― 日曜日 ―




朝から頭痛がする。


いや・・・あの日から・・・高橋課長との昼食から、ずっとこの調子なのだ。


”女難のサイン”が、まるで嫌がらせのように…私が文句をつけた事に対し

まるであてつけのように、頭にガッツンガッツン響かせている。




・・・イテテ・・・。



・・・わかってる・・・わかってるって・・・。

・・・ごめん、ごめんって・・・文句言って悪かったって・・・。

あなたがいないと、解らないもんね、女難。うん、ごめんね、センサー。


・・・って、なんで私の中の不可解な能力に謝らないといけないんだ・・・!


・・・あっ・・・あいててて・・・ごめん、ごめんって・・・嘘、嘘だって・・・


 ※注  これは、水島さんの独り言です。誰とも会話はしていません。




ほうれん草入りの卵焼きと豆腐の味噌汁、白米、昨日の晩御飯の残り、鳥レバーの煮込みで手早く朝食を済ませた。



今、この時に・・・頭痛やら、憂鬱やらに負けていたら、生きていけない。

しっかりとエネルギーだけは摂らねば…最後にモノをいうのは・・・己の肉体と精神力だもの!


※注 本日も逃げる気満々の水島さん。




本来ならば…朝風呂浸かって、ゆっくり『もっと笑ってイイのに…増刊号』を見ているはずなのだが…

あと、政治関係のジジイの罵り合いを半笑いでみたりとか…。

 ※注 人嫌い独身OLの哀しき日曜日スケジュール。



だが。



本日の私には・・・任務がある。



「…はぁ…」


溜息をつき、タバコに火をつけ、精神を落ち着かせる。


「大丈夫…大丈夫…私はここにいる…大丈夫…諦めない…なせば成る…」


自分に怪しい自己暗示をかける。


服に着替え、バッグの中身をチェック……忘れ物は、無い。



「………さあ・・・行くわよ・・・」


私は、ドアを開け…駆け出した。









  ― いざ・・・学園祭へ!! ―






 ※注 たかだか、OLが学祭へ行くのに大袈裟なオープニングで申し訳ありませんでした。









 [ 水島さんは出演中 −後編− ]









「・・・あーあ・・・来ちゃった・・・」





秋らしい装いの木々を見る余裕もない私は、T女大の門の前で立ち往生していた。

門の向こうからは、私より若い声がわーきゃー聞こえる。




・・・別に、律儀に女子大に来なくても・・・


『当日、母が亡くなりましてぇ・・・うぐっえぐっ(泣)』・・・とかナントカ言って、学祭に行かない手もあったんだろうけど・・・


もしも、嘘がバレたら・・・何がどうなるか解らない。というか、生存している親を勝手に殺すのもなぁ…。

・・・いや、私の中の母は、ある意味・・・もういないに等しいんだけど・・・。



とにかく・・・・私の経験上・・・この女難の呪いを、その場しのぎの嘘で乗り切れるとも思えない。

なにせ、嘘をつく相手が上司なのだし。



今、信用や職を失っては・・・明日が完全に見えなくなる。




「・・・ただ突っ立っていてもしょうがないわ・・・行くわよ・・・!」



”行くわよ”と言っても、私一人しかいないんだけど・・・そういう自分ツッコミを心の中でしつつ。


自分を奮い立たせ、足を踏み出した。



・・・大丈夫だ。この日の為に、ちゃんと最低限の準備はしてきたのだ。



目立たない格好を心掛けたいところだが、黒ずくめの服は返って目立つ。


私はこの日の為に、伊達眼鏡と帽子を購入した。

似合う似合わないは・・・別として。


その他は、いたって普通の20代の女性の格好を心掛けた。


6分袖チュニックブラウスに、ストレートデニム・・・逃げやすいように、履き古したスニーカー。

髪も縛ってあるし、一目で私だと解る要素は無い!・・・ハズ。



どうせ、女難が身に降りかかると言う事は、女子大に来た時点で分かりきっているのだ。


ならば。


発生する女難を片っ端から減らし、逃げて、振り切り・・・。




・・・とっとと帰る!!


いざとなったら、●リーズブートキャンプで培った・・・必殺パンチを浴びせてでも女難を回避してやる!


※注 ビリーズブー●キャンプは、健全なるエクササイズです。

※注2 パンチを浴びせたら、暴行罪です。




一般の方入り口へ行き、私は入場券を見せた。


「はい、1枚お預かりします。」



受付の女子大生は、なんとも若々しい笑顔で私に入場券の半券を私に手渡した。

私の勤めている城沢の受付嬢も、愛想と容姿が良いねと社内の男性に評判であり

愛想と容姿だけはまあまあある方よね、当たり前よね、玄関にいるだけだものと社内の女性にも評判だ。


・・・あぁ、給湯室の醜い事務課の井戸端会議思い出してしまったわ・・・

受付係って、やはり比較的・・・愛想が良い美人が抜擢されやすいのだな、と思う。





「どうも…」


チラリと女子大の中を見ると、屋台などが次々と客を呼び込んでいた。


・・・若い・・・無駄に若い・・・。


爽やかな若さが溢れる女子大の雰囲気に、早くも私は飲まれようとしていた…。



さすが女子大・・・門からして・・・女性で溢れている。

女子大生達が輝いていて、眩しい。



眩しくて………眩しいから、帰りたい…。



「・・・あの、食券はお持ちですか?」

「…はい。」


私の手元には、3枚の食券がある。


・・・大学の屋台の食べ物や飲み物にうっかり手を出したら・・・

その売り子も食わされるか、売り子に食われるか・・・。


…なーんちゃっティ〜☆レモンティ〜♪

















 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


















・・・い、いかんいかん!

