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もう無茶苦茶だ!!

なんなんだ!?このSSシリーズ!!

前々からツッコミ続けてはきたけれど、この状況、いくらなんでも本当にあり得ない!!

遂に作者の頭も崩壊したに違いない!!

もう嫌だ!主人公なんて放棄したい!解散したい!だって事務所が80%以上ギャラを持っていくんだもん!・・・いや大体、私は誰ともグループ組んでねえよ!!





と・に・か・く!!落ち着け私!!!





助かったには助かったのだが・・・未だ、私にとって良い状況とは言い難い。


なぜならば・・・


現在の部屋の状況 → 女難の女2人に危険人物(女難)2名追加。

私の状況 → 火鳥のベッドに拘束されて半裸。


とまあ・・・良い所を見つけるのに苦労する状況である。


「待たせたわね!貴女を許す旅は終わったわ!」


黒のライダースーツを身に纏った、ただのストーカーの女が体についたガラスの破片をぱっぱと床に落としながら、誇らしげにそう言った。


「だから!何の話ですかーッ!?アンタ、指名手配犯だろっ!?」


縛られたままでも、ツッコむ所はツッコんでしまう・・・悲しい習性がついてしまった私。

そんな私に何故か誇らしげに語りかけ、微笑みを浮かべるスト子。


しかし、この女・・・元を辿れば、私のストーカーで、脱獄囚である。


それが何をどうしたらこうなるのか・・・最終形態が”コレ”なのかどうか、よくはわからないが、彼女は遂に帰ってきてしまった・・・。




「貴女との前世の記憶が私をここまで成長させたのよ・・・感謝してるわ!水島さん!あーっははははははは!!」



両手を広げて楽しそうに悪役のような大笑いをかますスト子。ヘリの轟音が響く中でもクッキリと私の耳に届く声だ。

・・・しかも、例の彼女の妄想癖は更に悪化しているようである・・・。


とにもかくにも、私が発すべき言葉は一つだ。


よりにもよって、こんな時にコイツが帰って来るなんて最悪だッ!・・・と。


しかし、あまりの突然の出来事に、その後の言葉が続かない。そして動けない!逃げたいのに逃げられない!


言葉を詰まらせる私に向かって、火鳥が大声を上げる。


「み、水島!な、なんで指名手配犯が、ヘリ乗って、家の窓を蹴破って入って来てるのよッ!?」

「私が知るかッ!!」


そりゃあ、家主としてはガラスが散らばり、不法侵入者2名(女難)がいるこの部屋の惨状は、酷過ぎるだろうとは思う。


・・・でも、正直言えば、私は助かった方なので、同情はしない。

しかし、火鳥の事だ・・・。あのスト子を下手に刺激されては、こっちもたまったものではない。


「・・・あの、火鳥・・・一応、言っておくけど・・・あの女は・・・・・・凄いぞ・・・。」


上手く表現出来ないが、これで全てを察していただきたいものである。


「な・・・何がよ・・・?」


私の台詞を聞いた火鳥の顔が、更に引きつったものに変わる。

珍しく私の言葉を真面目に聞いてくれているようだ。

・・・いや、もはやこんな状況になってしまっては、私の些細なる言葉でも聞かざるを得ないだろう。

のん気にヘリに向かって手を振っているスト子を見ながら、私は、一段と重苦しい感じで一言、こう付け加えた。


「”色々と”・・・だ。」

「・・・い、色々って・・・!?」


私の言葉に火鳥は口を開いたまま、目を見開いた。


やはり、まだ私の方が女難の経験値が勝っているらしく、火鳥は不測の事態に対応しきれないでいるらしい。

現に少し(?)インパクトが強めの女難の登場と私の揺さぶりの言葉で、簡単に火鳥の思考回路は”ショート寸前状態”である。

現に『色々』という私の言葉一つだけで、火鳥が瞬時に色々と考え、焦りを募らせていっているのが手に取るように私には解る。


交渉するなら・・・いや、火鳥を説得するなら、今しかないだろう。

こういう状況に慣れきってしまって、いつの間にか火鳥よりも早く”冷静さ”を取り戻している自分が悲しいな、とは思いつつ、私は言った。


「冷静に考えてみなさいって・・・今、ここに私の女難はおろか、こうやって貴女の女難も来てしまっている。

こうなってしまった以上、今更、儀式もクソも出来ないでしょう?

火鳥、もうダメなんだよ・・・こうなったらあんな儀式は、もう諦めて、一緒に他の方法をちゃんと探そう!

大丈夫だ!私は・・・私は、いつもそうして乗り切ってきたんだから・・・!」


私は縛られたまま、火鳥に真剣な眼差しを向けながら言った。

それに対し、信じられない、といった顔をして火鳥は言葉を失っていた。


「・・・アンタは・・・一体・・・」


”アンタは一体・・・”

火鳥のその後に続く言葉は、なんとなくわかっていた。


このパターンは、アレだ。


火鳥っぽい敵役:『一体どうして、私なんかを助けるのよ!今までずっと血肉が腐って落ちるほど争って来たのに・・・!』

私っぽい正義の味方:『だって・・・だって、貴女は大事な”友達”だから!』


火鳥っぽい敵役:『と・・・も・・・だ・・・ち・・・?』

私っぽい正義の味方:『もう大丈夫!私達力を合わせればどんな敵にも負けないわ!』


火鳥っぽい敵役:『あなたって人は・・・本当に・・・!(泣)』

私っぽい正義の味方:『さあ!涙を拭いて、一緒に戦いましょう!』



・・・と、まあ・・・ざっとこんな感じだろう。

人嫌いの私にとっては、少々胃もたれのする展開だが、火鳥との共闘は取るべき措置である。


だから、私は言った。


「・・・私は、只の水島。あ、下の名前は聞かないで。」


決まった。

・・・あ、コレ今後の決め台詞になるかもしれないな・・・。




「いや、アンタ馬鹿じゃないの!?こんな時に、クソややこしい女難を呼び寄せて!!」

「・・・・・・・・・・・・。」


決まってなかった。

いや、それどころか大変申し訳ない。

でも、好きで召喚した訳じゃないし、文句言われても困るんだけど・・・


 ”グサッ!”

カッコ付けたのが悪かったのか、私の頭上からスト子がガラス片を振りかざしてきた。


「うぅわあああああッ!?」

枕にぶすりと深々と刺さるガラス片・・・・・・嗚呼、間一髪だった・・・!


