}-->










「やれやれ。誰かと思ったら、アンタかい。」

「おかえりなさい♪貴女の一押しの人間、ついさっき帰りましたよ。やっぱり人間と話せるのは楽しいですね〜♪」


「・・・アンタ、ホントにおしゃべりだね。あの人間に余計な事を言わなかっただろうね?」


「ああ、貴女の目的の事ですかぁ?」

「・・・・・・・あたしゃ、水島にあの事を喋ったのか、と聞いてんだよ。」


「ふふふ・・・安心して下さい、少し世間話をしただけですよ。ホント、貴女の選ぶ人間は毎回面白いですねぇ〜趣味が良い」

「寿命をジワジワ削って、人間の死に際をヘラヘラ笑って観察するのが趣味のアンタより、マシなだけさ。」


「何事も”終わり”が肝心なんですよ。私はね、シリーズ物は完結しているものしか見ないんです。

だから、わざわざ、この『ガ○スの仮面』も返しに来たんですよ。結末を迎えていない漫画を貸すのは止めて下さいよ。

大体、このSSシリーズだって、今世紀中に終わるか分かりませんから、本音言うと出たくないんですけど。」


「おいおい、微妙な事言うんじゃないよ。」


「私はねぇ、推理小説も後ろのページから遡って読んで犯人知った上で、また一から読みたい方なんです。

その方が色々な伏線に気付けたりして、良いんですよ。終わりが解っているからこそ、安心して楽しめるんです。

話がダラダラ続いて、物語が堕落していくのを見るのは耐えられない。あそこまでいくと終わりは、どうなるのかだの、もう考えたくもない。

重要なのは、いかにスパッと終わるか、です。”結末”です。

登場人物だの、新しい能力だの増やして、無理矢理連載引っ張るようなモノも大ッ嫌いなんですよ。」


 ※注 『・・・うっ!心が痛い!』(作者)




「まったく・・・相変わらず、アンタは歪んでいるねぇ。」





「歪んでる?そんなの当たり前じゃないですか。・・・神は、神でも・・・私ら”祟り神”ですもん。」





「まさか・・・それも、水島に喋っちまったのかい?」


「ふふふ♪言う訳無いじゃないですか。貴女の楽しみを奪うような真似しませんよ。

でもねぇ、人間の生命の終わりは、様々なドラマが詰まってますよ〜。


・・・だから、人間の死に際が一番面白い。


正直言いますとねぇ・・・死の運命のドラマの脚本を変えちゃう”彼女”が・・・邪魔なんですよ。

貴女は良いですよ?楽しいかもしれないけれど、御蔭で私の楽しみが減ってしまったんですから。」


「・・・・・・・・・・。」


「彼女達のせいで、何人の人間の運命が変わってしまった事か。

烏丸忍という女だって、先月中に自殺する予定だったのに、彼女との出会いで人生の喜びを見つけてしまった。

・・・まあ、それも”終わりました”から、良いですけどね♪

あの人間、いつ死ぬのかなぁ〜♪楽しみだなぁ♪どんな結末なんだろう・・・ワクワクします♪」


「そうかい、邪魔だから・・・それで以前、あたしに無断で水島に手を出したんだね?」


「・・・いやいや、まあ、それは良いじゃないですか。今は、死んでないんだし。さすが、貴女が見込んだだけの人間ですよ。

結局、彼女は私の力を跳ね除けて、あの世から見事に帰ってきたんですから。」


「言っておくが・・・あの人間で”遊んで良い”のは、あたしだけだよ。」


「あらあら。窮鼠猫を噛む、と言いますから、油断しない方が良いですよ?

あの人間は、本当に面白い生き物だから、取り扱いにはせいぜい気を付けないと。」



「・・・ご忠告、ありがとよ。」






 [ 水島さんは説教中。後編 ]





まず、状況確認だ。


私の現在位置・・・どこかのラブホテルの個室のベッドの上・・・最悪!

私の目の前にいる”女”・・・指名手配中の妄想ストーカー女!・・・最悪!!



いつもいつも最悪な状況に置かれている私だが・・・今回も絵に描いたような大ピンチ!!!



ベッドの隣には、ガラス張りのシャワールーム。

部屋のライトはピンク真っ盛りで白いベッドのシーツすらピンクに見える始末・・・!

ご丁寧にコンドーム(避妊は大事だ。)やら『電動ピ―――』やら『ピ――――』などの性的用具の自販機!

設置されてるテレビで流されているのは、さっきからモザイクばかりのAVッ(盗撮モノ)!!



