「出演者の皆さんも、セットが出来るまで、休憩入っちゃって下さーいッ!!」


ADらしき若い男性の声で、ステージの上のアイドル達は一息をついた。


すると、即座に葉月さんの元に3〜4人の女性スタッフが飛んできて、彼女を囲む。・・・さ、さすが女優・・・!

メイク・髪型直し、マネージャーらしき女性が何やら確認を取っており、付き人らしき女性は飲み物を持ってスタンバッている。


それを横で見ているアイドル達は、驚いているようだった。

庶民なら、この光景を異様に思うだろう・・・これが、芸能界か・・・!?

それにしても、あの女優専用ライトはすごいな・・・。あそこだけ別世界みたいだ・・・。


しかし、休憩時間なのにも関わらず、一向に村山葉月の表情は崩れない。休憩といえど、彼女はちっとも気を抜いていない。


すると、私の隣にいた男性社員が何かを指差しながら、声を上げた。


「あ、あれ・・・プロデューサーの冬元 暑(ふゆもと あつし)先生じゃね!?」

「数々のアイドル達を生み出し、育て、歌詞も提供してきた、あの名プロデューサー冬元先生か!?」


説明ご苦労!社員AとB!!

男性社員の指差す方向には、眼鏡をかけた少し太めの男性が険しい表情でステージ上に上がろうとしていた。

それを見たTDFK47の顔色と雰囲気が一斉に変わった。


「あ、冬元先生!」

「先生!おはようございます!!」


アイドル達が、一斉に冬元先生なる男性を取り囲み、綺麗に頭を下げる。

しかし、冬元先生の顔は険しいままだ。


「・・・・・・お前達・・・俺の言いたい事がわかるか?」


TDFK47は意図が分からないらしく、お互いの顔を見合わせる。

”貴女、あのおっさんの言いたい事分かる?””いや、わかんない。貴女は?”と言った感じだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・。」


黙ってしまったTDFK47と冬元先生の間に、なんともいえない気まずい空気が流れる。

すると、冬元先生がいきなり憤怒した。


「お前達!さっきの試合はなんだ!?ボケに迷いが出ていたぞ!作り物の可愛いだけの中途半端なボケなんか、今の時代いらねえんだよッ!!

ボケる時は頭使って、しっかりボケろッ!!お前達、ボケで負けて・・・悔しくないのかッ!?」

「・・・ッ!?」


・・・なんか、怒り出した・・・変な所、厳しいな・・・。これが今のアイドルなのか・・・?

※注 このSSの内容はフィクションです。


しかし、アイドル達はハッとした表情を浮かべ、うな垂れる。


「他のアイドルに負けて、そのままで、悔しくないのかッ!?」


・・・本気だ。本気で説教されているのだ。

それを見つめるファン達は、黙って静かに見守る。まるでドラマのようだ。

TDFK47は声を揃えて答える。


「悔しいです!!」


「本当に悔しいと思ってんのか!?」


「はい!悔しいです!!」


・・・なんか・・・青春ドラマが始まってる・・・!ロケの現場で、ファンの目の前で!

中学・高校の運動部とかでよく見るよ、この気まずいだけの光景・・・!

あれ?・・・なんか、泣いてる子もいるんですけど!?


ファンの目の前で本気の反省会。公開処刑にも近い、この空気を一体どうするのか・・・?


見守っていると、冬元先生が一段と大きな声を上げた。


「クイズの時は―ッ!?」

「「「「「ボケまくれ!!」」」」」


え?なんか、スローガンみたいな事言ってる・・・!!


「カメラを見たら!?」

「「「「「笑顔とカメラ目線で占領しろ!!」」」」」


冬元先生の問いに、彼女達は声を上げて答える。


「芸人は!?」

「「「「「「己の笑いの踏み台にしろ!!」」」」」


それにしても、酷いスローガンだ・・・。


「虫を食えと言われたら!?」

「「「「「「悲鳴を上げて笑顔で食う!!」」」」」


一段と酷い・・・。


「体を張ってー!!」

「「「「「「笑顔を届けろーッ!!」」」」」



今、この状況とやり取り見せられたら、確実に苦笑いしかお届け出来ないよ・・・。



「「「「「「「「行くぞー!TDFK―ッ47!!頑張ってーいきまっしょーい!!」」」」」」


お前達は、一体どこへ行く気だ・・・!