「水〜島さァ〜ん・・・今、その縄やその他色々、この私が解き放ってあげるわァ・・・!」

「ひ、ひいいいいいいいぃッ!?た、助けに来たのか、殺しに来たのか、どっちなんだよッ!?そして、解き放つなら縄だけにして!」


まったくもって、このスト子には”安心感”という字が最も相応しくない言葉で、縁の無い言葉だと思う。

スト子はニヤリと不気味に笑いながらも私の縄を切り、ベルトを外し始めた。


「ちょ、ちょっと!何勝手な事を・・・」


止めておけば良いのに・・・火鳥がスト子に話しかけるというよりも、スト子を止めに入ったのだ。

こういう事に関して、この女を刺激してはいけない事を私は、よくよくよ〜〜〜〜〜〜く知っている。

別に知りたくも無かったけれど・・・。


「あ〜らあら・・・貴女には”これ”がただの爪楊枝に見えるのかしら?貴女に用は無いのよぉ・・・?」


スト子がチラリと火鳥を見た。その視線は、とても冷たく静かなものに変わった。

・・・私に向ける視線とはまるで違う。

ヤバイ・・・!これはヤバイ!スト子の牙が、今まさに火鳥に向けられようとしている!私は声を出した。


「火鳥!頼むからこっちの”コレ”に関わるな!余計ややこしくなる!私の命も危うくなるから止めて!!」


本音が思わず口からボロボロと飛び出た。


「さっきも言ったけどさ!儀式なんか本音言えば、そっちだってやりたくないんだろ!?だったら、やらなきゃいいじゃないか!!」


本当にもうたくさんなんだ!

面倒臭いっていうか・・・嫌なんだよ!


「私は諦めない!それに妥協も嫌だ!自分の好きな道を生きて、死ぬんなら、私はそれでもいい!でも・・・!」


これ以上、状況がややこしくなっていく上、誰かが傷ついたり、血まで見る羽目になったら、もうやってられないじゃないか!!


「私は最後の最後まで、諦めるつもりは一切無い!!」


気が付くと私の身体は、勢い良く起き上がっていた。

私の体を縛っていたベルト類はスト子によって断ち切られ、私の体は自由になっていたのだ。


「ふっ・・・逃げまくって、誰かの力にすがって、助けてもらってる力の無いアンタの言う事なんかに説得力なんか無いわよ。」


スト子は私の背中に手を当てて、私を支えるような姿勢でこう言った。


「じゃあ〜・・・貴女に、同じ真似が出来る?

馬鹿だなんだと解っていても、人に手を差し伸べる事が出来る?

ここで言わせて貰うけれど・・・遠い前世から彼女を見守ってきたこの私が、この場でハッキリと言っておくわ!!


貴女に出来ない事が、彼女は出来るのよッ!!!」



火鳥に向かってビシッと人差し指を差し、スト子は言い切った。


・・・お・・・


(お前が言うなよ・・・!)


私よりもよっぽど出来ない事をやってのけている人物の”お墨付き”を戴いてしまった私は、心の中でそっとツッコんだ。

いや、下手に大々的に反論してはいけない気がしたからだ。(危険だから。)


「・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」


私は意外な援護射撃に驚き、火鳥は火鳥でスト子のあまりの勢いに驚き、2人共、結局黙ったまま。


「フフフ・・・アハハハ!!声も出ないようね!!アーッハハハハハ!!」


・・・だけど・・・。


だけど、大々的に部屋の真ん中で笑っているこの人・・・残念な事に”ストーカー”で”脱獄囚”・・・。

・・・いまいち説得力に欠けるのが悲しい・・・。

しかし、なるほど、こうして第3者の目で冷静になって考えてみれば・・・今の私が火鳥に対して説得力が無い存在だっていうのも頷けるかもしれない・・・。


だが、しかし、だ。


『貴女(火鳥)に出来ない事が、彼女(私)は出来る!』


スト子のこの言葉が、私の行動を後押しした。

出来る、というか・・・私は”出来る事をやるしかない”のだ。

私は、溜息一つ吐いて口を開いた。


「認めます。・・・私は・・・・・・偽善者ですよ。」

「・・・は?」


私は片手を挙げて、言葉を続けた。


「前に貴女が言ったとおり、私は偽善者だって言ったんです。馬鹿だって言うんなら、そうなんでしょう。オールOK。認めます。」

「・・・何を言うかと思えば・・・今更・・・」


火鳥の言うとおり、私は偽善者だろう。

呪いの効果により自分に好意を寄せる女性達をかわいそうだと思いつつも、私は自分の身が可愛いとも思う。

私のこれまでの行動の根底にあるのは、優しさなんかじゃない。面倒くさい状況、回避の為。そして、自分の呪いを解く為に過ぎないのだ。

よくよく考えたら、こ〜んな私が今更、清廉潔白な人間を気取る必要は無いのだし。

私はどうあがいても、私は私のままだ。変わらないだろうし・・・


『”大丈夫よ。私はそういう貴女の事、そんなに嫌いじゃないわ。”』


こんな私でも、友人の烏丸女医、そして、呪いの効果とはいえ・・・女難チームの皆さんも私を”好きだ”と言ってくれている。

どんな形であれ、私という存在を受け入れてくれている彼女達がいる。


だから、私は・・・そんな私自身を受け入れようと思った。

自分で自分が大嫌いな所も含めて、自分を受け入れようと思った。


目の前の火鳥莉里羅という人物は、ある意味、私と遠くて近い人物・・・つまりの所、似ている。

・・・認めたくは無いが、やはり似ているのだ。


呪いにかかるまでに、きっと彼女だって、似たような事を考えたり、経験したり・・・まあ、火鳥は火鳥なりに人間関係色々あって生きてきたに違いない。

烏丸女医も”昔は、あんなにひん曲がっているような酷い性格じゃなかったわ”、とかなんとか言ってたし。

 ※注 烏丸先生の言葉が、水島さんの中で酷い解釈に変わっておりますが、大体合っているという事で、ご了承くださいませ。


呪われた人嫌いの私達の気持ちは、本人と似た境遇の人間にしか理解しにくい筈だ。

火鳥の説得に一番適しているのは、私しかいない。


(考えろ・・・火鳥だって、思う所は一緒のはずだ。)


同じ事を繰り返し言い合っても、説得出来るとは思えない。

火鳥は意地になって、私と儀式したがっているだけ。本音を引き出し、火鳥の目を覚まさせるしか方法はない。

人と性交渉なんて、この女だって望むワケが無い。

火鳥は女を抱いた、と言ってはいたが、所詮は”お試し”程度の性交渉だし、結果は・・・


(・・・あれ?)


