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(ちいぃっ!!今度はなんだ!?ナースか!?)


アムロ=●イばりの舌打ちを心の中でしながら、私はLルームから飛び出した。



”・・・チクン・・・。”


この頭の底の奥に”チクン”と感じる痛みに似た、その嫌な予感は、間違いなく、女難が来るぞっていうサインだ。

とりあえず、人気のない場所で身を潜められて、いつでも逃げられる場所を探さねばならない・・・!


病院の廊下は、走ってはいけないので、私は競歩並みの早歩きで移動を開始する。

頭以外は特に怪我をしていないのが、幸い・・・




”・・・チクン・・・チクン・・・チックン・・・チクン・・・”



(・・・こ、このリズムと回数は・・・!?)



何故か、移動すればする程、女難サイレンが増えていく。

今までにない・・・妙なリズムまで刻んで、私の頭の中に響き渡る。

まるで誰かが、私の脳内でロックコンサートでもしているように、どんどん早く大きくなっていく。


そして、それは悲しいくらいハッキリと、頭の縫合の痛みとは違うというのが分かる。


”チクン・チクン・チックン・チクン・チクン・チックン・・・”


頭の縫合の痛みなら、こんなリズム感溢れた痛みなんか発しない・・・!

とりあえず、自分の病室に戻ってみる。


・・・が。


「・・・で、みーちゃんはどこにいる訳?海ちゃん。」

と伊達香里さんの声。


「知ってたらココにいないわよ。・・・ていうか、怪我しすぎよね、水島のヤツ。」

と城沢海さんの声。


「・・・まあ、さっきまで布団は温かったんだから、もうすぐ戻ってくるわよ。・・・頭以外は奇跡的に怪我はしてないから・・・。」

と花崎翔子さんの声。


「水島さん・・・どうしちゃったんでしょうね?」

と門倉優衣子さんの声。


「・・・しかし、皆さん嗅ぎ付けるの早いですね?連絡網でもあるんですか?」

と・・・あれ・・・?誰だ・・・あの人・・・? ※注 君塚美奈子さんです。



まあ、とりあえず・・・アレだ・・・。

私は今の心境を、心の中で思いっきり叫んだ。




(・・・女難デス・ホスピタアアアアアアアル!?)


訳:なんでまた病室に女難チーム集合してるんだよ!?まさか、またややこしい展開で、私死ぬんじゃねえかーっ!? 



私は足音を立てないように、ジリジリと後ろへ後退した。


が・・・。


背中に”何か”がぶつかった。

何か、というよりも・・・誰か、だが。



「・・・あら、あんまり動き回ると傷に響くわよ?・・・水島さん。」


妙に優しい声と肩をしっかり掴まれた手に、私は錆び付いたブリキ人形の玩具のように、おそるおそる・・・ギギギ・・・と振り返る。


「・・・こんばんは。顔に大きな傷も無いようで、安心したわ。・・・身体はどうなのか見てみないとわからないけど、大丈夫かしらね?」

「さ、阪野さ・・・ん・・・!」


私は今の心境を、心の中で思いっきり叫んだ。



・・・女難デス・ホスピタアアアアアアアル!!※2回目

訳:よりにもよって、エロ秘書(阪野さん)に背後取られたーっ!?そして、早速のセクハラ発言、ご苦労様でーすッ!!


 ※注 只今、主人公水島さんの精神が、毎度ながら、著しく乱れております。ご了承下さい。


「そんなに、驚く事ないんじゃない?仕事片付けてやっとココへ来れたんだから。」


そんな事より離してくれ、と咄嗟に言いかけたが、果たして阪野詩織は素直に離してくれるだろうか?

・・・多分、無理!そして、無駄!

だからって、ここで大声でも出そうものなら・・・数メートル先にいる女難チームの女達に見つかってしまう。

ややこしい・・・今、彼女達に囲まれては、非常にややこしい・・・!!


・・・考えろ・・・!

肩からどんどん下へ滑り落ちてくる阪野詩織の手に戸惑っている場合じゃない・・・!

早く、どこかへ逃げないと・・・!


「・・・逃げられないわよ、水島さん。」


阪野さんに耳元でトドメの一言を刺され、指を絡め取られるように両手をしっかりと握られて、私は完全に固まった。


「・・・べっ別に、逃げようなんて思ってませんけど・・・!」

「・・・そう?水島さん、な〜んか・・・私の事、怖がってない?」


「・・・ぁ・・・いえ・・・!」


怖いです!貴女は、素早いし、怖いです!色んな意味で!