もう卑猥さを感じずにはいられない、見事なお部屋ですこと・・・!くっそッ!なんという部屋に連れ込まれてしまったんだッ!!

どこかの魔法少女だってきっと言うに決まってる!『こんなの絶対おかしいよ!』ってッ!!!


(・・・・・・出口は、一つか・・・!)


ベッドの上で上体を起こした私の目線の先には、出口へと続くであろう廊下が見える。

だが、その通り道を塞ぐように、黒いライダースーツ姿のスト子が椅子に座ってティータイムを楽しんでやがる・・・っ!!

しかも床にはスト子がばら撒いた石で、ストッキングの私が走れば非常に痛い、という事が容易に想像できる!!


ここは、スト子の話を軽く流す程度に聞いてやって、スト子が隙を見せたら一気に出口へ向かう事にしよう・・・!


・・・いや、待て。


脱出に失敗すれば、スタンガンの制裁・・・いや、それ以上の何かヤバイ事をされてしまう!!

下手すりゃ人気投票でもそんなに人気も無く、コアなファン層しかない、こいつが私の馬鹿エロ儀式の相手になってしまう・・・ッ!!

 ※注 只今、主人公が暴言を吐きました事を深くお詫びいたします。


私は、断じて、お前にだけは隙を見せないぞ・・・!


「・・・その目・・・そうやって、私を警戒するのも無理はないわね。私は、貴女にとっては、ただの愛に狂ったストーカーですものね・・・」


「・・・・・・・・・・。」

(まず、愛に狂うな!そしてお前は、ただのストーカーだ!

というか、あのクリスマスの事件以来、ただのストーカーとは呼べない超人なんだよ!)

 ※注 あのクリスマスの事件は『水島さんは対決中。』をご参照下さい。


無言でベッドの上に座って、心の中でツッコミを入れる私に、スト子は切実に語りかけてきた。


「・・・でも、お願い!水島さん!私の話は、この話だけは最後まで聞いて頂戴!貴女の為なのよ!」


なんだか、様子がおかしい。・・・のは、毎度の事だろうが・・・。

今回のスト子は、やけに普通っぽいな、と感じた。

いずれにしても、私は今この部屋を脱出出来ない状態にある。つまり、強制的にスト子の話を聞かなければならないのだ。


一度決めた覚悟だ。まずは、話を聞こうと私はスト子と一定の距離を保ったまま、ベッドの端に腰掛け、スト子を見た。


「・・・さあ、まずは、これを見て頂戴。私が大学生の時に集めた資料よ。」


そう言って、スト子は分厚いスクラップ帳3冊を花柄のエコバックから取り出し、私に見せた。


「・・・これは・・・?」

「・・・私の知っている事、全部話すと言ったでしょう?これは・・・私の”研究”の全てよ。」


「研究?」


私に自慢げにスクラップ帳を見せようとするスト子は・・・いつもの異常なあの”いつものスト子”とは、違って・・・るのか?

しかし・・・あえて表現するなら、ごく普通の一般人の雰囲気がする・・・っぽい?


発言内容は、まだ”普通”とは呼びがたいし、まだ信用は出来ないが・・・。



「実は・・・私は、この地域の”祟り神”を研究しているの。」

「・・・祟り、神?」


スト子の中で、まーた変な設定が出来上がっているのかな、と私は思った。


「まあ・・・信じられないかもしれないけれど、実は、この地域には、色々な祟り神が存在しているの。

・・・部屋に撒いた、この諏訪湖の石の結界は、貴女に取り憑いている祟り神を寄せ付けない為のものなのよ。」


「だとしたら、諏訪湖って凄いですねー・・・。(棒読み)

いや、それより・・・・・・私に、祟り神?取り憑いているって・・・祟り神って、何ですか?」


神と言ったら・・・私は『自称・縁の神様』に『自称・寿命の神様』に会っているが・・・。


いや、待て・・・。

この話は、スト子の新しい妄想設定かもしれないじゃないか・・・!


