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私の名前は水島。

悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。



まったく、こんなものを一体誰が考えたのかしら。と毎年思いながら、毎年のように財布を開く私。

毎年、この2月に入ると、コレがあるから憂鬱である。

事務課の数えるほどしかいない男性社員は、その毎年の光景を見て見ぬ振りをしている。

そして、毎年何故かソワソワしていたりもする。


「ええっと・・・あ、ねえ!水島さん、今年は例のヤツ、一人500円だから。」

”あ、ねえ!水島さん”という言葉の後、何故か小声で放たれる同僚Aの言葉。


「・・・ああ、はい。」


その同僚Aの手にあるお菓子の缶に集められた小銭を見て、私は心の中でゲッソリする。



これは・・・『バレンタイン集金』だ。(私が名付けた。)



これは毎年、事務課では同じ課の人間の男性にチョコレートを配る為に、ご丁寧に集金する恒例行事。


普段の感謝の気持ちをチョコレートに込める・・・という看板を取り付けた、いわゆる感謝の押し売りだ。

※注 あくまで水島さんの個人的意見(偏見)です。


女子社員一人予算500円の感謝の気持ちに対し、男性社員はホワイトデーの”お返し”に毎年気を遣っているだろう事は目に浮かぶ。

お返しには厳しいらしく、事務課の女達の選定の目が、毎年光る。

有名店じゃないとか、中身が可愛くないだとか、ラッピングがどうだとか・・・そんな事、私にとってはどうでもいい事である。


そう、そんな事ぁ!本当に!どうでもいいのだ!仕事しろ!仕事!


・・・本当は皆さんだって、面倒臭いに決まってる。


その『面倒臭い』の一言を皆さん、飲み込んでいる。


お金を集める→チョコを贈る→お返しを考える→お返しを贈る・・・これらの行為が”人付き合いを円滑にする”というのなら、私は遠慮なく離脱したい。

正直、お返しなんかどうでもいいから、早く離脱したいと思っている。


だが、そうもいかない。

なにせ、今こうやって”お金”が動いているのだ。


私だけ現金を出さなければ、間違いなく!そう、間違いなく!人間関係に角が立つ。

ややこしい事になるのは、目に見えているのだ。

『やだ、あの人500円すら、ケチるのね』だとか『みんな出してるのに、空気読めないわね』

・・・なんて事を言われるだろう。ああ、そうだとも。私はケチだし、正直空気なんか読みたくもない。

だが、そんな分かりきっている事を他人に今更とやかく言われたくない。面倒臭いのだ。


・・・とまあ、非常に、色々ややこしいものなのだ。

だから、私はさっさと500円を出せば良いだけなのだ。後は勝手に事は進んでいくはずだ。知らないフリでもしていよう。


勝手に進んでいく、というのは・・・


「他に出してない人いたっけ?」

「えー?いたっけー?リスト確認しとくねー。」


「・・・・・・・・。」

(リストまで作っているのか・・・)


こういうイベント時になると決まって・・・必ず一名は出てくるのだが。


「あ、君塚さんと春日さんだわ!は・や・くぅ〜!集金でーす♪」


・・・とまあ、この様に何故か、はしゃいで率先して指揮を取る人間が出てくるせいである。

だから、勝手に事は進んでいく。

私はお金を取られるだけで、役目は終わりである。

ホワイトデーのお返しがどうのこうのも期待すら、していない。


しかし、毎年毎年よくもまあ、好き好んでやるなぁ、と思う。


男女お互い、面倒くさいと思っているなら、いっその事やめればいいのに。と私は毎年、そう思っているが。

どうも、そう思う人は少ないらしい。


しかし、これも社交辞令。どぶに金を落としたのだと思い、私は500円硬貨を差し出された集金用のお菓子の缶に入れるしかない。


私が特に面倒くさいな、と思っているのは、お菓子会社の策略イベントに、女達は野望を上乗せしている所だ。


見返り期待してます、というメッセージが見え隠れしているし。

お世話になってます、と言いながら、さりげなく異性に自分のアピールをしに走る者もいる。


おいおい、貴女達の感謝の気持ち(苦笑)って・・・と呟きたくなる。


見ているだけの傍観者である私が、溜息を付きたくなるような光景が毎年繰り広げられる。

この”2月14日”という日は、とにかく早く終わって欲しいイベントの一つだ。


否。


今年は、それだけじゃ済まない・・・という事を私は500円の損失ですっかり忘れていた。


「・・・あの、水島さんは甘いもの好きなんですか?」


という質問を後輩の門倉さんに投げかけれる前までは。


「はい・・・?」

「あ、いえ・・・もうすぐバレンタインだし、水島さんも・・・友チョコとか、あげないんですか?」


「友チョコ・・・ですか?」



『友チョコ』・・・友達同士でチョコレートを送りあう・・・なんて、誰が考えたのやら。

・・・残念ながら、私には、そんな事をするような友達がいないのだが。


まったく。

どうあってもバレンタイン、という日にチョコレートを買わせたいのか!お菓子会社は!