「変な誤解、しないで欲しいんだけど・・・私達、もう少し理解し合いましょうよ。その必要があると思うのよ。これからの事を考えて・・・」


理解し合うより、これからの事を考えて、まずは手を、その手を、絡めた指を離してーッ!!

・・・という心の中の叫びは声にならず。

※注 女難による動揺と元来の小心者により。


現在、病院の廊下で、ぴったりとくっついた女同士が指を絡ませて立っている状態。

私は、後ろの阪野詩織をどう振り払おうかを必死に考えていた。


・・・おじいさんらしき患者2〜3人に”何やってんだ?”という不思議そうな顔で見られながら。

恥も何もかも、かなぐり捨てて、今すぐこの状況から逃げなくてはならな・・・


「・・・お願い、逃げないで。ただ、私は・・・心配が解消されて、嬉しいのよ。」


・・・嬉しさの表現が”コレ”ですか!?とツッコミたいのだが、それよりも今はこの状況から逃げる事を考えなくては・・・!

そんな頭フル回転中の私と阪野さんの前を、またおじいさんが”何やってんだ?”という顔をして通過した。


「あの・・・さ、阪野さん・・・人、見てるんで離れてもらっていいです、か・・・・・?」

「嫌。」


・・・拒否したーッ!!やっぱ拒否したよッ!しかも速攻!もう、どうしたらいいのよ―ッ!?


「・・・嫌よ。」

「・・・阪野、さ・・・ん?」


私の背後で阪野詩織は、微妙な体制のまま今度はぽろぽろ泣き始めた。


「・・・貴女が、仮死状態にもなったって、聞かされてから・・・私、気が気じゃなかっ・・・」


私の肩に額をつけて、阪野さんは微妙な体制で泣きながら、そう言った。

そんなに心配、してくれていたのか・・・?

そして、そんな事を考える私と阪野さんの前を、今度は点滴を持ったおばあさんが”何やってんだ?”という顔をして通過した。


「・・・あの・・・ご、ご心配おかけしました・・・」


私は社交辞令のような台詞しか浮かばず、とりあえずそう言った。

”・・・だから、離れて・・・お願いだから!”という思いを込めて。



「そんな言葉いらない・・・私は、貴女が無事なら、それで、いいの・・・」

「・・・は、はあ・・・」



心配してくれるその気持ちは嬉しい。

・・・だけど・・・大っ変、悪いんだけど・・・!



今・・・現在のこの状態こそが、私にとって”無事な状態じゃない”んだ、阪野さん!



とにかく、この絡めた指を解いて、離れて!・・・また変な視線浴びてる・・・ちょっと、これ何?何プレイなの!?

ジジイ&ババア&ナース!こっちは珍獣じゃねえんだよ!見るなっ!見せモンじゃねえんだよッ!


 ※注 只今、水島さんは心が大変荒れてくすんでおり、暴言を吐きました事を主人公に代わってお詫び申し上げます。



正直、恥ずかしい以外のナニモノでもない・・・!


「あ・・・あの、阪野さん・・・本当に、い、いい加減・・・離れて下さい。」


私は、両手の指をピンと伸ばしたまま、小声で言った。


泣いている阪野さんには、本当に悪いんだけど、周囲の目線と頭が痛い・・・!

そして、こっちを見るギャラリーが、群集が出来そうな勢いで、人が集まり始めてるんだ・・・!!

・・・だから、こっち見てんじゃないわよーッ!人ーッ!暇か!?そんなに暇か!?

患者&ナース共は、”暇持て余し隊”か何かのユニット組んでるんですかッ!?CD何枚買ったら、握手できるんですかッ!?


 ※注 只今、水島さんは心が大変荒れてくすんでおり、日本語が滅茶苦茶です。ご了承下さい。



「・・・・・・うん、ごめん・・・人が見てるね・・・。」


「気付いてたんなら、離れて下さいよッ!」

思わず、大声を上げそうになったが、なんとか堪え、小声で言った。


「ゴメンなさい。・・・でも、嬉しくって。」

そう言うと、阪野さんはやっと笑い、私から離れようとした。


・・・と同時に。



「・・・何、やってんのよ。2人共。・・・ていうか、水島・・・アンタ怪我人でしょうが。」


その声に海お嬢様が、仁王立ちで私と阪野さんを・・・何故か、思いっきり私を睨んでいる。

ちょ、ちょっと待って・・・わ、私が悪いの?コレ・・・!


そして、その声を聞きつけたらしき女達が、足音を立ててこちらへとやってくる。


「え?・・・あっ!水島さんっ!!」

「え?水島さん、そんなところに・・・!」



私は今の心境を、心の中で思いっきり叫んだ。



・・・女難デス・ホスピタアアアアアアアル!?※3回目。

訳:気付かれた―ッ!?女難チームに気付かれたーッ!もう駄目だーっ!!