考えが後ろ向きになり過ぎて、また下らない戯言を吐いてしまった・・・!

しかも、ギャグレベルが極限に低い…ッ!!しっかりして、私!!来年は26歳よッ!!

でも、良かった…口に出さないで良かった…脳内だけの呟きで本当に、良かった…!!




すると、カーディガンを着た女子大生が私に、食券の説明を始めた。


「大学内では現金も使えますけど、食券の方がお得ですからご利用下さいね。

追加購入する時は、大学構内を回っている食券売りの人間か、ここの受付で買って下さいね。」


「・・・はい。」


へえ・・・ここの学園祭はそういうシステムなんだ・・・。と感心する私に、女子大生は思い出したようにこう言った。



「あ、そうそう、今日はラッキーですよ。」


「はい?(・・・先日からアンラッキー続きなんですけど。)」



「芸能人が来るんですよ♪ミスコンの前に中央のステージでライブをやるんです♪」


「へえ…(・・・お笑いライブでもやるんだろうか・・・)」



「それでですねー」


と女子大生は、受付の席から、すっくと立ち上がり、私の手首を掴んだ。

彼女の目が、意味有り気に細められ…続いて、じんわりと…ある種の”熱”がぞくりと私の掌に伝わった。



「私、もうすぐ受付終わるんでー・・・お姉さん、構内を一緒に回りません?私、案内しますよ。」




・・・はーい、水島選手…位置についてー・・・



「・・・・・え・・・いや、あの・・・(ゴクリ)・・・。」


「・・・構内から、中央のステージが良く見える・・・秘密の場所、私知ってるんですよ。」




・・・『よォーい』・・・。




「・・・いえ、ち・・・チデジ…知人を待ちゃせていますので・・・!」

 ※注 只今、主人公が台詞をカミましたが、地上デジタル放送とこのサイトは何の関係もございません。



・・・・・『ドン』ッ!!



「・・・あっ!」




・・・私は、学祭に来て早々、スタートダッシュをかました。





走る私を女子大生達が、不思議そうに見ていた。

うう・・・視線が、好奇心なのか、不審者を見る目なのか、女難の目なのか、わからん…!




もう朝から続く頭痛のせいで、何が女難なのかわかりませえええええん!!

いや、とにかく走れーッ!走るんだー!私ーッ!

もう光になれーッ!ほ〜ぅら足元をみてごら〜ん!これが私の走る道ってねー!!

光射す道となーれッ!!あははのはーッ!!(泣)



 ※注 只今、水島さんは、毎度お馴染みの混乱状態に陥っております。ご了承下さい。







・・・私・・・今更ながら、ここに来た事を後悔している・・・


・・・そして、ちゃんと帰れるのだろうか・・・。





「見て見て!すっごいね、あの人・・・。」

「ビデオの早送りみたい・・・。」












  ー 40分後。 ー









『只今…T女大マスコットキャラクター”タマミさん”が、ビンゴくじを配っております。

 午後の最後のプログラムには抽選会を行いますので、皆様ふるってご参加下さい…』





学祭らしい、学内放送が響いた。


安い芳香剤の匂いと小さな窓に白いタイルの壁と薄い扉。

華やかな女子大のお祭りに不釣合いな場所で、私は安息の時間を得ることが出来た。




そう・・・私は、大学構内の女子トイレの個室の中にいた。



今や、トイレこそ、私の絶対安心領域…。

見つかったら、逃げ場も無いのだけれど、そこは私の女難センサーに頑張ってもらおう。




それにしても・・・ここに辿り着くまで長かったなぁ・・・。





本日4度目の女難もなんとか振り切る事に成功した私は、自販機でスポーツドリンクを買う事にも成功。


絶対安心領域(女子トイレ)も確保したし、これでやっと、一息つける。

パンフレットで、現在位置も把握できる。よくも見知らぬ土地でここまで逃げ切れたものだ。




自分で自分を褒めてやりたい・・・よしよしよしよーし・・・。



・・・あー・・・・・・・・・・空しい。哀しい。帰りたい。





それにしても・・・まさか、あんな格好で迫ってくるとは・・・最近の女子大生は何考えてるんだ・・・!

