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「そ、そんなの私に解る訳ないだろおおおおおおおお―ッ!?それから私の責任じゃねえよ―ッ!!」




「・・・っ・・・やかましいわね、叫ばないでくれる?耳が痛いわ。

・・・ちょっと、そこのアンタ。」


「は、はい・・・?私?」


「そこの女みたいに、叫んでも何しても無駄なモンは無駄って見て解ったでしょう?冷静さを保ってちゃんと立ちなさい。」

女子高生にそう言うと火鳥は忌々しそうにグイッと鎖を引っ張って、舌打ちをして手を離した。

「は、はい・・・!」


不運な女子高生に不運の塊である女難の女2名。

いつ爆発するかもしれない黒い箱。


(・・・・・・・。)


私は、火鳥が冷静なので、自分も冷静になろうと思った。

・・・そうだ、焦って叫んだりしてもしょうがない。


まず、自分の身の周りを調べる。

・・・悲しい程何も無い、みんなの公衆便所だ。


私は、とりあえず足にぐるぐるに巻かれた鎖を外してみようとする・・・。

ぐるぐるに巻かれた鎖を解くのは逆方向に解いていけば簡単だが、肝心の足首を巻きつけている鎖には南京錠が掛けられており、完全に外すまではいかない。


(これで、足の重みは少しはとれたけど・・・)