「みーちゃん!怪我大丈夫!?ていうか、2人共、何してんの!?」


・・・そんなの私が聞きたい・・・。(泣)


「あっ!阪野さんに捕まってたのね!?通りで遅いと・・・って、2人で何してるのよ!?」


・・・そうですね、花崎課長。・・・教えて下さい、私が何してんのか。

そして、そんなに袖を引っ張らないで下さい。・・・肩が出・・・ああ、もう出てますね・・・もう脱げそう・・・あははは・・・。


「あ・・・水島さん・・・鎖骨、綺麗ですね・・・なんか、すごい・・・」


・・・門倉さん・・・私、出したくて出してなど、いないから・・・鎖骨。

お願い、そんなガン見してないで・・・隠してくれる?後輩として。

隠したくてもね、私、両手がね・・・塞がっているのよ・・・ねえ・・・。


「・・・あ、水島さん、左の首の後ろにキスマークが!」


・・・え?嘘・・・ああ・・・阪野さん、ドサクサに紛れてつけたわね・・・!

やっぱり、やっぱり侮れない・・・やっぱり、素早いよ・・・この秘書の行動は、素早くて無駄がない。いや、やる事全部無駄なんだけど!!

・・・・・・ていうか、それ指摘した貴女は、どちら様で? 

 ※注 同じ会社の同じ事務課で同僚の君塚美奈子さんです。



「さ・・・阪野さ〜ん?・・・貴女って人は・・・病院で一体何してるのよッ!?しかも怪我人の水島さんに!」

「あら、ついちゃった?偶然よ、偶然・・・ヤダ、そんな怒ると皺が増えるわよ?花崎さん。(ニッコリ)」


そう言ってさっきとは打って変わって、ニコニコ営業笑顔の阪野さんに対し・・・

私の袖を引っ張り続けている花崎課長が、私のすぐ傍で会社でよく見せるらしき”怒りの表情”で怒鳴る。


そして、花崎課長の援護射撃をするように海お嬢様がすかさず私の後ろに回りこんで、指を指して怒鳴った。


「あっ!・・・”偶然”な訳ないじゃない!見なさいよ!ココ!すぐ下に”もう1つ”付いてるじゃないのよ―ッ!」

「・・・ふふっ・・・水島さんって肌が白いから、痕つき易くって・・・困ったわねぇ?」


「「・・・困ってんのは、水島さんでしょうが!」」



「・・・・・・・・・・・・・・・・。」※注 もう黙って流れに身を任せる事にした水島さん。

(・・・あははは。もう、笑うしかねえや。)

と思いはするが・・・私の顔は、無表情だ。あまりの状況に、筋肉がぴくりとも動かない。


というか・・・動けない。完全に包囲された・・・。


「ていうか、2人共いい加減離れて下さいよッ!・・・あ、結構筋肉も付いてるんですね・・・水島さんって・・・」


だから、後輩よ・・・そっちの袖を引っ張らないで、ガン見してないで、先輩の両肩を隠して下さいな・・・。

そして、好きで付いたんじゃないって・・・筋肉・・・。



「・・・・ははは・・・・・。」 ※注 もう黙って流れに身を任せる事にした”自暴自棄状態”の水島さん。


・・・もう、好きにして・・・(泣)


