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「・・・ここの資料は、これで全部か・・・。」


月代葵は、巴里華撃団についての資料を閉じ、軽く目を瞑った。


巴里華撃団設立から、これまでの戦歴・・・。

そして、華撃団を支える隊員達の情報を頭の中に詰め込むだけ詰め込んだ。

まだ顔も合わせていない隊員もいるが、とりあえず彼女は出来る限りの情報を自分なりに収集していった。


・・・なにせ、自分はこれからその部隊の隊長にならなくてはならない・・・らしいのだから。


葵は特別、”隊長”という役職にこだわりなんて無かった。

戦場で新種と戦う事が出来れば、何でも良かったのだ。



(それにしても・・・光武F。資料で見るのと実際に乗るのとは、やはり違う・・・まるで手足のように動いた。・・・・怖いくらい・・・。)



光武F。

初めて搭乗したが、自分の意思でそれは思い通りに動いた。不思議な感覚だった。

右と意識するだけで、光武Fは右に動いた。それは、機械を動かすというよりも、驚くほどスムーズに、自分の体の一部のように動いた。

そして、さほど時間もかからず、葵は光武Fの基本動作を習得した。


葵の光武Fの武器は、彼女の得意の円月輪が、そのまま採用された。

ただ巨大な円月輪は、丸型の刀に近かった。それを背中に背負った白い光武F。

円月輪、いや円月刀といってもいい大きさのそれが、大きめに作られたのは、理由がある。

あの大きな新種を切り裂く事も出来、構え方によっては盾の役目もこなせるからだ。実際、霊力を使えば円月輪は一時的に盾になる機能もある、という事を説明された。


光武の動かし方に慣れるのはすぐだった。だが、問題は”実戦”で、どう動くか、だ。

そこで、葵は実戦を想定して、思い切り機体を動かそうとした。


霊力で風を起こし、光武Fは葵と同じように空を舞った。全ては自分の体と同じように動いた。

機動力は、十分だった。


・・・だが、葵の動かし方は機動力を生かす、というよりも”限界まで動かそうとする無茶なモノ”だった。


調整、試し乗り・・・なんてものじゃない。実戦さながらの動き。


「な・・・なんて動き方しやがる・・・!」


予想を超えた妙な動きに、現場に立ち会った整備の人間は、騒然を通り越して、言葉を失った。

そして、その結果・・・葵特有のステップや、風を使った動きを行おうとした光武Fが、すぐに悲鳴を上げ始めた。


「言わんこっちゃねえ・・・!」

「・・・ダメです。右足の・・・ここのジョイントが馬鹿になってます。立ってるのが不思議ですよ!」


葵の動きを反映しようとした結果、葵の光武Fの足は壊れた。

そして、すぐに葵は整備班のジャン班長に耳が割れるほど、怒られた。

”・・・初対面なのに・・・大人に怒られた・・・。”と内心思いつつも、整備班との交流は、現場の厳しさを肌で感じる事が出来た。



(・・・しかし、試運転で足を壊してしまうとは・・・申し訳ないやら、情けないやら・・・。)



