・・・烏丸家の玄関が見える。




周囲を見回す。


庭にまだ桜の木があるから、これは過去の映像・・・夢だな、とすぐに解った。

私が医大に通い始めた年の夏、父が業者に連絡して切ってしまった。


足は吸い込まれるように、家の中へ。


家の中は暗い。


母は、いつもきちっとまとめてある髪の毛をボサボサにして、ソファに突っ伏している。

私の気配を感じ取ると、まるで、我が子を喰った獰猛な獣をみるような目で見ていた。


言葉は無かった。


私が医大に行かずに、他の大学を希望したのが原因だった。

宝の持ち腐れだと、母は嘆いた。一体何の為に、勉強してきたのと!?と嘆き悲しんだ後、私を激しく怒鳴り散らした。

一体何の為に勉強をしているのかは、私が知りたかった。

医大に行ってもそれがわかる訳が無いと、私は思った。

一番知りたいことを知ることが出来ないもどかしさが、高校生の私には苦痛だった。


母の後ろで、兄はケーキを食べていた。ふと、フォークを置いて、ちらりと見た。


”謝ってしまえ”と顎で合図をし、再びケーキを食べ始めた。


父は、いない。いつも通り、食事時以外にあの人がリビングに、いる事はない。


やがて、家の中は無声映画のように声も色も無くなっていく。


振り向くと、もう一人の私が下着姿で椅子に座り、私をみていた。

他人事のようにジュースをストローから”ズゾゾゾ…”と汚い音をたてて、無表情で吸っていた。



・・・つまらない映画をみるように。






「・・・忍。」





アイマスク代わりに顔にかぶせていた女性雑誌が取り払われ、光が差し込んできた。

うっすら目を開けると、兄がいた。


「・・・兄さん。」

(・・・つまらない夢見たわね・・・・。)


ソファで仮眠をとっていた私を呆れ顔で兄・誠一が覗き込んでいた。


「・・・忍、オマエ、少しは女だってこと意識したらどうだ?」


”そんなんだから、見合いも失敗するんじゃないのか?”と兄は、コーヒーを差し出しながらそう言った。

嫌な目覚めから嫌な話だわ、と思いつつも、私は腕時計で時刻を確認する。


(・・・ああ、そろそろ起きる時間か。アラームが鳴る前に起きてしまったようね。)

溜息混じりに私は起き上がり、コーヒーを兄から受け取った。


「・・・研修医の頃、女を意識してたら、医局にいられないって、兄さん言わなかった?」


そう言い返して、私はコーヒーを一口飲んだ。

凝り固まった肩…首を回すとゴリゴリと音がするが、慣れたものだ。


「・・・今は、研修医じゃないだろ?いつまでも、独身だと肩身狭くなるぜ。・・・あ、セクハラとか言うなよ?」

「はいはい。」


寝起きノーメイクの酷い顔の私に対し、兄は、爽やかに笑っていた。


優しく、何でも出来る兄は、烏丸家の誇りだ。

父も母も、妹の私も、それを良く知っている。

兄は、私の向かい側のソファに、足を広げて座った。座り方は、父とそっくりだ。


「・・・それとも、本当にオマエ、レズビアンの世界にどっぷりなのかよ。結構、広まってるみたいだぞ、例の噂。」


妹のよくない噂を心配する兄。


「兄さん。噂は噂よ。それから、私、結婚する気無いの。それだけの話よ。

 父さんからも同じ事言われたんだけど、親子揃って何かのキャンペーン?」


兄の心配は、妹には届かない。

なぜなら、心配されても、妹はこの状況にちっとも、困っていないから。



「茶化すなよ。・・・父さんはともかく・・・母さんが、凄い心配してるんだよ。

また、家が荒れても、俺は知らないぞ。」



兄は、ありがたい忠告はしてくれるが、助けてくれた例は無い。



「オマエにも、色々事情があるんだろうけどさ…母さん達を悲しませる事は、するなよ。

オマエ一人で生まれて、育って来た訳じゃないんだからさ。

…なんか、相談あるなら、のってやるから。」



兄は、いつだって正しいことを言うが、私は救われた例は無い。



「俺は、オマエの兄貴だからさ…何かあったら言えよ。」



兄の事は好きだ。

だが、いちいちつまらないから、話したりしていると、疲れる。



「・・・オマエ、レズじゃないんだろ?」



私の家族は、つまらない。

だから、一緒にいるのが・・・・・・・苦痛だ。



「やあねぇ・・・兄さん・・・」



つまらない人生から抜け出せないのなら・・・

せめて、少しでも面白く生きていたいと思い、行動するのは、我侭なのかしら?