まあ、これで火鳥と同じような状況にはなったが・・・これでは、単にこの悲しい便所の中での行動範囲が広がっただけだ。

それは、私の足を繋いでいる鎖の先は、手洗い場の配管にしっかりと巻かれて、同じく南京錠で閉じられているからだ。


「ええっと・・・」


続いて自分の服の中を調べてみるが・・・携帯電話は、やはり無い。外部との接触は無理だ。

・・・というか財布も入ってる鞄も見当たらない。

ああ、良かった。2千円しか入れてなくて。・・・いやいや、そんな事言ってちょっとした安心を得ている場合じゃない。


外から助けを呼ぼうにも・・・ここは駅の隅の隅の隅の場所だ。

人が来てくれるか・・・ここから叫んだとしても、駅員が来るかどうかは微妙だ。

もし仮に来たとしても、彼らに何が出来るだろうか。とりあえず、警察を呼んでもらって、プロに解体していただくしかないだろう。


私は、外に向かって大声を出そうとしたが、火鳥が右手をグイッと引っ張り手錠ごと私の手首を引っ張りそれを止めた。


「痛ッ!?」


「水島、止めときなさい・・・警察なんて呼ばれたら”ゲーム”が成立しないわ。」


「・・・は?」


火鳥の言う事に、私は首をかしげた。

それを横目で見ながら火鳥は、手錠を外そうと手を動かしながら、こう言った。


「・・・アンタの考えてる事くらい解るわよ。アタシもそれは考えた。・・・けど、そんな事して大騒ぎになって御覧なさいよ。

こんなくだらない事を”ゲーム”だと呼ぶ奴にとって、そんな事になったら、面白くもなんともない・・・つまり、ゲームの意味がなくなるのよ。

このゲームの仕掛け人は、あの『カメラ』から、この腐ったつまんない”ゲーム”を見てるはずよ・・・。

だから、警察を呼んだ時点で、アタシ達は即、爆死させられるかもしれないわ。」


・・・相変わらず長い説明台詞にご苦労様、だ。


しかし、火鳥の言う事には妙な説得力があった。

現に、火鳥が顎で”あのカメラ”と指し示す方向には、天井からぶら下がっている小さなカメラのレンズが、こちらに向けられているのが見えた。


「見張られてる・・・って事ですか・・・」

「そういう事・・・チッ・・・外れないわね・・・。」


火鳥は配管を壊そうとでもいうのか、さっきから懸命に鎖を引っ張っている。

それこそ、取れた瞬間にゲームの仕掛け人が爆弾の爆破スイッチを押してしまうのではないだろうか。


まあ、アレは、そう簡単に取れそうもなさそうだし、放っておくとしよう。・・・とりあえず、私は私なりに冷静になって考えよう。


「・・・とりあえず・・・」


私が先程、床に置いた紙を再び拾い上げた。何か助かるヒントがあるかもしれない。



『これはゲームだ。生き残りたければ、爆弾を解体せよ。道具は洋式便所の中に入っている。

キミ達は、せいぜい頑張って解体するといい。制限時間は3時間だ。

ちなみに鍵は箱の中にあり、解体に成功すると手に入る。


健闘は一切祈らない。爆死しろ。 〜ダークネクロマ星人より〜 』


・・・私達を殺す気満々な台詞が、恐怖を助長させる。

・・・・・・ダークネクロマ星人というフレーズは・・・なんか聞いた事あるけど、なかった事にして、だ。

犯人は、私達に”爆弾解体”という無理難題なゲームを仕掛けてきたのだ。

だから、私達が取らねばならない行動は、一つしかないだろう。


「やっぱり、解体しなきゃダメって事か・・・。」と私は立ち上がった。


「解体出来たら、ね。」と火鳥は手錠をまだ外そうとしている。


私は洋式便所の扉を開けるべく、その1歩を踏み出したが。


「とりあえず、洋式便所の中を調べ・・・たったった!?」


カシーンッという手錠の鎖の張る音が、空しく公衆便所内に響く。

洋式便所の個室を調べようとする私に対し、火鳥が全然動かない為だ。


「何よ、引っ張らないでくれる?」

「・・・調べたいんですけど。解体する為の道具があるかどうか。」


私は自分の左手を引っ張る手錠がよりにもよって、どうして火鳥の右手と繋がっているのかが不思議でならなくなった。

・・・というか、足の鎖よりも手錠(こっち)の方が、不自由この上ないではないか。


「好きにすれば?」

「・・・届かないんですけど。」


「頑張れば?」

「・・・そっちが、もう少しこっち来てもらえません?」


「嫌よ。」

「・・・・・・・・・・・・。」


一瞬の沈黙の後。

私は、ポケットに入っていたハンカチを自分の左手首に巻きつけると、右手で自分の左腕を掴み、グッと力一杯引っ張って歩いた。


「・・・痛ッ!?な、何よ!?引っ張らないでって・・・!」

「タイムリミットは3時間でしょう?・・・その時間が、無いってこの緊急事態に・・・その手錠が簡単に外れる訳が無いでしょう!」


「じゃあ言わせて貰うけど、解体こそ、素人になんて出来るわけないでしょ!?死期を早めたい訳!?」

「じゃあ、貴女は、ゆっくり3時間かけて死にたいんですかっ!?」


「開けた瞬間に爆発するかもしれないじゃないの!!」

「それじゃあゲームにならないでしょう!?解体してる私達をあっちが楽しんでるって事なら・・・

開けて爆発したんじゃ、それこそ、ゲーム的につまらないに決まってるじゃないですか!」


「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」


睨み合う私と火鳥に、女子高校生が震え声をかけた。


「あの・・・多分、開けても大丈夫だと思います。

あの、その、これを仕組んだ人は、私の目の前でこの箱に蓋をしたので・・・多分、大丈夫だと思います。」


よく見ると女子高校生は、今にも泣き出しそうな必死に堪えているような顔をしている。

彼女は、私達より先に連れてこられたのかどうか、それは定かでは無いが、とりあえず解体の道具を手に入れるのが先だ。


「・・・異論は無いですよね?」

私がそう言うと、火鳥はやっと立ち上がった。


「そういう事は早くいいなさいよ・・・。まあ、いいわ、アンタの好きにすれば?ただし、少し中を見て、明らかに解体が不可能なら、アタシは解体に反対よ。」


「・・・とりあえず・・・道具を・・・」


火鳥の意見は、とりあえず受け流して、私は洋式便所の扉をそうっと開けた。

「・・・・・・・・・・。」



私は道具を見つけた。

・・・見つけたのだが・・・。



「・・・あったの?その道具とやらは。」と火鳥は若干イラついたような口調で私にそう聞いた。


「ええっと・・・」


・・・道具は、あった。

あったんだけど・・・


あったのだけれど、洋式便器の”中”に小さな道具箱らしき箱が、見事にすっぽりと入って、水に浸かっている。


「・・・・・・・。」


冷静に状況を考えよう。


私達が助かるには、爆弾を解体しなくてはならなくて。

その爆弾を解体する為には、道具箱が必要で。

その道具箱を取る為には、こ・・・この便器の中に、私の手を突っ込み、便器の水が指に付いても、仕方が無いという・・・!


な、なんて卑劣で文字通り、”汚い”道具の置き方だ・・・!!犯人の心には、純粋な悪意しかないとしか思えないッ!


 ※注 お食事中・おやつタイム中にご覧の皆様、大変申し訳ございません。今回は場所が場所だけに、この手のネタが続きます事をお許し下さい。


・・・正直、どうして、私が便器の中に手を突っ込まねばならないのかと、私は泣きたくなってきた。


しかし、死んでしまってから泣いても何もならない。

再び死んで、また、あの天使と悪魔に挟まれる最悪な獣臭いっぱいなサンドウィッチだけは避けたい。というか、大体私は死にたく無いんだよッ!!


私は自分の心の中でカウントダウンを始めた。1、2、の”3”で取ろう。・・・そう心に決めて。



1・・・


2・・・



「早く取りなさいよ。便器に手を突っ込むだけでしょ?」


よりにもよって、カウントダウン中に火鳥がボソッとそう言った。

火鳥!今、言ってはいけない事を言ったな!?解ってるんだよ!そんな事は!空気を読め!火鳥!


「・・・い、今、取りますから黙ってて下さい。」


怒りを抑えて、私は心の中でカウントダウンを開始した。


1・・・


2・・・


「・・・サッと取れないの?」



”・・・・・・・ぶち。”


「だーからッ!!今、心の中で自虐セルフカウントダウンしてるんでしょうがッ!

この便器の中に、この素手を突っ込むこっちの気持ちも知らないで、後ろからガタガタ好き勝手言わないで下さいよ!

私が今、どんな思いでセルフカウントダウンしてると思ってるんですか!?他人が用を足す便器の中に!その水に!この素手を突っ込むんですよ!?

この手で、キーボード叩いたり、食事したり、色々するのに、その手を便器に突っ込むんですよ!?躊躇しない訳ないでしょうが!

そんな中、人が覚悟のセルフカウントダウンしてる途中に、余計な事を色々言わないで下さい!

あーもう!決意が、いちいち少女マンガの主人公並にブレて揺れ動くッ!!」



私は、火鳥の方を向いて、一生に一度あるかないかの長台詞をまくしたてるように言い放った。


「・・・そ・・・そんなに喋れる暇あるなら、とっとと取りなさいよ・・・。」


ごもっとも!だけど、今は黙ってろ!

 ※注 只今、主人公が逆ギレを起こしましたが、キャラ崩壊でもなんでもなく、物語はいつも通りに進めて参ります。ご了承下さい。


「はあ、はあ・・・・・・あ、貴女は取る事が出来ない位置にいるから、そうやって色々言えるんでしょう?・・・今・・・今、取りますから!10秒以上は黙ってて下さい!」


私がそう言うと、火鳥は露骨に面倒臭そうな顔をして言った。


「・・・・・はいはい、わかったわよ。弱気な、お馬鹿さん。」


・・・・・くそぅ・・・手錠で繋がってなかったら、思いっきり距離を取るのに・・・!!

しかし、便器に手を突っ込むのは・・・距離的に道具を取る事が出来る者は、私しかいないのだ!!

やるしかない。


1・・・


2・・・


3!


・・・で、取るのよ!水島!


 ※注 主人公の決意が固まるまでしばらくお待ち下さい。


1・・・


2・・・


3!


・・・で、取るんだからね!!水島!


 ※注 主人公の決意が固まるまでしばらくお待ち下さい。


「・・・・・・・・・・。」



1・・・


2・・・


3!


・・・で、便器の中に・・・手を入れて取るんだからね!ガンバレ私!!(泣)


 ※注 主人公の決意が固まるまで・・・とっととやれ。話進まないから。



「・・・・・・・・・・。」



1・・・


2・・・


3!






「せーの・・・・・ぅぁ・・・っ・・・・・・・はいぃッ!!!」


指に伝わる水の感触と固い道具箱の感触・・・。

私は、便器の中に手を突っ込み、箱をガッシリと掴み、引き上げた。




・・・成功だ・・・!