疑問がぷかりと浮かんでいるのに気付いた。

疑問から予想。予想から結論へ。

それに気付いた途端、そこからズバズバと言葉が組み上げられていく。



「火鳥さん・・・一つ、引っ掛かることがあるんですよ。」

「あぁ!?」


「確か、女性と一回ヤッ・・・いえ、儀式をしようとはしたんですよね?」

「・・・だから、何よ!」


「何故、1回だけ?あと、24回…それで良かったのに、何故しなかったんです?」


私の質問に、火鳥が露骨に動揺した。

「・・・ぁ・・・お、同じ人嫌いなら分かるでしょッ!?他人と25回もヤれる訳ないじゃない!」


そう、人嫌いが1回でもしただけ、火鳥の行為は凄まじい事なのだ。


「ですよね?25回するって大変ですよね?どっちの絶頂をカウントしていいのか分からないし。大体、心から愛し…ウエッ(吐)…いえ、想ってないと無理ですもんね?」

「想いですって?まだそんな事言うの!?そんなモノ関係ないわ。言ったでしょ?アタシは、異性同性関係なく恋愛関係なんて絶対に嫌なの!

だから…ッ!どうせヤるなら!後腐れの無い、同じ人嫌いのアンタと25回するのが、ベストだと考えたのよ!何故、それが解らないの!!」

火鳥は再度、爆発した。

だが、私は冷静を保ったまま、更に火鳥を煽る。


「じゃあ、何の為の1回だったんですか?その女性との1回は。」

「そんなの聞いて・・・どうするのよッ!?あ、アンタは、アタシと儀式するの!?しないの!?どっちなのよ!」


質問を質問で返してきた。話題をすりかえる気だ。


「いや、最初は呪いも信じていなかった貴女が、儀式を真剣に…しかもベストだって思う私以外の相手と1回した、というのが、私にはどうにも不思議で不思議で。」

私がそう言うと、火鳥は口を少し開け、強張った表情のまま、聞き返した。


「何が・・・言いたいの・・・?」


私は更に煽る。


「ヤッた女性に自分が本気になるのが、怖くなったんじゃないですか?後腐れの無い私を儀式の相手に求めたのも、それなら納得が行きます。」

「・・・なん、ですって・・・?」


短く火鳥は答えた。しかし、その表情は、信じられない!本気でそんな事を、お前が言うのか!?という文字が浮かんで見えるほどだった。

あと、もう一押し。


「あ!もしかして、本当は1回じゃなくて・・・本来なら25回までヤろうとしたけど、断られたんじゃないですか?

女難でも、プレイ内容が酷かったら、最後まで付き合ってくれないモンなんですかね?」


下衆な煽り方だな、と自分でも思った。

しかし、効果は抜群だった。


火鳥の顔は真っ赤になり、激高したのだ。


「いッ…いい加減にしなさいよッ!水島ァ!!

アタシは、したくて、した訳じゃないッ!!誰が、好きでもない奴と・・・ッ!」




「・・・ですよね?好きでもない・・・ましてや、人嫌いが”人”となんか、お付き合いなんか出来ませんよね?」


「そうよ!命がかかっていたとしても…25回も…ッ!誰が…誰がヤるもんですかッ!お断りよッ!!

呪われてるから何よッ!?なんで、女と恋愛しなきゃいけないのよッ!女とヤラなきゃいけないのよッ!!

誰が相手でもやりたくなんか無いわよッ!!ヤッてたまるもんですかッ!!

人嫌いが原因で呪われたから、反省して、他人と関わって呪いを解け!?ふざけるんじゃないわよッ!」



「・・・それが、紛れも無い貴女の”本音”ですね?」



「・・・・・・・・・。」



私のその一言で火鳥は黙った。

引き出せた。

これこそ、火鳥の本音中の本音だ。


「”好きでもない奴”と”やりたくない”。・・・確かに、言いましたよね?

私も、全く同じです。好きでもない奴としたくもない事は、死んでもやりたくない。それが、本音です。」


「だからって本当に死ぬ訳には・・・・・・だ、だから・・・アタシは、アンタと・・・!」


言葉を取り繕うとする火鳥に、私は頭をかきながら、畳み掛けた。


「いや〜・・・貴女は、人に好かれるのも、人を好きになるのも、どちらも嫌だったんでしょ?

だから、自分が好かれない人嫌いの私、貴女が好きになる事は恐らくない私を・・・儀式の相手にする事にした。

後腐れ無し?一切の感情は無しで済む?いいや、むしろ・・・それこそ、好きでもない奴としたくもない事をやらなきゃいけない”最大の苦行”です。

・・・それこそ・・・人嫌いの私と貴女のやる事じゃない、でしょう?」


言い終わると私は、真っ直ぐ火鳥を見つめた。

もう、これ以上、自分を誤魔化すな、と。

火鳥も火鳥なりに混乱し、悩み、自分の経験から考え、行動したのだ。

それは、同じ人嫌いでもがき続けた私が賞賛しよう。だが、内容がいただけない。


「今まで、私もそうでした。周囲の人は…ただのモノとか、そういう・・・自分とは無縁の、単なる動く生き物って感じで、そんな風にしか見ようとしなかった。

・・・でも、そんな馬鹿やってる周りを、いつも遠くから見ているだけの自分は一体、なんなのか・・・」


「・・・そ、そんなの知ったこっちゃないわよ・・・!」


それで、私は”ああ、やっぱりな”と思った。


「貴女だって、自分は人嫌いだからと、言い訳にして逃げて。・・・でも、結局の所、気にしてた。」

「・・・・何をよ・・・?」


窓から冷たい風が室内へと入ってくるが、寒さは不思議と感じなかった。

さっきまでヘリの暴風にバサバサと揺れていたカーテンが、打って変わって静かに風に揺れる。


「気にしてないフリをしていても、生きていたら頭の隅に、一度・・・いや、何度も思い浮かんだ。

他人の自分への評価・・・自分が、本当は他人からどう見えているのか・・・とか。

だけど、その疑問が湧いた時、心の中でこう言い聞かせる・・・。


”どうせ、他人同士。解り合えない。誰が何をどう考えようと自分とは関係ない。大体、自分は人嫌いだし、他人も私が嫌いだろうから、関係ない。”


・・・なんてね。」


私はそのまま、長々と自分語りを始めた。

多分、こんな事・・・二度としないかもしれない。

目の前の、自分に近くて遠い女が、ボロボロに見えて仕方が無かった。

だから、自分もボロボロの部分を曝け出すことにしたのだ。



「どうせ、心の底から自分なんか好きになってもらえない、と思っていても・・・

どうせ、自分の事なんかロクに理解もされないまま、せせら笑われていても・・・
 

だけど・・・思いませんでした?・・・本当は、貴女だって・・・一回は考えた筈。」


私がそこまで言いかけると、何かを察したのか火鳥が険しい顔で目を細めて言った。


「・・・何よ?まさか、このアタシが馬鹿達の輪にでも入りたかったんじゃ・・・なぁんてつまんない事、言うんじゃないんでしょうね?」

「・・・そうですけど。」

「フッ・・・そんな訳ないじゃないの。馬鹿の輪に加わって、馬鹿の仲間に入って、馬鹿踊りして、自分の価値を下げろっていうの?」


髪をかき上げ、火鳥は不敵な笑いを浮かべた。


(ああ、始まったよ・・・。)


火鳥のエンジンがかかってきたのを私は、ひしひしと感じていた。

それと同時に・・・火鳥が明らかに無理をして”強き火鳥莉里羅”を演じているのも僅かながらに感じていた。


「アンタだって・・・散々見てきたんでしょう?他人がいかに馬鹿か。輪に入ったら最後、馬鹿に染められる。

馬鹿は馬鹿でしかないのよ!それ以上でも、それ以下でもない!