「今はね・・・レズじゃなくて、ビアンって言うのよ?兄さん。」





そう言って笑った私の顔を、兄は父と同じような…まるで不思議な生き物でも見るような目で私を見ていた。




「・・・・オマエ、普通じゃないよ。少し休暇とるなりして、頭休めろ。」



言葉を失いかけた兄は、そう言って逃げるように部屋を出て行った。


私は、というと。


いつも通り、顔を洗い、着替えると、メイクを軽く済ませて、Lルームへと向かった。




Lルームのドアをそっと開けると、話し声が聞こえた。




「では・・・業務に参加出来なくて、申し訳ありませんでした。

 ・・・はい、ありがとうございます。それでは、失礼いたします・・・・。」



昨日は苦しみ悶えていたせいで、声が掠れ気味だったが…随分と落ち着いた声で、事務的な会話をしている。

話し相手は、おそらく会社か。


携帯電話をパタンとたたむ音が聞こえ、独り言がぽつり。



「…あぁ…タバコ吸いたい…」



病院の個室とはいえ、随分と自由な患者さんだこと、と私は思った。

しかし、助かった。喫煙者なら、あの部屋で、タバコが吸いやすい。


「・・・困りますね。水島さん。」


そう声をかけると、水島さんはびくっと反応した。

そんなにビクつく事も無いだろうに、小動物のような反応。


「病院ではタバコも、携帯も決められたゾーンでやってもらわないと。

 ・・・というか、タバコは病院以外でも止めた方が良いですよ。」


医師らしい事を、一応言ってはみるが、頭の中でオマエがいうなよと、私は、私自身にツッコミを入れていた。


では次は、医者らしい事をしておくか。


「・・・水島さん、診察しますから。横になって下さい。・・・はい、失礼します。」


患者着を脱がせようとすると、少し水島さんは体を捻った。

恥ずかしがる事は無い身体だと思う。

よく運動しているようで、筋肉が程よく付いている。健康的な身体だ。

そんな彼女が虫垂炎とは・・・運が悪かったのだろう。


「あ、あのッ…!?ちょ、ちょっと!…せんせ…」


やけに慌ててる・・・水島さんは物凄く焦っていた。

・・・25歳の女性でも、こんなに恥ずかしがるものだったかしら。



「・・・すぐ終わりますからね。・・・・・・うん、よし。」


ぽかんとしている水島さんの表情。

さっきまで、あんなに焦っていたのに…。診察、軽すぎたのかしら?


「………どうかしました?水島さん。」


「・・・え、あ・・・いえ・・・なんでもないです。」


水島さんは、そう言って誤魔化すように、薄ら笑い?を浮かべていた。


うーん、まだどういう人かわかりにくいわね…。

彼女、ちょっと、変わってるのかしら。だとしたら、大歓迎。ますます興味深い。


じっくり話してみたい。


(とその前に・・・)


私は、白衣の中のタバコの箱に手を伸ばした。


「…タバコ、結構吸われる方ですか?」

「えと…まぁ…それなりに…」


タバコの話を持ち出して、私はこの部屋で堂々とタバコを吸える状況に持っていった。


「あ、あの・・・先生・・・?」


「…吸います?健康を害する恐れありますけど。」


ぽかんとする水島さんに向かってニッコリと笑って、私はタバコを差し出した。

水島さんは、ゆっくり立ち上がり、私のタバコを一本、口に咥えた。


「いただきます。」


「…まあ、素直な患者さんだこと。」


思ったとおりに事が運んでよかった。

私は、煙を吸い込み、窓の外へ煙を吐いた。

隣に立った水島さんは、切開した腹部をかばうように、軽く煙吸って、煙を窓の外に吐いていた。


「・・・ん、メンソールタイプですね。」

「普段は何を?」


「マスタングです。」

「あぁ、アレね。」


私は一回チラリと横目で水島さんを見た。

どうやら、水島さんは、必要な事以外あまり喋らない人のようだ。

先程、触診の時、あんなに慌てていたのに、今は何事も無かったように落ち着いている。

寡黙で、不思議な雰囲気の女性。



彼女に…何から聞こうか。

興味が先立って、上手く頭が回らないかも。




 『オマエ、普通じゃないよ。少し休暇とるなりして、頭休めろ。』




「……この女、普通じゃない、と思ってます?」



ふと私は、そう聞きたくなった。


彼女から、私がどう見えるのか。

初見で、こんな事を聞くなんて、もうこの時点で普通じゃないかもしれない。


「・・・・・・・・・。」


私の問いに彼女は、視線を窓の外へと向けたまま、答えなかった。

その沈黙は”肯定”という意味だろうか?


そう、もしも、私が普通じゃないのなら…


「・・・…普通って、何でしょうね?」


私は思わず、そんな言葉を漏らしてしまった。



しかし、その言葉に水島さんは答えることもなく、タバコを吸っていた。


・・・もしかして、彼女は・・・私の話には、興味ないのかもしれない。

私の”普通とは何か?”の談話よりも、彼女には気になる事があるようだ。



「…こんな所で医者と一緒にタバコ吸ってて、いいのかな?って顔してる。」


開けた窓のふちに肘をついて、私がそう指摘すると彼女は

「……普通、そう思いますけど…良いんですか?」と答えた。


そして、タバコを吸い終わりそうな水島さんは、あたりをキョロキョロし始めた。


「…良いんですよ、それに”共犯”ですもの。…ただし、窓は開けて吸わないと、バレますからね?