いくら自分の手足のように動くと言っても、あくまでも機械は機械。無理をさせては壊れるに決まっている。

自分の光武の特性を考え、それにあった動きをもっとシミュレーションしなければ。

機械を扱う、という事を念頭に置いて行動しなければ・・・また同じ失敗を繰り返してしまうだろうな、と葵は反省した。


「・・・はー・・・ダメだなぁ・・・私って・・・」


「そんな事、ありませんよ。」


ふと後ろからそう声が聞こえたが、葵は”そんな事言ったって失敗は失敗だ”と思い、何も言わずに息を吐いた。

それは溜息にも似た吐息。


「・・・そんなに悩まなくても、人は試練や失敗を乗り越えて、成長するんですよ?葵さん。」


後ろの声に葵は”・・・ああ、そういう考え方もあるな”と納得しかけた。


「・・・ええ、そうですね。今回の事を生かして次回の調整は・・・って・・・うわああああ!?え、エリカさん!?」


「はい!エリカです♪」

「・・・い、いつからそこに?」


ずっと後ろから聞こえていた声の主は、エリカ=フォンティーヌだった。


「葵さんがあまりにも真剣に、資料を読んでるので、エリカはずっとその背中を見守ってました♪」

「・・・・・・・・・・涎のあと、ついてますよ・・・。」


エリカは、見守っているうちに寝てしまったらしい。


「あ、やだ・・・あの・・・実は・・・さっき、起きたんですっ♪」


心の中で”声くらい、いつでも掛けてくれても良かったのに”と思ったが、葵はあえて何も言わずにエリカから何気に視線を逸らした。

どうにも、ニコニコ笑顔でマイペースっぷりを発揮するエリカに、自分のペースを乱されがちな彼女は”エリカが少し苦手かもしれない”という気がしてきた。


なにより、彼女の笑顔を見ているとどうにも調子が狂う。


ここは、自分の新しい戦場なのだ。


そう言い聞かせても、エリカの笑顔を見ていると、戦場だという事を忘れてしまう。

ただでさえ、ここは『テアトル・シャノワール』。表向きは”劇場”。

戦いの事だけに集中したい彼女の思いを知ってか知らずか、司令であるグランマは、戦闘訓練を希望する葵に”モギリ”や”劇場の雑用”を命じた。

だから、葵は言いつけられた仕事をこなし、空いた時間は戦闘訓練か、こうして資料を読み込んでいた。

光武Fの訓練が出来ない今の葵にとって、出来る限りの、貴重な戦闘の準備だった。


・・・なのに。


「・・・何か御用ですか?」

「あの、お茶でも一緒にどうかなって♪」


陽気な笑顔と言葉が、葵の戦闘モードの心を崩していく。

葵は左頬の絆創膏を指先でなぞりながら、言った。


「・・・・・お気遣いなく。私はもう少し資料を見ますから、結構です。」


だが、すぐにそれは打ち返された。


「ダメですよ!」

「・・・え?」


葵の丁寧なお断りの言葉は、エリカのお断り返しの言葉で、カキーンっ!という音を立てて、空の彼方に打ち返された。


「エリカ達のお茶の時間は、作戦会議なんです。さ、行きましょう!」

「な、何の作戦会議なんですか!?」


エリカに半強制的に椅子から立ち上がらせられる葵。


「議題は未定でーす。」

「そんなあやふやな作戦会議が、どこにあるんですかッ!?」


葵のツッコミもなんのその。エリカに腕を引かれ、ズルズルとドアに向かって引っ張っていかれる葵。


「そ・れ・よ・り・も!!いつまでも、一人でこんな薄暗い場所でじいっとしていたら、キノコが生えてきますよ!?

あ、でも、それはそれで自給自足生活が出来ますね・・・いや、やっぱりダメです!葵さんがキノコ人間なんて!大体、キノコばかりなんて栄養が偏ります!!」


「一体、何の話をしてるんですか!?意味が、ちょっと・・・いや、かなり理解不能です!いや・・・そ、そんなに引っ張らないで下さい!落ち着いて・・・!」


・・・そういう自分が一番落ち着いてないな、と思っても、どうにもならない。

葵は、ドアの外に引っ張り出されていた。


彼女の望む戦場が、遠くなっていく。



(・・・私・・・本当に、ここに・・・巴里に何をしに来たんだろう・・・。)



遠くなる資料室を背中に感じつつ、葵はエリカに引っ張られていった。

鼻に紅茶と甘いお菓子の匂いが届く。


「あ・・・今日は、エクレアかシュークリームですね!エリカ、匂いで解ります!」

「・・・・・・・。」


(・・・こんな事、してる場合じゃないのに・・・。)



歯痒い。


”平和”という名の時が崩れるのを待ち望んでいる訳じゃないが、葵は新種と戦わなければいけない理由があった。


早く、戦場に戻りたい。

早く、戦いたい。





「すみません・・・やっぱり、失礼します・・・!」

「え・・・あ、葵さ・・・!」



エリカの手を振り払った葵は、あても無く走り出し、振り切った。




・・・早く、早く戦わないと・・・消えてしまいそうだった。








[  第6話 全身凶器の女。  ]








グリシーヌと花火、コクリコが既に席に着いていた。


「あ、エリカが来た!・・・・・・あれ?葵は?」

「遅いぞ。・・・葵はどうした?何があった?」

「どうかなさったのですか?月代さん・・・。」


「・・・・・・逃げられました・・・。」

悔しそうな顔で、エリカはボソッと報告した。


「逃げられたって・・・そんな動物さんじゃあるまいし・・・」

とコクリコが言いながら、エリカの椅子を引いて、座るように促した。



「・・・大方、適当な理由を言って、強引に葵を資料室から引っ張り出そうとしたのであろう?」


力なく着席したエリカを見ながら、グリシーヌが言った。


「・・・・・・み、見てたんですか?グリシーヌさん!?」


ぎょっとした表情でグリシーヌを見るエリカに、グリシーヌは溜息をついた。


「・・・単に私は、予想で言っただけだが・・・まさか、本当にやってるとは知らなかった・・・やれやれ・・・。」

「で・・・でも!葵さん、元気ありませんでしたし。いつまでも資料室に閉じこもっているのも、エリカどうかな〜って思うんですよっ!?」


「月代さんが光武Fの足を壊した事で落ち込んでいるらしいとは、私もグリシーヌも一応聞いていましたけど・・・

今は、そっとして置いた方が良かったのでは?」

と花火がやんわりとエリカに言う。


「え!?・・・ボク、その話初めて聞いたよ・・・。葵も光武壊しちゃったりとかするんだ・・・。」


「初めてですもの、仕方がありませんわ。かなり実戦に近い動きをされた、とか聞きましたし・・・。」


葵が光武Fの足を壊したことは、グリシーヌと花火、そしてエリカの耳に入っていた。

「へぇ〜・・・そうなんだぁ・・・」


それを初めて聞いたコクリコは、あまり喋らない、会う機会も少ない人物だけに

”そんな失敗をする事もあるんだ”と、葵にどこか親近感を覚えた。



「うーん・・・でも、やっぱり放っては置けませんよ・・・。なんか・・・葵さん見てると・・・なんだか、放っておけないんです。」


エリカは葵が資料室に篭って皆と打ち解ける機会を逃している事に加え、今回の光武Fの件で深く落ち込んでいるのでは?と考え

これはますます放っておけない、と意気込んで資料室に行ったものの、葵のあまりの真剣な姿勢に話しかけられず・・・

しかも、うたた寝をしてしまった上、しかも肝心の葵には逃げられる始末だった。


・・・それに、葵にはどこかしら”影”があった。エリカは、それがたまらなく気になっていた。



「・・・まったく・・・あれほどの実力を持ちながら、訓練で光武Fを壊すとは、隊長候補が聞いて呆れる・・・。」


首を横に振りながらそう言うグリシーヌに、花火がやんわりと釘を刺す。


「グリシーヌ。・・・月代さんには、月代さんのペースがあるのよ・・・そんな言い方ダメよ。

・・・それにしても、困りましたわね・・・葵さんに聞きたい事がありましたのに・・・。」


「・・・え?花火さん、なんですか?葵さんに聞きたいことって?」


エリカの問いに、グリシーヌがカップを置いて、代わりに答えた。


「エリカ、思い出してもみろ。・・・そもそも、月代葵という人間が何故、巴里華撃団に来ることになったのか。」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーと・・・・・・。」