どうあってもバレンタイン、という日に人間関係をどうにかしたい、というのか。世間の皆様は!


一体、バレンタインがなんだというのだ。

バレンタインが、私達に一体何をもたらしてくれるというのか。


ただの糖分か?・・・だったら、いるか!!


貰えない人からすれば、男女やら女同士がチョコレートを渡し合っているやり取りなど見たくも無いはずだろうし。


そもそも、チョコレートを貰おうが貰うまいが、そもそもチョコレートをあげたくもないし、他人と関わりたくない私にとっては、単なるややこしい行事でしかないのだ。


大体。


もしも・・・仮に、私に”友達”がいたとして、だ。

こんな行事に、友チョコなんてモノをこんな私に期待なんかしてくれるな、という思いでいっぱいなのだが。



だから、私は毎年苦笑いを浮かべて、一言、こう呟くだけだ。


「・・・チョコ、食べられますけど、あんまり好きじゃないんですよね。」


・・・本当は時々、むしゃむしゃと食べているのだが。

そんな私の一言に門倉さんが、表情を曇らせて小さな声で言う。


「あ・・・そうなんですか・・・。」


そして、ブツブツなにか呟きながら自分の席へ戻っていった。

嘘は気が引けるが・・・これで良いのだ。

本命チョコだろうが、義理チョコだろうが、友チョコだろうが、敵チョコだろうが・・・私にとっては、本当にどうだっていいのだから。


まったく、女が沸き立つ行事は、ややこしくてならない。


(・・・あ、ミスった・・・。)


キーボードを打つ手を止めて、私は息を吐いてから、とりあえず、冷めてしまったコーヒーを一口飲んだ。


(・・・うーん・・・何故だ?・・・なんで、こんなにイライラするんだ・・・?)


たかがバレンタインじゃないか。バレンタインなんて、私には関係ない行事の筈だ・・・と頭の片隅で思った瞬間。



・・・・・・・・・いや、ちょっと待てよ!?



(・・・馬鹿か!?私は!!)


そこでようやく・・・私は、自分が女難の女である事を思い出したのであった・・・。


ややこしい行事がやってくる・・・!

そして、ややこしい呪いにかかっている状態の私・・・。


・・・もはや、嫌な予感しかしない!


こうなったら、バレンタインの日は・・・逃げるしか、ない。


バレンタインの日の女難はいつにも増して危険だろう。

なにせ、バレンタインは女のテンションがおかしくなる日!

 ※注 あくまで水島さん個人の見解です。

バレンタイン効果も考慮して、女達のテンションは、いつもよりも高い・怖い・危ないと考えるべきだろう。

既に後輩の門倉さんが、私に”友チョコ”なんていう不吉極まりないキーワードを投げつけてきているのだ。


・・・こ、これは・・・今年のバレンタインは、よりややこしい日になる、と考えて良さそうだ・・・。


とにかく、いつもよりも女性をより遠ざけ、より早く逃げるしかない。


・・・って・・・それは、いつも通りじゃないの!・・・と自分で自分にツッコミを入れてみる。


(それにしても・・・憂鬱だわ・・・。)


私は、チョコをもらってもいないのに、早くも胃もたれがしてきた。




 [ 水島さんは逃走中。 ]




「・・・落ち込んでいる場合じゃないわよ。水島。」


火鳥がウンザリそうに言って、窓の外を見た。

私も火鳥も昼休み。・・・だが、心休まる時間ではない。

喫茶店に入るなり、ずっと私と火鳥は重苦しい空気をまとって溜息をついている。


議題は勿論・・・あの日の事である。


「そうは言っても・・・バレンタインですよ?」

私は窓の外を見ながら、ボソリと言った。

「・・・わかってるわよ・・・。」


そう、私も火鳥もわかっている。

私達にとって、バレンタインという日がどんなに大変な一日になるか、という事は、わかっているのだ・・・!


「「・・・・・・はあ・・・。」」


溜息だけで、あの日が乗り切れたらどんなに楽だろうか。


普通の人からすれば・・・

『たかが、女の人からチョコレート貰うだけで、何をそんなにオーバーな反応してんの?(笑)』

とのん気に笑うだけだろう。



・・・甘い。その考えは、外国のお土産のチョコレート並に甘い。


「どうします・・・?」

「・・・何って・・・ホワイトデーの事でも考えろっていうの?ふふふ・・・」


火鳥の笑みは、いつもの不敵な笑みではなく、すっかり腑抜けていた。


「しっかりして下さいよ・・・。」


そう言う私の視線も斜め下を向いたまま、頭を抱えるしかなかった。


「・・・だったら、アンタも顔上げて、もう少し声張りなさいよ・・・。」

「・・・だって・・・。」


チョコレートは別に良い。食べれば済むのだから。

だが、それを送る”女性”がいただけない。食べれば済む問題じゃないからだ。

・・・ある意味、食べられる訳だが・・・断じて、そうする訳にはいかない。何度も言うが私は、そんな事したくないからだ。


読者にとっとと食えだの、食われろだのツッコまれるだろうが、私はしたくないんだッ!!!