だが、手についた”水”が・・・私の気分を容赦なく奈落の底に落とす。

つ、遂に・・・べ・・・便器の水で汚染されてしまった・・・私の手・・・。


「・・・はいはい、良かったわねー。手、洗ったら?」

「・・・うう・・・」


棒読み台詞の火鳥に促されつつ、私は素直に洗面所で片手と道具箱を洗う。


しかし、石鹸やハンドソープもない。流水だけで汚染されてしまった手を洗う。

・・・どうしてかしら・・・ちっとも・・・洗えた気がしないのは・・・。



いや、落ち込んでいる場合じゃない。


手は汚染されてしまったが、それ以上の危機がすぐ傍にあるのだ。



『爆死』


・・・この二文字だけは、回避しなければ。ていうか、すごく嫌な死に方。ていうか、また死ぬって・・・あり得ないわ。本当に。


私は、ハンカチで手を拭き、道具箱を拭き、私は女子高校生の方を向いた。

女子高校生は未だ震えている。

あまり震えてうっかり爆弾入りの箱を落とされても困る・・・というか、死ぬし。


「・・・じゃあ、これからこの箱を開けます。しっかり持っててくださいね・・・ええと・・・貴女、名前は?」

「乾 美明・・・ (いぬい みあけ)です。」


私は、目の前の女子高生という生き物に、勿論、興味は微塵も無い。

だが、まず彼女の震えを止めなければ、解体作業に支障が出てくるのは間違いは無いだろう。


皮肉な事に私は毎度毎度の女難トラブルにより、どんな状況下でも落ち着けばなんとかなるわ、という・・・

・・・言い換えれば”悲しき慣れ”という、この人生で出来る事ならば、得たくは無かったこの術を、この身体が自然に知ってしまっている。

その為、変に冷静な自分にすら疑問も持たずに、便器に手を突っ込み、道具を入手し爆弾を解体しようとしている・・・

この非現実的な状況にすら、私は、やっぱり変な冷静さを保ち、このトラブルに向かって立ち上がっていた。


「じゃあ、乾さん・・・しっかり持っていてね。」

私は、彼女の目をしっかりと見て”くれぐれも落とさないでね!”と心の中で呟いた。

「は、はい。」


まずは、箱を開けよう。


私は、解体に取り掛かるべく、先程、便器の中から心の中で半泣きしながら取り出した道具箱を開け・・・


・・・ど、道具箱を開け・・・られない・・・!


というのも。


「・・・・・・あの・・・火鳥さん、右手、もっとこっちに・・・私、道具箱を開けたいんで。」


私は火鳥の方を向いてそう言った。火鳥は、まだ向こうで鎖を引っ張っている。

このままでは、折角便器の中から取り出した道具箱が開けられない。火鳥の右手と私の左手が手錠で繋がっているせいだ。


ただでさえ便器の中に入っていた道具箱なんだから、あまり触りたくは無いのだ。中身に触れたい。いち早く。


ところが。

「・・・アタシに命令しないで。」

・・・と、きたもんだ。


あー・・・もう、なんなの、この人。

生きたいのか、死にたいのか、シー○ェパードなのか、もう何がしたいんだか、なんなのか、わからない。

いやいや、こんな所で心の中でキレてる場合じゃない。

私が、ここで怒りを爆発させても誰も死にはしないが、今はそこの爆弾が爆発すれば、3人揃って仲も良くないのに死んでしまう。


「た・の・ん・で・る・ん・で・す。(強調)・・・死にたいんですか?何度も言いますけど。」

「・・・チッ・・・。」


・・・まったく、この状況で舌打ちするなんて、良い意味でいい根性している雌二足歩行野郎で、悪い意味でいうと非協力極まりない雌二足歩行野郎だ。

 ※注 どちらにしても、それじゃ悪口ですよ、水島さん。


私はやっと両手を使い、道具箱を開けた。

中には、プラスドライバー・マイナスドライバーとニッパーが入っていた。


(こ、これだけ・・・?)


・・・しかし、これだけでも・・・これだけの道具でやれるだけの事をやるしか、ないのだ。



「・・・よし・・・やるわよ・・・!」

「はい、お願いします・・・ッ!」


私がそう言うと、女子高生は緊張した声で答えた。


一方、火鳥はというと、それを黙って冷めたような目で見ている。

多分というか、絶対心の中で呆れてるか、馬鹿にしてるんだろうと思う。


だが、動かないと事は動かない。ていうか、死ぬ。


だから、私は諦めない。

覚悟は、決まっている。

やるしかない。


箱の四隅は、プラスネジで止められている。私は、黒い箱の蓋を開けるべく、まずプラスドライバーを手に取った。

3時間という制限時間の中で、何をどこまで出来るかはわからない。

私は、ただの人嫌いのOLでしかない。爆弾の解体のいろはなんて、いの字も知らない。



・・・だが、ここでベストを尽くせば・・・いや、尽くさなければ!・・・・・・色々あって、結局は死ぬ。



私は、断じて、諦めない。

ていうか、(また)死にたくないから!


四隅全てのネジを全て取り外した。とりあえず、これで・・・


「・・・よし!・・・開いた・・・!」


私は慎重に、蓋を持ち上げ、そうっと蓋を開ける。

開けた瞬間に”カチカチ”という音が、今度はハッキリと聞こえてくる。


「・・・これは・・・タイマー・・・!?」


まず目に入ったのは、デジタル時計の数字。

数字が減っていっているところを見ると、このデジタル時計は爆弾までのカウントダウンを示しているのだろう。

あとは様々な色の配線達が並び、それらが複雑に絡まってるわ、なんか小さな箱が色々あるわで・・・

・・・あとは、ダイナマイトらしきものだけがハッキリ見える・・・



・・・・・・・あとは・・・・・あとは・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



・・・あとは、なんだかわからない・・・や、やっぱり素人には、無理なのか・・・!?