間があいた。


それだけで、すべてが伝わってしまうから、付き合いとは恐ろしいものである。



「あー・・・その顔は、『えっと・・・なんでしたっけー?』って、忘れてるって顔だ。ボク、わかるよ。」

コクリコはそう言うと、紅茶を飲んだ。


「やれやれ・・・どこまでいってもエリカはエリカ、か・・・。」

グリシーヌはそう言うと、紅茶を飲んだ。


「エリカさん。”新種”と呼ばれる、霊的災害生物の事ですよ。葵さんは、その新種と戦闘を経験した方なんですよ?」


花火が、そっとエリカに教えた。


「あ。そうでした!エリカも気になってたんですよ!・・・今!」


「・・・最近、その新種なるものが見つかったのは欧州。私達のいる巴里にいずれ現れ、交戦せねばならないかもしれぬのだぞ?

出来れば、その”新種”とは、どのようなバケモノなのか、葵から聞き出したかったのだがな・・・。」


そう言って、グリシーヌは目を細めた。(そして、エリカにツッコミを入れるのを諦めた。)


しかし、その肝心の新種との戦闘経験者である葵がいないのでは、話にならない。


すると花火が、小さな声で言った。


「・・・・・・・・考えてみたら、私達がそんな事を聞くのは、まだ・・・失礼、なんじゃないでしょうか・・・・」


「・・・どういう事?花火。」


花火の言葉を聞き逃さなかったコクリコとグリシーヌは、花火に聞き返した。


「・・・何故、そう思うのだ?花火。」



「あの・・・それは・・・ほら、前にグラン・マから聞いたでしょう?」


その会話は葵が巴里に来る前にされたものだった。



『6ヶ月前、日本で”新種”が大暴れして、日本の陸軍特殊部隊がほぼ壊滅したらしい。』


『それは…痛ましい話ではあるが・・・それが、確証なのか・・・?』


『特殊部隊といったってピンキリだろ?…霊力も持ってない奴らじゃ、蒸気獣でも、どうにもならないだろ。』



『ところが、陸軍の中でもよりぬきの霊力保持者の集団だって言ったら?

噂によると、かなりのモノだったらしい。それがいっぺんにやられたら…どう思う?』


『あの、皆さん・・・亡くなったんですか・・・?』


花火の問いに、グラン・マは低い声から、溜息混じりに言った


『・・・ほぼね。報告書を見ただけでも、相当ひどいものだったよ。』



「今思い出しても・・・許せませんよね・・・その新種って。あ、大変!じゃあ早く新種の情報を知らないと!」


「だからッ!先程から、そうだ!と言っておるだろう!!エリカ!お前は巴里華撃団としての自覚はあるのかっ!?」


「そ、そんな怖い顔で怒鳴らなくなって・・・!・・・でも、その新種の話をどうして、葵さんに聞くんですか?」



「えーと・・・話を戻しますね・・・確か、グラン・マは葵さんの事をこう言っていらしたのを、覚えておられますか?」




『実力だけなら十分だ。何せ新種と2回交戦して、唯一生き残っている人間だしね。』



「・・・新種との戦闘を2回も経験していて・・・

そして、日本の陸軍特殊部隊が、15分でほぼ壊滅した事件。ほぼ、という事は・・・

これは、あくまでも私の考えなのですが、もしかしたら生き残った人がいるという事ではないか、と。」


「まさか・・・花火さん・・・その生き残った人って・・・!?」


「・・・ええ・・・多分、その人こそ”月代さん”なんじゃないかと思うんです。恐らく、その壊滅した特殊部隊にいたんじゃないか、と・・・。」



花火がそう言うと・・・


”パチパチパチ・・・”


「・・・お見事。」


迫水典明が、笑顔で拍手を送ってそう言った。



「迫水さん!」


「どうも、お嬢さん方。ティータイムですか?」


軽い挨拶をすっ飛ばして、エリカはさあさあと迫水を自分の隣に座らせた。


「さあ!迫水さん!葵さんの事、知ってるなら教えて下さいッ!」

「エリカ!葵の事より、新種の事が先だ!」とグリシーヌ。

「あーもう!ボクは両方!両方聞きたいよ!教えて!!」とコクリコは、わからない事だらけは嫌だ、という顔をして言った。


「あの、迫水さん、差し支えない程度で構いませんから、お教え願えませんか・・・?」


思わぬ女性陣の反応に、迫水は少し落ち着くように促した。


「・・・ま、まあ、皆さん落ち着いて、落ち着いて。エリカさん、僕の足を踏まないで下さい。さて・・・順番に説明しますよ。」











一方、その頃。


エリカの手を振り払って、シャノワールを出た葵は、走って走って・・・見知らぬ場所の壁にもたれかかり、息を整えていた。




「・・・はあ・・・はあ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」



身体が熱い。

ネクタイを緩め、ボタンを外す。



脳裏に浮かぶのは、あの日の戦場。



思い出しても、どうにもならないのは解っていた。

だが、葵の頭から、それが離れる事はなかった。

離す事は、出来なかった。どうしても。



(早く、戦場に戻らなくちゃ・・・)


気ばかりが焦ってしまう。


いけないとは思うのだが、周囲の空気に自分が馴染んでいくのが、葵はたまらなく嫌だった。

だが、自分は何をしている?