「あー!ウジウジしていてもしょうがないわ!来るものは来るのよ!」


火鳥が声を上げた。


・・・確かに。

貴重な昼休みを使って、喫茶店で互いの傷を舐めあっている場合じゃない。


火鳥もたまにはイイ事を言うな、と思った。

火鳥は前髪をかき上げ、目を細め、不抜けた表情から、キリッとした表情に戻した。


「いい?確認するわよ?・・・現在、アタシ達が出来る事は・・・縁を切る、結ぶ・・・その2つだけ。」


その確認に、黙って私は頷く。


私達”女難の女”は、つい最近ではあるが、ただ女に追いかけられ、逃げ続けるだけの女ではなくなった。


私達は、人との”縁”に関して強い力があり、人の縁に干渉できる能力を身につけた。


・・・と言っても出来る事は、正直・・・しょぼい。


縁を切って人間関係を切る事が出来たり、他人同士の縁をイジって勝手に結べたりという事が出来る程度だ。


この縁を切ったり結んだりする力を使う事で、私達は縁の力を消費する。

この消費によって、私達の中に過剰に溜まってしまった邪気の溜まった縁の力を解放する事に繋がり・・・呪いは解ける、という目論見があるのだが・・・。


人嫌いが、人間関係に干渉する力など持っていても、なかなか有効活用なんか出来るもんじゃない。



・・・だって、干渉したくないんだもん。



この力の”しょぼい点”というのは・・・

私達にイジる事が出来る縁は、私達がそんなに深く関わっていない、という条件がある事。


つまり、私達が日々逃げて、その扱いに頭を抱えている”女難チームの皆様”とは、縁を切ろうとしても今の私達には縁が切れないのだ。

なんて中途半端な力だ!と思う。

勿論、先日私がやってのけた”縁を結ぶ”という、せっかくの力も『役立たねえ!』『誰が結ぶか!』というツッコミが、簡単に口が出てくるようなものだ。

人間嫌いが、何故、どこの誰の縁結びをするというのか。


ね?しょぼいでしょ?ははは・・・。


「新しく出来る女難は、縁を切れば済む事だから、ある程度、アタシ達にも対処は出来る。・・・問題は・・・」

「既に出来てしまった・・・女難ですね・・・」


私の答えに、火鳥は深刻な顔で頷いた。


 ※注 2人は今、バレンタインデーの話をしています。


「バレンタインなんて、くだらないイベントの空気に乗せられて浮かれた奴らが、アタシ達に何を仕掛けてくるかは、わからない。

だけど、アタシ達は、このくだらない呪いを解きたいだけで、誰かと縁を結ぶ気は全く無い。

しかし、その呪いを解こうにも、今になってチマチマ他人の縁を切ったり結んだりしても、縁の力の消費なんか限られているわ。

バレンタインデーは、もうすぐそこまで来ている。時間はない。

だから今は、バレンタインデーをなんとか乗り切らない事には、呪いを解くなんて・・・」


「不可能、ですね。」

「・・・その通り。」


 ※注 繰り返しますが、この2人は、今、バレンタインデーの話をしています。


「だからといって、何の策も無しに、このまま・・・あの日を迎えるなんて・・・!」

「・・・自殺行為に等しいわね・・・。」


私の言葉に火鳥は静かに頷いた。


 ※注 しつこいようですが、この2人は、今、バレンタインデーの話をしています。


「ねえ・・・待って、2人共。」


それまで私達の横で、静かにコーヒーを飲んでいた烏丸 忍が、カップを置いて口を開いた。


「2人の話だから・・・今まで、黙って聞いていたけれど・・・ねえ2人共、他人からモノを貰えるってわかってて、どうして”お返し”を考えないの?」


私と火鳥は、烏丸女医のお返しという言葉に絶句して、烏丸女医の涼しげな顔を見た。


・・・何故、烏丸女医がココにいるのか?というと・・・烏丸女医を連れてきたのは、火鳥だからだ。

火鳥が何故、ここに彼女を連れてきたのかは、まだ聞いていない。


「・・・忍ねーさん・・・正気・・・?」


火鳥の烏丸女医を見るその目は、全く光が無い。・・・無だ。

まったく理解出来ないわ、と言わんばかりの・・・というか、なんという顔で、自分の気持ちを表現しているのだろうか、この女は。

ある意味、器用な感情表現を持っているとも言える、そんな火鳥の隣で、烏丸女医が火鳥の態度をたしなめるように、更に口を開く。


「りり・・・貴女、なんて顔をしてるのよ。ちゃんとしなさい。私は正気よ。大真面目。普通考えない?・・・お返しの事。」

「・・・当事者じゃないから、そんな事が言えるのよ。」


怒られた子供のように、そっぽを向いて火鳥は肘をついて、そう言った。


「ほら、水島さんも・・・・・・って・・・貴女も、なんて顔してるの・・・。」

「・・・はっ・・・!?」


烏丸女医にギョッとした顔で指摘されて、私は自分の顔をぺたぺた触ってみる。

いつも無表情な私の筈だが、そんなにイケナイ顔をしていたのか・・・!?