今のところ、私の中で自称・神様の信用性もスト子の信用性も同じくらい怪しいものだ。


「水島さん・・・とりあえず、このファイルの・・・このページを見て頂戴。」

「・・・地図?この地域の・・・?」


「そう、この地域には、昔から知られざる神々がこんなにも眠っていると言われているの。・・・この×印の場所がそうよ。」

「これだけ・・・たくさん・・・」


そんなのちっとも知らなかった・・・。

この地域に引っ越してきてから数年経つが・・・全然知らなかった・・・。

確かに、この地域は妙に神社とか祠の類が多いけれど・・・気にした事なんか、なかったな・・・。


というか、こんな事をスト子が研究している事も知らなかった。


スト子は、別のスクラップ帳から写真を取り出して、一枚一枚見せた。

どれもこれも、古い・・・というよりも、朽ちた神社や苔だらけの石碑の写真ばかりだった。


「小さな神社や祠、石碑・・・色々な形で残っているものもあれば、何も知らない人間の手で壊されてしまったモノもある。

残っていたとしても、手入れが行き届いていないモノもあるわ。・・・悲しいものね。」

「・・・あ・・・!」


ふと、とある×印の位置に私の目は釘付けになる。


(この場所は・・・自称・縁の神様のいた神社・・・!)


思い当たる。

手入れの行き届いていない、草木が伸びきったあの古びた、人気の無い神社・・・!

これは・・・単なるスト子の妄想、という事では片付けられなくなってきたぞ・・・。


「でも、この地域の人々は・・・いえ、現代人のほとんどは、その存在を知らないし、信仰もしていない。

誰も祀る事もなくなった神は・・・やがて、祟り神となって、人間達に災厄をもたらす、と言われているわ。」


「その災厄が・・・・・・”呪い”・・・?」

「そう、貴女の場合は、そういう事になるわね。・・・まだ半信半疑でしょうけど、やっぱり、私を信じてもらうしか無いわ。」


「あ、当たり前ですよ!貴女は、私の事を拉致監禁して、訳のわからん事ばっかり言って・・・!」


いくら資料を積まれても、いまいち、信用できないのは、スト子には前科があるからだ!

前科っつーか・・・もう、今だって拉致されている訳だから、信用性は無きに等しい。


「聞いて。貴女には、間違いなく祟り神が憑いている。

祟り神に気付かれないように、貴女を守る為には、私はああして”女難”として近づくしか、仕方が無かったのよ。

あと・・・個人的に、貴女の事を愛しちゃったから♪一日中、見ても飽きなかったし、監禁もしたかったの・・・!」


「だから、私は、貴女を危険なストーカーだって言ってるんですよ!信用させる気あるのかッ!?」


「ふふふ・・・私を知る人は、この研究を続ける私を狂っていると言ったわ。」


「いや、話を聞いて?この場合、私が問題にしてるのは研究の事じゃなくて、ストーキングの事で・・・」


「・・・私の昔の恋人も私の研究を”馬鹿馬鹿しい”の一言で切り捨てて、去っていった・・・。

当時、彼を愛していた私は、彼を失いたくない一心で一日中追いかけた。

ベランダ・風呂場の窓・・・いたる場所から何度も部屋に侵入して、手料理を作ったり、洗濯をしたり、なんとか話を聞いてもらおうと努力をしたわ・・・」


「だから、それをストーカー行為と言うんですよ!違う方向に努力してるって気付こう!?ていうか、聞いてます?人の話!」


「そう・・・そんなこんなで、結局、彼には最後まで解ってもらえなかった・・・。

私の想いも努力も”単なるストーカー行為だ”の一言で、簡単に片付けられてしまった・・・。」


「いや、だって簡単に言うとそうだもの!それ以外の表現方法があるなら、教えて!!」


「私を理解してくれない人々の心無い言葉の数々・・・信頼していた人が、次々と私の元を去って行った事・・・私の心はもうボロボロだった。

何もかもが嫌になって、自暴自棄になりかけていた私の目の前に・・・貴女が現れた。」


「基本的に自分に不利な私の言葉スルーして回想入ってるよねッ!?もう、そういう所イライラするんですけど!!」


「そう、祟り神に呪われた貴女が、ね。」

「・・・え?」


「あれは・・・去年の春の事だった・・・。覚えてる?私達が、初めて出会ったあの日の事・・・。」

「あのー・・・ちょっと?まだ、続くんですか?」


私の声なんか、やっぱりスト子には届かないらしく、回想モードのスト子は語り始めた。


「貴女は覚えていないかもしれないけど・・・自暴自棄になりかけていた私に残されたのは、この祟り神の研究資料しかなかった。

それが、春一番の風に飛ばされて・・・。とことん、私は周囲に嫌われているのね、と自嘲したわ・・・。

だけど。

誰も拾ってはくれなかった資料の内の一枚を・・・水島さん、貴女が拾ってくれたのよ。」



・・・悪いが、全然、覚えてない。そんな事したっけ・・・?