「どう?解体できそうかしら?・・・お優しい勇気のある水島サン。」


火鳥が皮肉な笑みを浮かべながら、嫌味を言ってくる。

どうにもこうにも、私が火鳥を好きになれない一部分がコレだ。


「・・・嫌味以外に、マシな言葉吐けないんですか?・・・莉里羅サン。」


私も嫌味で返す。


「・・・下の名前で気安く呼ぶなって何度言わせれば解る訳・・・?」

「・・・今は言い争ってる時間じゃありません。これは、時限爆弾なんですよ?」


「じゃあ聞くけれど・・・素人の事務課のOLのアナタなんかに、”安全”かつ”確実に”、爆弾の解体なんかが、出来るの?」


「・・・や」

「”やってみなければわからない”、なんて愚の骨頂の台詞を吐く気なら、アタシ達が死ぬのは確実ね。」


「・・・・・・・・・・。」


・・・悔しいけれど、火鳥の言う通りだった。

私に、爆弾解体なんて技術はそもそも備わってない。

いくら私でも、走って逃げる事だけしか取り得のない、普通のOLの私に爆弾解体なんて・・・



・・・だけど。



だけど、ここで諦めたら・・・(また)私は、私達は死んでしまう。

だから、足掻いているんじゃないか。


「やっぱり・・・だ、ダメなんですか?・・・わ、私達・・・ココで、し、死ぬんですか・・・?」


乾という名の少女が再び・・・いや、先程よりも体はブルブルと震え始めた。

そ、そんなに震えたら箱が落ちる・・・!!


「お、落ち着いて・・・今、解体するから・・・!」


「解体ですって?まだわからないの?水島!

素人の爆弾解体なんて、高が知れてるわ。現にアナタ、何をどうすればいいのか解ってないじゃないの!」


「そ、そんな事は無いですよ・・えと・・・このネジを外して・・・まず、この小さな箱とか開けていけば・・・」


私は再びプラスドライバーを手にして、ネジ爆弾の中の小さな箱を開けた。


小さく折りたたまれた紙が入っている。私は、それを慎重に取り出してみる。

もしかしたら、何らかのヒントが書かれているのかもしれない・・・!!

小さな紙切れに私は全ての希望を注ぎ、その紙を開いた。





 『全力でガンバレ!そして、死ね★』




「・・・・・・・・・・・・・・・。」




・・・き・・・希望なんか抱いた私の大馬鹿野郎――――ッ!!!




私は、その紙くずを捨てた。

小さな箱はまだまだある、私はそれを片っ端から開ける事にした。

勿論、それらの中に開けてしまったら即爆発するような・・・いわゆるトラップもあるかもしれない。

・・・だが、開けずにはいられなかった。


何か、何かヒントを・・・!!







 『全力でガンバレ!そして、死ね★』





「・・・・・・・・・・・。」


・・・ま、負けるか!!(泣)

小さな箱はまだまだあるから!私はそれを片っ端から開ける事にしたんだいッ!!

勿論、それらの中に開けてしまったら即爆発するような・・・いわゆるトラップもあるかもしれないけれども!!

だが、開けずにはいられなかったッ!以上!くっそ!絶対、解体してやる!!!




『 ★当たり★ 〜 ヒントは、ダイナマイトに繋がっている線を切る事 〜 』



・・・当たり、だと?ガリガリ君じゃないんだから・・・!

・・・く、クジ感覚の爆弾解体なんて・・・

なんて・・・なんて、馬鹿馬鹿しいんだ!この爆弾はッ!


・・・だが、これで解った!


「よし!このダイナマイトに繋がってる線を切ればいいんだわ!」


「ほ、本当ですか!?」

乾さんも喜びの表情を浮かべる。


・・・ところが。


「で、どの線を切れば良いのかわかるの?水島。」

喜びも束の間、火鳥が鋭くツッコんだ。


「・・・・そ・・・それは・・・・・!」


私が紙切れから得たヒントは、あくまで”ヒント”というだけで、具体的にどの線を切ったら良いのか?という答えには繋がらない。

爆弾の中には様々な色の線が、ダイナマイトに繋がっている。

いずれかを切れば爆発は防げる、そういうお決まりのパターンだとは、解ってはいるのだが・・・!


どれから切ったら良いのかわからない!!

肝心な所がわからない!!


「・・・・・・・・・・・・。」


沈黙する私の様子に、火鳥は溜息をふっと漏らして、失笑していた。

よくもまあ、この状況でそんな笑い方ができるな、と私は思った。

私と火鳥は再び睨みあった。先程から、解体作業に何の協力もしていないくせに。


「あの・・・。」


険悪なムードの私と火鳥に向かって乾さんが言った。


「あの、こんな時に空気読めない発言だとは思うんですけど・・・あの・・・」


「何よ?」

「何ですか?」


私と火鳥が乾さんに向かってやや不機嫌そうな声で聞き返すと・・・


「あの・・・私、実は・・・トイレに行きたいんです・・・けど・・・。」


「「・・・・・・・!!」」

私と火鳥は言葉を失った。

ここにもう一つの爆弾・・・膀胱という名の爆弾が・・・!!


 ※注 お食事中・おやつタイム中にご覧の皆様、大変申し訳ございません。今回は場所が場所だけに、この手のネタが続きます事をお許し下さい。



「もう、かれこれずっと我慢してて・・・でも、動くと爆弾がアレ、しちゃうし・・・でも、これ以上、このままだとアレが出ちゃうし・・・」


・・・誰が、誰が好き好んで同性のお漏らしシーンなんて見たいと思うだろうか。

いや、もしも・・・漏らしてしまった場合、その瞬間、彼女は間違いなく脱力する。

そしたら、もう一つの爆弾が爆発する・・・!


・・・いや、待てよ・・・いっそ彼女のアレでダイナマイトを湿らせる、という手が・・・って出来る訳ねえじゃん!!(泣)

落ち着け!私!!


「ちょ、ちょっと待ってて下さいね・・・ええと・・・!」

「ま、待ちなさい!水島!下手に線を切るなんて真似する訳じゃないわよ!?」

「でも・・・!」


言い争う私と火鳥に向かって乾さんは更に追い討ちをかける一言を言い放った。


「あの・・・あと・・・あと残り時間・・・30分きりました・・・。」


「「何ーッ!?」」


「は、はやく解体を・・・!」


乾さんはそう必死に呼びかけるが、私にはどの線を切ったら良いのか解らない。




そして、火鳥はここでダメ押しの一言を放った。


「その様子だと、わからないようね・・・わからないんじゃ、やっぱり解体するってのはダメね。」


「やっぱり・・・だ、ダメなんですか?・・・わ、私達・・・ココで、し、死ぬんですか・・・?」


乾という名の少女が再び・・・いや、先程よりも体はブルブル、膝はガクガクという勢いで震え始めた。

そ、そんなに震えたら本当に箱が落ちる・・・!!