モギリをやって。

雑務に追われ。

光武Fを壊し。

資料室に入り浸り。



 『あの、お茶でも一緒にどうかなって♪』


ポケットから、エリカに貰った手作りの地図を取り出して見る。

何度見ても、個性的で見る者を楽しませる、と葵は思った。


(・・・見ているだけで・・・)


不思議と笑みが浮かんでくる。

自分には、微笑む資格なんて、無いと思っているのに。

この先の人生・・・笑う事など、許されない、そう思っているのに。

この身体も心すらも自由にならない。


(・・・私は・・・どうすればいい・・・?)


地図を見つめながら、葵は誰かに問う。誰でもない、誰かに。

瞼を閉じて、地図を丁寧に畳んで自分の服の内ポケットに、大事にしまい込んだ。



(・・・新種が現れるかもしれないっていうのに・・・こんな場所で、一体何をしているんだ・・・私は・・・!!)


壁を拳で殴りたいだなんて下らない衝動をなんとか抑える。


・・・これ以上、戦場から離れていく自分が憎らしくさえ思えた。



(・・・息を整えよう。・・・発作が起きたら、騒ぎになる・・・。)


そう思い、壁を見つめ、息を整えようとした葵だったが・・・


「・・・どうした?気分でも悪いのかい?そこの派手な髪のお嬢ちゃん。」



葵の肩に、薄気味悪い笑みを浮かべた男が、手を掛けた。



「・・・こんな所にいると・・・イロイロと、危ないぜ?」


言葉の裏の意味を葵は即座に理解したが、あえてこう言った。


「・・・ご忠告、ありがとうございます・・・でも、私に構わないで下さい・・・。」


愛想笑いも浮かべず、葵はそう言うと男の手を振り払い先に進もうとしたが、もう一人の男が葵の行く手を塞いだ。


「そんなフラフラ歩かれちゃあ、襲って下さいと言ってるようなもんだ。・・・なあ?」

「・・・へへへ・・・違いねえ。」


「・・・・・・・・・。」


葵はボタンをもう一つ外し、自分の道を塞ぐ男達を、交互に見た。

壁にもたれかかりながらも、葵の目の鋭さは増していった。


・・・それは不機嫌とは違う、彼女のもう一つの顔。


葵の目の鋭さに、何も知らない男達は手を伸ばす。


目的は単純。

財布、金品の類だった。


手にナイフを持ち、それを彼女の目へと見せ付けるようにギラギラと反射させる。



「・・・・・・もう一度しか・・・言いませんよ・・・私に構わないで下さい・・・。」


彼女は念を押すようにそう言い、眼鏡を外した。


「まあまあ、遠慮するなよ・・・遠慮な〜く、俺達の餌になんな。」


しかし、男達はどんどん彼女の気も知らずに近付いてくる。

彼女は重い溜息をつくと、左頬の絆創膏を指でそっとなぞった。


すると、風が彼女の頬を撫でた。


(・・・・・・ここの風は・・・こんな私にまで優しいのね・・・まるで・・・。)



その優しさに太陽のような笑顔のシスターを思い浮かべた葵だったが、すぐにそれを振り払い、少し自嘲気味に笑った後。


(・・・でも、私はそれを武器とする・・・。)



・・・すぐに表情を真剣なものに変えた。

今の彼女の心に優しさなどという言葉は微塵も無かった。



「・・・粉骨砕心・・・」



彼女が、そう呟くと”奇妙な風”が吹いた。


単なる”痛み”とは違う、鋭さのある熱を持った風が吹き・・・




「・・・・・・・・・・・咲き散れ・・・!」



―― そして、間もなく悲鳴があがった。
















「まず・・・月代君の事から話しましょう。彼女は、月代一族出身でして・・・歴史の表舞台にすら出てこない、隠れた一族なんです。」


迫水はエリカの注ぐ紅茶の湯気を見ながら、話を始めた。(派手にこぼさないかどうか不安だったようである。)


「・・・隠れた一族だと?」

グリシーヌもエリカの注ぐ紅茶の湯気を見ながら、相槌をうった。(派手にこぼさないかどうか不安だったようである。)



「そうです。月代一族は、かなり強力な霊力をもって生まれ、風を操り、独自に武器も作り出し、代々自分達の住む山を守る事を義務付けられています。」


「山を守る?・・・お山が、そんなに大事なんですか?」

花火もエリカの注ぐ紅茶の湯気を見ながら、質問をぶつけてみる。(派手にこぼさないかどうか以下略)