 ああ、これも普通、言わないか。」


そう言って、私は携帯灰皿にタバコの吸殻を入れ、水島さんの方へ向けた。


吸殻を入れた水島さんは、一瞬動きを止めた。

不自然な沈黙の後、彼女は静かに口を開いた。


「先生。」

「…はい?」


「普通だろうと無かろうと、感謝してます。

盲腸切ってくれた上、タバコまでくれましたから。・・・ありがとうございます。」


淡々とした素っ気無い返答。


だが私には、好感を抱くに十分な返答だった。

しかも、先程の私の”普通とはなんでしょうね?”の問いにも、さり気なく答えてくれている。




「・・・あ、そうだ。先生、ここ、猫いるんですよね?」


「・・・・・・・はい?猫?」


突然、水島さんがそんな話を始めた。

少しだが、彼女の表情がうずうずと楽しそうに見える。



「看護師さん達が言ってました。先生、猫、飼ってらっしゃるんですよね?

 もし良かったら、触らせてもらえないかなぁ…とおも・・・」



私が?猫を?病院で?


(・・・・・・・ああ、そういう事ね。)


謎は、すぐに解けた。

解けたと同時に、私は沸きあがってくる笑いを堪え切れなかった。


・・・確かに、噂通りならば、ネコがこの部屋にいる事に間違いはない。

ああ、噂は本当に蒔かれているのだな、と実感した。

別に慌てて隠そうとも思わない。


ただ、ただ・・・笑いがこみ上げてきた。


「・・・く・・・くくくっ・・・・あはっはっはっは!!」




笑いすぎて、時折よろけて、ベッドに顔を埋めたり、しばらく大笑いしていた。


ひとしきり笑った後、疑問だらけの水島さんに、私は説明した。

そして、彼女から”マスタング”を貰い、再びタバコを吸いながら話し込んだ。




「…じゃあ・・・猫というのは・・・?」


「ああ…ネコっていうのはね、レズビアンで受身の女性の事。まあ、本物の…動物の猫も好きだけどね。」


「…へえ…」


「・・・引いた?」



「あ、いえ。単に・・・肉球、触れないんだな、と思って。」


水島さんは、残念そうにそう言った。

やはり、この人は、期待通りの人だ。



「どんだけ猫好きなのよ・・・くくく・・・」




人の話に食い付いても、話題を広げることをしない。

人の話に乗って、その人に好かれようだなんて考えもしない。

そうだ、この人は、人に興味が無いのだ。


それなのに、私にはそれがちっとも”欠点”に見えない。

私も同じだから。

人を患者としか見ることが出来ない人間・・・。人に興味が無いのだ。



「…普通、ですよ。」



彼女は、そう言った。それが冗談かどうかは知らないが、それは違う。

彼女は”普通”とは違うと私は思った。

だから、私はこんなに興味がわいて止められないのだ。


Lルームの真実と私の事情も、ここまで話す予定は無かったが、私は話した。

話した上で、彼女にこの個室にいて貰って、話し相手になってもらえないかとも提案した。


人に興味が無いなら、断られる可能性もあったが、彼女は快諾してくれた。



「いいですよ…個室にしてもらって、私は助かってますから。」


「・・・・・・・・え?」


「人嫌いなんです、私。」



ああ、やっぱりか。と思い、私は苦笑した。


「・・・あらまぁ・・・じゃあ、似てるのね。私達。」


しかし、それはすぐに否定された。


「・・・いいえ。」

「・・・え?」



「先生は、人に興味が無いだけです。

私は人に興味もなく、人が嫌いであって…先生はきっと、人嫌いじゃないです。

だから、似てませんよ。ちっとも。」



似ていない、と言われて・・・私は、少しがっかりした。

それは、人嫌いになりたいという訳ではなくて。


またしても、ハッキリ突きつけられた気がしたのだ。


私は只の人に興味が無いだけの女で・・・貴女の人生はつまらないままなのだ、と。



・・・面白い人間に会えると、つい、勘違いしてしまいがちになる・・・。

・・・私の悪い癖。


しかし、水島さんは、面白い人だ。


従姉妹と同じ”人嫌い”なのに…全く刺々しさがないのが不思議だ。




Lルームを出ると、私は仕事に戻った。



同じような白い壁の廊下を行っては、戻りを繰り返す。

バタバタしているうちに、時間は面白いようにあっという間に過ぎていく。

さすがに疲労は隠せない。




・・・だが、彼女への興味が失せる事は、なかった。


水島さんの個室に複数の女性達が入っていった、という話を聞いたからだ。


看護師達は、Lルームに溢れかえる女性達を見て、いつも以上に騒いでいた。

部屋が部屋だけに、か。

それとも、水島さんが女性達を惹き付けるのか…。


私がタイミング悪くLルームに遊びに行っていたら、トラブルになっていたかもしれない。


あの人嫌いの水島さんに、たくさんの女性がお見舞いに来ていた、というだけの話だが…。


…似たような状況に置かれている人物を私は知っている。


…それは水島を”生贄”と呼んでいた…従姉妹だ。



あの2人の共通点は『人嫌い』。



(・・・いや・・・本当にそれだけの話、なのだろうか。)


仕事の合間に、不謹慎にも私は考え続けていた。

従姉妹といい、水島さんといい・・・彼女達を見ていると、私の心は躍った。



(・・・にしても、テンション上がり過ぎよね・・・私ってば・・・)