「か、火鳥・・・本当にアンタは助かる気があるのか!?余計な事ばっかり言って!!

いや・・・確かに、確かに、正論なんだけどさ!彼女を怖がらせるような事を言うな!少しは状況考えて、モノ言えないのッ!?」


私は乾さんのガタガタし始めた手をガッと抑えるように握った。

勿論、爆弾を落としてもらっては困るからだ!


「正論を言って何が悪いのよ!この状況で、これ以上、素人が解体なんて真似をしたら、爆死するのは火を見るより明らかだわ!

もう・・・もう・・・こうなったら・・・!」


「こうなったら・・・!?」


「・・・水島・・・もう、ここで儀式をやるしかないわ・・・!」


こんな時に何を言うかと思ったら、火鳥は私の両肩を掴んでそう言った。

目はいつになく真剣で、血走ってる・・・!

この女は、この状況下でもまだそんな事にこだわっているのか?


ここを何所だと思っている!みんなの公衆便所だぞ!そして、女子高校生・乾さんがいるんだぞ!


それに・・・私だって負けていられない!言いたい事が山ほどある。


「それこそ、阿呆かッ!!冷静になれッ!

そんな事して、呪い云々をどうこうするより、目の前の爆弾が解体するのが先でしょうがッ!

それに、女子高生に生々しいトラウマ映像見せ付けてたまるか!・・・・いいから・・・見てなさい・・・ッ!」


私は火鳥の両手を振り払って、再び箱に向き直った。


「み、水島・・・ッ!何をする気・・・!」


「死にたくないのは皆同じです!だから、私は諦めない!解体してみせる!

・・・要は、ダイナマイトに繋がってるこの線をどうにかすれば良いんですから・・・!」


とはいえ、線は様々な色が、たくさんあって・・・どれから切っていけば良いのかわからない。


・・・だけど・・・!


(そういえば、まだ開けてない箱がある・・・開けてみるか・・・)


ハズレだったらどうしよう・・・そんな事を考えながら私は、最後の小さな箱を開けた。

そこには赤と青、2本の線が並んでいた。

そして、小さな紙切れにはこう書いてあった。



『★大当たり★ どっちかをきれば、ゲームクリア!でも死ね★』


相変わらず、どうしても私達を死なせたいらしいゲームの仕掛け人の言葉・・・だが、確かに受け取った!!


「この箱の中の線の・・・ど、どっちかを切れば・・・爆発は免れる・・・!!」

私がそう言うと、火鳥は驚いた声を出した。


「・・・何、ですって・・・?」


「赤と青・・・どっちかを切ればゲームクリア!そう書いてあります!」

私がそう言うと、火鳥は静かにこう聞いた。


「・・・で、どっちよ・・・?」

「・・・わかりません!」


少し考えてはみたが、わからないものは、やはりわからない。

どっちかが爆破で、どっちかが助かる・・・だけど、今の私に、どっちかなんて決められる筈もない。


時間だけが無常に過ぎていく。


季節は、もうすぐ冬の到来を告げるような寒さを含んだ風が吹く。


しかし、私は・・・いや、今の私達には、季節もへったくれも関係ない。


場所は、とある駅の端っこにある女子トイレ。


決して清潔とは呼べない和式2組と洋式が1組設置された、芳香剤の匂いもするかしないか微妙な臭いが漂う、狭く薄暗い一般的な公衆便所である。

そんな一般的な公衆便所からは聞こえるはずのない鎖の音が、ジャラジャラと鳴る。


・・・それは、私が右手を動かす度に、いや、誰かが動く度に音がするんだから、しょうがない。



「・・・貴女の、好きな色は?」

「私の・・・す、好きな色・・・?」


・・・もう、乾さんの精神力、及び膀胱は、限界かもしれない。

声も震えて、目からは、先程からいくつもの涙が零れて頬を伝っている。

やがて下からも何かが零れてしまうかもしれない、その前に・・・私は決断しなければならない・・・!


「・・・そんなもんどうだっていいわよ!どっちか早く切りなさいッ!水島ッ!」


火鳥は火鳥で、顔を強張らせながら”そんな馬鹿馬鹿しい質問している暇等ない!”とばかりに私を睨んで一喝した。


そんな事言ったって、事は簡単に決められない。

だって、命が、かかっているんだから。




”いつも通りに逃げればいいだろう”って?


それが出来たら、とっくにそうしている。


・・・私は・・・いや”私達”は、今動けない。


私達、女難の女は、そういうトラブルから共に逃れられない・・・そういう運命だから・・・


・・・で、片付けてたまるか!何よ!この状況!映画でも無いわ!こんな状況!



”カチカチカチ・・・”


「・・・ご、5分きった!・・・もう、もう時間がないわ・・・!」


乾さんがタイマーを見て声を上げた。


私はハッとした。心の中で逆ギレを起こしている場合じゃない。


「水島!早く切りなさい!何をグズグズしてるのよッ!これで死んだらアンタのせいよ!」


火鳥は自分の鎖を引っ張りながら、私に向かって叫んだ。


「・・・2人共、黙ってて下さい・・・。」


冷静を装って私は二人にそう言った。

本音を言えば、私だって何もかも放り投げて、無茶苦茶逃げ出したい。


でも、出来ない。



火鳥は、さっきから自分だけ逃げようと必死に鎖を解こうと引っ張ったりしているだけだ。・・・無駄なのに。


唯一、私が自分の意思で自由に動かす事が出来るのは、私の右手(利き手)だけ。


状況は、強引かつ史上最悪もいい所だ。


・・・お分かりいただけただろうか。




ここまで長かったがこれが、前半の冒頭までの話になる。



作者の文章能力の無さのせいで、何がどうなっているのか未だ訳が解らない読者もいると思う。

私だってそうだ。こんなの信じられやしない。

”女難か”と思えば、まさか、こんな”爆弾を解体しなきゃいけないトラブル”に発展するなんて、一体どこの大馬鹿野郎が考えるんだろうか。


 ※注 はいはい・・・そいつは、悪かったな。考えたのも書いたのも私だっての。



・・・つべこべ頭の中で呟いている場合じゃない・・・今は一刻を争う時だ・・・!