「とにかく・・・2人共、バレンタインデーから逃げる為のつまらない策を考えるより、お返しを考えなきゃ。」


”・・・何故、そうなる・・・?”という疑問は、口にしていいのだろうか。

途中参加の烏丸女医には、大変悪いのだが・・・


「忍ねーさん、わかってないわね・・・アタシ達・・・これでも、命がかかってんのよ・・・?」


・・・そう、その通り。

女難に関わるとトラブルに巻き込まれて、挙句、死んでしまう可能性だってあるのだ。


「それはそれ。これはこれ。大人なんだから、ちゃんとお返しくらいしなくちゃ。」


・・・烏丸女医・・・ここにきて、ものすごい正論だ。

だけど、この女難の呪いに正論で対抗しても、何とかなった例がない。


「だーかーらー。アタシ達が死んだら、どうしてくれるのよ!?」

「・・・・・・。」


私は火鳥の言葉に無言で頷く。

そう、それだ。

何度もいうが、私達は下手したら、女難トラブルで死ぬ可能性があるのだ・・・!(ていうか、私達は既に一回死にかかっている。)


「・・・貴女達は、単にややこしくて関わり合いたく無いから、逃げたいだけ・・・じゃないの?」


・・・・・・・・・・うっ。


突き刺さる烏丸女医の一言に私は思わず、下を向いた。

確かに、そうだ。


「逃げて、何が悪いのよ?アタシとコイツはね、好かれたくて好かれてる訳じゃないの。全部”呪い”のせいなのよ?」


火鳥は開き直った態度で、そう言った。

私は無言のまま、2人の会話を聞いていた。


「たとえ、呪いのせいだとしても・・・その人達の想いは、真剣なのよ?

その気持ちを無視して、逃げてしまうのは、あまりにも失礼なんじゃない?せめて、お返しくらい・・・」


「そんな事したら、奴らがつけあがるだけよ。」


烏丸女医の言う事など、まったくお構いなしで火鳥はバッサリとそういい切った。

そのバッサリ感は、こちらがみていても清々しい程バッサリと真っ二つだった。


「・・・つけあがるって、そんな言い方しなくても・・・ねえ?水島さん。」


「え?あ・・・えと・・・」


言葉が詰まる。

いや・・・”ねえ?水島さん”って言われても・・・女難の私に話を振らないでいただきたい。


「こっちには、気持ちもまっっっったく!無いのに、お返しだけ律儀にする方が、よっぽど先方に失礼ってヤツなんじゃない?

ねえ、水島・・・アンタはどう思う?」


「え、えぇ・・・!?」


だから!私にそんな話を振らないでいただきたい。

なんなの!?この人達・・・!私に、話を丸投げしないで!



・・・いや。待て、落ち着け、私。



烏丸女医の言う事は、確かに正論だ。

私は、お返しの事なんて、これっぽっちも考えず、逃げる事しか考えていなかった。

それは、女難に関わり、ややこしいトラブルになるのを避ける為だが、彼女の言うとおり・・・

”単に他人と関わり合いたく無いから、逃げる事しか考えていないのでは?”、と言われたら、否定は出来ない。


私は、女難から逃げる事ばかりに気を取られすぎてやしないか?

普通に考えたら、モノをもらってしまったら・・・礼儀というか、社交辞令として、何か渡して穏便に済ませるのが、このイベントではないか。


・・・だからこそ、すっごく面倒臭いのだが。


そう。だから、火鳥の言う事は、すごくよく解る。

下手にお返しなんて事をしたら、チョコレートをくれた女性に”勘違い”されてしまう可能性がある。

それが火鳥風に言うと”奴らがつけあがる”という事らしいが。


私は、誰ともどうこうする気は一切無いのだ。

だから、その意思表示として何も贈らないという姿勢を取るのは、私にとって普通だろう。


大体、バレンタインデーなんて日にお金は出しても、誰かからモノを貰うなんて今までなかった事だ。

だから、そんな私が”お返し”に何かを贈るなんて考えられなかった。


「・・・どう?水島さん。彼女達の気持ち、考えられない?」


烏丸女医が真剣な面持ちで私を見ている。


(彼女達の気持ち・・・。)