バタバタしていた診察が終わり、仕事が一段落ついた。


案外・・・兄の言うとおり、今の私の頭だけは、普通じゃないのかもしれない。


化粧室で私は、顔を洗おうとドアを開けた。


すると。



「・・・・・・」



生きているうちに、見られるとは思ってなかった光景が、そこに。




「・・・っ・・・ぁ・・・」



トイレのドアにもたれるように、寄りかかり、ナース服を乱した柏木晶子が。

ナース服を乱しているのは、紛れも無い・・・私の従姉妹(人嫌い)だった。

柏木は、従姉妹に触れる事なく、ただドアにもたれかかり、辛そうにガリガリとドアを引っ掻いていた。

従姉妹は、従姉妹で柏木の右太腿をさすりながら、首筋に歯を立てていた。


私の姿に気付くと、柏木さんは小声で「火鳥さん」と声を掛けた。

・・・しかし、従姉妹は全く動じる事もなく、ゆっくりと、首筋から唇を離した。



「・・・あら、忍姉さん・・・タイミング悪かったわね。」


・・・確かに。



「・・・柏木さん、仕事中よ。行きなさい。」



私がそう言うと、柏木さんは従姉妹の顔を見た。

従姉妹は、私には聞こえないくらいの小声でボソリと柏木さんに何かを呟いた。


そして、柏木さんは私の傍らを、駆け抜けていった。

柏木さんの首筋にはうっすらと、歯型が見えた。



・・・いつも健康的に笑っていた彼女だが・・・あんな艶のある顔も出来るのね・・・。


というか・・・


彼女・・・そっちの気、あったのね・・・意外すぎて、全然気付かなかったわ・・・。

確か、彼氏いた筈よね……ま、いいか。色々あったんだろうし…。



私は、まっすぐ洗面所に向かうと、水を出した。

冷水で顔を洗い、手にしていたタオルで拭き終わり、鏡越しに従姉妹をみた。


「世間って狭いわねぇ。」


・・・従姉妹は、やはり笑っていた。


「・・・こちらこそ、人嫌いの情事を目撃できるとは思わなかったわ。しかも職場でね。」


私は私で、チクリと言った。人の職場で何をしているんだと言う権利はある。

人の職場で何やってんだ、と私は従姉妹にも柏木さんにも言いたかったが。

何やってるかは、本人たちが一番わかっていることだろう。


だから・・・従姉妹も私も、特に慌てる事は無く、会話をしていた。



「別に。したくて、してる訳じゃないわ。……あーぁ…なんかついてる…。」


笑ったかと思えば、不快な表情…ボヤキながら、従姉妹は指先を洗っていた。


「性にだらしない10代の女の子みたいな事、言ってるんじゃないわよ。

 ・・・・・・やっぱりね。」



「・・・やっぱり?」



「…柏木さん、貴女の事、知らないって言ってたけど嘘だったのね。」


再びチクリ、と刺してみる。

しかし、そこはさすが従姉妹。笑って私にこう言った。


「…聞かれたら、そう言うように”調教”したからよ。」



しかも、従姉妹はワザと、不快に聞こえる単語を強調して言った。



「・・・私てっきり、貴女は、水島さん目当てだと思ってたのに。柏木さんだったんだ?」


挑発しているのか、嫌味な言い方が染み付いてしまったのかは知らないが、私は聞きたいことだけを口にした。



「・・・フン・・・さあね?・・・アタシが水島目当てだって言ったら、協力してくれる?忍姉さん。」


手を洗い終わると、断りも無く、従姉妹は私のタオルで手を拭いた。


…水島さんの何が目当てなのだろう…従姉妹の事だから…金か?それとも、また仕事絡み?


・・・まさかとは思うが・・・”水島さん自身”が狙いか?


いずれにしても。


「・・・どうやら、キューピッドになれって相談じゃなさそうね。

それに私の担当患者を、悪魔の慰みモノになんて出来ない相談よ。傷口開いたら、大変だもの。

口説くなら、自分で行きな・・・」



「アイツの情報が欲しいのよ。」



従姉妹の口調が、鋭くなった。




「・・・まずは、お友達になってくださいって言ってみたら?彼女、話してみると、素っ気無いけど、良い人よ。」


こちらも語気を強める。

水島さんの何が狙いかは解らない。彼女に何かがあるのなら、私だって知りたい。

”はい、そうですか”と簡単に、第三者に個人情報は流せない。



「下らない冗談は止めてよ。時間が無いのよ、アタシ。

 …何でもいいの、例えば…アイツの弱み、とか。何か聞いてない?」


・・・なるほど。柏木さんに手を回したのは、この為か・・・。


それにしても、柏木さんも柏木さんだ・・・こんな手に引っかかるなんて・・・。

柏木さんには、やっぱり私の忠告の釘なんて、刺さってもいないらしい。


「知ってたとしても・・・水島さんは、私の担当患者よ。

 彼女のプライバシーに関わる事は教えられないわ。知ってる?”守秘義務違反”になるの。」


「・・・フン、どうせ・・・親告罪でしょ?」


※注 親告罪・・・告訴が無ければ罪にならない罪。

    この場合、秘密を漏らされた被害者の水島さんが訴え出なければ、秘密を漏らした烏丸さんは罪に問われない。

    間違ってたらゴメンね!(コラ)




「・・・それでも、ダメ。柏木さんも同じよ。変な事させないでよね。

 ここは、医療の現場よ。」


「・・・フン、それがLルーム作った女医さんの台詞?