「心配して来てみたら・・・阪野ちゃんと一緒なんて酷いよー。みーちゃん、最近怪我とかばっかじゃん、私、これでも結構心配してるんだよ?」

「・・・え・・・?」

伊達さんの言葉に私はぽかんと口を開ける。


「そうですね・・・多いですよね、盲腸といい、今回の事といい・・・大丈夫ですか?」

「あ、いや・・・大丈夫です・・・本当。」

門倉さんの詰め寄るような言葉に、私は慌ててそう答える。


「・・・本当に?聞いたけど・・・今回は、頭なんでしょ?あたしの事、忘れてたりしてないわよね?」

海お嬢様らしい言い回しだと思いつつ、私は答える。

「いや、大丈夫、です。記憶喪失なんて、そうそうないですって。」

「本当に?私の事も覚えてる?」「・・・あの、私の事は?」


海お嬢様の言葉をきっかけに、伊達さん、門倉さんまで私に詰め寄ってくる。

・・・思わず、苦笑がこぼれる。


そんだけ個性豊かな貴女達の記憶が、今まで人付き合い皆無だった私の頭から、ポンポン簡単に飛ぶ訳なんか、無いのに。



「あのー・・・水島さん!私は覚えてますよね?」

「・・・え・・・?あ、ああ・・・はい・・・(・・・駄目だ・・・やっぱ、この人だけ記憶にない・・・この人誰?やっぱ記憶失くした?私・・・)」

 ※注 同じ会社の同じ事務課で同僚の君塚美奈子さんです。


「・・・ほらっ!阪野さん、アナタ、いつまでくっついてるのよ・・・水島さん困ってるでしょうが!」

「私は、怪我人に優しくしてるだ・け♪」

「そういう優しさなら、バ●ァリンだけで十分よ。ね?水島。」

「みーちゃん、遠慮しないで。あ・・・メクルトとか買ってきたけど、飲む?」


「・・・あぁ・・・えーと・・・」


(・・・参ったな・・・)



・・・正直・・・こんな人数に囲まれて、心配されるやら、泣かれるやら、笑い合われるやら・・・・くすぐったいやら、恥ずかしいやら・・・。

こんなの・・・こんなの、今までの人生で経験した事も無かったから・・・。


対処に困った。



(・・・だけど・・・こういうの・・・私・・・)





だが、次の瞬間。


空気を打ち破るような、雷のような”声”が廊下中に轟いた。






「あーた達(貴女達)!ここは病院ですよ!お静かにお願い致します!!」






ここの病院の婦長さんらしき女性が、仁王像が眼鏡かけてるみたいな形相で立っていた。

・・・・・・あ、もしかして私も含めて、怒られているんでしょうか・・・?今・・・。

ははは・・・すいません・・・ホント、女難の女になってしまって・・・ホント、スイマセン・・・。


 ※注 そういう問題じゃありませんが、主人公の精神力が尽きかけようとしています。ご了承下さい。



・・・依然として私の両手の自由は奪われたまま、両肩がはだけている状態だった。

それを見た、婦長らしき女性は私の状態と顔を見るなり・・・


「・・・はっ!・・・み、水島さん!?・・・あ、あーた(貴女)だったの・・・。」


そう言うや否や、少したじろいだ。

・・・何故?私の名を・・・?


「・・・は?」


思わず、私がそう言うと・・・


「も、もうっ・・・あーたって人は・・・女性として、こ、こんなに両肩を出したら、駄目じゃないの!」


そう言いながら、なんと女難チームの輪を一気に崩して、入ってくると私の乱された服をテキパキと直した。


「・・・あ、す、すいません・・・。」


「あーた達!他の患者さんのご迷惑・・・そして、この人は頭を怪我されているんですよ!?

いい大人なら、どういう状況かお分かりでしょう!?静かにお願いしますよ!」


婦長らしき女性のナース服には”五十嵐”と書いてあり、その女性の猛烈な勢いに、女難チームが珍しく萎縮して、しんと黙り込んだ。


「・・・あ、はい・・・す、すみません・・・。」

「「すいません・・・」」

「「ご、ごめんなさい・・・。」」


婦長の勢いは、私の予想以上に物凄くて・・・。


「はいはい!患者さんは休んで休んで!あーた達(貴女達)も面会時間、過ぎてますからね!!」

「あ、はい・・・わわわわっ!?」


私は、あれよあれよという間に、ベッドへと強制的に戻され、寝かされた。


そして、布団をかけられながら、私に向かって


「・・・あーた(貴女)・・・あんまり無防備だと、思う壺よ?」


と言うと、シャッとこれまた勢いよくカーテンを閉め切られた・・・。


(は・・・はいいぃ?)


・・・な、何故、ナースさんにそこまで言われる必要があるんだ?

いや・・・た、確かに一理、あるか・・・む、無防備だったわね、さっきは・・・。

逃げられなくなって、自棄になって、黙って突っ立ってたけど・・・。

いやいや!待て!あれは、無防備に”された”ようなモンだ・・・!不可抗力です!


・・・・・・でもなぁ・・・年増ナースさんの一言、一理あるかもしれない。

※注 折角の恩人なのに、やっぱり名前を覚える気がない水島さん。



やっぱり、このまま女難に遭っても、ああやって何も出来ず仕舞いってのは・・・情けないよな。

私は、意地でも女難の呪いを解く・・・”あの儀式”以外の方法を探さないといけない。

それなのに、私ときたら早速、女難チームに骨どころか、神経抜かれる寸前まで・・・結局、婦長が来るまで動けなかった。


(偉そうな事、烏丸先生に言っておいて・・・やってる事、全然出来てないじゃないか・・・情けない・・・。)



阪野さんに両手の自由を奪われて、知らぬ間にキスマーク2ヶ所付けられても、ちゃんとビシッと・・・!