(・・・だけど・・・!)


私は恐怖に震え、残された単純な作業である”それ”が、出来ずにいた。

私はペンチを持つ手の汗を服で拭い、再びペンチを握る。残された時間は少ない。


私達は・・・爆発して死ぬのか、それとも助かるのか・・・


全ては・・・この決断にかかっているのだ・・・。




「・・・水島ッ!いいから、とっとと切りなさいよ!!」と火鳥が鎖を引き千切らんばかりに掴んで叫ぶ。


「叫ばないで!だったら、自分で切ればいいでしょうが!!」

私は、汗ばむ手を必死に拭い、ニッパーを握る。


「それが出来たら叫ばないわよ!アタシは動けないし、届かないんだから!やりなさい水島ッ!!」

「だったら、私に向かって叫ぶなッ!気が散るッ!!」


火鳥は爆弾まで手が届かない。


「早く助けてぇーッ!」

「お前も泣き叫ぶなッ!気が散るッ!というか漏らしちゃうから力まないの!」


乾さんは箱を持って、恐怖と尿意を抑えるので精一杯。



色々な爆発を阻止できる線を・・・爆死する、という縁を切断できるのは、私だけだ!




(でも、どっちだ・・・?どっちを切れば良いんだ・・・?)



額から汗が滲み出てくる。

私は、ペンチを握る手の震えを抑えながら、目の前のセーラー服の少女・乾 美明さんに聞いた。


「もう一度聞きますよ・・・貴女の、好きな色は?」


私は、ゆっくりと乾さんに聞いた。

この場合、女難の女の幸運なんて高が知れている。というか、不幸のど真ん中にいる人間だ。

だったら、いっそ、赤の他人の幸運に全てを賭けるしかない、私はそう考えたのである。


「私の・・・す、好きな色・・・は・・・・・・・・・・・・・・・・・・緑です・・・。」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



― 残り時間 3分13秒 ―






「「赤か青で答えなさいよ―ッ!雰囲気的にどっちか言う場面でしょうがーッ!」」




私と火鳥は声を揃えて年下の彼女にツッコんだ。


「ご、ごめんなさい・・・つい・・・ッ!ごめんなさい!えと・・・えと・・・やっぱり私には、決められません!こんな大事な事!」


乾さんは泣きながら、白旗をあげた。

(こうなったら、私が決めるしかないのだろうな・・・)


私は、青を切ろうと思った。・・・なんとなく。


そこに痺れを切らした火鳥が叫んだ。


「アタシが決めるわ・・・赤よ!赤を切りなさい!」

「いや、私は青だと」


「何言ってるのよ!赤よ!」

「い、いや・・・でも・・・!」




― 残り時間 1分56秒 ―



「・・・も、もう・・・だめ・・・!」

「え?も、もしかしてもう1分切った・・・!?」

「早くしなさい!水島!赤を切るのよ!」


「お・・・オシッコ漏れちゃう・・・!」





「「そっちかよッ!!!」」






― 残り時間 52秒 ―




「水島!早くなさいッ!!」

「・・・く・・・くっそおおおおおおおッ・・・!!」



私は、ニッパーをグッと握った。

だが、その先・・・力がどうしても込められない。


これで、全ての運命が決まってしまう。


私の命が終わってしまうか、否か・・・。


大体、なんでこんな事に私が巻き込まれなければならないんだ・・・!


(いや、泣き言を言ってる暇は無い・・・どっちだ・・・ッ!?)


私はこの極限の状態でも、まだ迷っていた。自分でもイライラするほど、迷っていた。


そんな時、だった。



『・・・負けないでね?水島さん。』

『・・・勝ち負けの問題じゃないですってば。』


何故か、烏丸女医との会話が浮かんできたのは。


『ああ、それもそうね。ある意味、勝負に勝って試合に負けてるって言うんだっけ?』

『いいえ、どっちにしても、私には”負け続け”ですよ・・・はぁ・・・。』


私は、溜息と一緒にタバコの煙を吐く。その隣で、烏丸女医はのん気にまだ笑っている。


『そうでもないわよ?貴女は・・・なんというか、まあ、勝ちとか負けとかどっちも関係ない人なのよね。ふふっ・・・』

『・・・・・・・・。(だから、どういう意味だ・・・そりゃ・・・。)』



その瞬間、私の頭に僅かながら”何か”が、閃いた。

このゲームの仕掛け人の性格、これまでの紙切れを総合して考えると・・・



・・・もしかしたら・・・



(・・・どっちでも・・・ない・・・?)


そう私が思っていた瞬間。


「本当に愚図ね・・・ッ!早くしろって言ってるでしょッ!?」


火鳥が、考え込む私の背中を思い切りバシンと叩いたのだ。


”・・・ドンッ!”



― そして、その直後。 ―



”・・・ブチッッ・・・!”



「あっ・・・!」

私は声を漏らした。


「な、何よ・・・何よ!?”あっ”て・・・!」

状況がわからない火鳥は、焦りながら聞いた。


私は、顔を引きつらせた。



「火鳥が・・・火鳥が押すから・・・・・・・線・・・両方、切れちゃった・・・。」


そう言って、私は、力なく笑った。


「「・・・・・・・・・・・・え・・・。」」





 ・・・世界よ、さようなら。



そう思った私は、目を閉じた。






”・・・カチリ。”




(・・・何の音だ・・・?)


爆発も何も起こらない箱から、確かに小さな音がした。

不思議に思って、私は目を開けて箱の中を見た。


すると、箱に固定されていたダイナマイトが、浮き上がっているではないか。


(・・・ま、まさか・・・)


私は、それをそっと持ち上げた。

ダイナマイトの下からは、いくつもの鍵が出てきた。



「よし・・・か・・・解体、成功だ・・・ッ!」



「・・・え?」

「・・・なんですって・・・?」


私は即座に、ダイナマイトを箱からすぐに取り去ると私は、洗面所の水道水をたっぷり流しかけてやった。



「つまり・・・どっちでも無かったんですよ・・・!あーもう!良かった・・・助かったぁ・・・!