 それが、つまらない人生を面白くする為の貴女のやり方?」


従姉妹は私の後ろから抱きついて、私の頬を撫でた。


「!・・・ちょ、ちょっと・・・!!」


指で、柔らかく撫でる従姉妹。

触り方に余裕が伺える。慣れているようだ。


従姉妹は・・・こんな事までするように・・・

柏木にも同じような事をしたのだろうか・・・。


私の耳の奥に響く、従姉妹の囁く声。



「ねえ忍…覚えてる?アタシが”家を出ればいい”って言った時…

忍は、アタシに抱きついて『ここから連れ出して』って泣いたわよね?」



その言葉を聴いた瞬間、私は心の底から震えた。



「・・・覚えてたの・・・?」



従姉妹は、鏡の中でにこりと微笑んだ。



「・・・勿論よ。あの時は、アタシ一人で家を出るのが精一杯だったけど・・・

 ・・・今は、違うわ。貴女を檻から出してあげられる。」



彼女は、すっかり忘れているのだと思っていた。

その言葉をどんなに待ち望んだだろう。



その言葉が、私にとって、どんなに・・・どんなに嬉しかったか・・・従姉妹は解らないだろう。




「・・・つまらない人生をおくる必要なんて、ないのよ・・・忍。



 だから・・・力を貸して。」





・・・そう・・・貴女は、もう、わからないのね・・・。


私まで、利用しようとする貴女には。



・・・きっと、永遠に・・・。




・・・私が、その言葉を待っていた理由も・・・私の気持ちも・・・。




「・・・・・・・・断るわ。ここ、Lルームじゃないし。」




私がそう言うと、やはり鼻で笑って従姉妹は離れた。




「・・・やぁねぇ・・・レズのふりしてる人嫌いの忍姉さんに、色目なんか使って、効果なんかある訳ないじゃない。解ってるわよ、そのくらい。」



従姉妹は、やはり笑って、ぷらぷらと手を振っている。

奥歯に力が入る。湧き上がる感情を、優秀な理性が抑える。



「・・・柏木さんに、変な事させないでね。彼女、とても優秀なナースで・・・とてもイイコなんだから。

 何をさせたいのか知らないけど…ほどほどにしておきなさいよ」



私は、再度釘を刺した。



「他人の気持ちなんて、考える必要なんかないわ。どうせ、お互いわかりゃしないんだから。」


人嫌いの従姉妹の理論を、面白く思っていた。

家族ですら、解らない事が多いのだ。あちらが理解してくれないのに、こちらがいちいち考えていたら、疲れるのは自分だけ。

確かに、そうだ。


だが。


「・・・わからない、で済ませて・・・理解を捨てるの?」



「だから、理解なんかする必要ないって言ってるじゃない・・・ま、いいわ。

協力してくれる気になったら、連絡して。それなりのお礼はするわ。・・・損は、させない。じゃね。」


従姉妹は、そう言って笑いながら、出て行った。




一人残された私は、鏡の中の自分を見て、睨んだ。

殴りたい衝動に駆られたが、鏡が割れてしまう。




・・・私の理性は、残酷なくらい、優秀に働いてくれる・・・。














「…で。何の騒ぎだったの?」

「…え?」



夕方、私はもう一人の人嫌いの女性の元へ。



私の中の好奇心は、まだ死んではおらず・・・。


診察しながら、昼間に彼女の部屋に来たらしい女性軍団の話をしてみた。


すると、彼女の顔は曇り、窓の外を見ながら、素っ気無い返事を繰り返したので、それ以上聞くのは止めた。

目も気のせいか、どんどん淀んできているように見えた。

さっきの鏡の中でみた、私の目に似ているような気がした。



診察を一通り終えた所で、私は窓を開けてタバコを吸った。


彼女と私は再び話を始めた。

思い切って、レズビアンかどうかも聞いてみたが、やはり人嫌いには、性癖も何も関係ないようだ。

友人だと思っていた女性軍団も、水島さんからすれば、そうではないらしい。


彼女達が自分の周りにいるのは、一時の流行だ、と彼女は表現した。


その表現は、面白い。と私は思った。


ただ・・・



「……なんか…相当、辛そうね……やっぱり…”人嫌い”だから、ああいう人達苦手?」


ウチの従姉妹ときたら、胃痛持ちに昇格だ。

しかも、人嫌いのくせに・・・自分の目的の為に、親戚の職場で、女性と情事に励むようにもなってしまった。