 ※注 この物語はフィクションです。実際の人物・その他のものには一切関係ございません。悪意も全くございません。


瞬時に円陣を組み、彼女達は咆哮を上げ、観客が拍手を送る。冬元先生は腕組をして、うんうんと頷いて去っていった。

・・・体育会系なの?あのアイドル達・・・。


「いいな、みんな頑張ってるな・・・。」

「俺達も頑張らなくちゃな・・・。」


・・・今のアイドル達のやり取りで、隣の男性社員AとBのやる気が上がった!そして、私の芸能界に対する不信感が上がった。


・・・・・ん?なんか良い匂いというか、唐辛子っぽい匂いが・・・


匂いの方向を見ると、K−POPアイドルSORA時代がステージの下で”何か”を囲んでいる。

匂いの元は、彼女達の中心にあるものだ・・・!


なんだ・・・!?


あ、あれは・・・な、鍋だ!中身が真っ赤な鍋だッ!チゲか!?チゲだろ!アレ!!


「マシッソヨー。(美味しいねー)」

 ※注 作者の韓国語はあやふやです。ご了承下さい。


SORA時代、とうとう空腹我慢出来ずに現場でチゲ鍋始めたよーッ!何故、今、鍋を囲む!?どんだけ自由なんだよッ!あのアイドル!

鍋に無我夢中だよ!がっついているよ!違う意味であのアイドル、ガツドルだよ!


「お待たせー。」


「ラーメン来たー!ウフフッ♪」

「入れよー!ウフフッ♪」


マネージャーが締めのラーメン持ってきてるーッ!持参なの!?現場で鍋、楽しんでるんじゃねえよ!

あなた達、我が社にロケにいらしたんでしょーッ!?


「なんか、いいな・・・鍋って・・・。」

「ああ、あんな良い顔で鍋食べられると、なんか心がほっとするな・・・。」


隣の男性社員AとBが穏やかな笑顔を浮かべている・・・私には理解出来ない・・・。

普通にロケ弁を配れば良いと思うんだが、違うのか?そんなに辛くて熱々がよろしいの?


 ※注 繰り返しますが、この物語はフィクションです。実際の人物・その他のものには一切関係ございません。悪意も全くございません。


SORA時代が締めのラーメンを味わっている時・・・。


葉月さんは、きっと・・・優雅にお飲み物でも飲んで・・・


「ふっ!ふっ!ふっ!」

「頑張ってください!村山さんッ!」


ここに来て、葉月さんがまさかの片手腕立て伏せーッ!!何故、今、筋肉トレーニングをするの!?

なんなの!?この現場!!アイドルのロケじゃなくて、SAS●KE!?


「・・・女優ってすげーな・・・」

「ああ・・・なんというか・・・すげーな・・・」


隣の男性社員AとBが引いてる・・・気持ちは分からんでもないが、引くな!引いてくれるな!!

ああ・・・アイドル達も引いてる・・・!遠目から見てる・・・!引くな!引いてくれるな!!



あの人は・・・なんというか・・・あれだ!・・・す、ストイックなんだよ!!・・・・・・多分。



「よしッ!次の勝負、勝ちに行くわよ!」

「頑張ってください!村山さん!!」


ほ、ほうら、ご覧!あれが女優・村山葉月だよッ!※注 水島さんの”どや顔”。

ちょっとした”おちゃめ機能”が働いてるだけなんだよ!


二回戦目・・・頑張ってください!と私は心の中で応援した。


すると、腕立て伏せを終えた村山葉月が、こちらを向いた。


目が合った。

また、目が合った・・・!


すると彼女は、また私に向かって、ふっと笑って、軽く手を振ってくれた。

まただ!二度目の喜び!!!