あ、火鳥・・・はい、鍵。・・・合わなかったら、こっちに返して。」


私は、意気揚々と鍵を取り出すと、その一つを火鳥に投げてやった。


「あ・・・あぁ・・・どうも・・・。」


一つ一つの鍵を取り出しては鍵に合わないかを確認しつつ、自分の手錠や南京錠の鍵を取り外し、乾さんの鍵も取り外した。

そして、全員の鎖、手錠が取れた。


あっさりとトラブル解決!


・・・カメラに・・・いや、カメラの向こうのゲームの仕掛け人に向かって、私は勢い良く中指を立てた。


(よっしゃー!!)


※注 普段、小心者の水島さんは爆弾解体という大任を果たした後の為、テンションがいつに無く上がって行動が大胆になっております。
   キャラ崩壊・キャラ路線変更等では、ありませんのでご安心下さい。


「・・・・・・・・・ふっ・・・生温いわね・・・フンッ!!」


火鳥は、火鳥で高々くジャンプしたかと思うと、足を高く上げ、空中でカメラを蹴り飛ばし、壁に叩きつけて完全にカメラを破壊した。


「これ以上、馬鹿にショーを見せてやる必要なんか無いわ。」

「・・・ま、まあ・・・確かに・・・。」


・・・な・・・なんだろう・・・なんか、私よりカッコつけて・・・なんかズルい感が否めない・・・。


「まあ、これで、全部外れましたね・・・さあ、乾さん、遠慮なく用たしてください。」

私はそう言って、自分がさっき手を突っ込んだ洋式便所へ入るように促した。


・・・促したのだが。


「あ・・・ありがとうございますッ!水島さんっ!貴女は命の恩人ですッ!」


乾さんは折角自由の身になったのに、私にガッシリと抱きついてきたのだ。

いや、貴女、膀胱パンパン状態でしょ?そんな暇あったら、便所に入りなさいよ!と思いつつ。


「ぅ・・・私にだ、抱きつくより、用をたしちゃって下さい・・・。」


力なく私はそう言うしかなかった。

ああ、忘れてた・・・彼女、女難だったんだっけ・・・あっはっはっは・・・。

はぁ〜ぁ・・・一難去ってまた一難・・・か。


「・・・あ、はい・・・すみません、私ったら・・・」


頬を染めた乾さんが便所に入ると同時に。

ご丁寧にも私達の荷物は和式便所の中に揃えて置いてあった。

・・・和式便所の床に直に荷物を置かれるなんて・・・と少しショックを受けつつも

荷物を持ち、その中に自分達の荷物が全て入っている事を確認した私と火鳥は、互いの目を見ると頷き合い、便所を猛ダッシュで出た。


駅を出て、そのまま街中を疾走した。

警察への通報、事情説明、その他は乾さんに任せて、女難の女の私達は現場からいち早く立ち去らねばなるまい。




しばらく走ると、人気のない道に出た。


周囲は、夕日が完全に沈んだ、静かな夜の世界だ。


「あぁ・・・危なかった。・・・まさか、あんな所であんな目に遭うとは・・・。」と私はしみじみ言葉をこぼした。

「まったくだわ・・・女難にも種類やら危険レベルが色々あるのね・・・。」と火鳥もしみじみ言葉をこぼした。


「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」


夜の空気が冷たく、静かに私と火鳥の間を吹き抜ける。

私と火鳥はふと、どちらともなく、お互いの顔を見た。


「・・・水島。」

「何ですか?」


静かな道で、火鳥が口を開いた。

私は、それよりも、汚染された自分の利き手が気になっていた。思い出してよかった。うっかり、その手で髪をかき上げる所だった。


「今回は、奇跡としか言い様がないわ。感謝なんかしないわよ。」

「・・・別に良いですよ。期待してもいませんし。

確かに、火鳥さんに背中押されて赤と青一緒にブッち切ったのは、事実というか奇跡ですけど・・・最初から、”どっちでもなかった”んですよ。」


「何?・・・どういう事よ?」

「あの爆弾の線、赤か青かどちらか一方を切らなくちゃいけないっていうのは、単なる私達の先入観、犯人の罠だったんですよ。

アレは、赤青どっちも同時に切らなくちゃ解体出来ない、そういう仕様だったんだと思いますよ。

大体、あのゲームの仕掛け人は、最初からゲームを楽しみつつ、私達を殺す気満々でしたからね・・・。」


あとは・・・烏丸女医のあの言葉が、なんとなく浮かんだせいもある。


 『どっちでもない。』


私は、勝ち負けも何も関係のない女。


呪われた女難の女の決断なんて、どう足掻いても人生負けだ、なんて思っていた私だが・・・

それでも、私は足掻いて、足掻いて、足掻きまくって、その御蔭で・・・今だって、なんとか生き残っていられるのだ。


・・・なるほど。

烏丸女医のあの、のん気とも思える言葉に、私は今、納得出来た。


「・・・ふん、なるほどね。・・・でも、その奇跡が・・・いつまで続くかしらねぇ?いえ、奇跡は続く事がないから、奇跡なのよ?わかる?」


火鳥の言いたい事はわかる。奇跡なんかそうそう起こらない。

大体、私は一回死んでる身だし。

そして、火鳥が、これから何を提案しようとしているのかも大体、解る。


「何が言いたいんだか、解りかねますね。・・・大体、これ以上、一緒にいたら、また一緒に女難に遭いますよ?」


「・・・それをどうにかしようとは、思わないの?水島。」


「どうにかしようとは思います。・・・ただし、儀式以外の方法で。」


「・・・まだ、そんな事を・・・ッ!今日のトラブルで、何の危機感も持たなかったの?やっぱり、馬鹿なのね!」


「いくら何をど〜う言われても、私は、儀式する気はありません。」


私の決意は未だに変わらない。

確かに、火鳥との儀式は人嫌いの私と火鳥にとっては、手放しで効率が良い方法だ。

しかし、本当に呪いが解けるかどうか、確証は無い。例え、確証があっても、私はその方法は取らない。

そう決めている。


「人を道具みたいに使うのが嫌だから、なんて戯言は、聞き飽きたわよ。

同じ、人間嫌い同士が、お互いの為に、お互いを儀式の道具として使う、それだけの話じゃないの。

邪魔な馬鹿を一掃して、元通りの生活を送る為の・・・その為の代償なのよ!?同じ人嫌いでしょう!?どうして、わからないの!?」


何故だろう。火鳥の言葉に、私は違和感を感じていた。

何故だろう。同じ人嫌いの筈なのに。

人間関係なんて、火鳥と同じように煩わしい、邪魔なもんだと思っているはずなのに。


でも、違う。

火鳥と私は、確かに似ているのだが、だが・・・違う。

それだけは、ハッキリしている。


以前は、簡単に『ただ、ムカつくから』という理由で、コイツに協力する気が起きなかっただけだと思っていたが。

でも・・・今は、火鳥にここまで協力出来ない理由が・・・なんというか、自分の中で『ムカつく』だけでは、しっくりこないのだ。


私と火鳥は、確かに似ている。だけど、違う。

(もっと・・・決定的な、何かが・・・。)