「ええ。…その…人嫌いのせいで、こんな事に……」


タバコを吸いながら、彼女は苦笑いを浮かべていた。



「…こんな事って…どういう事?」


好奇心の塊の私は、失礼覚悟で食いついた。


「あぁ、いや・・・。」

やはり口篭る水島さんに、私は子供が寝る前、大人に絵本を読むのをねだるように、粘りに粘ってせがんだ。


「ねえ、聞きたいわ。…聞かせてくれたら…サービスするわよ?」

「……なんですか…サービスって…。」


顔を引きつらせてはいたが、やがて彼女は私にこう言った。


「じゃあ…冗談だと思って聞いて下さいね…。」


「…少なくとも、貴女にとっては、冗談じゃない出来事、でしょ?前置きは良いから、早く。」


そう言うと、水島さんは咳払いを一つして、語り始めた。


「…始まりは、電車の中で、女子高生に、その…告白されて……」

「へえ…電車の中で?乗ってる最中に?」


「ええ…他の乗客も勿論いましたよ…それで…そこから…女性ばかりに好かれる人生になってしまいまして。」


「・・・へえ?」


「で・・・原因は、呪いのせいだったんです。・・・縁切りって名前の呪いらしいんですけど。

 今まで、人との縁を選り好みしてきたせいで、縁自体に邪気が溜まって・・・」


なんだか、話の方向が変、と感じた私は、一旦ストップをかけた。


「・・・待って。それ・・・えーと・・・なんていうの・・・」


すると、水島さんは”ほら、言わんこっちゃ無い”と言いたげな顔をして言った。


「冗談だと思って聞いてくださいね…?」


「え、あ・・・ごめんなさい、聞くわ。」


私は、話の腰を折ってしまった事を詫びて、ベッドに座った。


(・・・・ん?)


その時、私はベッドに違和感を覚えた。

・・・シーツの一部が出ている。そして・・・自分のお尻の下に、僅かながらの違和感も感じる。




「…とにかく、私はその呪いのせいで『女難』に見舞われるようになったんです…

 つまり、ややこしい女性ばかりに好かれるようになってしまいまして…。

 どこへ行っても、何かしら女性に関わるトラブルに見舞われて…事件に巻き込まれるのは日常茶飯事。

 ストーカーに監禁されたり、溺れた女性を人命救助せざるを得なくなったり、メスゴリラにとっ捕まったり…

 ああ、そうそう・・・レディースに捕まって、連行されて…」



なんて面白い人生なの…素直にそう思ってしまった。

お尻の下の違和感は、彼女の武勇伝(?)で頭から吹っ飛びそうになった。

時折、笑いたいのを堪えつつ、私は話を聞いた。



苦労の連続だったのだろう・・・水島さんの話す声のトーンは落ちていく一方だった。



「…すごい、ラインナップね…」


「でも、それだけじゃないんです。この呪いを解かないと、死んじゃうらしいんですよ。」


「・・・じゃあ、どうするの?」


「・・・自分の歳の数だけ、自分の心から、その・・・アレしちゃった人と・・・その、一晩で・・・その・・・」


そう言って、口篭り、手をパンパンと叩く水島さんを見て、私は察した。

 ※注 意外と乙女な部分を持つ水島さん。


「要するに・・・1晩に自分の歳の数だけ、恋人とSEXしろ、と。」

 ※注 忍さんは、その手の話でも、全く気にしないタイプ。
 

「・・・あぁ、言っちゃった・・・まぁ、そういう事です。」


「・・・なるほど・・・でも、それなら男性でも別に・・・」


「…人間嫌いですから…そういう訳にも。それに、呪われてから女性しか周囲にいないんで。」


「へえ…」



そこで、私の頭にひらりと、何かが舞い降りた。



(・・・まさか・・・ウチの従姉妹も・・・?)


・・・だとすれば、あのコのストレスの原因にも、一応納得がいく…。

じゃあ、さっきの情事は、柏木さんと儀式していたというのか?


もう既に相手がいるのなら・・・何故・・・水島さんの情報を集める必要があるの・・・。


水島さんの弱みを握りたがっていたのは・・・どうして?


人は利用するのが基本のあのコが…数日前は柏木さんを、強く拒否していたのに

今日は、柏木さんとあんな事までしていた…。

…何か裏があるとしか思えない…。


もしも・・・あのコが、柏木さんを利用して、水島さんに何かしようとしているのなら・・・。



(・・・・・・まさか・・・・!)