さっきの女難について言えば、驚き通り越して、むしろ腹立たしいわ・・・・・・あー疲れた・・・


※注 あれから、水島さんは、3人程、女子大生の女難に遭っていたらしいのですが・・・

    どういう女難かは、皆様のご想像にお任せいたします。ご了承下さい。







「・・・さて、と・・・。」




握り締めてくしゃくしゃになったパンフレットを広げ、私は現在位置を把握した。


本当は、祭も何も関係なく、女子大生ごと張り倒してでも、とっとと家に帰りたいのだが(問題発言)

私には、手ぶらではどうしても帰れない理由がある。





・・・実は・・・高橋課長から、私はとある”任務”を命じられているからだ。







  ー 回想 ー





「そうか、行ってくれるか・・・引き受けてくれて良かったよ。それでね、水島君・・・」


「・・・はい・・・」

 ※注 ↑蕎麦屋のおばあさんに精気吸いとられて(?)水島さんは、気力0。



「宮元君から、コレを渡すように言われているんだ。」


コトリ、と机に置かれたのはデジタルカメラ。


「・・・・・カメラ、ですか?」



高橋課長は、いつものように静かに説明を始めた。


「海さんの写真を撮って欲しいそうなんだ。

 彼女の家族や宮元君も行きたかったらしいのだが、都合の悪いことに

 その日は仕事で行けないらしいんだ…。ついでで悪いんだが、君に写真を撮って欲しい。」


冗談じゃない・・・女難回避するだけでも大変なのに、この上女子の写真を撮れというのか!?



「はあ・・・でも、高橋課長・・・私、素人ですし、撮影には自信がありません。

 (大体課長が行けば良いと思うし。)」
 


高橋課長は、ご丁寧にデジカメの隣に、デジカメの説明書も添えてくれた。


「大丈夫だよ・・・ある程度望遠機能や、手ブレ補正とか色々機能はついているらしいから。

 万が一、失敗したら、僕が一緒に謝りに行くよ・・・。」


静かな声の中に潜む恐ろしいまでのプレッシャーを感じつつ、私はカメラに手を伸ばした。


「・・・はい・・・なるべくお手を煩わせないようにします。

 (一緒に謝るって…それってやっぱり、失敗できないって事じゃないですか・・・泣)」



行く、と言ってしまった以上。

やるしかない。



「いや、プレッシャーをかけるつもりは無いんだ。本当に。

 水島君、写真も良いが、君自身が楽しんで来てくれる事を僕は望むよ。」


「・・・はい・・・。

 (すいません…女難の女は、女子大では楽しめないんです。確実に…)」






   ー 回想 終了 ー




・・・という訳で。


仙人課長の無茶な任務を引き受けてしまった私。



これから私は、海お嬢様の晴れ舞台を盗撮・・・いや、撮影しなければならない事になっている。



今からすべき事は



@ 撮影ポイントの確保。

A これから出現する女難の完全なる回避又は殲滅。

B 海お嬢様の撮影。

C 速やかに撤収。



・・・・の以上だ。



・・・いずれにせよ、高橋課長の望み通りには、祭りを楽しめそうもない。

私の楽しみは、人のいないところにあるのだから…。




…問題は…いかに、女難を回避して、撮影ポイントに辿りつくか…!



私の現在位置は…G館4階…女子トイレ。




この大学の施設は…A〜H館まで。

それがアルファベット順にコの字型に配置されている。


特設ステージは、校舎の外・・・コの字の中央に作られている。





 水島現在位置

 ↓
 ☆ー


| ● ←  ステージ。

 ――



※注 図が、適当すぎてスイマセン。携帯電話からご覧の方は・・・・・・・・・えーと・・・想像して下さい。



…うーん…写真撮影するには、G館はステージから遠すぎる…。


いくら望遠機能がついていると言っても、デジカメの望遠では

海お嬢様”だけ”を綺麗に、失敗する事なく、確実に、撮影するなんて…無茶だ。



・・・もし、撮影に失敗したら、高橋課長と一緒に謝りに行かなくちゃならないし・・・

挙句、孫LOVE☆の城沢会長に怒られて、今度は魂抜けるまで揺さぶられる…!!(かもしれない。)


いや・・・やっぱり権力使って、海外出勤とか、無茶苦茶な人事異動させられるんだろうか・・・

どうせなら、女のいない国に行きたい…いっそ、北極で犬に囲まれて暮らしたい…。

…タロとジロとゴンと一緒に真っ白い雪原を駆け抜けていきたい…


 ※注 どうやら水島さんは、妄想癖がついたようですが、割愛致します。ご了承下さい。





とにかく、いつまでも女子トイレで妄想に浸っている訳にもいかない。

私は、移動しなくてはならない。

何をどうこう言っても、私は海お嬢様をカメラで撮影しなければならないのだ。


海お嬢様が出る『T女ミスコン』とやらが開催されるまでに、撮影場所を確保しなくては。

プログラムを確認すると、ミスコン開催まで時間はある。



・・・進んで行きたくは無いが、行動開始しよう。


チクンチクンと、私の女難センサーは朝から反応し続けている。

きっと時間が経てば経つほど…私の女難フラグは立っていくのだろう…。

あまり長居は出来ない。撮影を速やかに終えて、とっとと帰らねば。





(はいはい。只今、女難の女が、女性をカメラに収めに参りますよっと。)




”・・・ガチャ。”


トイレのドアを開けた瞬間。



「「「「―あ。」」」」



6つの瞳と私の目が合った。

なんと、トイレのドアを開けた私の目の前には、若い女性が3人いたのだ。




”バタンッ!!”




