへと歩き出していた。おそらく直接自分の手で制裁を与えるらしい。
 そして、自分たちの野営地へとたどり着いた彼は、小さくため息をついた後で自分の手に捕まれた“それ”に目線を映した。
「……ったく、たまにはお前も手加減しろって」
 もちろんそのディープドラゴンの赤ん坊が返事をするはずもなく、不思議そうにオーフェンを見上げただけだった。
 と、突然、森に悲鳴が響き渡った。もちろんマジクの悲鳴。何をされているかは分からないが彼女の報復が始まったらしい。
「……なんにせよ。これが日常なんだよな」
 半ば諦めたような口調でそう言うとオーフェンはゆっくりと野営の後片付けをはじめた。



 だが、彼らはまだ知る由も無かった。
 自分たちが日常にない非日常へと踏み出していることを……
 そして、彼の目の前にいる最強のドラゴンの危機を……