・・・ビシッと・・・・・



・・・ビシッと・・・・・・・・何て・・・言えば、良かったんだ・・・?





今までだってそうだ。

ビシッと言って断って、女難を回避出来た事なんて、あるのか?私・・・。

いや、女難じゃなくても・・・今の今まで誰かに叫んで拒否した事はあっても、強く何かを言った事なんて、無かったし・・・。


第一、自分の為に、心配して泣いてくれた阪野さんに、みんなに・・・何て言えば・・・


(・・・いや・・・こういうのがいけないんだろうな・・・。)


嫌われてもいいんだ。

私は、人嫌いなんだから。


それに・・・どうせ、彼女は・・・彼女達は、私の”女難の呪いのせい”で私に引き付けられているだけ、なんだから。

私が呪われてさえいなければ、あんな華やかな女性達と、事務課の私などの接点なんて出来る筈もないんだし。



(そうだよ。思い切り、冷たく突き放して・・・。)



でも・・・それじゃあ・・・私を心配してくれた彼女達の気持ちは、どうなる?


もしも、さっき・・・場所が、病院の廊下じゃなかったら・・・。

うざったい人々の視線やら、そういうの無かったら・・・。


・・・私は・・・


私は、そこで強制シャットダウンした。



(・・・ああ、だから嫌なんだよ。・・・人付き合いって・・・こういうの考えちゃうから・・・!!)



そう。

嫌でも、色々、考えてしまう。

まったく・・・わずらわしいったらない・・・。


・・・なんで考えてしまうのだろう?嫌いだから、余計に、なのか・・・。


それとも・・・。


それとも・・・私・・・






・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






・・・私・・・・・・あ〜んまり考えたくないんだけど・・・・・・


・・・もしかして・・・私・・・私自身が、変わり始めてたり、なんてしちゃってたりしてます・・・?





・・・な、何言ってんの?私・・・何考えてんの!?私!いや!やめて!ココに来て、改心なんて!


違う!私は、ありのまま!人嫌いの自分のまま・・・!

この呪いをなんとか”あの儀式”以外の方法で解いて・・・!

元の・・・地味で目立たない、人と距離を置いたあの静かで平穏な!いつもの!あの生活に、戻るんだ・・・!!





そして、ふと私の頭に浮かんだのは・・・あの占い師のオバサンの言葉だった。




『・・・”特にアンタは、人の運命を変える強い縁の力を持っている。”ってね・・・。』


「あぁ・・・そうでしたね・・・。」


『・・・だから、アンタが誰かの縁に関わるって事は、誰かの運命を変える可能性もあるって事なんだよ・・・。』


「・・・・私、が・・・誰かの運命を変える…?」


『…そして、それはアンタ自身の運命も変える事にもなる。…まァ…じきに、わかるよ。

 …それまで……大切に、ね…。』





・・・”アンタ自身の運命も変える事にもなる。”




もしも、占い師のオバサンの言った事を考える。


・・・私が、誰かに関われば・・・その誰かの運命を変える、縁の力を持っていて・・・それは私の運命を変える事にもなる。

良い意味で捉えると・・・私は、私の運命を変えられる可能性もある・・・という意味だ。



でも。



「・・・全ッ然・・・変えられてないんですけど・・・自分の運命・・・。」



それはビックリする程、変わっていない。

むしろ状況は、悪化しているとしか言い様がない・・・。


・・・だけど・・・


その”悪化”が・・・



『私は、貴女が無事なら、それで、いいの・・・』

『今回の事といい・・・大丈夫ですか?』

『・・・今回は、頭なんでしょ?あたしの事、忘れてたりしてないわよね?』

『あ・・・メクルトとか買ってきたけど、飲む?』

『・・・困ってんのは、水島さんでしょうが!』







「・・・・・・ふふっ・・・。」




思わず自嘲してしまう。



(・・・・・・みんな、大袈裟だよ・・・私、そこまでされるような人間なんかじゃない。)


悪化の一途を辿る私の女難・・・だけど・・・私の中で悪化じゃなくなっている、ような・・・そんな気さえ、するのだ・・・。



でも、忘れちゃいけない。


私は本来、人嫌い。


そして、これは、この現状は、みんな”呪い”のせいなんだ。


だから・・・この呪いを一刻も早く解いて・・・元の生活に戻らなきゃ・・・。



・・・私も・・・彼女達も・・・元の生活に・・・戻れな・・・






”シャッ!”