即座に、扉を閉めて、鍵をかけた。


「…ッ!」

(嘘ー!?嘘ー!?ドッキリ!?ねえ!誰か嘘って言って!

 嘘だよって言って笑ってッ!笑えねえよ!)


扉の外から、ひそひそ小声で会話するのが聞こえる。



「ねえ、今の・・・」「…よね?」「…ちょっと……じゃない?」



女性達の会話の内容は聞こえないが、私には聞いている余裕がない。


引いた汗が一気に噴出し始めた。トイレから一歩出たら、女3人だと…ッ!!

アレ、女難?もしかして、女難?・・・きっと女難!うん、そうだ!絶対ッ!


なんという事だっ…ふざけるな…ッ!!


人が考えに耽っている間に、私を取り囲むとは…ッ!!

 ※注 考えではなく、妄想です。




女子トイレという密室…薄い扉の外には女性が3人…!

私は女難の女…こんな事なら、男子トイレに篭るんだった…でも恥ずかしいッ!!


扉を開けて、通路を走り抜けるのは無理だ!

一人なら、まだなんとかなったかもしれないが、3人がかりなんて…●リーパンチ繰り出しても無理だ!!

つまり、逃げ場無しの大ピンチだ!どうする!?



…考えろ…!考えろ…ッ!逃げ道を…!



…逃げ道を…逃げ道を………






私の目の前には、小さな窓に白いタイルの壁と薄い扉…。








・・・・・・小さな、窓・・・・・






 窓 → 外 → 逃げ道。







 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





「・・・ふんっ・・・!・・・くっ!・・・やれば出来る…出来る…ッ!

 なんで諦めるんだ…!大丈夫、出来る出来る出来る…ッ!!」



…こういう時の為の”気合”の言葉を自分から自分に浴びせかけながら、私は移動した。



というか・・・気が付けば、私は小さな窓に足をかけていたのだ。



成人女性の身体がギリギリ通れる大きさの窓を潜り抜けると、足を載せるスペースがある。

それを伝って、壁にぴたりと沿って行けば…トイレからは逃げられるハズだ…!!




細心の注意を払い、足から窓の外へ出ると、私はそっと足を置いた。



(大丈夫…足元も自信も崩れやしない…!いける…いけるッ!!)



4階とはいえ、大学の施設の4階の高さは4階とは思えない程に高い。

いくら妙なテンションでこの状況を打破しようとも、しくじって落ちれば、死ぬ。

主人公だろうと私は只のOLだ。落ちたら死ぬ。


しかし、諦める訳には行かなかった。



口にしっかりバッグを咥えて、私は4階の高さ(体感恐怖6階の高さ。)を移動していた。


「ひょ〜ひ…ひゅんひょう…ひゃふいひゃふい!(良〜し…順調…軽い軽い!)」


やれば出来るって本当だわ…。

OLでも気合があれば…4階の高さでも壁伝い移動が出来る…っ!!






 ※注 水島さんは特別な訓練を受けていない普通のOLです。このSSをご覧の皆さんは絶対に真似をしないで下さい。







そろりそろりと確実に移動している私だが…ふと思った。




・・・そういえば・・・私、どこへ向かって移動しているのかしら、と。(今更。)


大体、私の目的は外は外でも…大学外の特設ステージの上の海お嬢様を撮影!だ。

口にデジカメ入りのバッグを咥え、大学の裏側の縁を伝って歩いている私に、そんな事は不可能に決まっている。


しかも、先程から風が出てきて…風が吹く度に体が揺れる…

下から見る景色と、命綱無しの高所からの景色は、やはり全く違う…!滅茶苦茶怖い!怖いッたら怖い!

なんだか…下を見続けていると、眩暈がしてくる…

…いかん…!…早く、大学構内に戻らないと…バランス崩して、転落死だッ!!


こ、こんな馬鹿な格好で死ぬなんて、嫌だーっ!!


…まさか…これが、女難を避け続けてきた報いなのか?

…ついに、タイムリミットなのだろうか?





そんな恐しさと悔しさと自分への情けなさでギリギリと奥歯を噛みしめていた私の目の前に

突然、白い布がバサアっと現れた。


思わずビックリして体が強張ったが、その白い布が”カ−テン”だと気付いた私は、心底ホッとした。


カーテンが外へ出ている、という事は…そこの窓が開いている!という事だからだ。


私はそうっと窓の中を覗き込んだ。


無人ならばよかったのだが、運勢はそこまでは親切じゃない。

部屋の中には、しっかり女子大生が数名いた。


真剣な顔で女子大生達は、ラムネを片手になにやら相談していた。


「・・・えぇ!?不審者だって?・・・・男?」


「いや、それが…女なんですよ。バッグ持って、女子トイレに篭ってて。

 それで大林達の姿見たら、バタン!って扉閉めちゃったらしいんですよ。」


話の内容がなんとなく…


(・・・そ・・・それって・・・・。)