「月代の一族が守っているのは、有名な”霊山”でしてね。昔から、霊力や様々な力が集まりやすく、魔の物に狙われやすいと言われ続けていました。

その山を守る使命の為に、俗世と関わる事を固く禁じられているらしいんです。

賢人機関も、前々から月代の能力に目はつけていたんですがね・・・山を守る使命があるからダメだ、と散々フラれ続けたらしいですな。


・・・・・・たった一人を除いて、ですが。」


「その一人が・・・葵さん、だったんですね?・・・エリカさん、やっぱり零れてますわ。」

「あー・・・!?話に夢中になって・・・つい、やっちゃいましたぁ〜・・・!」

「あー!ボクが拭くから、お話し進めようよ〜!(ただでさえ、このコーナー更新するの遅いんだから。)」

そう言いながら、コクリコが率先して、テーブルを拭きはじめた。


「ええと・・・花火さんの言う通りです。

・・・月代君は、自ら月代の家を出て、積極的に自分の能力を生かし、軍に貢献してくれました。

彼女の実力は・・・もう言わなくてもご存知でしょう?グリシーヌ嬢?」


「・・・・・・・・。」

グリシーヌは迫水の問いに僅かに頷くだけで答えた。


「まあ、そんな月代君の所属していた陸軍の特殊部隊、通称:『焔』隊という訳ですが。」


「・・・焔隊・・・それが、もしやグラン・マの言っていた・・・?」


「そうです。先程花火さんが言っていた・・・新種によって、ほぼ全滅した陸軍の・・・今となっては幻の特殊部隊の名ですが。

月代君は、その焔隊を作りあげた一人でした。」


「隊を作り上げたっていうんなら・・・じゃあ、隊をまとめるって事に関しては問題はない訳ですよねッ!?ね!?」

エリカは”どや顔”で周囲に同調を求めた。

「・・・エリカ、そんなに強調しなくても聞こえている。お前が葵を気に入ってるのは、よーくわかった。だから、少し黙っていろ・・・クッキーあげるから。」

そう言いながら、グリシーヌは自分の分のクッキーをエリカの皿へと2,3枚移した。

「はーい♪」

「迫水さん、お話の続きを・・・。」


花火に促され、迫水は話を始めた。


「ええと・・・その焔隊ですが・・・そう、焔隊の夜間訓練中の事です。

彼らは、夜間訓練中に新種による奇襲を受け、ほぼ全滅しました・・・

そして焔隊に所属していた・・・彼女、月代葵は、その事件でのたった一人の生き残った隊員なのです。」


「た・・・たった、一人・・・!?」


テーブルを拭いていたコクリコの手が止まった。


「その事件を引き起こした敵とは・・・”新種”とは、そんなに・・・強い、のか?」


「グリシーヌ嬢・・・新種とは、貴女が戦った、あの月代君を半死半生の目に合わせた上

月代君が一から作り上げた特殊部隊を15分でほぼ全滅に追い込んだ、とんでもないバケモノです・・・。」


「・・・・・・・。」

迫水の答えにグリシーヌは視線を一瞬だけ下に落としたが、すぐに前に戻し、迫水の話に耳を傾けた。


「名前は通称・・・”カグヤ”」


迫水の出した単語に、エリカは反応した。


「カグヤ・・・って・・・もしかして、日本のお話の”かぐや姫”ですか?」

「おお、エリカさん・・・ご存知でしたか・・・

月夜に現れ、月夜に消えた事から、その名が付きました・・・姫とは縁遠いバケモノですがね・・・

・・・そう・・・今の僕が言える情報はそれくらい、ですかね・・・。」

「そうですか・・・」

迫水の話に花火は視線を下に落とした。やはり、葵に新種の話を聞きださない方が良かった、とも思った。


「勿論、その戦闘で彼女が身体に負った傷・・・心の傷もそうでしょうが、相当なものだと思います。

・・・だが、その”傷”こそが今の彼女を突き動かしているとも言えるでしょうな。」


「・・・それって・・・どういう事、ですか・・・?」


エリカの問いに、迫水は真剣な表情で答えた。


「月代君は、その戦闘で多くの仲間を失った。きっと新種の事を、誰よりも知っていて、誰よりも心の底から憎んでいるのは、彼女でしょうな。

・・・僕も先程、月代君の光武Fの件を聞きました。

これは、あくまで僕の予想ですがね・・・恐らく、仲間達の仇を討ちたいが為に、彼女は色々と焦っているのかもしれません・・・。」


迫水の低い声で放たれたその言葉に、エリカ達は紅茶を飲む事も、エリカが注ぎ足そうとしてまた紅茶を零している事にもツッコむ事もなく、ただ、言葉を失った。


「・・・彼女を、お願いしますね。お嬢さん方。」


迫水は少し悲しそうな笑顔で、頼みの言葉を言うと、席を立った。












「げんに・・・ろ・・・オイ・・・」



(・・・熱い・・・。)


葵は、体の熱でぐったりと路地に突っ伏していた。

冷たい地面。・・・その冷たさがありがたかった


(・・・熱い・・・。)


せめて水を浴びさえすれば、ここまで酷くはならなかっただろうと思いながら、手を動かそうと試みる。



「・・・げ。また脱いだ・・・!」


頭の上から何者かの声が聞こえるが、あまりよく聞き取れない。


(・・・誰の・・・声・・・?)