私は少し間を置いて答えた。


「・・・正直に言わせてもらうと・・・私に好意を寄せている人達は、かわいそうな人だと思います。」


「ふーん・・・かわいそう、ね・・・。」


火鳥は面白い、と言いたげに笑って、チラリと烏丸女医を見た。

烏丸女医は黙って、私の次の言葉を待っているようだったので、私は話を続けた。


「彼女達は、私が呪いにかかっているせいで、本来関わらずに済んだのに、私に関わっているだけに過ぎないんです。

私は、早くこの呪いを解いて、彼女達を私を想っている状態から早く解放してあげたいんです。

だけど、その前に私が彼女達に深く関わってしまったら、切れる縁が、ますます縁が切れにくくなってしまいます。

・・・だから、私は彼女達から、物を受け取る事なんか出来ません。・・・お返しだって・・・考えられないです。」


私は、はっきりと今の気持ちを口にした。

目の前の人間は、同じ人嫌いと人嫌いを理解してくれようとしてくれる他人だ。

下手に言葉を飾る必要はなかった。正直な気持ちを吐いても、そのまま受け入れてくれる立場の人だからだ。


「・・・ですって。忍ねーさん。」


火鳥が烏丸女医の顔を覗きこむように見て、ニヤリと笑った。

・・・いちいち、仕草がいやらしいというか・・・なんというか・・・何がしたいんだ?火鳥は・・・。


「・・・そう・・・。」


烏丸女医は無表情になり、瞼を閉じてコーヒーを口にした。


・・・あー・・・。


私・・・今、烏丸女医に『残念な人ね・・・。』とか、思われているんだろうなー・・・。

逆に、火鳥は何故か生き生きして笑っている。一体、何がそんなに面白いのやら・・・。


「・・・どうやら・・・私はお邪魔みたいね。」


そう言いながらコーヒーカップを置くと、烏丸女医が立ち上がった。


・・・ああ・・・やっぱり、なんか・・・怒ってる・・・のかな・・・?


「あら、気にしなくて良いのに。」

「・・・今日は・・・単に、私が勝手について来ただけだから。じゃあ・・・失礼。」


そう言って、軽く頭を下げて烏丸女医はテーブルの上の伝票をピッと取った。


「あ・・・!」


奢ってもらう訳にはいかない。

というか、それ以上されたら・・・なんか・・・なんか、気まずい!

私は、慌ててそれを止めようとするが、火鳥がそれを止めた。


「・・・ご馳走様♪」


そう言って、ニコニコ笑顔で手なんか振っている始末である。

・・・従姉妹だからって・・・。

烏丸女医は、喫茶店から出て行ってしまった。


少しだけ、心に残っているコレは・・・いわゆる罪悪感、というものだろうか。


コーヒーを一口飲んでみる。

苦い。・・・当たり前だが。


「・・・お返し、か・・・。」


ボソッと、独り言のつもりで呟いたのだが、火鳥には聞こえていたようで。


「・・・まさか、水島・・・お返しする気にでもなったの?」


火鳥は私の言葉が意外だったのか、不思議そうな顔をしながら、コーヒーカップを持ち上げ、そう聞いてきた。

私は視線を横に逸らしながら答えた。


「・・・まさか。」

「フン・・・まあ、そうよね。」


火鳥はやっぱりね、と笑った。


「アタシ達には、アタシ達の人生にそもそも関係の無い人間が関わり過ぎてる。

その縁をこれ以上強くしちゃいけない・・・切れなくなったら、それこそ最後よ?

・・・アタシ達には、自分の人生を守る権利があるわ。」


私達は、人嫌いである。

他人と極力関わらずに、自分のスタイルというヤツでそれなりに楽しく人生を送っていた。


その日々を取り戻し、その日々を過ごす自分を守る為に。


そう・・・結局は・・・自分の為、だ。


なんだかんだ言って、結局、私は自分の人生を守る事に必死だ。

だからこそ、自分の為に行動しているに過ぎない私などに関わり続ける彼女達がかわいそうに思えて仕方が無いのだ。


早く、早く・・・この呪いを解きたい。


そうすれば・・・こんな日々も、記憶も、すぐに風化してくれる・・・。


「・・・そう、ですよね・・・。」


全部忘れて、いつも通りの私の日々を取り戻すのだ。


その前に・・・バレンタインデーを乗り切らなくては。


「・・・忍の言った事は気にしない。」

「・・・え?」


思わぬ火鳥の言葉に、私は間抜けな返事をした。


「顔に出てるわよ。どこまで、お人好しなの?アンタは。」


スプーンを向けられ、私は少しドキリとした。


「いや、私は別に何も・・・。」


一応、私なりに言葉を繕ってはみるが・・・。


「”私、お返ししようか、迷ってます”って顔してるわよ。」

「・・・あー・・・」


火鳥には、お見通し・・・らしい。


「・・・ホント、呆れた人ねぇ・・・今から言っておくけど、アタシはアンタを助けになんか行かないわよ?