私は、身に覚えのある出来事に、まさかと顔が引きつった。

思わず顔を窓から引っ込めた。


女子大生達の真剣な話は、続いた。


「…それは、怪しいね。最近は、女が盗撮カメラ仕掛けて、売るって事例があるからね。」

「ミスコン出場者の控え室、一応…見て来ようか?…今年は、水着審査もあるしさ。」

「盗撮DVDなんて、売られちゃたまりませんもんね。」

「よしっ!警備員さんにも頼みに行こうか。その不審女の格好覚えてる?」

「はい。」

「見つけたら、捕まえて、事情聴取ね。」


女子大生達の背中が、映画アルマゲドンの宇宙飛行士のオッサン達のように、たくましく見えた。

…頼もしい限りだ。…女子大生が、そんなにしっかりしているとは思わなかった。


いや、感心している場合ではなくて!



(・・・・・どうしよう・・・。)


・・・・・・私・・・『不審者』扱いされてる・・・。


しかも・・・姿と顔もバレているみたいだし・・・もう、この女子大を普通に歩く事すら出来なくなったぞ・・・!!

これじゃあ・・・海お嬢様を・・・さ、撮影できない…!


こ、困る…それは非常に困る…!



とりあえず、しっかりと床に足をつきたかった私は、大学構内へと入ろうと思い、もう一度窓から覗き込んだ。



今度こそ…人の気配はなく…誰もいない…。


テーブルには、学祭のパンフレットや、無線機器などがあり

飲みかけのペットボトルやお菓子、パックに入った焼きそばやお好み焼きまである。

先程の会話と総合して考えて…

どうやら、ここは学祭の運営に携わっている女子大生の休憩室、と言ったところだろうか。




(とりあえず、転落死の危険は免れたが……これからどうしようか。)


私は、悩んだ。

とにかく私の格好がバレている以上、ノコノコ大学内を歩きまわるわけには、いかなくなった。


・・・・・折角、工夫したのに・・・!


撮影は、もはや無理か。

諦めて、女子大を脱出する事だけに集中すべき…か。


しかし、脱出するにも…今の私は、不審者の女。

着替えるなり、なんなり手を打たないと…捕まってしまう。




そんな私の視界に、とある物体が飛び込んできた。



「・・・・・・これは・・・。」



私は、それを手に取った。

・・・選択肢は、それしか残されていないのか・・・。




”コンコン。”

ドアをノックする音。


・・・選択肢は2つから1つに変わった!

すると、考えるより先に、私の体は動いていた。



”コンコン・・・ガチャ。”


部屋に、眼鏡をかけた女子大生が入ってきた。


「…失礼しまーす…あの、そろそろ”タマミさん”のスタンバイお願いしま…あ、もう準備してるんですか?

うわ〜気合入ってますね〜でも、あくまで、タマミさんは、ゆるキャラですから。

気ぃ抜いてやって下さいね!ヨロシク!」


一気にまくし立てられるように喋りかけてきた眼鏡っこのアドバイス通りに

私は無言で右手を挙げて振ってみた。


「おー♪その調子、その調子♪ゆるいゆるい♪」


眼鏡っこのお墨付きを頂いた私は、とりあえず”タマミさん”としてふるまった。



私は今、T女大のマスコットキャラクター『タマミさん』の中にいる。



『タマミさん』とは…

卵に人間の手足を加え、何も考えていないような目鼻口を書き加えた・・・  

このT女大のマスコットキャラクターである。


・・・キャラクターデザインをした人物には、一言言って生卵をぶっ掛けてやりたい気分だ。


「子供には、愛想良くして下さいね〜♪」

「・・・・・。(右手を挙げている)」


子供とか愛想とか…考えられない。

歩く度に、中の私は蒸れて、暑い。


「あと、決めポーズの”たま〜ミラクル☆”の時は

 両手をゆっくり挙げつつ〜右足を伸ばして、つま先をあげて下さいね。」


なんだよ”たま〜ミラクル☆”って…

このキャラクターが大学のマスコットである事が”ミラクル”だろうが。


私は眼鏡っこの言うとおり”たま〜ミラクル☆”のポーズをしてみる。



「・・・・・そうそう!そうです!両手もっとゆっくり挙げると良いですよ!」



・・・どうでも良いですよ。


私はそう思った。



「じゃあ、移動しましょうか。

 ステージに上がったら、司会がいじりまくりますから、頑張って動いて下さいね!」



眼鏡っこが、私の隣にいてレクチャーしながら歩いているせいで、逃げることは完全に不可だ。



(・・・よりにもよって、何故こんな姿をしているんだろう・・・私・・・

 それから、暑い・・・)



…着替える、というか…これしか姿を変える方法がなかったんだ、と必死に自分に言い聞かせた。


なんとかこの状況を乗り切って…撮影を…………出来るわけねえじゃん・・・。


私は、着ぐるみの中で、満身創痍。



・・・しかも、状況は、どんどん悪化していく一方だ。

いや、私が姿を晒さない限りは、これ以上悪くなりようがないだ・・・






「・・・あっいた!ちょっと、木之本!!今、そのタマミの中に誰入ってるのッ!?」

「みんなー!タマミここにいたわよーッ!」



廊下の遠くから、さっき聞いた声が聞こえる・・・その声は、先程、学祭運営の女子大生の声…!