葵は、目を開けようとは思うのだが、瞼が重く、開けられずにいた。

手足も同様で自由を奪われているような感覚に包まれていた。



「オイ!どういうサービスなん・・・いや、女のアタシにとっては、サービスでもなんでもない!!とにかく、いい加減!目を開けなッ!」


頬を叩かれ、葵はやっとうっすらと目を開けた。


すると、銀髪の女がこちらを見ていた。


「・・・・・・あ・・・貴女は・・・」


焦点が合い、人物の顔がようやくハッキリ認識出来た。

銀髪の女は、こちらを睨みつけるように見ていた。


「はぁ・・・やれやれ、やっとお目覚めかい・・・普段から資料室に篭っているんだから、アタシの名くらいは知ってるんだろ?」


そう聞かれた葵は、頭の中で事典を捲って、その人物名を口にしてみる。

「・・・ろ・・・ロベリア=カルリーニ・・・さん・・・」


「ハイ、良く出来ました。・・・じゃ・・・とっとと行くぞ。あと数分もすりゃ警察が来る。」


素っ気無い返答の後、ロベリアは路地の向こう側をしきりに気にしていた。


「・・・警察?」


”どうして警察が来るのか?”という顔をしている葵に、ロベリアはまた呆れたような声を出した。


「・・・アンタ、力の加減てモノを知らないのかい?・・・小物相手に、ここまで派手にやっといて。」


そう言われて、葵はやっと自分の周囲を視界に入れた。


「・・・・・・あ・・・。」


先程、自分を襲おうとしていた男2人組が、衣服を切り裂かれ、その場に倒れていた。

致命傷こそないが、男達の体は傷だらけだった。皮膚は切り開かれ、傷口は膿んでいた。

・・・それを見ると、葵はすぐに顔をしかめた。自己防衛どころではない、過剰防衛もいい所だ。



「・・・まあ、こいつらも二度とアンタに関わろうなんて思わないだろうぜ。・・・立てるか?」

「・・・この人達は・・・生きているんですか・・・?」


葵は、ロベリアに静かに聞いた。しかし、ロベリアはそれを突き放すように目を逸らして言った。

「・・・フン・・・そんなモノ、自分で確認しな。」


すると葵は、素直に四つん這いになって、男達に近付くと脈を測った。

(・・・2人共、生きてる・・・良かった・・・。)



「・・・・・・気は済んだか?・・・だったらいい加減、行くぞ・・・」


呆れたような声でロベリアはそう言った。自分でやっておいて、何をやってるんだか、と冷ややかな視線を送っていた。


「は・・・はい・・・・・・・・・ッ!?」


ロベリアの声に返事をして、立ち上がろうとする葵だが、手足が重く、ふらついて壁に遂には、肩を打ちつけた。


「・・・くっ・・・」


それでも、壁に手をついて立ち上がった葵は、自分のスーツの右腕に血が滲んでいるのを見つけた。


「・・・モタモタしてるんじゃないよ・・・アンタの傷害事件までアタシのせいにされちゃたまんないからな。

・・・あぁ、正当防衛って言えばいいのか・・・いや、とにかく、だ。」


フラフラしている葵を見ていただけのロベリアだったが、見ていられなくなったのか葵の腕を取り、自分の肩を貸した。

肩を貸す、というよりも腕を取って引き摺って歩く、という方が正確かもしれない。


葵の身体の力は、殆ど入ってなかった。


「・・・心配するな。手を貸してやる代わりに、ちゃんとキャッシュは、貰うつもりだからな。」


ニヤリとロベリアは笑ってみせると、葵の顔色は真っ白になっていた。


「・・・・・・オイ・・・大丈夫か・・・?」


「・・・水・・・」


「ああ?」


「・・・熱い・・・」


それだけ呟くと、葵は再び瞼を閉じてしまった。



「・・・お、オイ!?・・・・・・チッ・・・とんだ拾い物しちまったな・・・アタシも。」



舌打ちをして、ロベリアは葵を背負い込んだ。確かに熱い・・・体温が高めの身体だ、と思った。


しかし、ロベリアが一番厄介だな、と思っているのは、体温でも、意識を失っている事でもなく、葵自身が傷だらけで出血している事だった。



・・・そして、その理由をロベリアは自分の目で見て知っていた。


偶然とはいえ、隊長候補である葵が男達に絡まれているのを目撃したロベリアは、葵がどう切り抜けるかを見学する事にした。



「・・・粉骨砕心・・・」



彼女が、そう呟くと”奇妙な風”が吹いた。

単なる”痛み”とは違う、鋭さのある熱を持った風が吹き・・・



風は男達の衣服、皮膚を斬った。


(・・・あの赤アタマ・・・やっぱり、風を使うんだな・・・)


グリシーヌとの戦いを見ているロベリアは葵が風を使う事は知っていた。


・・・しかし、今回はそれだけでは、なかった。



「・・・・・・・・・・・咲き散れ・・・!」



葵がそう言うと同時に、男達の皮膚と衣服が音を立てて散った。


「ぎゃああああああああ!?」

「痛いッ!全身が・・・う、うわああああああああああ・・・ッ!?」


その場に散った血は、まるで風に舞い散る花弁のようにゆっくりと舞った。


恐ろしいほど美しくさえ見えた。


そして、葵の服も、皮膚もまた、その風に斬られていた・・・。


(・・・同じだ・・・グリシーヌの時と・・・!)


グリシーヌと葵が戦っていたあの時もそうだった。


グリシーヌに放った葵の風の刃は、葵自身をも傷つけていた。

(どうして、自分自身まで風で斬りつける・・・?わざとなのか・・・それとも、上手く操れていないのか・・・?)

・・・ロベリアは、それが不思議に思えてならなかった。


そして、怪我をしている筈の葵の霊力の強さは、減るどころかどんどん上がっていき、彼女の周囲の風は鋭さを増していくようにも感じた。


目は鋭く獣のように。

殺気に満ちた風。


葵から放たれる異様な雰囲気が狭い路地に漂い、男達の呻き声と風の音だけがロベリアの耳に届いていた。




(オイオイ・・・全身凶器ってヤツかい・・・?なんて人間を隊長候補に連れてきてんだよ・・・グラン・マは・・・!)