そんな事を悠長に考え込む私に対し、火鳥は言った。



「水島!・・・アンタは・・・アンタは、周りの馬鹿に染まるような人間じゃない!このアタシと組むべきなのよ!いい加減、理解しなさい!」

「・・・・・・・・・。」



・・・いつになく、妙に必死とも思える火鳥の言葉に対し、私が放った言葉は・・・。



「・・・私を、貴女みたいな人と一緒にしないで下さい。」



私の言葉がそんなに意外だったのかどうかは知らないが、火鳥の目がハッキリと見開かれた。


「・・・・・・なん、ですって?」


「そういう考え方には、賛同できないって言ってるんです。

私は、いつだって自分の問題を自分の力で解決してきました。これからもそうです。

貴女は余程、優秀なのかもしれませんけど、誰かを道具扱いするだの、馬鹿呼ばわりする”だけ”の貴女なんかに、私は協力する気はありません。

いくら女難を増やしても、私は・・・”貴女なんかには絶対に屈しません”。・・・それだけです。じゃ。」




・・・私は早口でそう言うと、火鳥に背を向け、自宅へと向かって走り出した。




「・・・水島・・・」



火鳥が後ろでボソリと何か言ったような気がするが、関係ない。

自宅まで、2駅くらいの距離があるがそれも関係ない。



(・・・・・・一刻も早く・・・この右手を洗いたいから・・・!!あーもう、最悪・・・!便器に・・・便器に手を・・・!)


後にも先にもそれしか気にしてない、心の中で号泣中の私が帰宅中・・・






 ― その同時刻 ―



「くそう・・・なんであのトラップが解ったんだ!?普通、どっちか片方切るだろぉ!?あのクソ女共・・・!もっとド派手な大ニュースになると思ったのにぃ・・・ッ!」


「・・・フフッ・・・だから言ったでしょう?私の水島さんは・・・アナタ達、ダークネクロマ星人には負けやしないとね。」


「・・・ていうか、大体・・・オタク、どなた?いつの間に俺の部屋に・・・」


「愚問ね・・・アナタ達、薄汚いダークネクロマ星人を根絶やしにする使命を背負った戦士、兼・・・愛に生きる一人の女よ。」


「はあ?オタク、頭大丈・・・ぶ、はぁっ!?ぐはっ・・・ゴホッゴホッ・・・な、なんなんだ・・・お前・・・」


「嗚呼・・・水島さん・・・私は嬉しいわ・・・もうすぐ、再び貴女に会えるその日がくる事を・・・。」


「ひ、人の話、聞、け、よ・・・(ガクッ)」






 ― 数日後 水島さん達を巻き込んだ爆弾魔こと 黒井 一也(23)が”謎の情報提供者”により逮捕されたという。 ―





「・・・・ん?・・・なんだ?今の寒気は・・・!?え?何?」


水島さんは、微妙に嫌な予感を感じ取っていた。

彼女のその予感は、やがて現実に彼女の目の前に現れる事となる事を・・・まだ水島さんは知らない・・・。




そして。

水島さんが放った言葉の一つ一つを噛み締めた女、火鳥さんは、かつてない怒りを燃やしていた。




「・・・水島・・・遂に・・・遂に、このアタシの逆鱗に触れたわね・・・ッ!・・・絶対に、絶対に許さないわ・・・ッ!!」




・・・こうして、火鳥と水島・・・女難の女、両名の”最後の戦い”が始まろうとしていた・・・。


それは、決して・・・アホらしい戦いとは呼べない、彼女達の”最後の戦い”である。





「・・・あぁ・・・寒くなってきたなぁ・・・」



だが、水島さん本人は、まだその重大さに気が付いていない事は・・・言うまでも無い。





 ― 水島さんは解体作業中。 ・・・END ―





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あとがき


えー・・・まず、便器の連呼、最低な表現の数々、今回は本当にすみませんでした。(笑)

なんというか、ここまで来ると逆に吹っ切れて気持ち良かったです。(オイオイ)

前編の生理用品といい、便器の連呼といい、一応、この話は”女”が書いてるんですよ?ホントですよ。(笑)


爆弾解体なんて、普通は出来ません。こういうモンは持たない!作らない!持ち込まない!・・・警察呼びましょう。(笑)

爆弾と言えば、昔、『鈴木爆発』というPSゲームソフトがありましたが、私はそれを思い出します。


また、よく『赤か青・・・どっちか切るんだ!』的な展開がありますが、あえて、今回はそれに歯向かってみました。


水島さんシリーズを見てくださっている方は、最後の謎の女(謎でもなんでもないけど)の正体は、言わずとも、なんとな〜くわかりますよねぇ?(笑)


さて、いつも通りUP後の修正もしまして。(コラ)


予告通り。

火鳥と水島のアホらしい戦いは、遂にというか、やっとこさ最終章を迎えようとしています。俗に言うクライマックスですね。

果たして、彼女達の”呪い”はどうなるのか・・・。遂にブチ切れてしまった火鳥は、どうするのか・・・。

えらい引っ張りまくってますが、全体的にそんなに引っ張る必要も無いお話だよなぁ、と私本人は思いつつ、次回もゆるく・・・

いえ、次回は・・・『え?これ・・・水島シリーズ本編だよね?』と思えるような・・・

そんな風に真剣にキリッと描いていければいいな、と思いまーす。(あくまで私の希望。)