バレンタインデー当日は、アタシ、有給休暇取って逃げるつもりだから。

・・・とはいえ、気休めにしかならないでしょうけどね。」


火鳥も女難が来るとわかっていて、覚悟を決めているのだ。

自分の事で精一杯。

今ある力を使って、私達は逃げるしかない。


・・・それに、力なんて言っても、たいしたものではない。・・・と自分で思っている。


事務課のOLの私には、とてもじゃないが、休みの申請は出来なかった。

働かないと、クビが飛ぶ。

女難から逃げなければ、私の何かが飛ぶ。


・・・どっちも嫌だ。

だから、私はいつも通り、足を使って地道に逃げる道しかないのだ。


「水島・・・あれから、例の力は使ってる?」

「ええ、一応・・・それなりに。・・・でも、やっぱり・・・」


既に女難レギュラー化してしまった女性の縁の紐は、どうやっても切れなかった。

紐を見て、小指に引っ掛けるので精一杯。

無理をしたら、その重さで小指が折れそうになる。

出会って間もない女難なら、なんとか切れるが・・・それにも回数制限がある。


私の場合は・・・現在、5回だ。

つまり、5人分、新しい女難を防げる。

しかし、女難のレギュラーメンバーが来たら・・・縁を切ることは出来ないし、避けられる自信は無い。


そのことを火鳥に言うと、火鳥はふーんと興味があるんだか、ないんだかとても薄いリアクションをした。

・・・ねえ・・・もう少し、興味を持って?と思ったが、目の前の女は私と同じ人嫌い。それを望むのは、間違いである。


「そう、5回ね・・・。アタシは12回くらいよ。」

「えっ・・・!?」


火鳥に”アンタなら、もっと出来てると思ってたんだけど”、と付け加えられて、少し傷ついたが、そう言われても仕方ないくらい、火鳥と私の力には差があった。

さすが、抜け目がないというか、結構努力家なのか・・・火鳥の力は、前よりも間違いなく強くなっている。


聞けば、街中に出た時に、すれ違いざまに2〜3組ほど、カップルの縁の紐を切っているらしい、とか。

それじゃあ、ただの”別れさせ通り魔”ではないか!