「・・・ん?」




突然開かれたカーテンの音に私は、視線をすぐにその方向へと移す。



「あらぁ・・・やっぱり、いいわぁ・・・」

「本当ねぇ・・・なんていうか・・・いいわぁ・・・」

「ホント、なんか・・・いいわぁ・・・」



そう言いながら私のベッドを覗き込むのは、私と同じ部屋のオバサン達だ。

勝手に人のベッドに近付いてくる筈もない・・・と思っていた、あのオバサン達がズカズカと私のベッドに近付いてくる。



「・・・ちょっ・・・な、なんですか・・・っ!?」




オバサン達は本当に病人だろうか・・・!?

私のベッドを素早くサッと囲むと


「「「・・・声もいいわねぇ〜♪」」」


と声を揃えて、言った。



「な、何がですかーッ!?」



私は、叫ぶようにそう言った。


「「「いいわねぇ〜若いって〜♪」」」


・・・ぜ、全然、こっちの問いなんか聞いてない・・・!

そ、そのノリ・・・なんか・・・似てる・・・!

・・・さっきまでの・・・あの女難チームのノリに・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま、まさか・・・!?



「近くでみると、やっぱり肌がねぇ・・・」

「ありがたいわぁ・・・エキスエキス・・・」

「ご利益あるかもしれないわ、もうちょっと触っときましょ・・・」






無えよ!無ぇから!エキスもご利益も無ぇからッ!・・・ちょ、勝手に触るなああああああ!(泣)






「ちょ、やめ・・・いぃやアアアアあああああああああああああああああああああぁ!!!!」






あの時・・・じょ、女難のサインが、脳内であんなに数とリズム刻んでたのってこういう事!?

コレも女難なのッ!?いくらなんでも、無理矢理過ぎない!?この展開!無理に女難産生しなくていいのよ!?作者!疲れてるのよ貴女!!

 ※注 『・・・うるさい。』by作者。


ちょ、ちょっと・・・しかも、これ・・・この方達・・・年齢層が高い!怖い!そして、触んないでーッ!





(こ、こ、こういう時のナースコール!ナースコール!早く来てー!ナース!今だけ、白衣の天使様ー!降臨してーッ!!)


※注 只今、水島さんナースコール連打中。








「・・・はい、水島さん、どうしましたー?・・・”とにかく来てくれ”?あ、はいは〜い♪今、行きます♪」



「・・・婦長!ナースコールがあったんで行って来ま−す!」

「ちなみにどこの水島さんから?」


「×××号室の水島さんですけど。」

「・・・ちょっと、待ちなさい。」


「はい?」


「・・・・私も行きます。」

「え・・・珍しいですね・・・五十嵐婦長・・・」


「何?付いて行ったら、駄目?」

「あ、いや・・・別に婦長が邪魔だなんて思ってませんよ?あはは・・・」


「誰もそこまで言えとは言ってないでしょうに。」

「あ、あはははは・・・」










― 数分後。 ―










「・・・ふっ・・・ふふふ・・・」


(・・・・・・みんな、大袈裟だよ・・・私、そこまでされるような人間なんかじゃない・・・。)




私は、つくづくそう思う。

そうだよ、私は・・・人嫌いの女難の女。



「水島さぁん・・・どうしましたぁ?痛む所ありませんかぁ?」

ぶりっ子声のナースAさんに、私は力なく答える。

「ありません。」




呪いを解くまで、この”惨劇”は、繰り返されるんだ・・・。



気が付くと私のベッドは、女性で囲まれていた。

患者さん、ナース含めてその数は、どっかの●い巨塔の●前教授の総回診の数の比ではない。



「ちょっと手を握らせてぇ・・・ああ、若いねぇ・・・いいねぇ・・・」


おばさん達は、私を何か勘違いしてないだろうか・・・触っても、何も得は無いよ・・・?

ご利益ないですよ!?だって、私、呪われてますからッ!!


「いえ、もう若くないです。こう見えても50越えてますから。(嘘)」


だから、触らないで・・・徐々に手から上に来てる・・・その手をやめて・・・!

私から何を得ようとしてるんだ!その手は!!



「「「「「「えー見えなぁい♪」」」」」」

「「「「「冗談ばっかりぃ〜♪」」」」」



嫌だ・・・もう嫌だ・・・!黄色い声も茶色い声も嫌だぁ・・・ッ!お願い、私を一人にして・・・ッ!


「すいません・・・もう良いですから。・・・さっきのナースコールなんでもないですから・・・気のせいですから。

あの、囲まないで下さ・・・ちょ、ちょっと・・・さっきより、人の数増えてません!?こんなに人数いりませんよねッ!?」



「じゃあ、頭の消毒だけしましょうねぇ♪」

「体も拭きますかぁ?」


ナースが群がる。

患者も群がる。


・・・要は、女達が群がる私のベッド・・・!