「わ・・・わー・・・ぁ・・・・!!!!」← 声にならない声。



私は、呻き声に近いような喜びの声を上げて、両手を振り返した。



「そろそろ、二回戦目始めまーす!出演者の皆様は位置について下さーい!!」


えーと、次は・・・借り人競争対決?なんか面倒臭そうだなぁ・・・


”チクン・・・。”


・・・あれ?


あれれ?おっかしーぞー?この状況で、この痛み・・・まさか・・・。

いや、そんな訳・・・あるよな・・・。このSSシリーズ、その”まさか”が実現してきてるもんな・・・。

ここは潔く、逃げ・・・・・・られない!!私の後ろには、アイドルを一目見ようという男性社員がたくさんいて、退路は完全に塞がれている!!


『第二回戦〜!!』


”パチパチパチ・・・”


は、始まってしまった・・・逃げたいけど、葉月さんを見ておきたい・・・。

私の心は葛藤した。


逃げたい、見たい。


私は・・・後者を選んだ。

村山葉月を間近で見られる機会なんて、そうそうあるもんじゃない。

何の為の休日出勤だ!女難なんかに屈してる場合じゃない!

何が何でも、私は私の思うとおりに生きていくのだ!


『さあ、ほのかにアイドル達のいい香りとチゲ鍋の匂いが漂っている、この会場!!熱気今だ冷めやらずッ!!どうですか?解説の荻野目さん!』

『僕は、この香りでご飯3杯はいけますね!んふう〜・・・。』


気持ち悪いわ!何を解説してんだよ!!


『第二回戦は借り人競争対決!!

ルールは簡単!今から引いてもらうカードに書かれている条件の社員さんをこの会社の中から見つけ出し・・・いち早く会場に戻ってきて下さい!

会社の外に出てはいけません!条件が一つでも欠けていてもダメです!』


自慢では無いが・・・城沢の社員は結構な数だ。

その中から条件の揃った社員を見つけ出すなんて・・・結構難しいぞ・・・。

いや、難しいなら・・・宣伝タイムはさっきより多い筈・・・!ここは、なんとしても葉月さんの勝利を願わねば!!



『・・・なお、このバトルの勝者は宣伝時間30秒が与えられます!!』



さっきより更に短くなってるじゃねーかッ!!!

・・・と、私は心の中でツッコミを入れた。



「「「きゃー!やったー!!・・・って、ちょっと待ってくださいよぉー!なーんで短くなってんですかぁ!?」」」


TDFK47の総ノリツッコミ!!これが、さっきの円陣スローガンの成果か・・・!


「一、二、三、四・・・」


その隣のSORA時代は準備体操を始めている・・・まるで、食後の運動でも始めるように・・・!


顔は笑っているが・・・どのアイドルも今度は本気だろう・・・!

二回戦目はクイズじゃないから、わざわざボケる必要は無い・・・今度は宣伝を勝ち取りに行く気だ・・・!


(葉月さん・・・勝てるかな・・・。)


私は、その時、輝くような葉月さんの笑顔に魅了され、自分に訪れていた女難の危機をすっかり忘れていた。




『では、探していただくのは・・・・・・はい、出ました!まず、探していただくのは・・・


”事務課”で”水島さんという名前”の”女性”でーす!!いち早く見つけて、連れてきたチームには20ポイントです!!』






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






ご指名された―――――ッ!!!!!!






それは探す条件でもなんでもない!!それは、ただの名指しだ!!借り人競争じゃない!!これじゃ、ただの水島探しだ!!

じわりと汗が滲んでくる・・・。


ちょ、ちょっと・・・待てよ?・・・さっきの女難のサインは・・・もしかして、これの事か!?


マズイぞ!なんか、またややこしい事に巻き込まれる!逃げなくちゃ・・・!


あ!でも・・・という事は・・・葉月さんも私を探しにいらっしゃる訳で・・・



あああああああああああ!!どうしよう!?


私が再び葛藤の世界を彷徨っている間に、パンッという銃声と共にアイドル達が走り出した。


『さあ、各アイドル一斉に飛び出しました。TDFK47は人数が人数だけに、メンバーを選抜して7人で探します!』

『まあ、47人で探したら、さすがに反則ですからね、仕方ないでしょう。あとの40人は必死に応援してますね。実にかわいい!』


「事務課の水島さーん!どこですかー!?」

「出てきて下さーい!」


わあぁ・・・アイドル達が早速探してる――ッ!!