私が他に力を強くする方法はなかったのか、と言うと・・・


「じゃあ、アンタは、アタシに他人の縁結びやらせようっての?冗談じゃないわ。

それにアタシに簡単に切られるような弱い縁なら、アタシが手を下さなくても、いずれ切れるわよ。」

「・・・・・・・・。」


・・・ですよねー。

貴女ってそういう人でしたよねー。

確かに火鳥には、誰かの縁を取り持つ、縁結びなんて行為は似合わない。それは、私にだって言える事だが。


しかし、まあ・・・火鳥のせいで別れる羽目になったカップルに、今は、心からお悔やみを述べたい。


「で。話戻すけど。残念ながら、アタシ達の唯一の対抗策はコレよ。

そして、アタシ達はバレンタインデー当日は一緒にいない方がいい。」

「・・・そうですね。」


人嫌い同士が一緒にいても、何も面白い事はない。

しかも、女難×2の法則がある。

 ※注 女難の女同士が一緒にいると、女難に遭う確率、女難の人数が2倍に跳ね上がるという、恐ろしい?法則。


私達が助け合えるのは、女難サイレンも出ていない、今だけ。

お互いの情報を少しでも共有して、バレンタインデーに備えるしかない。


まず、どこかに身を隠すのは、危険だ。

逃げ場のない場所に長時間居続けると、女難と二人きりになってしまう可能性が大幅に上がるからだ。

だから、身を隠すのは休憩程度に止め、動き続けなければならない。



これは・・・いわゆる『鬼ごっこ』に近い。



「・・・なんともまあ、楽しくない遊戯ね・・・。」


火鳥が忌々しそうに呟いた。


「・・・なにせ、呪われてますからね。」


私と火鳥は、その後も昼休み時間ギリギリまで、入念に話し込んだ。

逃走経路の確保の仕方や、女難のパターンに応じての逃走の仕方、などなど・・・。


・・・思えば。


仕事の話以外で、こんなに人と真剣に議論をする事なんて無かった。

自分の意見をこんなに熱く語るのも無かった。

・・・内容が内容だけに・・・ちょっと、それはそれで、悲しくなるんだけれど。


火鳥は、口が悪いが、一応私をそれなりに認めてくれているらしく、私の今までの女難の逃れ方や女難の出現パターンをちゃんと聞いてくれた。


そして、私も火鳥から得たモノがある。


それは、火鳥が持っていて、私に無いもの。


明確なる、拒絶の行動である。


私は、今まで逃げる事だけに徹していて、彼女達に流される事が多かった。

・・・それが敗因となっている。

今までは、自分は小心者だから、と片付けてきたが、バレンタインデーを迎えるにあたって、そうも言っていられなくなった。


逆に火鳥はというと、今まで女難に断固として拒絶の意思を持ち、利用価値のない女難は半ば強引に引き離してきた。

それはもう、強引過ぎてドン引く程。アイドルが、コンサート中に出来ちゃった婚を宣言するようなモンで。

まあ、それはともかく。

火鳥曰く、女難に弱みを見せたら負けな気がする、だそうで。

女難に振り回されないように、気を強く持つ事も大事なんだ、と私は火鳥から学んだ。

しかし、その結果・・・火鳥は見事に、女難に刺されたワケだが・・・まあ、それは置いといて。


一方、逃げに徹し続けている私は、主人以外の人間に服従のポーズをとる、もはや人懐っこいを通り越した弱小犬のようなものだ。

ここらで、ちゃんと私も『NO!』と言わないと、バレンタインデーにチョコレートと共にいただかれてしまう可能性がある。


私達は、あくまで、今までの自分の生活を守りながら、生き延びたいだけである。

私達の人生に、ハッキリ言って、今の女性関係は不要なのだ。

勿論、血なまぐさい死に直面する事も全力で遠慮したい。


平和的に、お互い、バレンタインデーを乗り切らなくてはならない。


「まあ、明日がどうなるかもわからないんだし、ね。無事を祈ってるわ。精々、頑張りなさいよ。水島」

「はい、じゃあ・・・また、会いましょう。火鳥さん。」


私の言葉に、火鳥はいつも通りニッと笑い、片手を挙げて、街の雑踏に消えていった。


(・・・相変わらず、格好だけは、つける女だ・・・。)


お互い無事に再会することを誓い、私と火鳥は別れた。




・・・火鳥も私も、気持ちは一緒である。




 『 なにがあっても、女などに食われてたまるか!逃げてやる!! 』



・・・でも・・・火鳥は女性とやっちゃった事がありますけどね・・・。というツッコミは、しないでおいてやろう・・・。





会社に戻る道を歩いていると、街のあちこちで、やっぱりバレンタインデーの文字が踊っていた。


その中で・・・


「・・・あ。」


 ” 友チョコに最適! ”


(・・・お返し、か・・・)


世話にはなりたくは無かったけれど、世話になってしまった人達が私の周りにいる。

というか、世話をしてしまった方が多いのだが。お見舞いやら、なにやら色々してもらっているし・・・。

それは、紛れもない、捻じ曲げようのない事実。



『たとえ、呪いのせいだとしても・・・その人達の想いは、真剣なのよ?

その気持ちを無視して、逃げてしまうのは、あまりにも失礼なんじゃない?せめて、お返しくらい・・・』


・・・烏丸女医の言う事に・・・そうだよなぁ・・・。と思う。


『アタシ達には、アタシ達の人生にそもそも関係の無い人間が関わり過ぎてる。

その縁をこれ以上強くしちゃいけない・・・切れなくなったら、それこそ最後よ?

・・・アタシ達には、自分の人生を守る権利があるわ。』


・・・火鳥の言う事にだって・・・そうだよなぁ・・・と思う。

何せ、私は女難の女。女性に、お返しなんかしたら・・・。




「・・・あぁ、もう・・・面倒臭い・・・。」



私は心の底から、情けない言葉を呟いて、空を見上げた。


私は、一体、どうしたらいいのだろう?

どうしたら、バレンタインデーという魔の一日が、最も良い一日になるのだろう。




・・・それが、わからなくて、困っている。




憂鬱で、嫌な気分が広がる。

それを払拭するには、どうしたらいいのか。




街の真ん中で、私は立ち止まって5分程、考えた。




「・・・よし。」



私は、再び歩きだした・・・と同時に!

”チクン!”という頭の痛み。




「・・・何が”よし”なのよ?」

「へぅわっ!?」


後ろから声を掛けられ、私は咄嗟にその場から1m程飛びながら、声の方向に振り向いた。

喫茶店のドアがベルを鳴らして、ゆっくりと閉まっていく。


「・・・海、ちゃん・・・!?」


いつの間にか、海お嬢様が、いつも通り仁王立ちになり、こちらを見ていた。

というか、海お嬢様が、私たちと同じ喫茶店にいた事すら気付かなかった・・・!