「他人の親切に触れたのは、久々だった・・・温かい貴女の優しさに触れた私のささくれだった心は・・・その時、解放されたの・・・!

・・・それから、私は・・・貴女をすぐに尾行した!!」

「ちょっと待ていッ!!急に何を始めてんだッ!何を解放したんだよッ!?」


私のツッコミむなしく、スト子の回想トークは止まらない。


「そして、色々貴女を調査・観察している内に、もっと貴女を好きになった・・・そして、なんかー・・・色々あってー・・・貴女が、祟り神に取り憑かれている事に気付いたの!」

「・・・それを、人は”ストーキング”と呼びます。あと、なんか途中の説明アバウト過ぎます。」


「まず・・・祟り神から愛しい貴女を守りたい、と思った。だから、拉致監禁もした。」

「・・・だから、それを人は”犯罪”と呼びます。そして、あの時、私は凄く怖かったッ!何キリッとした表情で言ってんだよ!!」


「それに、私の研究してきた事は、無駄なんかじゃなかった・・・救われた気持ちになったわ!

だって、こうして・・・愛しい貴女を守る事が出来るんですもの・・・!」


「あー・・・」


・・・もう色々ツッコミ入れたい所だけど諦めよう。面倒くさくなってきた・・・。


「あのー・・・貴女・・・まさか、私を守るって・・・それだけの為だけに・・・今まであんな事を?」


私は、脱力したままそう聞くと、スト子はニッコリ笑って答えた。


「そうよ。私の研究・人生の全てをかけて、貴女を守ると私は誓った。

だから、手段なんか選んでいられなかった。だって、相手は人間じゃない・・・”祟り神”なんですもの!

”貴女を守る”・・・その為なら、国家権力も、ダークネクロマ星人も・・・何もかも敵に回しても・・・!」


「ちょちょちょちょっと!待って!!あの、勝手に誓わないでもらえます!?そして、結局ダークネクロマ星人ってなんなんだよ!?」


全てを敵に回すって、スト子は良くても、私も半強制的に道連れにされるって事じゃないか!良くない!

そんなのダメ!絶対!!


「それが、貴女に出来る最大の愛情表現だと信じてここまでやってきたッ!そして、貴女を守る事、貴女と添い遂げる事・・・これこそ私の運命なんだと!!」


「だから、人の話聞いて!?貴女の悪い癖ッ!!一方通行なんだよ!添い遂げなくて良いんだよ!そんなの運命に織り込まないで良いんだよ!」


「私は、負けない!今度こそ、貴女を守ってみせる!前世での間違いをもう犯したりなんかしない!!」


「だから!会話のキャッチボールをしよう!?さっきから、貴女、私の会話の球、全部場外ホームラン連発してんですけど!

あと、いい加減、前世の因縁は捨ててッ!アンタとの初めての出会いは去年の春なんだろ!?無関係じゃないか!!

それから、さっき、もうストーカー演じなくて良いって言ったけど、間違いなくアンタは天然モノのストーカーだよ―――ッ!!」



・・・・・そして、沈黙・・・・・・。



「・・・ふう・・・。」


すると、急にスト子は急に静かになり、紅茶を一口飲むと、私にゆっくりと語りかけてきた。


「・・・・・・・?」



「まあ、そんな甘く素敵な思い出は、ひとまず、こっちに置いといて・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」



好き勝手に語るだけ語っておいて、人を翻弄しておいて、何言ってんだ・・・コイツ・・・!やっぱり理解出来ない!!

ツッコミ疲れた・・・。このSSシリーズって、基本、私を疲れさせる事しか起きないから嫌ッ!!

こんなラブホテルの個室で、誰が好き好んでストーカー漫才なんかするかッ!もう嫌ッ!!(泣)


「さて・・・ここからが本題。」

「・・・・・・・・・・。」



『まだ本題じゃなかったのかよ!本題まで長えよ!!』とツッコミたかったが、もうその気力は無い。





「・・・貴女に始めに『女難の呪いがかけられている』と言ったのは、一体、誰?」




その質問に対し、私はある事に気付かされた。




「・・・・・・あ・・・!!」



私に向かって、一番最初に人嫌いのせいで、縁に邪気が溜まり、女難の呪いがかかっていると、言ったのは・・・。




「貴女に、明らかに”人間ではない何者か”が接触してきたはずよ。水島さん、よく思い出してみて!」




・・・まさか・・・。



「まさか・・・あの『自称・縁の神様』が・・・?」



私に向かって最初に呪いがかかっていると言った、人間ではない奴を・・・私は、知っている・・・!