「・・・え?川本さんが入ってるんじゃ・・・ないの・・・?」


眼鏡っこが、私と距離をとった。

その目は、不審者を見る目だ。


違う・・・違うんだ・・・私は何もしていない。

でも、こうしてタマミさんの中に入っているOLの言う事を、黙って聞いてくれるハズが無い。


しかし、私の持っているバッグの中には・・・無駄に高性能のデジカメが入っているのだ。

盗撮犯だと言われたら…言い逃れもクソもないではないかッ!



「・・・・・・。」


・・・ま、マズイ・・・!!


タマミの中とバッグの中を見られたら…私、もう言い逃れが出来ない!

不審者、いや・・・盗撮者確定だーッ!!




アーノルド=シュワル●ネッガー並の、厳しい表情で…女子大生達が、こちらに向かってくる。


怖い・・・ターミネータ並みに怖い。




ドクンドクンと心臓が音を立てる。

女子大生達がどんどん近付いてくる。



周囲を見た。

窓の外からは、ミスコンの司会進行の声が聞こえた。

このままでは、撮影も出来ないまま…私は、盗撮犯&タマミ窃盗で捕まってしまう。



しかし、走るには圧倒的に不利な着ぐるみでは、逃げ切れない。


窓の外には、恨めしいほど華やかな万国旗や手作り感いっぱいの旗が揺らめいていた。




(・・・・・・・・・。)





・・・私は、逃げる事にした。


着ぐるみの暑さで、完全に頭にまで熱が入ってしまった私はそう決めた。

気合一発…窓をスターンと開け放った。



「ちょ、ちょっと・・・!!」

「何をする気…!?」

「ここ・・・4階よ・・・!?」



…そんな事は知っている…。


…女子大生が、焦り始めた。






しかし、私は・・・諦める訳には、いかなかった。






タマミのまま、私は窓に足をかけ・・・次の瞬間・・・跳んだ・・・!!





タマミの中に入っている私は、空を舞った。

夢のような、ふわりという感覚は、まるで無い。






「いぃいいいいいやああああああああああああ!!」





・・・・冷静になって、よくよく考えてみれば。


こんな事をするくらいなら、着ぐるみを脱いで素直に謝った方が数倍良かった気がする。

しかし、飛び降りてからそう思っても後の祭り。

というか、落ちている最中、そんな事考える余裕もなかった。







「あっ!あれ見て・・・T女マスコットキャラクター…」



誰かがそう叫んだ。

続いて、複数の声が私の外装の名前を叫ぶ。




「「「「「「「・・・た・・・タマミさん!?」」」」」」」





私は、叫ぶ事もできないが、心の中でツッコんだ。







(・・・タマミじゃねえええええええよおぉ――――ッ・・・!!)








風と重力の無茶苦茶な力が、タマミの中の私の体を包む…。


落ちている…間違いなく・・・私は・・・下に落下している…っ!!





洒落にならん…!



死ぬ・・・!!



今度こそ・・・私・・・死ぬ・・・!!!





・・・あ・・・



・・・これは・・・走馬灯・・・?





『…いい?ライスペーパーよ、食べられる紙よ…』



ああ、懐かしいな…はじめてのおつかいだ…

結局なんで買いに行かされたんだろ…母さん…

あと、離婚の原因も教えて下さい…






『あの・・・好きです・・・』


ああ、初めての女難か・・・

でも、どうして、5歳から一気に飛んじゃったんだろうね…私の走馬灯…






『ウホ』




・・・・ああ・・・懐かしい毛むくじゃら・・・・・。

バナナの青臭い匂いが懐かしい・・・








・・・・・・・・・。









・・・・・あれ・・・・・?






・・・ちょ、ちょっと・・・・・・・・・終わり?



な・・・


何で、走馬灯の終わりがゴリラなんだよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!(泣)



せめて人間だろうがー!!そして短かぁーいッ!薄いぞ私の人生ーッ!(泣)




走馬灯まで私を馬鹿にするのか…!チクショウ!負けるか!生きてやる!!




 『死因:女難』 で 死ねるかああああああッ!!!




 ※注 今回死亡の場合、正確には・・・転落死または事故死になります。













(・・・・・あれはッ・・・!)



タマミさんの中にいる私の狭い視界に”ロープ”のようなモノが見えた。


しかし、運よく掴んでもロープは切れてしまうかもしれない…

それにロープを掴めたとしても、手が衝撃に耐えられるか…




・・・ええい!!迷っている暇など・・・っ!!


あれがあるから、私は飛んだんだ!!









…届けッ!……私の……生への執念…っ!!!


 ※注 本当に生きたいのなら、何故飛び降りた?水島よ。






「・・・ふあああああいっ!!」





私は、すこぶる格好悪い叫び声を出しながら、ロープへと手を伸ばし、それを掴んだ!