…ベッドの違和感は、後で調べよう。…水島さんに、知られないように。




「…それで、水島さん…」


「はい?」


「そういう人、いるの?形だけでも儀式とか…普通は考えるんじゃない?」



私は水島さんの気を逸らそうと、聞いた質問に、水島さんは即答した。



「いいえ。私は…誰かと儀式?っていうんですか…そんな馬鹿な事しようだなんて、どうしても思えなくて。

 形だけの行為なんて…その人を、儀式の道具に利用するみたいで嫌だし…他の方法を模索してます。」



「・・・・・・あるの・・・?」


「わかりません。やるだけやってみないと。」




ああ・・・そうか、わかった・・・



彼女が、この病院に来た時に感じた不思議な感覚。

私は、ずっと・・・水島さんは従姉妹に似ているのだと思っていた。



私に『家を出ればいい』と言い放った、あの頃の・・・

私が好きだった頃の従姉妹を、私は水島さんに勝手に重ねていた。



水島さんは、確かにあのコと似ているが・・・似ているだけで、全く違っていた。



彼女は・・・水島さんは、違う・・・。



「第一、人と恋愛関係なんて…私にはどうしても無理としか…。」

「・・・どうして、そう思うの・・・?」


違う。



「だって、呪いのせいですよ?私が好かれているのは。・・・呪いが解けたら、きっとそんな気持ち消えますよ・・・。」

「・・・・・・。」


・・・違う。





「私なんか、呪われただけのつまんない女ですから。

こんな女と過ごすより、もっと良い時間が・・・ある筈ですから。相手も私も。

なんて、女難から逃げ回ってる癖に、こんな事言うのは、偽善ですかね・・・はははは・・・。」



そう言って、水島さんは苦笑していた。

水島さんは、自分自身を笑っていた。



「・・・・・・。」




・・・どうして・・・


・・・どうして・・・貴女みたいな人が、そんな事を言うの・・・?




違う。



貴女は・・・違うわ。




大きな声で否定したかった。




・・・貴女は・・・違う。


・・・私とは、違う。

・・・火鳥とも、違う。




そんな風に自分を嘲笑う必要なんかないのよ。





私は再び、窓際に立った。




「…で、さっきのが…その…女難の人達って訳ね?」


声が震えていないか、私は恐る恐る口を開いた。



「…ええ。」


「…ふうん…医師の立場から、言わせて貰うと…心療内科を勧めるところだけど…

 私、個人の意見は…考えすぎじゃないかしらね?」


「・・・そうですね。気のせい、かもしれませんね」



私は、タバコの煙を思い切り吸い込み、吐き出した。



「いや、そうじゃなくてね…。水島さん、忘れてない?…私も女よ?」


「・・・・・・・・。」


「でも、何もしてないでしょ?」



「…ええ。でも…実を言うと…警戒してます。貴女の事。」




きっぱりと、彼女は言い切った。やはり、正直な人だ。


私は髪の毛を耳にかけながら、笑った。



「私が、貴女の女難になるかって?・・・ふふふ・・・本当に正直な人ね。」


「…失礼は承知の上ですけど…一応。」


水島さんは、私が預けた携帯灰皿に、タバコの吸殻を入れた。




私は、彼女に向けて宣言した。





「・・・好きにはならないわ。」





「・・・はぁ?」



私は、そのまま視線を、再び窓の外へ移した。




「…だから、貴女の事、好きにはならないわ。ここまで話聞いておいて、私が貴女に好きだなんて言ったら

 それこそ、貴女を怖がらせるだけでしょ?馬鹿みたいじゃない。」






私は決めた。





「だから例え…そう、これは”例え”よ?


 …例え、私が、貴女を好きになっても、絶対に好きだなんて言わないわ。」






・・・絶対に言わない、と。






「…信じてくれても、くれなくても良いけどね。…私、貴女みたいな人と知り合えて、人生豊かになったわよ。

 多分…そこは、女難の彼女達と一緒、かな?」


「…豊か、ですか…?」



「…貴女、面白いわ。私の周囲には、いないタイプだし。」



「・・・・・それ、褒めてます?」


「うん、褒めてる褒めてる♪」




水島さんは、立ち上がり窓の傍へ来ると、タバコを口に咥えた。

すれ違うように、私はベッド側へと移動した。


背中を向けている水島さんが、火をつけようと、ライターをカチカチ鳴らしていた。


私は、素早くしゃがみ、先程のベッドの”違和感”の元へ手をつっこんだ。



(・・・これは・・・盗聴器・・・・!)


これが、弱みを握る為の方法か?ふざけている。

・・・先程までの会話は、従姉妹サイドに筒抜けだ・・・。


私は、とりあえず、盗聴器をポケットの中に入れた。



「・・・水島さん。」

「はい?」


私が声を掛けると水島さんはゆっくり振り向いた。

窓の風が彼女の髪をふらりと舞い上げる。



・・・もう一つ、解った事がある。


水島さんは、十分・・・綺麗な女性だという事。



私は、白衣のポケットに手を突っ込んだまま、笑った。



「・・・いつでも力には、なるわ。”友人”として、ね。」


「・・・え?」



「それくらいなら、多少は、結んでも構わないんじゃない?・・・貴女の嫌いな”人間関係の縁”ってヤツ。」


勿論、人嫌いの彼女が、簡単に、この提案にのって来るとは思えない。

だから、私はこう付け加えた。


「…私は、貴女を利用してレズを装ってる。貴女も私を利用していいのよ。」


しかし。


「…烏丸先生の事情に”協力”はします。けれど・・・私は、一人で大丈夫です。」


「あらまぁ・・・頑固ねぇ。」


・・・うーん・・・なかなか・・・難しいわね。


(他に、女難以外の存在として彼女の傍にいる為には・・・)