そして、私の言葉を聞いたスト子は、スクラップ帳をパラパラとめくった。


「縁の神・・・そう、やはり、そうなのね・・・。いい?水島さん。どうか落ち着いて、聞いて頂戴。

そいつから、何を吹き込まれたのかは知らないけれど・・・これだけは、言える。

そいつは、貴女の味方なんかじゃない。・・・なぜなら、貴女は、その縁の祟り神から”呪い”をかけられたからよ!」


「・・・な・・・っ!?」



「貴女に降りかかる災難の数々・・・いわゆる女難の原因の全ては、縁の祟り神がかけた呪いのせいなのよ。」




確かに、私が人嫌いのせいで縁に邪気が溜まり、呪われているという事を言ったのは、あの自称・縁の神様だけだ。


だけど、それが・・・最初から”真っ赤な嘘”だったのだとしたら・・・!?


私の呪いは・・・


「・・・私の極度の人嫌いのせいじゃ・・・なかったの・・・?」


「そうね・・・貴女は、なんらかの理由で、縁の祟り神に目を付けられて・・・呪いをかけられたのだと推測されるわ。

・・・今、私が言える事はそれくらいだし・・・貴女には、私の事を信じてもらうしか無いけれど・・・」



じゃあ、信用性0だねっ♪



・・・って言ってる場合か!!


もし、仮にスト子の話が本当なのだとしたら・・・!

一体なんだったんだ・・・!あの女難から逃げ続け、あらゆる災難に悩まされた日々は・・・!!


原因は、私の縁の力に溜まった邪気のせいなんかじゃない・・・ッ!!



実にシンプルな話である。



私の女難の原因の全ては、単に、あの・・・自称・縁の神様が、私に”呪い”をかけただけ、という事になる・・・ッ!!



だが、それが一番自然だ・・・!妙に納得できる!

・・・だけど!そうなのだとしたら!!



この百合含有サイトを作者が立ち上げると同時に始まった、このSSシリーズ・・・

第一話『水島さんは帰宅中。』からやってきた事・・・いや私が女性にやられてきた一連のアレやコレは、一体なんだったんだああああああああああ!?



単にオバサンに呪われただけ・・・たった、それだけの為に・・・私は・・・!!



私は・・・今の今までずっと・・・あのオバサン一人の呪いの為に、血反吐を吐くような苦労をした事になるッ!!



大体、なんで、よりにもよって私なんだ!?・・・いや、もう理由なんかどうだっていい!!

今はただ・・・!!!


「くッッ・・・そおぉ・・・・!!!!」


ぐらぐらと吹き零れる自称・縁の神様のオバサンへの怒り・・・それが私の体中を支配していた。


「お、落ち着くのよ!水島さん!その怒りは、もっともだけれど、まずは落ち着いて!」

「スト子・・・。」


まさか、このストーカーに落ち着け、と言われる日が来るなんて・・・。

そうだ。まずは、落ち着こう・・・。

まだ、スト子の情報が確かなものだとは言い切れないのだから・・・。


「でも、安心して!貴女を呪いから解き放つ方法は、無い訳じゃないのよ?・・・あと、出来れば、いい加減、そのあだ名やめてくれる?」

「呪いを解く方法!?それは・・・ほ、本当ですか!?スト子!」

 ※注 水島さん、スルー。


さすが、研究者!ここまでストーカーが人生の役になってくれる日が来るとは思わなかった・・・!!


「ふふふ・・・私は、ずっと祟り神の研究をしてきたのよ♪当然よ♪

ここに、この地域に古くから伝わる・・・貴重な資料『祟り神対処法。〜それはスージーではなく、野草です。編〜』のコピーがあるわ!!」


・・・・・・怪しい・・・。(主にスージーの辺り。)


「資料のタイトル名は、ツッコミたいけど・・・置いといて・・・。で!その方法とは!?」


私はベッドから立ち上がった。と同時に、床に撒かれた石を踏んでしまい、足の裏に地味な痛みが走る。すっかり諏訪湖の石の存在を忘れていた・・・いてて・・・。

だが、スト子の情報は私の想像以上のものだった。

問題は信用できるか、否かだが・・・。

目の前のスト子は・・・やっぱり私にとって、危険なストーカーには変わりは無い。だが、私を助けようとしているのは確かな・・・ような気が、しないでもない。


いや、それより。肝心なのは、呪いの解き方だ!信用するかどうかはとりあえず、置いておいて・・・とにかく、聞くだけ聞いておこう!