逃げ場なし!助けも望めない!!

これなら、さっきのお馴染みの女難メンバーの方が何倍もマシ・・・な訳ねえよッ!!

女群がってる時点でもう駄目だよッ!仕舞いだよッ!


「ひ、人の話聞いてます!?・・・いえ、いいです!遠慮しま・・・ちょ、ちょっと!脱がさないでーッ!大人数の前でーッ!!」


「「「「「「大丈夫大丈夫♪ココにいるの、みんな女だから♪」」」」」」






「だから!それが!余計!駄目だっつってんだろーがぁあああぁ!!プライバシィーッ!!!」





私は叫びながら、つくづく思う。




・・・そうだ・・・これは・・・みんな・・・


・・・みーんな、呪いのせいなんだ・・・。

・・・呪いを早く解いて・・・元の生活に戻らなきゃ・・・。




・・・それまで・・・



それまで・・・私、負けない・・・ッ!!

絶対、絶対・・・この呪い解いてやる・・・ッ!!!



・・・あの儀式以外の方法で・・・ッ!!



・・・・だが・・・・その前に・・・!!!







「・・・私、今すぐ、退院しまーすッ!!!!」





私はそう言うや否や、ベッドから飛び出し、天井近くまで跳ね上がった。

それは、まるでBダッシュジャンプするマリオのように。

・・・頭は、幸い天井ギリギリスレスレで、ぶつかる事なく・・・着地も成功。


「「「「お、おおお・・・・!」」」」

「「「「凄い・・・!」」」」





(・・・ふっ・・・。)


私は、ニッと不敵な笑みを浮かべると、走った・・・。

脚力には、ここ最近、自信があるんだ・・・!


怪我・・・頭だけで、本当に良かった。と今にして思・・・





「待ちなさーい!患者さんが走っちゃ駄目ーッ!安静第一ィ―ッ!」




夜の病院の廊下を疾走する私の後方から聞こえる声に、私は振り返る。

すると、仁王像に眼鏡を掛けた婦長が真っ直ぐこちらに向かって物凄い勢いで追いかけてくる。


その勢いたるや・・・・・・ま、まさか・・・私と互角か・・・!?



「何!?ひ・・・ひいいいいいいいいいいぃ!?!?!?」


(嘘!?あの婦長さん足が速い・・・だと!?

ちいぃ!・・・負けるかーッ!普段から女難で鍛え上げた脚力とスタミナ見せてやるーッ!!)



「お、おのれぇ・・・あの患者めぇ・・・可愛さ余ってなんとやら・・・今こそ、トライアスロンでの脚力みせてやるわぁーッ!!」


「・・・ゲッ!?ぅうわああああああああああああああああ!?年増ナース早えええぇ!?(暴言)」



ていうか、あの婦長は、単に仕事上の義務で追いかけてきてるのか!?

それとも、女難ッ!?



・・・どっちにしても形相が、人じゃねぇええ!?(暴言2)