自分たちと同じ馬鹿に染まらなきゃ、奴等は”敵”とみなして、猟犬みたいに攻撃を仕掛けてくる・・・。

誰かを頼り、もしくは踏み台にして、それを笑いながら生きていける汚い奴らばかりなのよ!

もしくは、そこの女みたいに、こっちの迷惑も考えずに自分の想いをぶつけるだけぶつける馬鹿も沢山いて・・・アタシの人生を滅茶苦茶にする!」


そう言って顎で雪さんを差し、言葉を続けた。


(お・・・オイオイ・・・本人目の前にしてそんな事言うなよ・・・!)


私は思わずチラリと雪さんを見る。雪さんの表情は硬くなっていて、少し青ざめているようにも見えた。

そりゃそうだ。人嫌い同士が長々と、人嫌い同士で声高々に他人を否定する話をしているんだから。


だが、火鳥は黙らない。


「そう、他人なんて、本当に自分の事しか考えてない!どうしようもないの!救いの無い、馬鹿な奴らなのよッ!

アタシは、そんな馬鹿を大勢見てきた。アタシはそんな馬鹿を見て、聞いて、よくよく知っている!

ウンザリしてるのよ!出来る事なら、関わりたくも無い!そこは、アンタの言うとおりよ!

アタシは、他人と関わりたくなんかないッ!だから!・・・だから、アタシはね・・・!」


火鳥の怒りに包まれた表情に、また悲痛の色が混じる。



「アタシと同じ人嫌いの”水島”という人間は・・・そんな馬鹿達とは違う・・・

アタシと同じ考え方の同じ側の人間だって・・・そう思ってたわ!」


それは、信じようとした同士に裏切られた、という叫びに近いモノだった。


「でも、結局・・・アンタは違った。アンタも、すっかり周囲の馬鹿に染まってしまったのね・・・残念だわ。

アタシは・・・そういう馬鹿を単なる”道具”にしか見られないの。

そもそも、馬鹿になり下がった分際で、このアタシを説得しようだなんて思わないで!無駄なのよ!」



果たして、私は・・・今日一日、火鳥に何度”馬鹿”という言葉をぶつけられたのだろうか。

馬鹿という言葉にウンザリしていたが、前に一歩踏み出し、私は再度、本音をぶつける。



「わ・・・私は、女難の女になってから・・・色々な人に会って来ました。

確かに、迷惑極まりなかったけど・・・皆、深く関わらなきゃ良い人です。優しいし、仕事はちゃんとするし、意思だって強い。

それだけじゃないけれど・・・私は、少なくとも、彼女達を”単なる馬鹿”だなんて思えません!

だって、みんな・・・こんな私を好きになってくれた。

確かに、それは呪いの効果だし、迷惑極まりなかったけど・・・少なくとも、私は彼女達を”道具”だなんて思えません!!


それが、馬鹿の考え方だっていうんなら、私は馬鹿で結構ですッ!!」


私が語気を強めるのを火鳥は、フンと鼻で笑った。


「よくも言い切ったわね・・・いや、開き直ったというべきかしら?

それで、肝心の呪いは解けるの?さっさとそこのベッドに横になって、アタシに向かって股開いた方が良いんじゃない?」


火鳥の挑発には乗る訳にはいかない。

私は無視を決め込み、自分の言葉を続けた。


「私は、単に・・・他人がどうこうして、それに対して、ぐじぐじ考えて逃げ回るしか出来ない、”自分”が嫌いなんです。誰よりも、自分が嫌いなんです!

人間関係、ど〜〜〜うしようもなく、くっだらねえ人付き合いに振り回されて!

自分の脳みそが、グジャグジャになるくらい悩んで、ボロボロになって、弱る自分が!嫌で嫌で仕方なかったんです!

だけど・・・」



私は、伸びすぎた前髪をかき上げ、しっかりと火鳥の両目を見て言った。



「だけど、吹っ切れました!私は、そういう自分を受け入れる事にしました!」



「・・・フ−ン、それで?」


「え・・・あ・・・そ、それで・・・・・・・ええっと・・・なんだっけ・・・ああ、そうだ・・・」


ツギハギだらけ、ほころびまくりな私の話。

そういえば、誰かを説得しようとか、誰かに自分の意思をこうも感情的にハッキリ伝えるのは・・・初めての事かもしれない。

おかげで小心者の胸は、バクバクと音をたてるが、私はベッドから降りて、改めて火鳥の両目をしっかりと見た。




今は、逃げない。

逃げたくない。



目の前の、自分によく似た、全くの別人から。

同じ人間ではあるものの、育ちも違えば、考え方も違う。意識は全く別の生き物、全くの赤の他人だ。



「貴女は…確かに馬鹿じゃないかもしれない。馬鹿の一言で片付けるほど、自分は簡単な人間じゃないと言いたいんでしょう。


・・・けどね・・・!


馬鹿に染まるとか、染まらないとか、なんとか・・・私には、その違いがわかりません。

わかりたくもないっていうか・・・わかった所で、一体、何がどうなるっていうんですか?


人の気持ちを道具のように利用して、嘲笑って、それが”馬鹿じゃない人”のやり方なんですか?

そんな風に他人に接して、”勝った”って思えたら、幸せなんですか?

それが、どんなに頭の良い人のやり方だとしても、それが、この世で正しいんだって言われても・・・!


そんなの、私が好きな”私”のする事じゃない!!


だからッ!私は、それを全力で否定しますッ!」



多分、私達は”他人に理解される”という行為を否定しているというか、諦めているに近い。


私と火鳥は、限りなく近い位置にいる人間同士。

私達は、周囲の他人を観光気分で見ているだけの、ただの見学者。

周囲を知りもせず、知った気になって、他人との関わりを捨て、今いる自分を守る事に必死になっている、ヤドカリだ。



「ねえ・・・火鳥さん、怖くないですか?」

「・・・は?」


「・・・少なくとも、私は怖かった。 ”今の自分を失う事” が。」

「・・・!」


「 ”周囲の人間に流されて、自分が揺らいで変わってしまう事” が!違いますか!?」


「火鳥さん・・・誰かに変えられる事を恐れるあまり・・・自分が自分で”嫌いな自分”に変えてしまった事を、誰よりも一番最初に気付かなくちゃいけないんじゃないですか!?