「教えて下さい!スト子さん!」


すると、スクラップ帳のあるページを指差し、スト子は言った。


「・・・”呪われし者、己が歳の数だけ、想い人と交われ。さすれば呪いから解放されん。”・・・

つまり、水島さんの運命の相手もとい!想い人である、この・・・わ・た・しと!水島さんが、水島さんの歳の数だけ、ここでセック」



”・・・ドガッ!!!”



「するかあああああああああああああああああッ!!それに、その方法ならとっくに知ってるわ―ッ!!!」



その続きを言わせるか!という思いを込め、私はスト子に思い切り掌底を喰らわせた。

沸騰寸前の私の怒りのやり場は、もはや矛先を見失っていたのだ。


「さ、さすがは、水島さん・・・私が見込んだだけの事はあるわ・・・それに、思わずMに目覚めそうな心地良い痛みの”掌底”・・・やはり、貴女は最高よ!」


顔を赤らめながらスト子がうっとりとした目で私を見る。

私は、目を見開き言い放った!



「その方法は却下!!頼むから、いい加減、まともな解決策を教えてくれッ!そして、まともな会話してくれッ!!」


「・・・まとも・・・。じゃあ・・・手荒で難しい方法だけど・・・。」


「ああ、それで良いです。早く!」


「そう・・・チャレンジャーなのね・・・解ったわ。早速、私が教え・・・」






”トルルルルル・・・”




部屋に鳴り響く電話の音が、会話を切った。


「・・・はい。」

『あ、こちらフロントです。』


電話に出たスト子は、こくこくと何度か頷いた。


「あ、はい、はい・・・わかりました。はい、はい・・・どうも。・・・水島さん・・・」


そして、電話を切ると、神妙な顔で私を見つめた。


「・・・な、なんですか?」


「退室時間ですって♪楽しいお話は、また今度にしましょ♪」





私は、腹の底から大声を出した。







「ざけんなああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」







・・・疲れた。

なんというか、疲れた。


ラブホテルの廊下をトボトボと歩く私とルンルンと歩くスト子。



・・・そして、もう朝になっていた・・・。

時計を見て、会社に間に合うかどうか、微妙な所だ、と考えるが・・・もう疲れていて、何もかも・・・どうでもいい。


ホテルの入り口付近のロビーで、スト子は何かを思い出したように私を呼び止めた。


「・・・そうそう、水島さん。これを持っていて頂戴。」


そして、エコバックから何かを取り出して、私に向けて差し出した。


「・・・なんですか?」


スト子は誇らしげに、掌を開いて更に私にそれを差し出した。


「諏訪湖の石(握りこぶし大)よ。」

「要りません。」


私は即答した。


「やだ、照れてるの?」

「石に照れる要素ねえよッ!!」


ロビーでこんな会話してる女同士がカップルだなんて思われたくない・・・!耐えられないッ!!

しかし、スト子は無理矢理私に石を握らせた。


「いいえ、これは絶対持っていて。祟り神を一度だけなら、退かせる力を持っているの!お願い!お守りだと思って!!」


とても面倒臭いので、私はそれを受け取る事にした。


「・・・こんなの持ち歩いてるOL見たこと無いんですけど・・・持ってるだけで良いんですか?」


「いいえ、祟り神を退かせたい時は、これで思い切り殴打して!!」


「すっごい原始的ッ!!!」


とにかく私は、諏訪湖の石を手に入れた。

バッグに石を無理矢理突っ込むと、肩に石の分の重さがのしかかった。


「それじゃ、一旦、別れましょう・・・私も研究を進め、貴女がピンチの時には必ず駆けつけるわ。

・・・貴女に幸あれ・・・。」



(・・・不幸の素が何を言うか・・・。)



やれやれ・・・とにかく、これで私は解放され・・・





”チクン・・・。”



「・・・ハッ!?」


・・・う、うそ・・・嘘だよね・・・?

まさか・・・こ、この状況で・・・女難が来るの・・・?


私は、ホテルの入り口のビラビラをくぐり抜け、周囲を見回す。

すると、若い女の子の声が聞こえた。



「お姉ちゃん?・・・素都子お姉ちゃん!?」



私の名ではなく、スト子の方・・・?

ちらりと横を見ると、スト子があり得ないくらい動揺してガタガタと身を震わせているではないか。


(ん?・・・げっ!?)


私もスト子と同じ方向を見て、思わず身震いがした。



「・・・ま、真白!?」


そう、そこにいたのは・・・女子高生『真白』という名の私の女難!