アイドルと言えども、女難の恐れがあるなら関わりたくはない!


『おっと!ここで、SORA時代二手に分かれました!会場を探すメンバーと事務課を探すメンバーを分けたようです。』

『良いんじゃないですか?チームワークがものを言いますからね!実にかわいい!』


無言で探している・・・!目が真剣だ・・・!

こ・・・これが・・・いつも探されているウォーリーの気分か・・・!!って、そんなくだらない事を心の中で呟いてる場合じゃなくて!!


『ここで不利なのは、村山さんです。一人で探さないといけません!辻向井シリーズのような推理力は、ここでも発揮されるのでしょうか!?』

『彼女の脚力を舐めてはいけませんよ。一人でも十分なハンディですね。実にエロい。』


よし、解説はもう諦めよう!・・・じゃなくて!!


私は、どうする!?


素直に一ファンとして、葉月さんの前に飛び出して、彼女の勝利に貢献すべきか?


いや、待て!


その前に、下手にノコノコと「水島でーす。デュフフ(笑)」と飛び出したら、あのアイドル達に捕まってしまう恐れがある。


それに、さっき女難のサインが出ていた・・・嫌な予感がする・・・!!

あのアイドル達からは、絶対逃げなくちゃ・・・!!


そして、葉月さんに・・・


いや、待て!!


まさかとは思うが・・・は、葉月さんが私の女難だという可能性も・・・無いとは言い切れない・・・!!

そんな馬鹿げた事、考えたくない!!

葉月さんとは、そんな関係になりたいんじゃないんだ!!あくまで、TVの中の人で、私はただのファンなんだ!!




TVの中の人が目の前にいるという幸せが・・・今、こんなにも重い!!




「おーい!ここに”水島”って女いるぞー!」


「な・・・ッ!?」


私の隣の男性社員がヘラヘラ笑いながら、私を指差しアイドルに教える。多分、私のネームプレートを見たんだな!くそッ!!

それで、手柄を得たつもりか!?この大うつけがッ!!!


私の人生が破綻したら、お前の人間関係の縁をもずく酢のように、トログチャ(トロトロかつグチャグチャの意。)にしてやる――ッ!!


私は、すぐに身を屈めて四つん這いになって人の足元から脱出を試みた。


『おおっと!これは灯台下暗し!!水島さんは、この会場内にいた―ッ!!チャンスだーッ!』


捕まったら・・・何が起こるか、わからない!


自分の勤め先で、社員の目の前で、アイドル達に・・・”何か”される・・・!!

それに、私がアイドル達に好意なんか持たれたら・・・ここにいるファン全員を敵に回しかねない・・・ッ!


ややこしい事この上なし!!


『えー・・・ここで、情報が入ってきました。水島さんは、何故かアイドル達から逃走している模様です!

番組側としては、協力していただきたいんですが・・・これは、一体どういう事でしょう?荻野目さん。』


これが一体どういう事なのかは、私が一番聞きたいんだよッ!!と匍匐前進しながら、私は心の中でツッコミを入れる。


『僕の推理だと・・・水島さんは・・・かなりシャイな方なんでしょうねぇ。』


ざけんな―――ッ!!と階段の手すりを滑り落ちながら、私は心の中でツッコミを入れる。


『なるほど、それほど冴えたものでも無い推理の披露、ありがとうございます。

さあ、種目は”借り人競争”だった筈が、ただの”鬼ごっこ対決”になってしまいました!・・・まあ、これも仕方ないっスね!』

『僕としては、一生懸命走るアイドルを見続けるのは至福の時なので別に良いです。』



そんな番組進行でいいのかーッ!!!と私は壁にしがみつきながら、私は心の中でツッコミを・・・危ねえっ!・・・落ちる所だった・・・。

とにかく、番組側が呆れて諦めて他の人を探してくれるように仕向けなければ・・・!そうだ、会社の外に出よう!!