誰も教えてくれないなら、気付けるのは、自分しかいないじゃないですか!!

私達は、ずっと人嫌いの私達のまま!変わらない代わりに・・・成長もしない。変われない!」


私は、ハッキリと胸の内を打ち明けた。

私自身、私の口から”成長”なんて言葉が出ている事に驚いていた。


「…水島…わかったから、もう止めなさい。説教なんかされても、アタシはこのままよ?・・・わかってんでしょう?」

「いいや・・・貴女はわかっていない・・・!」


”暴走状態”の火鳥に向かって、”貴女、暴走してますよ”と、教えてあげられるのは、この場には、もはや私しか適任者がいないだろう。


「何にも、わかってないんだよ!アンタは!」

「やめなさいよ・・・その目と・・・その言い方!ムカつくわ!」


そう、ビシッと。


「・・・今の貴女は、単なる・・・”かわいそうな”・・・」

「やめなさいってば・・・!」


その言葉の矛先は、火鳥に向かってか、自分自身に向かってか・・・。


「・・・”一人の世界に浸ってるだけの!”」

「やめろって言ってんのよ!!!」


・・・いや、どっちにも向いているんだな、とは思うけれど。

多分、他人からは一番言われたくない・・・でも、突きつけるべき第三者から見た真実を、私は告げるべきだろう。



「貴女は”単なる馬鹿以下の人嫌いの大馬鹿女”だよッ!この大馬鹿野郎ッ!!」




「・・・・・・・・ッ!!!」



もしも私が火鳥の立場だったとしたら、多分絶対、嫌〜な気持ちになるに決まっているだろう言葉をあえて、私は言い放った。

人嫌いは、人から何か言われるのも嫌いだ。よくわかっている。

自分で自分の問題を解決するクセのようなものがついている。


他人から見たら、”自分が自分が”と、自分の事しか考えていない人間に見えるのだろう。


半分は、その通り。

だが、他人の事を考えるのは、自分の問題を処理して、余裕がある人間のする事だ。

それに、目の前で困っている人がいたとして・・・これを自分に置き換え、自分で困難を乗り越えようとしている人に、ここで他人が優しさを振りまくのは違うな、と判断してしまうのが、私だ。

困っている人の事をよく知っていれば、助けなければならない状況かどうか、判断はしやすいが・・・。

だから、見ず知らずの人に、自己満足だろうとなんだろうと、声を掛けて他人を助けられる人は・・・手放しで凄いのだ。


器用な人と不器用な人がいるように。

私と火鳥も、余裕の作り方と心配りの仕方が、どうしようもなく下手糞。


この世には、伝えなくちゃいけない事がある。


それが、例え相手を不快にさせる事でも。

自分がそれを言う事によって自分自身にも不快感が訪れる事になっても。

どんなに面倒くさい事でも。

私の嫌いな・・・他人と深く関わる事になっても。


それでも・・・時には、逃げずに言わなければならない事があるのだ。


”パチパチパチ・・・”


スト子が嬉しそうに頷きながら、ゆっくりとした拍手を送る。・・・お願いだから、朗らかな笑顔で私を見ないで戴きたい。


一方、火鳥は表情を凍りつかせたまま、私をぼうっと見ていた。

こうかは、ばつぐんだ!・・・と言った所か?

 ※注 百合含有サイトで、ポ〇モンネタはやめて下さい、水島さん。


「素晴らしい演説だったわ!さすが私の!私の水島さぁん!!」

「・・・だ、誰のモノにもなってませんけどッ!?ちょ、ちょっと今は黙ってて!ちょ、抱きつかないで!ガラス!ガラスが当たって危ない!!」


シリアスな空気が台無し!

スト子とのややこしい会話をなんとかカットしつつ・・・私は火鳥の様子を横目で見ていた。


「・・・い・・・」

「ん?」


搾り出すような声で、火鳥は崩れかけた笑顔を作りながら言った。


「・・・いつから、そ、そんな暑苦しい馬鹿に染まったのよ・・・水島・・・。」


そういえば、『染まる』という言葉を不思議なほど、火鳥はよく使う。


「・・・さあ?染まったのかどうかは知りませんけど、これは、元から私の色じゃないですか?馬鹿だって言うのなら、馬鹿で結構です。

それが自分以外の誰かの影響だとしても、私は誰かに染められたんじゃなくて、今の現在の自分を、自分で選んできただけだと思います。

・・・大体、染めた染まったで、人はそんなに根本から簡単に変わりませんよ。

それとも、貴女はそんなに簡単に誰かに影響を受けやすい人だったんですか?そんなに自分自身、揺らぐもんなんですか?」


「・・・・・・・・・・っ!!」


私の最後の問いに、火鳥は答えなかった。


「私は、私自身を誤魔化せるほど器用じゃありません。・・・とにかく、そういう訳ですから、私は絶対、儀式なんかしませんから。」


私は冷静にそう言った。

・・・喋りすぎた。喉が渇いた。柄にも無く、説教みたいな事までしてしまったので、私の心はいつも以上に落ち着かない。


だが、さっきまで勢いのあった火鳥の戦意が減っているのは、明らかだった。

火鳥は、力が抜けたように肩を落とし、フッと溜息混じりの笑いをこぼした。


「・・・・・・フッ・・・つくづく本当にアンタって人間は、こっちの予想をいつも越えてくる。

アンタくらいよ、このアタシにそこまで言ったのは・・・。ホント、理解に苦しむわ。ホント、アンタって人間は何をしてくれるか、わからない・・・

それが”可能性”ってヤツなのかしら。ほんの一瞬でも思ってしまったわ、アタシはアンタとだったら・・・」




その瞬間。




”・・・ドンッ・・・”




黒い人影が、火鳥にぶつかったのが見えた。

薄暗い闇の中・・・確かにその音はした。

私が声を発する間もなく、気が付いた時には、もう”それ”は起こってしまっていた。


「ぁ・・・?」


小さい声を漏らしながらも、火鳥は自分自身に起きた出来事が理解できないようだった。


”・・・ドサッ・・・”


何かがぶつかり、そして、その何かが倒れる音がした。


起きた出来事は単純だったが、私も理解するのに数秒かかった。

その数秒が、いやにゆっくり、そして長く感じた。


「・・・チッ・・・!」


舌打ちをしながら、火鳥は表情を歪ませ、横腹を押さえながら、片手で人影を思い切り突き飛ばすと同時に、膝から床へ崩れ落ちた。


火鳥は、白いコートの女性・・・雪さんとぶつかり、突き飛ばしたのだ。ドサッという音は白いコートの女が床に倒れこんだ音だった。


・・・雪さんは手を真っ赤に染めて、呆然と座り込んでいた。


(いや、違う・・・!単純にぶつかったんじゃない・・・!!)