「素都子お姉ちゃん!今まで、どうしていたのッ!?指名手配なんかされて!家に連絡もしないで、今までどこにいたの!?

幸い、私は人望が厚いから、お姉ちゃんが犯罪者でも周囲の目はそんなに厳しくも無く、平和な学生生活をエンジョイしていたけれど!

これでも私は、心配して・・・」




感動の姉妹再会おめでとう、作者も伏線回収良かったね・・・と心の中で呟きながら、私はそろりそろりと足を踏み出した。

今のうちに、逃げよう・・・と。




「お姉ちゃん!とにかく!今夜は、すき焼きだから早く帰ってき・・・あれ?・・・み・・・水島、さん・・・?」


「!!!(ヤバイッ!!見つかった――――ッ!そして、すき焼きで説得する、その方法なんなの―――ッ!?)」




「真白!?貴女・・・水島さんを知っているの!?すき焼きに入れる春菊は、買ったんでしょうねッ!?」

「大丈夫!春菊はあるわ!長ネギが無いだけッ!買ってきて!お姉ちゃんこそ、どうして水島さんを知ってるのよ!いいえ、そんな事よりも!!」


背中から聞こえるのは、ややこしい言い争いの声。(何故か、すき焼きの話も同時進行してるのが凄いというか、なんというか。)

ラブホテルの前で、制服姿の妹とライダースーツの姉が、スーツ姿のOLを巡って言い争う声・・・。


「どうして・・・どうして素都子お姉ちゃんが、私の運命の人とホテルから出てきているのよーッ!!」

「・・・真白・・・それはいずれ、話す時が来るわ。私と水島さんとの運命を・・・。」


「違ーう!!私の運命の人よッ!!お姉ちゃんなんか、恋する度、運命変わってるじゃないッ!運命だって、電柱の影でせせら笑ってるわよ!!」

「それは違うわ!真白!妹は妹らしくすっこんでなさい!彼女こそ、真の私の運命の人なのよ!!なにせ、前世で・・・」


「前世なんて古臭いのよ!私は、インスピレーションで恋に落ちたの!私なんか、何度も何度も偶然的に会ってるのよ!」

「なんですって!?偶然なんて、いくらでも作り出せるのよ!!」


「妄想もね!!お姉ちゃんの運命は妄想だけで構成されてる、同人誌臭がプンプンする妄想なのよッ!!」

「どっちが、妄想よ!!真白の運命の方こそ、アンタの妄想汁でビチャビチャじゃないのッ!!」



あー・・・もう、面倒臭い妄想ストーカー姉妹・・・!!

私は、身体に残っている全ての力を振り絞って声を上げた。









「お前ら、揃いも揃って、勝手に他人の私を自分の運命に無理矢理結びつけるなあぁッ!!どっちも妄想だあああああああああああ!!!」








「「あ、待って!水島さあああああああああん!!」」









・・・私は、走りながら・・・今日は、会社を休もうと決意した。




もう、私には帰宅する分しか、残された体力は無いからだ。

家に帰って、シャワーを浴びて、泥のように眠ろう・・・。


(・・・マンションの階段を上がる事すら、しんどい・・・。)


私の身体はボロボロだった・・・。

しかも、それで得たものは・・・祟り神に関する情報と・・・諏訪湖の石である・・・。


(しかし、これで火鳥とまた会う口実が出来る・・・。)


火鳥が何かしないうちに、早くこの事を知らせて、対策を練らなくては・・・。

いや、その前に、もう一回・・・スト子に会って、ちゃんとした呪いの解き方を聞かなくちゃ・・・


いやいや、その前に・・・


(・・・忍さんに、なんて言おう・・・)


私が切ってしまった縁・・・。



しなければならない事は、たくさんある。



・・・だけど、今は・・・少し、休ませて欲しい・・・。



私は、自分の部屋のドアの前で立ち止まり、ドアに額をつける。



(えーと・・・鍵、鍵・・・)