だが。


グリシーヌとの戦いの時とは違って、今回の葵は体調が悪いのか、男達が倒れると同時に地に両膝をつき

それと同時に葵の周囲の風は、フッと消えてしまった。



最初は、ふらついている今の葵に隙でもあれば、すぐにでも喧嘩を売ってやろうかとも思っていたのだが

葵が倒れこみ、苦しそうに呼吸を始めるのと同時に、ロベリアにその意思は無くなった。


勿論、このまま放っておく、という選択肢もあったのだが、ロベリアはあえて葵を運ぶ方を選んだ。



自分の肩から力なくぶら下がる手には、あの白い手袋は無く、何かを突き刺したような痛々しい痕が複数あった。



「・・・・・・クソ・・・こうなりゃ運び賃は2倍、いや3倍だぞ・・・赤アタマの隊長候補・・・!」



そう呟くと、ロベリアは歩き出した。











「誰だ?葵が、資料室にいると言ったのは・・・!」


資料室の真ん中で、グリシーヌは仁王立ちに腕組をして不機嫌全開の顔で立っていた。


「・・・あっれぇ?おかしいですねぇ・・・葵さん、まだ戻ってないんですかねぇ?あ、懐かしい!この写真!」

とエリカはのん気に資料をパラパラと捲っている。


「もしかして、街で迷子になってる、とか・・・まだこの土地に慣れてませんし・・・あ、確かに懐かしいですね・・・。」

と花火は言いながらも、心配そうに窓の外を見た。



外は、もう・・・夜の幕が降りてきていた。


「・・・迷子って・・・花火、いくら葵でも一応、成人であろう?そうそう迷うものか。」

「そうですよ。葵さんは、エリカお手製の地図も持ってますから♪迷ったりしません♪」


(((・・・だったら、余計迷うかもしれない・・・。)))・・・と3人は、内心思ったが、口には出さなかった。


「ねーねー・・・もしかしてさー、葵、街でロベリアに会って、捕まって、勝負とかしてたりして〜♪」


無邪気なコクリコの答えに3人はピタリと会話と動きを止めた。



「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」



『隊長候補に対して入団テストを行う』という案を出したのは元はと言えば、ロベリアである。



「・・・や、やだな・・・そんな顔しないでよ・・・冗談だってば・・・・・・・・・・・・」



4人の頭にロベリアの台詞が蘇える。


 『信じる信じない…倒す倒さないは、個人の自由。

 アタシはアタシのやり方で、ソイツを見極めさせてもらう。気に入らなければ…』



「・・・冗談・・・」




冗談か否か。

今の彼女達4人に確かめる術は・・・



「し、至急!き、き、キネマトロンで、れ、連絡を・・・ッ!!」

花火は、あたふたとキネマトロンを取り出した。


「お、落ち着け!花火!番号が違う!私と通信してどうする!?」

「あ、手が震えて・・・つい!」



「え〜葵さんとロベリアさんが一緒なら、心配要らないんじゃないですかー?」


「エリカ!お前は能天気過ぎるッ!良いか!?私達が葵を正しき隊長に育てあげるにあたって、ロベリアが葵に与える影響を考えろ!」

グリシーヌの問いにエリカは少しだけ考えると、笑顔で答えた。


「・・・ん〜・・・ちょっと、お転婆さん★になっちゃうとか?」



「花火―ッ!!至急だ!大至急!キネマトロンで、ロベリアか葵をシャノワールに呼び戻せッ!!」



「あれ?今度はボクのキネマトロンが・・・」

「ああッ!今度はコクリコさんに・・・!」

「花火ーッ!!!」











・・・確かに、葵とロベリアは、コクリコの予想通り、一緒にいた。





とある一室に葵は運び込まれ、シャワーを浴びさせられた。

古い建物の古い設備のせいか、シャワーの温度はお湯と言うより、水に近かった。しかし、それが逆に葵にはありがたかった。


(・・・あ・・・・・・良かった・・・・・・治まってきたみたい・・・。)


葵は長いシャワータイムを終えて、傍にあったバスタオルを体に巻いて出てきた。


(・・・ここ、どこなんだろう?確か・・・私、ロベリアさんとかいう人に会って・・・)


部屋を見渡すと、ロベリアが窓際で、グラスを手に真っ暗な空を見ていた。

椅子にはまたしてもボロボロになった自分の服。

(先日、ボロボロ埃まみれにして、グラン・マに叱られたばかりなのに・・・。)

・・・恐らく、また服は仕立て直しになるだろう。そして、グラン・マに怒られるか呆れられるだろう。


部屋には、蝋燭の灯りだけが灯っていた。その炎が、心なしか葵の気持ちを落ち着かせた。



「・・・少しは落ち着いたか?その脱ぐ体質とやらは。・・・とはいえ、シャワー浴びさせる為に全部脱がせたけどな。」


こちらを見ずに、ロベリアはそう言った。

・・・どうやら、窓のガラスに映りこんでいる葵を見ながら会話しているようだ。


「すみません・・・シャワーお借りして・・・大分、落ち着きました・・・。」


「・・・別に。

アンタが”水をかけてくれ”って、妙な寝言言ってたから、お望み通りにしてやっただけさ・・・まったく珍しい体質でタイヘンだな。

あぁ、それと怪我が気になるなら、そこら辺に包帯あるから、自分で適当にやんな。」


ロベリアは、相変わらず、こちらを見ずに素っ気無くそう言った。


「あ・・・あの、ありがとうございます・・・私・・・」


葵がそれ以上何かを言おうと、ロベリアは窓際からこちらへ真っ直ぐに歩いてきて、手にしていたグラスを葵に押し付けた。





「礼なんかいらない・・・とりあえず・・・一杯飲め。」




・・・・・・・・・・・。




ロベリアの台詞に葵の意識は、5秒ほどブチンっと途切れた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」