ぐんっと両腕に私の体重+タマミさんの重さ+その他の何か…とにかく物凄い力が掛かった。


「ん゛ぅ゛…!?」


格好とか、掛け声とか、呼吸とか…もうなりふり構っていられない。


(絶対に離してたまるか…!!)


掴んだ手にロープが擦れ、摩擦熱が起きる。

続いて、その摩擦熱でタマミの手の部分が溶け出し始め、私の手に熱が急速に伝わった。







「熱ッ!?ンへいッ!…さアッー!」




それでも、私はロープを離さない。体は、未だ空を舞っているらしい。

幸運な事に、私の目の前には次々と、万国旗や旗のロープが絡み付いてくる。


カッコ悪い声を出しつつ、私はロープを掴むだけ掴みながら、私の身体は、地上へと吸い込まれるように落下して・・・





・・・・・・・・特設ステージの上に、落ちた。






「「「「お、おおおおおおおおおおおおお!!!」」」」

「「「きゃあああああああああああああ!!!」」」」




歓声が聞こえる。

一体、私はどんな風に落ちたのか、受身がとれたのか、どうか・・・私には解らなかった。



「・・・・んん・・・?」


私は起き上がり周囲をみると、大勢の人間が手を叩いて歓声をあげていた。



「ちょ、ちょっとぉ〜タマミさん!すごいじゃないですか!

 ゆるキャラが、こんなアクションスタントやってどうすんですか!!」



そう言いながら、私の腕をぐいっと掴んで立ち上がらせたのは、司会者らしき女子大生だ。



何がどうなって、こうなったのかは解らないが…とにかく解っている事は一つ。



(・・・い、生きてる・・・!)


そう、生きている。

私は生きている!


あの高さから、この馬鹿げた格好で飛び降りて…生きている!!



途端に、私の両手両足は震えてガクガクし始めた。



私は・・・生きているんだ・・・!

喜びのあまり、私は無言で、焼け焦げた両手を空に向かって挙げた。


「「「カッコよかったぞ〜!」」」「「いいぞ〜たまごの中身っ!」」


湧き上がる歓声、また自分の正体がバレていない事も手伝ってか、私は思い切りガッツポーズをとった。


「い、いや〜お客さん、みんなビックリしちゃいましたよねぇ〜?

 それとも、逆に盛り上がってきちゃいましたー?」


司会の女子大生が、私を肘でつつきながら、会場のお客さんにマイクを向けた。


「「「「「いえ〜ぃ!!」」」」」



…会場は、盛り上がっていた。


「よ、良かったぁ〜!じゃあ、タマミさん、改めて、ゴアイサツしましょうね!」



司会者のその一言に私はハッ!として”たま〜ミラクル☆”のポーズをとって見せた。



「・・・・・・・・・。」


しかし、あまりこのポーズは定着していないらしく、ウケはいまひとつだった。


(やり損・・・。)

心に少しだけ隙間風が吹いた事で、私の意識はやっと落ち着きを取り戻し始めた。




「は、はい!!では、タマミさんも加わりまして、改めて!

 ミスコン入賞者の発表参りましょ〜ッ!!」



司会者がそう言うと、会場内のテンションが、また一気に上がった。

私は、タマミさんとして一生懸命、愛想をふりまくった。

そうは言っても、女子大生の追っ手、もしくは警備員がココへ来るのも時間の問題だ。


…隙を見て、ステージから逃げなくては…。



「準優勝は…18番 城沢海さんです!」


(・・・お?・・・入賞したんだ・・・わが社のお嬢様は。)



海お嬢様は、準優勝者として出てきた。


だが・・・・不貞腐れたような顔をしていた。


…笑顔ならば、優勝も出来ただろうと思う。さては…愛想が無いせいで、優勝を逃したか。

まあ、そういう顔の方が見慣れているし、笑いたくなければ笑わなくても良いと思う。


私は、しっかりタマミの目の中からカメラを構えた。狭い視界だが、カメラのレンズのサイズには合っていた。

フラッシュ機能は諦めて、とにかく撮れるだけ撮りまくった。




「じゃあ、タマミさん!準優勝のメダルを渡してあげてください!!」



私は、たま〜ミラクル☆のポーズをとってから、メダルを海お嬢様に渡すべく近付いた。

しかし、海お嬢様がぶすっとしたまま、しゃがんでくれないので、メダルがかけられない。

しゃがんで、と身体で合図してみるが、お嬢様は完全に無視だ。

こんな所で時間をかけている場合じゃない。さっさと役目を終えないと、追っ手がやってきてしまう…!



…何が気に入らないのか知らないけど…とりあえず…




「・・・しゃがんで。」



イラついた私は、思わず小声で言ってしまった。

聞こえないと思っていたのだが、海お嬢様に聞こえてしまったらしい。


目をカッ開いて、私の方を驚いたように凝視した後、素直にしゃがんでくれた。


その後。

優勝者が発表された。


優勝者は、笑顔が素敵な帰国子女のナントカさんが受賞し、学部長らしきオッサンがメダルとトロフィーを渡していた。



(…今なら…いける…!)