よく見れば、倒れ込んだ火鳥の横腹には、スト子が蹴り飛ばした筈の、あのナイフが刺さっていた。

ポタリ、ポタリとナイフを伝って絨毯の上に落ちる赤い雫。

ジワジワと広がっていく赤いソレは、私の頭を真っ白にした・・・。



・・・血だ・・・!



「・・・か・・・火鳥――!?」




私の大声に火鳥は苦悶と迷惑そうな顔をしながら、自分の血液が染みた絨毯の上に座り込んでいた。


「・・・うる、さい、わね・・・」


力なく火鳥がそう言う。そして、徐々にぐったりしていく火鳥を私は支えた。


「なんで・・・なんでこんな事を・・・ッ!?」


私は火鳥の傷口を押さえながら、突き飛ばされた雪さんに向かって大声で言った。


「・・・あ・・・あ・・・。」


だが、雪さんは自分の手についた血を見つめたまま、呆然とそこに座っているだけで、私の方など見る事もなかった。


「火鳥さんは・・・誰のものでもない・・・火鳥さんは、誰のものでも・・・」


ブツブツと何かを呟き続ける雪さんに、私はかける言葉など持ち合わせていなかった。





その時、午前0時を告げる時計の音が部屋に響いた。




  『・・・こんな筈じゃ、なかった・・・』




その場にいた誰もが、そう思っただろう。

少なくとも、私はこんな事を望んでここに来た訳じゃない。

こんな事になる前にどうにかしたくて、来たのに・・・!



(これじゃ・・・これじゃ・・・私がここに来た意味が無い・・・ッ!)


「水島さん!これを!!」


私はスト子に促され、ベッドのシーツを剥ぎ取ると火鳥の傷口にあてた。


「・・・ざまあ、ないわね・・・」


自嘲気味に火鳥はそう言った。


「喋るなッ!今、忍さんを呼ぶから!」


私は携帯を取り出し、下にいる烏丸女医に連絡を取ろうとした。

焦りと血で滑って、携帯のボタンが上手く押せない。


「なるほど・・・こ、これが・・・呪いの結果ってワケね・・・死ぬのはアタシって事か・・・。」

「くどい!長台詞、喋るなって言ってるでしょうがッ!・・・・・あ、忍さん!?今すぐ部屋に来てッ!火鳥が刺されたんです!早くッ!!」


『・・・わかったわ、まず落ち着いて!傷口をおさえて、絶対動かさないで!救急車は私が手配するから!』


電話を切った後、私は必死に火鳥の傷口を押さえ続けた。


「・・・水島・・・やっぱり、これはアンタのせいよ・・・早、く・・・儀式、しないから・・・」


火鳥の呼吸が荒くなってきた。目も虚ろになってきている。

(早く・・・早く、誰か・・・!!)

何も出来ない私は、火鳥を抱きかかえたまま、ただ烏丸女医の到着を待つしかなかった。


「馬鹿言うな!死なせるか!!いいか!?火鳥、よく聞け!私達には、自分の運命を変えられる縁の力が」

「まだ、そんな馬鹿な絵空事を・・・」


「いいから聞きなさい!私と貴女は、縁の力が強い!

その気になれば、運命だって変えられるんだ!人の運命だって・・・なんだって変えられるんだ!!」

「ホント・・・夢みたいな話ね・・・寒気がするわ・・・」


「だから!私がいれば、貴女は死なない!それに今、忍さんが来る!絶対に、助かるから!!」

「フッ・・・ど・・・どこまで、お人好しのお馬鹿さんなの・・・。」


「・・・そうだ!例え、今死んでも、大丈夫!天使と悪魔が現れる筈よ!

それから、あれだ!自分の頭の上にある輪っかを投げつけて、こっちに戻って来いッ!!」

「・・・何よ、ソレ・・・アンタ、ホント・・・馬鹿、じゃ・・・ないの・・・。」


「なんとでも言え!私はそうやってきたんだ!諦めないで、足掻いて、もがいて!どんなに惨めでも、馬鹿だと自分でも思っても・・・

・・・もう・・・もう、ウンッザリなのよッ!!私の周りで、誰かが泣くとか、死ぬとか、そんな面倒な展開ッ!!

だから、だから!絶対!貴女は私が助けますっ!!」


本当に、これが女難の呪いの結末なのだろうか?

違う。

断じて、これは認めない。

私の縁の力で、どうにか出来ないのか?人の運命をも変えられるとも言われていた力の筈なのに。

力の使い方さえ解っていたら、どうにかなるかもしれないのに・・・私は、いや、私達は、その方法を知らない。


「・・・・・水島・・・。」

「火鳥!頼むから、喋んないでよッ!!」


私の必死な声を火鳥は笑った。


「あ・・・アタシ・・・」


そして、私の襟を血まみれの手で力なく掴むと、囁きに近い声で言った。


「・・・アタシ、アンタの事・・・やっぱり・・・大嫌いよ・・・!」


その捨て台詞を吐くと、火鳥はニヤリと笑って目を閉じた。

嫌な感じがした。シーツはどんどん赤く染まっていった。

私は火鳥に声を掛け続けた。


「ああ、ああ!それで構わんって!私だってな・・・嫌いだ!!大嫌いでもなんでも良いから!もう喋るなッ!!」

「・・・もう・・・いい・・・・・・。」


何かを諦めたように、火鳥はそう呟き、その後、唇は動かなくなった。


「・・・ちょっと・・・火鳥?」

「・・・・・・・・・。」



「ちょっと・・・返事してよ・・・!火鳥・・・!火鳥!!」



何故だろう。

自分の事となったら、どうにかしてやろうと思えて、今までどうにか出来てきた筈だったのに。

私が、やった事と言ったら、火鳥の意思を否定した事くらいだ。


他人の事となると、まるで役立たずでダメな私の縁の力・・・。

肝心な時に、全く役に立たない・・・まるで、普段の私のようではないか・・・!



『だけど、誰かを笑顔にする方法はな、とても単純だけど難しいんだ。人の気持ちをいっぱい知らないと出来ないからな。』

『・・・ふうん・・・難しいのかぁ・・・じゃあ、私には無理かも。』



『そんな事は無いぞ。お前だって、誰かを笑顔に出来るさ。』



・・・私は、一体・・・何をしてるんだ・・・!




「―― しっかりしてぇ―ッ!!」




・・・悲鳴に近い私の声の後、力をなくした火鳥の手が、ぱたりと床に落ちた・・・。




悔しかった。


こんな筈じゃなかったのに。

こんな結果にする為に、私は来た訳じゃないのに。

ただ、長々と話して、叫んで、喚いて・・・火鳥が刺された・・・!