「・・・あ、やっぱり、みーちゃんだ!おかえり!・・・ていうか、今は『おはよう!』か。えへへ・・・。」

「・・・はい?ああ、伊達さん・・・どうも。」


朝には・・・特に今の私には、キツイテンションの持ち主・隣に住む伊達香里が話しかけてきた。

私は、いつも通りの素っ気無い返事をする。


「珍しいね?朝帰りなんて。あ、飲んでたの?あ、でも、みーちゃん、お酒ダメだったよね?いや〜朝までご苦労様♪大変だったね?」


伊達さんは構わず、私にペラペラいつも通り話し掛けてくる。


「・・・はい・・・。」


確かに、私は苦労した・・・大変だった・・・。

私は、力なく「はい」と答えるしかなかった。


「・・・みーちゃん!」


伊達さんが、私の肩に手を置いて、自分の方へ向かせると同時に人差し指をピッと目の前に突きつけた。

伊達さんにしては、顔が珍しく真剣だ。



「・・・な、なんですか?」


私が聞き返すと、キリリとした表情は一変し、ふにゃっとした、いつもの笑顔に変わった。


「あのね・・・友達と喧嘩した時はね〜『ごめんなさい』って言って、こうやって・・・」

「・・・え?」


伊達さんは私の利き手を取ると、両手で優しく握った。


「こうやって、ぎゅって握手するんだよっ。わかった?」

「・・・え?・・・あ・・・はい・・・。」


思わず、返事はしてみたものの、何故、今伊達さんは、そんな幼稚園児に向けて言うような事を言うのだろうか。


「私、今までそうやって友達と仲直りしてきたんだ。だから、みーちゃんに仲直りの仕方を教えてあげたの。」

「は、はあ・・・でも、なんで?」


私、そこまで人付き合いの基本、出来てませんでしたか?と聞き返したくなったが、止めた。

・・・私には、人付き合いの基本なんて無い。自信もない。


「だぁって〜、みーちゃん、人間関係のアレコレ、ド下手クソそうなんだもん。くふふふっ。」

「・・・・・・・・それは、確かにド下手ですけど・・・。」


そうです。ド下手です。

だからこその人嫌いなんです。

それに、私は大事な人を傷つけ、縁を切りました。


・・・今更、仲直りなんて・・・出来るんだろうか・・・。




「でも!そういう、みーちゃんじゃないと、ダメだって人も、ちゃあんといるんだからねっ!」

「私じゃないと、ダメ・・・?」


聞き返すと、伊達さんはこれまた元気良く言い切った。


「そう!ダメなの!わかった?」

「・・・は、はい・・・。」


私に向けて、朝日のような眩しい笑顔を伊達さんは向けてくる。

夜型で、月夜が好きな私には、とても眩しく・・・苦手だが・・・。


それでも、伊達さんが自分に向かって笑いかけてくれた、たったそれだけの事で、少しだけ・・・気が和らいだ気がしたのだ。



仲直りなんて、出来るんだろうか、と思う私の中に『出来るかもしれない』なんて錯覚すら浮かんでくるほど。




「それより、みーちゃん、いつもの元気出してねっ♪じゃね!」

「・・・あ、はい・・・。」



それだけ言うと、伊達さんは自分の部屋に戻って行った。

・・・本当にマイペースな人だ。


笑顔で、自分の言いたい事だけ言って・・・人に錯覚までさせて。


・・・でも、ああいうのが、普通、良い所と呼ぶべきなのだろうな、と私は思った。


鍵を開けて、部屋に入り、鍵を閉め、チェーンをかける。

シャワーを浴びたいと思えど、足は進まず。


私は、その場に崩れるように倒れこんだ。

床がひんやりして、気持ち良い。


瞼が重い。


私は、その欲求に従った。






「・・・・・・おやすみなさい・・・。」





今は、眠ろう。

これからの為に。








 ― 水島さんは説教中。・・・END ―


 →前のページに戻る

 → 水島TOPへ戻る。





あとがき


さて、いかがでしたでしょうか?

水島さんの傍にいたのは、神は神でも”祟り神”。

(・・・まあ、私に祟り神に関する知識は皆無なので、設定は適当です。)


果たして、彼女は呪いを解く事が出来るのでしょうか?


戦線離脱状態の烏丸忍さんには、まさかの死亡フラグ。

火鳥さんは、一体何をやるつもりなのか。

・・・私は、このSSシリーズをちゃんと最後まで書き終えられるのか・・・。


ま、どうにかなります。多分。

久々登場の伊達さんですが、彼女の話は、また今度書きます。


そして、真白ちゃんに関しては、ずっと苗字を伏せていましたが、こういう事だったんです。

やっと、この伏線を回収出来ました!やったね!


・・・でも、スト子出すと、何故か作者の私まで疲れるんです・・・(笑)

彼女の過去もうっすら出しましたが、やっぱりスト子はスト子です。まあ、そんな彼女がこれからの物語の鍵を握ってる、のかもしれませんよ、と。


でも、皆さんは拉致監禁を真似しちゃ、絶対ダメですよ!