雨の降り視界が狭くなる中、戦いはまだまだ終わりを見せようとしない。
「クリーオウ、俺達が取るべき方法は解ってるな!?」
そう言いながらオーフェンはカタルシアの斬撃をかわす。
「当たり前よ! 私はオーフェンのパートナーなんだから!!」
オーフェンに答えを返しながら斬撃をかわされ隙が出来たカタルシアにレキの力を放つ。
カタルシアが盾を差出した瞬間、その力は霧散していった。
「ちぃ、我は流す天使の息吹!!」
彼の魔術はクリーオウに向おうとしたカタルシアの邪魔する。吹き飛んだ彼女はあっさりと体制を立て直し着地するのでダメージは無い。
はっきり言って、戦況は呆れるくらいに不利だった。
オーフェンは魔術がほぼ完全に無効化され、例え効く魔術といっても遺産を破壊できるほどでもない。だからといって接近戦を挑もうものなら彼女の力量により返り討ちにあう確率が高い。
クリーオウにしても武器が無い、レキの魔術すらも効かず、手の出しようが無かった。
「…………クリーオウが居なかったら俺は何回死んでるんだろうな?」
オーフェンは呟き、斬撃をかわし何回目か解らない魔術を放つ。それにクリーオウも合わせる。
「レキやっちゃあっ!?」
走りながらレキに魔術を使わせようとしたのだろうか、魔術は発動したが足を滑らせその場に転がってしまう。
それを見逃すカタルシアではない、レキの魔術を盾で防ぐとクリーオウに向っていく。クリーオウも気付き立とうとするが間に合わない確率の方が高いだろう。
オーフェンも駆け出すがあきらかにカタルシアの方が早い。クリーオウを前にして、カタルシアが剣を振り下ろさない事はあるか?
――ない。このままではクリーオウが斬られ死ぬ。そして自分もやられる。
(クリーオウが死ぬ? 俺の目の前で? あのじゃじゃ馬が!? クリーオウが!!!)
その考えが浮かんだ瞬間、オーフェンは叫んだ。
「我は踊る天の楼閣!!!」
数メートルの距離を転移しオーフェンはクリーオウの前に現れた。その時にはカタルシアは既に目前まで迫り、そしてその顔は笑っている……
そこでオーフェンはカタルシアが最初から「これ」を狙っていた事に気付いた。
クリーオウは倒れたまま、魔術の構成を編んでいる暇は無い、避ければクリーオウが危険…………
「オーフェン!!」
クリーオウは思わず叫び目を閉じた。
「……なにっ!?」
目を閉じたままのクリーオウが最初に聞いたのは、オーフェンの声でもなく、オーフェンが斬られた音でもなく、カタルシアの驚きの声だった。
急いでクリーオウは視界を回復させる。視界へ瞬時に飛び込んで来た光景は、オーフェンの目の前で止まっている剣先と、その剣の腹に巻き付いている紅い布だった。
「布で剣を止めるなんて……!?」
驚愕の表情のままカタルシアはオーフェン達から距離を取る。
バンダナを頭に巻きつけながら、オーフェンは不敵な笑みを浮かべて言った。
「知らなかったのか? 布ってのは濡れると斬れ難くなるんだよ」
とはいえ、そう言いつつもオーフェンは冷や汗を掻いていたのだが。
オーフェンは先程のカタルシアが斬撃を放とうとした瞬間にバンダナを外し、自分に向ってくる斬撃に向いバンダナを振る。バンダナは剣の勢いとバンダナ自身の勢いを利用し剣にに巻きつき、クリーオウの見た光景になったのだ。
「あなた……想像以上の化け物ね?」
驚愕はしたが油断も隙も無い体勢でカタルシアが言う。
「そう何回も出来たものじゃないけどな……」
オーフェンも油断無く構える。
「オーフェン、大丈夫なの!?」
「大丈夫だ、とりあえずな」
立ちあがったクリーオウがオーフェンの隣に並ぶ。その顔はとりあえずだがオーフェンが大丈夫そうなので安堵しているようだった。
そのまま互いに対峙した状態が続いたが、カタルシアが動こうとした時オーフェンが口を開く。
「さて、カタルシア…………諦める気は無いか?」
「無いわ。言ったはずよ? 私は自由になると……」
今更何を言うのか? そう言った目でオーフェンを睨む。
「…………そうか、じゃあその遺産を破壊させてもらう」
その言葉を聞いた途端、突っ込んでくるカタルシア。
「我は流す天使の息吹!」
オーフェンの魔術が発動させた突風によりカタルシアがその場で止められる。それを確認しオーフェンは走り出した。
「クリーオウ! 俺にどうなろうと何があろうと最大威力かつ3回連続で盾を狙え!!」
「ちょ! オーフェン!?」
クリーオウの返事を聞こうともせずに駆ける。その時にはカタルシアは体制を立て直し、向ってくるオーフェンに構えていた。
それを見てクリーオウは覚悟を決めた。
「レキ、あの盾を消し飛ばしちゃって!!!」
それを聞いたカタルシアが盾を構えた。カタルシアは強力な力場――レキによる盾を破壊する為の力――に包まれるが、盾の力がそれを霧散する。
そして、向ってくるオーフェンに対応しようとする。
「レキ! もう一度お願い!!!」
カタルシアが再び盾を構えた時、オーフェンの声が彼女の耳に入ってきた。
「我は踊る天の楼閣!!!」
転移の魔術が発動し、オーフェンがカタルシアの上方に現れる。それと同時に2回目のレキの魔術も霧散する。
「レキ! 最後にもう一回お願い!!」
三度目の強大なる攻撃をいともたやすく盾で防ぐ。が、今回は上にオーフェンが存在した。
盾がレキの力を受けている間にオーフェンが叫ぶ。
「我が契約により聖戦よ終われ!!」
その声に気付いたカタルシアが上を向くがその時には既にオーフェンの魔術が発動していた。
オーフェンの構えた手から強力な電撃が飛び盾に接触する。盾はそれを無効化しようとするが、レキの最大級の力も受けているのでなかなか無効化出来ない。
魔術を放ったばかりのオーフェンは盾の上に落下しながら、再び構成を編む。
「我掲げるは降魔の剣!!!」
手の中に実体の無い空気の剣が生まれ、オーフェンはそのまま落下し剣を盾に叩きつけた。
「なっ何を……!?」
大きな衝撃と共に見えざる剣が叩きつけられ、盾にヒビが入る。驚愕の表情に包まれるカタルシア。
体勢をいささか崩しつつ、オーフェンはどうにか着地する。あれだけの魔術を連発したのがたたったか、地面に膝をついてしまっていた。
それでも事体を確認しようと顔を上げると、盾のヒビが大きくなった。
後は崩壊だけだった。ただ誤算だったのは天人の遺産たる盾が崩壊する時に思った以上にエネルギーを放出した事であり――
爆発的に膨れ上がったエネルギーは、オーフェンとカタルシアを吹き飛ばした。
「オーフェン、大丈夫?」
カタルシアと対照的な位置で倒れているオーフェンにクリーオウが走りよる。
「つぅっ……なんとか大丈夫みたいだな。」
クリーオウの頭の上にポンと手を乗せ起き上がると、辺りを見まわしカタルシアを視界の中に確認する。
「終わったの?」
そうクリーオウが尋ねてくるが、オーフェンは咄嗟には答えられなかった。
(……いや……)
盾も破壊しカタルシアも倒した、なのに自分は安心していない。何かがおかしいと、自分の中の何かが告げていた。
辺りには静寂が満ちている。オーフェン達の耳に入ってくるのは雨の音と痛いほどの静寂だけだった…………