いや・・・そもそも、私がここへ来なかったら、未来は変わっていたのかも・・・。

私が、何もしなければ・・・こんな事態を引き起こさずに済んだのだろうか?





その後インターホンが鳴り、私はスト子に頼んで鍵を開けさせ、烏丸女医がやって来た。


私に出来る事と言ったら、何も無かった。

烏丸女医の応急措置の後、救急車が到着した。

言われるがまま、私は烏丸女医と一緒に救急車に乗り込んだ。



後は・・・よく覚えていない。





ただ、火鳥が助かればいい、それだけを祈っていた。









 「・・・これが、呪いの結果・・・なの・・・?」


私は病院の白い壁に向かって呟いた。

袖には火鳥の血がついていた。


火鳥は手術中だ。

出血の量が量だけに・・・もしかしたら、と考えて嫌な考えを払拭しては、またぼうっと考える。




・・・私は一体、何をしてるんだろう。いや、一体、何をしに火鳥の部屋へ行ったのだろうか。

私は、火鳥を助けられたかもしれないのに。


でも、どうやったら助けられたのだろう?

そもそも、こんな私なんかが、他人を助けようという行為自体、おこがましい行為だったのだろうか。



クリスマス近くにどちらかが死ぬ・・・。



それを回避すべく行動した筈なのに。




結局、私が助けたのは火鳥ではく、私自身だけ、だったのだろうか・・・。




「いやいや、アンタは、よくやったよ。」


いつの間にか、私の隣には自称:縁の神様のオバサンが座っていた。

私は隣にいるオバサンをチラリと見ると、血のついた服の袖に視線を戻した。


「どこがです・・・?これの・・・どこが良かったんですか・・・!?」

「そんな大声出すんじゃないよ、あたしゃ”アンタは、よくやった”、と言ったじゃないか。」


オバサンなりの慰めの言葉だろうか。

しかし、私が欲してるのは、そんなフォローの言葉じゃない。

むしろ、何をしてるんだと責めてもらった方が、いっその事、気が楽だった。


「でも、コレは私の望む結末じゃない!縁の力は、人の運命も変えるんじゃなかったんですか!?」

「・・・さあ、どうなるかねぇ?最後までわからないよ?」


まるで他人事のように、いや、さも面白そうに言うオバサンに、私は怒りすら覚えた。


「・・・人間からかって、面白いですか?”神様”。」


嫌味を含んだ私の台詞に、自称:縁の神様はニヤリと笑って答えた。


「そう怒りなさんな。まあ、確かにあたしの目から見て、アンタ達2人は・・・実に面白かったよ。」

「・・・・・・。」


”ゴンッ”


私は無言で拳を振り上げ、力任せの拳は空を切り、壁に当たった。

自称:神様の姿は私の隣から消えていた。


認めない。

こんなのが”結果”だなんて、私は認めない。




(戦うぞ・・・私は、最後まで・・・この馬鹿馬鹿しい呪いと戦う・・・!)





手術室の扉が開き、うっすら汗をかいた烏丸女医が溜息をつきながら出てきた。




「・・・忍さん!」


私の姿を見ると烏丸女医は、微笑みながら言った。


「・・・あぁ、大丈夫よ。水島さん・・・知ってる?あの子ってね、昔から、とってもしぶといの。」


「え・・・それじゃあ・・・!?」



「ええ、手術成功です。それとも・・・私の腕を信用してないの?」


その言葉を聞いて、私はフッと力が抜けていくのを感じた。


「いや、そういう意味じゃ・・・・・・・・あ・・・」


「え?ちょっと・・・どうしたの?水島さん!」

「いや・・・あの・・・力、抜けた・・・。」


力が抜けると共に、私は自然と笑みが零れているのが、自分でもわかった。

背中を撫でられながら、私は心の底から静かに笑った。










「・・・・・・ふー・・・。」






私は、窓の外へ煙を吐いていた。

眠る間も無く、私はこれから仕事へ行かなくちゃならないんだなーとか、そんな考え事をしていた。


・・・そういえば、あのスト子はどうしたのだろうか。いつの間にか、あの現場から消えていた。

去り方があっさりしすぎていて、逆に不気味なくらいだ。

どこに逃走したのやら・・・そして、またいつ私の前に現れるのやら・・・考えただけで身震いする程、恐ろしいが・・・。


「・・・人の病室で喫煙なんて良いご身分ね。」


ベッドの上の火鳥が迷惑そうに小さい声で抗議した。

だけど、声が小さいわ、麻酔から覚めて、気が抜けてるせいか目にも迫力は無いわで、私は思わず吹き出して笑ってしまった。


「・・・くっ・・・ははは・・・いや、ごめんなさい・・・。」

「何ニヤついてんのよ・・・いい気味だと思ってんでしょ?どーせ。」


火鳥のその言葉や表情は、まるで拗ねた子供のように見えてしまい、ますます笑いが込み上げてきてしまった。


「・・・お礼なんか言わないわよ。アレは、アタシの女難なんだし、単にアタシの管理不足だったんだから。」

「・・・別に何も言ってませんけど?」


ああ、良かった。火鳥は火鳥だ。

素直にお礼言ったら火鳥じゃないわ、とすら思っていた私は、心底安心した。


「・・・っ・・・調子狂うから、その不気味にニヤついた顔やめてくれな・・・!?・・・いたたた・・・!」

「ふふふッ・・・”断る”♪」


痛がる火鳥に私は笑顔で答えた。


「はぁ・・・そういえば・・・夢を見たわ。何故だか、アンタの言うとおり、天使と悪魔みたいのに会った気がする・・・。」

「ああ・・・アレ、変なニオイしたでしょ?」


私は再び窓の外に視線を戻し、煙を吐いた。その私の背中に小さな声が掛けられる。


「・・・ええ、なんかね・・・清掃の行き届いてない動物園みたいなニオイがしたような気がするわ・・・。」

「・・・ま、まあ、こっちに戻って来れたんだから良いんじゃないですか?」


・・・やっぱり出たんだ・・・あの天使と悪魔。・・・もしかして、暇なのかな・・・あの世付近で活動してるヤツって・・・。


「馬鹿言わないでよ・・・もうウンザリよ・・・死にかけてもあんな目に遭うんなら、アンタに協力した方が100倍マシだわ。」

「私も、貴女だったら、そう思います。」


私がそう言って笑うと、後ろから小さな溜息とうめき声が聞こえて、また笑えてきた。

眠っていないからかもしれないが、テンションがやけに高くておかしいなぁ、と自分でも思う。



「これで、呪いも解けてりゃどんなに良いか・・・。」


私が何気なくそう言うと、火鳥がボソリと言った。


「・・・それは、これから、アタシ達で考えるんじゃないの?」

「・・・え?ええ・・・まあ、そうですね。」


(・・・死にかけたせいで、改心でもしたのかな・・・?)