「・・・あの、コレ。今のうちに渡しておこうと思って。受け取りなさい、水島。」


そう言ってグイッと突きつけられたのは、ピンク色の包装用紙に包まれた四角い箱。


「あの・・・これは・・・?」


鈍いわね、と小声で海お嬢様が呟いてから、言葉を付け加えた。


「あのね、変に身構えないでくれる?これは・・・ただの”友チョコ”だから。あたし、その日大学だからね。」

「は、はあ・・・。」


バレンタインデーでもないのに、もう現れた、だと!?と私は内心焦った。


「あのね、あたしはバレンタインなんて、別にどうでも良いのよ!あたしはね!・・・いつだって・・・あの・・・渡そうと思えば、渡せるし・・・。

・・・バレンタインなんか、特別な日なんて思ってもないから。」

「・・・は、はあ・・・。」


なんか、俯いてブツブツ言ってる・・・。

私は正直、手の中にある箱の対応に困っていた。

こんなにも早くバレンタインデーの贈り物が来るとは思わなかったからだ。


すると。


「あ・・・あ、あのさ・・・コッチも一応、そっちに迷惑かもしれないってのは、一応・・・頭に、あるのよね。」

「・・・え・・・?」


「でも、それを承知の上で、自分の気持ち伝えたいだけなの。それは、単なる押しつけだとか、我侭だって言われたら、それでお仕舞いなんだけど。

でも、それでも・・・ただ、知っていて欲しいの。自分は、真剣なんだって・・・。」


いつになく真剣な海お嬢様の言葉に、私は、ますます口にすべき言葉を探し回る。

年下に対して、なんという低姿勢だろうか、と情けなくなるが、現に彼女は私より強い。・・・色々な意味で。


「え・・・ええっと・・・」


迷っている私に、ぴしゃりと海お嬢様が言う。


「水島!」

「は、はい!?」


「あたしの気持ちは、あたしにしか表現出来ない・・・こんな形でしか、表現できない。

でも、あたしのこの気持ちは・・・”呪い”とか、そんな何かに操作されて、作られた感情じゃない。

・・・例え、何かの影響を受けて作られた感情だとしても、よ?・・・あたしは・・・好きになったことを後悔なんかしてない。」


・・・どういうコトだろう。

海お嬢様の口から”呪い”だなんて。まるで私の呪われている状況を知っているような口ぶり。


まさか、彼女・・・喫茶店での火鳥との会話を聞いていたのか?

まるで、それを知った上で・・・私に・・・今・・・。


(・・・これが、彼女の気持ち・・・。)


私をまっすぐに見つめ、道の真ん中で、海お嬢様は言い切った。


「・・・あたしは、今の自分の気持ちが、アンタの呪いの産物だなんて・・・認めないから。」


人の目を真っ直ぐに見つめ、いつになく真剣な表情で、彼女は言い切った。

・・・誰にでも出来ることじゃない。というか、私が出来ないだけだが。

とにかく、何かを決意したような・・・そんな印象を受けた。

私が呪われて”女難の女”になっている、という事を彼女は多分、知った上で・・・スッパリ『認めない』と言い切った。


(・・・いや・・・呪いのせい、なのに・・・。)

と私は内心ツッコんだが、あまりの彼女の瞳の強さと迫力に押され気味になった。


「えと・・・海ちゃん・・・あの・・・」


とりあえず、何かを言おうとする私の言葉を遮り、海お嬢様はやや俯きながら言った。


「・・・正直、呪いとかなんとか、あんたが何に巻き込まれてんのか、あたしには信じられないし、訳わかんない。

あたしが呪いの影響で、アンタの事をどう思っても、それはあたしの勝手よ

呪われてる?呪われていようと、いまいと、そんなの・・・どうだっていいのよ。

あたしの気持ちは、真剣。

そして・・・アンタは・・・水島は・・・そのままでいてくれたら、いいの。」


「・・・え・・・?」

「アンタは、呪われていようと、いまいと、・・・ただの水島、でしょ?」

「あ・・・ええ・・・。」


呪われる前は、確かに”ただの水島”だった。

だけど、海お嬢様から見た私は、呪われていようと、いまいと・・・ただの水島に変わりはないという。


やっぱり・・・海お嬢様は、私が呪われて”女難の女”になっているのを・・・完全に、知ってしまったのだろうか。

そして、知った上で・・・今、自分の気持ちを私に伝えてくれている訳で・・・。


「なんか知らないけど!わかんないけど!あたしは・・・今の水島が良いの!わかった!?」


念を押すようにそう言われ、理解したか、してないかの確認に、私は素直に答えた。

きっと、彼女自身も混乱しているのだろう。顔が真っ赤だし、言っている事がいつも以上におかしい。


・・・だけど、その言葉の一つ一つに、心の底の何かをチクチクと刺激されるような、この感覚は一体なんなのだろう・・・。



「・・・あ・・・はい・・・。」


「・・・じゃあ、またね。」


海お嬢様はそれだけ言うと、振り返ること無く私の前から立ち去った。



・・・バレンタインデー当日まで、あと少し・・・。

先程、”よし”と気合を入れたのにも関わらず、私の気合は、まるでパンクした自転車のタイヤの空気のように静かに抜けていった。

そして、ピンクの包装紙に包まれた箱の重みが、ずっしりと私の手にのしかかった。




 [ 後編に続く ]


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後編は、いよいよバレンタインデー当日の話です!