まだ、夜が開けて間も無い頃にオーフェンはマジクに声を掛けた。
「今日の昼間に宿を変えるぞ」
「はい、解りました荷物をまとめておきますね。……お師様の分もまとめておきます?」
昨夜の事が有り、まだ眠たい目を擦りながらマジクが言った。
「あ? 何言ってんだ、お前はこのままこの宿に残るんだよ」
「えーぇぇぇぇ!? 本気で言ってるんですかお師様!!」
「嘘を言ってる様に見えるか?」
「えっと、見えませんが…………けど、何でですか!?」
納得できないと言う顔をしてマジクがオーフェンに詰め寄る。
「クリーオウと2人っきりになりたい、てのはどうだ?」
「却下ですね」
オーフェンの思い付きで言った言葉をマジクは即答で返す。
その辺は解っていたのか、気にする事もなくオーフェンは言葉を続ける。
「まあ、理由は幾つか有るが……1つ挙げるなら昨夜の様な暗殺者が来た場合、一人ならお前ら2人ぐらいなら守れるかもしれん」
「じゃあ、僕がついて行っても……」
「では、暗殺者が何人も居たら? その時点でアウトだ」
「僕の方が襲われた場合は?」
「それを防ぐ為に尾行され易い大通りで宿を探す。まあ次の宿で襲われるかどうかは解らんが、昨夜の様な事にはならんさ」
「……解りました」
まだ完全に納得できない様だが、マジクはしぶしぶ頷いた。
それを確認したオーフェンは苦笑しつつ部屋の出口へ向かう。
「じゃあ俺達は行って来る。ああ、必要なとき意外は余り出歩くなよ」
それだけを言うとオーフェンはマジクの部屋から出ていった。
「まさかとは思うけど、最初に言った理由がお師様の本心だったりして……」
そう呟くと苦笑しながらマジクはベットの上に寝転がった。
オーフェンとクリーオウは町の一番賑わうであろう大通りを並んで歩いていた。
「ねえオーフェン、本当につけられてるの?」
「ああ、昨夜の奴に比べるといやに素人臭いが間違いなくな……」
そう言いながらオーフェンは油断なく自分達への追跡者に気を配っていた。
襲ってくる様子もなくクリーオウとウィンドウショピングや露店などを見て回っていると、クリーオウが突然声を上げた。
「ねえねえねえオーフェン♪ 宿、ここにしよ♪」
とクリーオウが指差す建物を見てオーフェンは絶句した。
「……クリーオウ、ここを選ぶ根拠は?」
「えっと、襲われ難そうだから♪」
頭痛がする頭を押えながらオーフェンは半眼でクリーオウを睨みつつ再びクリーオウに尋ねる。
「だめ、こんな値段の宿泊まってみろあっという間に資金が底を突く」
「えー、なんでよ~。オーフェンと同じ部屋に泊まる事も宿を変える事も承諾したじゃない! 今度はオーフェンが承諾する番よ!」
「何でそうなる!? 第一、両方とも安全性を高める為だろーが」
「こっちの方がわたしがリラックスできるから安全性が高いのよ!」
「どうゆう根拠だそりゃ!?」
「――――――!」
「――――――――!?」
2人の言い合いは暫く続き、結局勝ったのはクリーオウだった。
案内された宿の一室でオーフェンは呆けていた。
クリーオウは部屋の探索を始め喜んでいた。
「オーフェン、ここのお風呂すっごく綺麗にしてあるの♪」
「綺麗か…………俺は財布の中が綺麗になった」
オーフェンは自分の財布とこれから金が入るまでの事を考えて泣きたくなった。
そんなオーフェンを気に掛けずにクリーオウは嬉しそうに部屋の中を探索していた。
「まっ、ここまで喜んでくれてるんだ悪い気はしないし……良しとするか」
クリーオウの嬉しそうな笑顔を見て、オーフェンは溜息をつきながら苦笑しベットに倒れこんだ。