思わぬ火鳥の言葉に、私は咄嗟にそう思ってしまったが、口には出さずにタバコを吸った。


「・・・さて、と・・・まずは後始末ね・・・雪をどうにかしないと。携帯取ってくれない?」

「どうにかって?」


「あれでも、アタシの部下よ?早く手を回して誤魔化さなきゃ。早く、携帯取って。アタシ怪我人なの。」

「あ・・・はいはい。」


(ご、誤魔化せるモンなのか・・・?)

さすがにそれは、ちょっと恐ろしいな、と思いつつ、私は咥えタバコのまま、火鳥の赤い携帯を手渡した。

それにしても、自分の部下だってだけで、そこまでするか?

やっぱり、火鳥なりに”責任”と言うものでも感じてるのだろうか?


・・・いや、やっぱり死にかけたせいで、改心したのかも・・・。


ふと、火鳥が私の顔をジッと見た。


「ん?どうかしました?」

私が首をかしげてそう聞くと、火鳥はフッと目で笑ったような顔をしたかと思うと、口を開いた。




「・・・本当、ざまあないわね・・・。」と火鳥はそう言った。

「・・・私もそう、思う・・・。」と私もただ思った事を口にした。




本当にお互い、ざまあない状態。日々の女難のせいで、私達は満身創痍だ。

だが、結果・・・お互い、死は免れた。



運命は・・・変わったのだ。



ふと、お互いに頬が少し緩み・・・



”ガチャ。”



「・・・あら、お邪魔だったかしら?2人共、仲直りは済んだ?」


烏丸女医が病室に入ってくるなり訳のわからない事を言って笑うので・・・。


「「仲直りだなんて・・・元から仲良くないんだけど。」」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「・・・あら、そんなに綺麗に声が揃ってるのに?」

「「・・・・・・・・・・。」」


綺麗に揃ってしまった声に、烏丸女医は吹き出して笑った。


「・・・・・・ねえ、ちょっと・・・忍ねーさん、さっきから手に何付けてんの?紐?」


火鳥が不意に謎めいた事を言い出した。いつから”不思議ちゃん”になってしまったのか?

・・・麻酔の影響か?それとも、やっぱり死にかけたから・・・?作者の気まぐれのキャラ変更か何か、か?


「え?紐?やだ・・・白衣解れてるのかしら・・・。」

「いや、そうじゃなくて、指・・・・・・ああ、いいわ、もう・・・アタシなんだか、まだ本調子じゃないみたいだし。」


そう言うと、頭をぐしゃぐしゃとかきながら、個室なのを良い事に火鳥は携帯でさっき言っていた”後始末”を始めた。


「・・・ああ、もしもし?火鳥です。ちょっと宜しいですか?実は、少しだけ、先生のお力をお借りしたいんですけど・・・」


艶っぽい声を出して、火鳥は話し始めた。


「・・・・・・・・・・。」


・・・・・・あー・・・会話の内容は聞こえない、聞こえない、聞こえない・・・私はただの一般人・・・

ドラマや映画でよくありそうで、現実ではなさそうな暗黒面なんか知りたくありません。


耳をぽふぽふと叩きながら、私は窓側でタバコを吸い続けた。


「さすが、我が従姉妹ね。負傷してても、たくましいわ。」


そう言って、これまた、たくましい女医が自分のタバコに火を点ける。

そうだ、彼女がマンション下で待機してくれたからこそ、火鳥は助かったようなものだ。


「・・・ありがとうございます。忍さん。」


私がそう言うと、意外そうに目を丸くした烏丸女医がおどけてこう言った。


「え?私?私は・・・仕事しただけ、よ。・・・ま、そこの甘党の従姉妹として、貴女の友達としては、当然の行いかな?」

「・・・・・・・・・・。」


・・・ああ、そうか。良い友達を持ったなあ、と思う時とはこういう感情なのか、と私は思った。


「ちょっと!怪我人の病室で2人でプカプカ、タバコ吸わないでくれる!?・・・いったたた・・・!!」


こうして、私と火鳥は一応、危機を乗り切った。だが、未だに呪いの解決策は見つからないままだ。

しかし、だ。とりあえずは、今、この平穏な時間を・・・



”チクン!”


この痛みは・・・!


「火鳥・・・!」と私は真っ青な顔で火鳥を見る。

「水島・・・!」と火鳥は真っ青な顔で私を見る。



((まさか・・・!?))


そう思って、病室の扉を2人で見る。



”ガチャ!”



「水島さん!!」

「火鳥さん!!」



はい、やっぱり出ましたー!その熱っぽい視線と赤くなった頬の若い女性2名様ッ!チクショーッ!!!



「「ぎゃぁああああああああああああああああああああああ!?」」



「・・・あら、お知り合い?」


・・・まったく・・・他人事だと思って・・・相変わらず、烏丸女医は私達を面白そうに見ている。


そうだった・・・この呪いにかかって以来、平穏な時間が続いた例はないのだ・・・。

いつだって、女難トラブルはそこにあり、私達、女難の女の安心を裏切って、引き裂いていくのだ・・・。


しかし、何も状況が進展しなかった訳では無い。

火鳥が言っていた”紐”の存在が、後に私達を新たなる女難ワールドへと引き込もうとは・・・


この時の私と火鳥は全く考えて・・・


「水島さん!好きですッ!」

「はい!第一に私は、貴女を知りませぇーん!!第二にどちら様ですかぁーッ!?第三に離してぇーッ!!(泣)」


「火鳥さぁん!怪我したって聞いて来たのッ!」

「来なくていいわよッ!怪我してる時くらい、そっとしておいて!!痛ッ!そしてアンタ誰!?痛ッ!!(泣)」



・・・そう、考える余裕なんか無かったのだ・・・。







 ― 水島さんは対決中 ・・・ END  ―





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という訳で、意外とあっさり火鳥対決編はおしまいです。

私情で、完結までお待たせして申し訳ありませんでした。

待たせた割に笑いが少ないのは、前々から予告していた通り、作者の慣れないシリアス路線に持ち込んだせいです。


とにかく、今回のお話で水島さんとデレた(?)火鳥さんは、めでたく女難コンビ結成となりました。

次回からは、2人ギャースカ騒いで泣き叫んでいただきます。


そして、いよいよ水島シリーズ最終章突入です。


『いつまで続くの!?このシリーズ!』というツッコミが多数寄せられるでしょうが、どうか私の好きにやらせて下さい!


また、火鳥さんの心境の変化などは、火鳥さん視点のお話でお送りする予定です。