そう考えを巡らせる私に対し、水島さんは言った。



「私…友人関係は…利用じゃなくて、協力だと思いますから。」



言い終わると、水島さんは私から目線を逸らした。

その目は、強い意志の持ち主だと・・・私には、それが解った。



「・・・・・なるほど。覚えておくわ。

 ありがとう・・・水島さん。」




こうして・・・私は、水島さんの”友人”になった。




(・・・さて・・・退屈を解消する事より・・・やるべき事が出来たわね。

 ・・・こんな私にも・・・ね。)



私は、病院の廊下を早歩きで進んだ。








「・・・どういう事なの?犯罪よ。柏木さんに、させたの?それともあの日に貴女がやったの?」


私は、その日の深夜、病院の屋上から、携帯電話で従姉妹と連絡を取った。


『ふぅー・・・・・やれやれ・・・使えないかもとは思っていたけど、本当に使えない女だったわね・・・』


落ち着き払った声で、従姉妹はそういった。


「・・・一体、何考えてるの?・・・犯罪よ。」


『・・・落ち着きなさいな。これは、水島とアタシの問題なのよ。

 聞いたでしょ?女難の呪い…アタシは、水島と儀式したいのよ。

 勿論、アタシはヤツの事なんか好きじゃないわ。ヤツもアタシを嫌ってる。』


「・・・でしょうね。」


『だけど。女難同士だと、惚れただなんだの余計な感情抜きで、儀式出来るのよ。

 どっちも、呪われてるし、人嫌いだからね。』



「・・・だったら、柏木さんを巻き込まないで、せめて自分でやったらどうなの?

 大体、水島さんに、何をしようとしてるの?」



『・・・馬鹿に、水島に入れ込むじゃないの。・・・まさか、惚れた?』



「貴女・・・!」



檻から出られない私の元から、去っていった従姉妹。


彼女には、檻から出られない私の分まで、自由に人生を生きて欲しかったし

彼女が家を出たと聞いた時、自分の事のように嬉しかった。


自分の為に、突き進む彼女。私に出来ない事を、従姉妹はやってみせた。

檻を壊した力と意思に、私は憧れた。


それを、私は面白いと思った。


だが、彼女は・・・変わりすぎてしまった。

いや、私が変わってしまった部分に、気付かなかっただけかもしれない。





・・・私は、あのコが好きだった。

それが恋愛感情だったのかどうかは、今となってはわからない。



彼女と同じ世界に、身を置いていたかった。

自分から抜け出そうともせず、誰かに手を伸ばす事もしなかった。


従姉妹が、連れ出してくれるのを、待っていた。


でも、従姉妹は・・・私を、烏丸忍を利用する事はあっても、檻から連れ出す事は、永遠に無い。



どうせ出られない。檻から出るのは、もう諦めた。







・・・だけど・・・・・・檻の中にいても・・・人には出会えた。






私にも、従姉妹にも持っていないモノを持つ、彼女に。



きっと・・・・・私が会いたかった面白い人は、彼女だったのだ・・・。



だから・・・例え、この想いを口に出す事が、出来なくても構わない。



私は、彼女を・・・彼女の世界を見ているだけでいい。






・・・私は・・・彼女を・・・





「・・・私が好きなのは、貴女よ。」




『・・・・・・・・・・・はぁ?』



「どうせ、水島さんとの会話、聞いてたんでしょ?私が好きなのは・・・貴女だからああ言ったのよ。

 貴女の為なら、なんでもするわ。・・・だから、柏木さんなんか使わないで。」





『・・・・・・マジで言ってるの?忍ねーさん?』



電話の向こう側から、従姉妹の笑いがこぼれている。

・・・良い兆候だ。



「・・・私が好きなのは・・・貴女よ。さあ、言って頂戴?私は、何をすればいいの?」







・・・伝えるだけが、相手を想う事じゃない。


伝えないからこそ、良い想いもある。



本当の気持ちは、伝えない。

大事な言葉は、伝えない。



決して、それを、言葉にはしない。







だから。









  ・・・私が、貴女を好きになっても、絶対に好きだなんて言わないわ。











  ー 水島さんは治療中〜烏丸 忍 編〜 END ー



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あとがき


ええと・・・結論から言うと・・・この話は、火鳥編に続きます。

・・・スッキリを期待してみた方、申し訳ありません!!神楽、限界でぇーす!!(泣)


あれ?先生言ってることとやった結果違わない?とか…

あの写真が撮れちゃった経緯とか…

火鳥さんが柏木さんに”ニャン♪(伏字)”をしていたのか、いないのか!?とか…

というか、火鳥さんそんな事ヤっちゃってるんなら、もう割り切って、25回誰かと出来るんじゃ…


とか思っている方もいると思います。


・・・そういうモヤモヤを、全部握ってるのは、火鳥です。

全部、あの女が握ってます。モミモミしてます。


あの女の視点じゃないと、説明できない事、山盛りですので…写真の件はもう少し引っ張ります。



あと、今回は…

『私が、貴女を好きになっても、絶対に好きだなんて言わないわ。』

・・・の台詞で、どうしても終わらせたかったのですよ〜・・・。


まあ・・・その・・・全体的に、暗くて・・・わかりにくいゾ感は・・・否めず。(苦笑)

精進しまーす・・・。


あぁ・・・それにしても・・・烏丸忍は、今までで、一番書きにくかったです・・・。(泣)