葵は思わず、目を見開いたまま、首をかしげ、間の抜けた声で聞き返した。



「・・・だから、まず、酒を飲めと言ってるだろ?・・・話はそれからだ。・・・一問につき、一杯な。」


「は・・・はあ・・・。」



葵は、とりあえずグラスを受け取ると、バスタオル一枚、複雑な心境のまま、ロベリアに注がれた酒を口にした。

”一問”の為に、ぐいっとグラスを傾け、ロベリアに注がれた酒を一気に飲み干した。


「・・・・・・ふうん、なかなか良い飲みっぷりだな。お堅い軍人出の女の割には。」


それを見届けたロベリアはフッと笑った。


「・・・・・・あの・・・ロベリアさん・・・昼間、どこから、私を見てたんですか?」


葵は早速一問を取り出した。


「・・・ちょっと遠くの路地から。」


しかし、ロベリアの答えは葵の期待に沿うものではなかった。


「いえ、その”何所から”、ではなくて・・・時間の方です。私が昼間、何をしたか・・・」


「・・・一問に付き、一杯。」


空のグラスを指差し、ロベリアは口の端ををクッと上げた。


「あぁ・・・。」



そして、当然のようにグラスになみなみと注がれる酒に葵は、溜息をついた。

その後、ロベリアも自分の分のグラスに酒を注ぎながら言った。



「・・・アタシもアンタに聞きたい事がある。埃被った資料室には無い情報を知る良い機会、だと思わないかい?」


「・・・・・・なるほど・・・そういう事も必要ですね・・・」

(・・・お酒が絡んでいるのがちょっと気にかかるけど・・・。)


葵はグラスを見ながら、グラン・マの言葉を思い出した。



 『しばらくは、慣れるついでに、隊員と交流を深めて、お互いを理解してもらうことになるだろうね。』



(これも交流の一環・・・という事、かしら・・・。)


酒を見つめ、葵は言った。


「・・・わかりました。」


その答えにロベリアは満足そうに笑った。


「じゃあ、とりあえず・・・。」




「「・・・乾杯。」」



グラスが軽く傾けあい、彼女達は酒を飲んだ。










「・・・で?私達は・・・ここで聞き耳を立てていれば良いのか?暇人ではないのだぞ!?」


壁にコップをつけていたグリシーヌが何故こんな事をしなければならないのか、とごく普通の疑問を問いかけた。


「しい〜っ!隣に聞こえちゃいますよっ!」とエリカはスポーツの審判のようにグリシーヌに厳重注意を促す。


「もしかして、エリカさん・・・楽しんでません?」と花火はコップを片手にエリカに問う。

だが、花火の姿もまた”楽しんでません?”と言いたくなるような積極的な姿勢である。


「え〜?そんな風に見えます?」

「・・・うん。見える。ニコニコしてる。歯茎も見えてる。」

エリカに対してコクリコはそう言いながら、コップに耳をつけていた。




花火が冷静さを取り戻し、ロベリアと連絡をつけた時、ロベリアは既に葵と一緒にいる事がわかった。

ロベリアの提案で、4人はロベリアと葵のいる部屋の隣の部屋に侵入し・・・


「・・・まったく・・・実に悪党らしいやり方だ・・・酒に酔わせて情報を聞き出すから、私達に盗み聞けとは・・・。」


「でも、確かに名案だとエリカも思います!

お酒を飲むと本音が露呈しやすい、とはよく聞く話ですし・・・

葵さんも日頃イロイロ何かしら胸の内に秘めている事があるかもしれません!

・・・もしかしたら、あーんな話やこーんな話がポロリと聞けちゃったりするかもしれませんッ!」


「・・・え、エリカさん・・・あんな話や・・・そ、そんな話をポロリって・・・一体何を・・・ぽっ」


「な、なんだ!?花火まで・・・あんな話やそんな話やポロリとか・・・!」




という訳で・・・なんだかんだで、全員が積極的な姿勢で、聞き耳を立てていたりするのだった・・・。


一応断っておくが、彼女達は・・・『巴里華撃団 花組』である。




「もう!みんな!しい〜ッだってば!ポロリが聞けないでしょっ!?」

「「「そうだった・・・いけない、いけない。」」」


そして、静かにコップを壁にあて、耳をつける積極的な4人。




・・・・・・もう一度だけ断っておくが、彼女達は・・・間違いなく『巴里華撃団 花組』である!!





 ― 第6話終わり。 ―



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『 エリカさんと反省会 〜あとがき〜 』



お疲れ様でーす。



エリカ:「はいはいは〜い!エリカでーす!なんか・・・エリカ達、変な集団みたいに描かれてません?」


・・・気のせいですよ。絶対、気のせいです。


エリカ:「ですよね〜♪」


・・・・ほっ。


エリカ:「さて、今回は、ロベリアさんとお酒とバスタオル一枚の葵さん、隣の部屋に盗聴組の私達・・・なんか次回はドキドキしますね!」


・・・なんか変な所ばっかり、ピックアップされてますけど・・・。

今回は、なんか葵さんの設定の説明(笑)ばっかりでした〜!


エリカ:「なんと言うか今回は・・・一言で言うと・・・こういう時、なんて言うんでしょうね?花火さん!」


花火:「・・・・ぽっ。」


はい。オチでーす。お疲れ様でしたー。(棒読み)


エリカ:「えーもっと熱くヤル気出していきましょうよーっ!諦めないで!クロワッサン食べましょうよ!」


花火:「本家と某テニスの方とは、全く別物ですので、ファンの方は怒らないで下さいませ。」


はい、という訳で!次回は、いい加減6人で何かやろうぜー!という話にします!



ロベリア:「とは言っても、次回もダラダラ更新らしいから、期待すんじゃないよ?」


わあ〜っ底辺の二次創作サイトだと思って、もう言いたい放題だー♪