タマミさんの出番はもう無い様だし、私はステージの袖に引っ込むと、すぐにまた逃げた。

着ぐるみは、失礼だが草むらの影に脱ぎ捨てさせてもらった。


何はともあれ…タマミさんは私の命の恩人・ヒロインだ。

…感謝感謝。



そして、すぐにその場を離れた。

持ち前の地味さを生かし、人目を避けるように移動した。


「あ…。」


道に、千切れた万国旗の一つが落ちていたので、私はそれを拾い上げた。

結んだ髪を解き放ち、伊達眼鏡と帽子も、その千切れた旗と一緒にバッグにしまい込んだ。



とりあえず、目的の写真は撮った。

命もある。




・・・任務完了だ。



「あー…汗臭…早く帰って風呂入って寝・・・」


決して、着ぐるみだけのせいじゃない、発汗に私は、今更ながら体が悲鳴を上げ始めた。

疲労感が、全身を包む。



やれやれ、今日はとびきり、しんどい一日だったと…私は出口へと向かおうとした。





「・・・ちょっと、待ちなさいよ。」


・・・油断した。


「・・・・・・・・!!」



私の肩をむんずと掴む腕と声に、ビクリとして振り返ると、海お嬢様がいた。




「・・・ど、どうもぉ。」


薄ら笑いを浮かべて、私はそう言った。

手を払いのける力すら、私には残っていない。


「”どうもぉ”じゃないわよ。…タマミさんの中から水島の声が聞こえてきた時はビックリしたわ。

 なんで・・・水島が、ここにいるのよってね。」


「ほーんと、何ででしょうね…。」


・・・そう言うしかない。



「…バカ…わざわざ、こんなイベント見に来なくたって…」


「…はい、バカです。すいません。」


・・・そう言うしかない。



「・・・・・・・・・何、目死なせてるのよ。」


「・・・それは、元々です・・・。」



・・・私には、もう逃げる体力は無かった。


海お嬢様に当然のように腕を組まれながら、私は不審者を血眼になって探している女子大生達とすれ違った。

少しドキドキしたが、女子大生達は、私には気付かなかった。


眼鏡と帽子だけが印象に残っていたらしく、私が隣にいても全く気付かなかったのだ。

  ※注 全個性を、眼鏡と帽子に取られた水島さん。



・・・じゃあ・・・私、タマミさんにならなくても良かったんじゃん。


とは思ったが、とりあえず私は…今、平和に地面を歩いていることの素晴らしさを実感していた。




「ところでさ…なんで、水島はタマミさんの中に入ってたの?

 …あのアクションスタントも水島でしょ?よく出来たわね…。」


「・・・・・・・・・あー・・・それは次回詳しく・・・。」


私は、力なくそう言った。


「……別に、タマミさんの着ぐるみなんか着なくても良かったじゃない…」


「・・・ええ、まあ・・・。(着たくて着たんじゃないわよ…)」


「会いに来てくれたら、それで…十分だし。あ、いや・・・ホラ、社員なんだから、顔出ししないとね。」


「・・・え、ええ、まあ・・・。(そういえば…写真上手く写ってるかしら…)」


海お嬢様のわけのわからないお言葉を頂戴しながら(聞き流しながら)、私は家へと帰った。

(ちなみに、海お嬢様は途中で、宮元さんのお迎えリムジンで帰宅。…助かった。)



・・・疲れているせいか、やけに・・・空が、高く・・・そして、綺麗に見えた。








数日後。



デジカメを高橋課長に渡したところ・・・その日の内に、私は会長に呼ばれた。



もしや失敗してしまったのか?と不安になったが…

写真は失敗していなかったらしい。

アングルが偏っていたのが、少し気になっていたようだが、撮れていないよりは、マシだと判断されたらしい。


その証拠に…。



「水島あああああ!ま、孫の…孫の姿を写してくれてありがとおおおおおおお!!」




涙を流して私の両肩を掴んで組長、いや会長は私をがっくんがっくんと揺さぶった。



「・・・・・・・。」



どのみち、私は組長・・・いや、会長に揺さぶられる運命だったのだ、と思った。

喜んでいただけて、良かったなぁ〜とか思いつつ、もしも失敗していたら…と思うと、背筋が凍る思いもする。

とにかく、任務が無事完了した事を素直に、今は喜ぼう。


「は、ははっは・・・・・・」








 ちなみに。


学祭後、T女大ではタマミさんブームが起こったそうで。

タマミさんグッズの売上が上がり、海お嬢様からストラップを貰った。



私はタマミさんストラップをみて、しみじみ思った。





「・・・・・・やっぱ、コレ・・・かわいくないわぁ・・・。」






 ― 水島さんは出演中。 END ―



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あとがき




・・・出演するまでが長かったですね。


今回は、OLじゃ出来ない事をやってもらいました。・・・もう普通のOLじゃないですしね。


もう女難関係ねえじゃん!!とツッコまれそうですが

彼女は、女難から逃げれば逃げるほど、命に関わるトラブルに巻き込まれていきます。


どんどん、現実離れしていく彼女ですが…

OLが最終的にスーパーサ●ヤ人に・・・、なんて事はありません。ご安心を!