「クランケエェェェエェェェエェ!!」

「いやあああああああああああぁ!?階段2段飛ばしで追いかけてくるーッ!!」






・・・その後。


五十嵐婦長と私の『逃走中』のハンターから逃げる芸能人のような、ギリギリの逃走劇は何時間も続き・・・。





必死な形相の私が、幸運な事に仮眠をとろうとした烏丸医師に出会い、彼女の許可の元、家への帰宅許可が出たのは



・・・3時間後、だった。




烏丸医師曰く


「それだけ動けるんなら十分でしょう。検査も問題なかったんだし、何かあったら、すぐに電話してね。

 まあ、安静にするなら、家の方が良いでしょう。・・・特に、貴女の場合は、ね。」


・・・だそうで。




帰宅しながら、私は思った。

『・・・健康と脚力は、まさに宝である』、と。



「やれやれ・・・。」

通院はしなければならないが、やはり自分の部屋が、一番落ち着くなと思う。

会社に提出する書類を書き終わると、私はそっと横になった。


しんとした静かな部屋。

嗅ぎ慣れた自分の部屋の匂い。

自分しかいない部屋。


心の底から・・・ほっとした。息を吐いて、呟く。


「あー・・・とにかく、生きてて良かったァ・・・」


両腕を挙げて、伸びをしながら、心底そう思う。

この安心感を得るのに、一体どれだけこの身体を酷使しただろうか・・・。


・・・女難の呪い・・・。

・・・強い縁の力・・・。

・・・他人と自分の運命を、変える・・・。



「・・・あー・・・もう、わかんない・・・。」


また、占い師のオバサンに会いにいかないとならないな、と思う。

中途半端なヒントだけじゃ、やっぱり無理だ。

火鳥 莉里羅(笑)が、こっちに何かを仕掛けてくる前に・・・なんとか呪いを解く別の方法を見つけないと・・・。

 ※注 水島さんは、疲れて、火鳥の下の名前でも大爆笑は、しなくなった模様。


「・・・ん?」



ふと見ると自分の携帯電話の液晶の一部が、点滅している・・・あれは着信があったサインだ。




開いて確認すると、留守番電話の履歴がある。


・・・なんだか、嫌な予感がするが・・・とりあえず、それを聞いてみる。





『あ、もしもし?お母さんよ〜お久しぶり〜元気ー?元気よねー!イエーイ☆』



・・・元気じゃねえよ、こっちは死にかけてたんだよ・・・!くっそ・・・自分の家族だけど、なんかムカつくな・・・。


『・・・あのね!今日は、あんたに紹介したい人がいるのよ!』


・・・はぁ?


『コニチハ、ミズシマサン ノ オジョウサン・・・ワタシ、ミライデ、アナタノ イモウト ニ ナルカモ シレナイ・・・ジャスミン デス。』


・・・・・・・・・・。


『・・・はいっ!という訳で、お母さんは元気でーす!これから、もつ鍋食べに行くのよ〜イエーイ!・・・じゃあね〜!』


・・・・・・・・・・・・・・・・。


『ブツッ…ツー…ツー…。』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





し・・・




知らん間に、私に”妹”出来とるーッ!?



ちょ、ちょっと!待てーッ!しかも、今の何人!?未来の妹って、どういう事!?

再婚するの!?お母さん!ねえ!?一体、何人と再婚する気なの!?ねえ!?

思いっ切り、カタコトの日本語が、途中で聞こえたけど、妹は何人なの!?それだけでも教えて!

低燃費が何かって事より大事な事よ!?そして、そんな妹が、未来に出来ても何も嬉しくないわよっ!?喜べないわよ!!

大体、留守電に用件吹き込むなら、もっとちゃんと用件吹き込みなさいよ!イエーイとかもつ鍋とか、関係ない情報ばっかり!!

重要事項がポッカリ空いてるじゃないのよ!いらん情報ばっかり!何、重要な事サラッと流してるのよッ!?

正直、アナタの元気の度合いや夕食なんか、どうでも良いですかねッ!説明をしろ!詳しい説明をッ!詳細をッ!主に妹の!

娘が、こんな状態の時に、どこで、どんだけ自由奔放に生き始めてるのよーッ!?あのババアァアァァ!!





 ・・・こうして、水島さんには、顔も国籍もわからない、妹が出来る・・・かもしれないのでした・・・。

 果たして、これも”女難”なのでしょうか・・・?





「知るか!!そして、納得できるかーッ!!」


・・・あ、ヤベ・・・・・・あんまり力むと縫合が・・・イテテ・・・。(泣)



[ 水島さんは密談中。 ・・・ END ]





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― あとがき ―


やっとこさ、書き上がりました。思えば・・・3ヶ月以上は放置してましたね。水島さんシリーズ(笑)

烏丸女医との写真の件を引き摺りまくりましたが、これでやっと解決、と言った所でしょうか・・・。



・・・あー・・・長かった・・・。



そして!火鳥の・・・衝撃的?な下の名前も判明しましたが・・・第一に言い難い事、この上なし。

どうにもこうにも言い難いし・・・もう何ていうか、本人が恥ずかしがるのも無理ないな、と。

同姓同名の方がいらっしゃいましたら・・・えーと・・・どうか気にしないで下さい。そして、火鳥や水島のようにならないで下さい(苦笑)

だったら主人公水島さんの下の名前はどうなのか、というツッコミがありそうですが、多分主人公が意地でも漏洩を死守すると思います(笑)


今回は、またまた女難チームも色々出してみました。(でも毎回毎回、君塚が不憫で不憫で・・・笑)

水島と彼女達との関係が、それぞれ微妙に変化してきましたが、水島自身も変化してきて・・・るのかな?という場面も出したり、引っ込めたり。

・・・妹(笑)が出来たり。


・・・っていうか、密談したの、前半だけじゃん!!ってツッコミは無しで。(笑)


火鳥との対決・呪いの解き方は本当にあの方法しかないのか・ていうか、水島の人嫌いは治るのか?そして、水島家はどうなってしまうのか等々・・・は・・・


一応、おおまかな展開と最終回は、考えているのでご安心下さい。


それでは、次回をお楽しみに〜!!