『では、一旦、CMでーす!』


私は素早く柱に飛び移ると、ゆっくり滑り落ち、目的の階の廊下へと飛び移り、防火扉を開けてゆっくりと閉めた。

 ※注 水島さんは普通のOLです。絶対に真似をしないで下さい。


ここまでくれば大丈夫。アイドル達もここ、非常階段までは探すまい・・・。

一旦休憩・・・その後、名残惜しいが会社の外へ出るしか・・・。


 ♪ピンポンパンポン♪ 


静かな社内に響く音。これは、社内放送だ・・・!





『事務課の水島さんへお知らせです。

番組側からの要請で、面白いからそのまま逃げ続けて下さい、アイドル達が必ずや貴女を捕まえます。との事です。なお社外へ出る事は堅く禁じます。

繰り返します・・・事務課の水島さんへお知らせです。

番組側からの要請で、面白いからそのまま逃げ続けて下さい、アイドル達が必ずや貴女を捕まえます。との事です。なお社外へ出る事は堅く禁じます。』





・・・・・・・・・・・・・・。




「・・・ま、マジすか・・・。(失笑)」



思わぬ事態に失笑がこぼれる。会社が全面協力している・・・!

しかも理由が面白いから、だと・・・!?ふざけんなよ・・・!!


しかし、下手に社外に出て、番組を潰したら・・・処分・・・いや、クビになるかもしれない・・・!


「いたぞーッ!水島だーッ!彩っち!こっちだよー!!」


声の方向にハッとして、上を見ると上から私を指差しながら誰かを手招きしている男性社員がいた。


「マジすか学園―ッ!?みんなー!水島さん非常階段にいたってー!!」

「きゃー!やったー!絶対捕まえよッ!」


アイドルらしき黄色い声が聞こえて・・・しかも集まってくる!走りながら、はしゃぐな!!


「う、うわああああああああああああ!!!!」


会社の全面協力とファンとアイドルの結束力を甘く見ていたッ!!

敵だ!みんな敵だッ!!!


これは、ただの”鬼ごっこ”じゃない!!



”水島狩り”だああああああああああああ!!!!(泣)




『えーここで情報が入ってきました。水島さんを見つけた、というファンの協力により、TDFK47チームが水島さんを追い込んでいる模様です。

カメラではまだ水島さんの姿すら映されてませんが、アイドル達は懸命に走っています!・・・ここまで、どうですか?荻野目さん。』


『ファンとアイドルが協力し合って、一斉捜査!かつてない興奮を覚えますね!ぽーうッ!!!』


『・・・えー・・・荻野目さんのテンションがおかしくなってきてますが、放っておきましょう。

さて、”借り人競争対決”の筈が、すっかり”狩り人競争対決”になってしまいました!これは、前代未聞です!』


冗談じゃない!私は視聴者の側にいた人間だ!こんな形でTV初出演なんてごめんだ!!

 ※注 忘れている方もいらっしゃるとは思いますが、水島さんのTV初出演は、ゴリラに捕まった時です。『水島さんは昼食中。』より。



廊下を全速力で走る。後ろには「きゃー早い!あの人!」とかいう声が聞こえるが構わん!早いんだ、私はッ!



・・・む!

この唐辛子の匂いは、さっき嗅いだ・・・!


かすかに私の鼻をくすぐる刺激的な香りの方向には、網を持ったSORA時代がいた・・・って、網!?

私は、獣か何かかッ!?完全に”捕獲”体制だ!!


「待って下さーい。」

「私達、困りまーす!」

「宣伝させてくださーい!」


流暢な日本語使っても、私は待ったりなんかしないぞ!何故なら、女難かもしれないから!困るのは、私だから!



『えー・・・また情報が入ってきました、SORA時代が水島さんを発見し、只今追い込んでいるとの事!』


「「「「「おー!!」」」」


『何故か必要以上に必死に逃げ回ってくれている事務課の水島さん!番組を盛り上げてくれる為とはいえ、本当にありがたいですね!どうですか?荻野目さん』


『各アイドルが徐々に疲れてきてますね!その姿に興奮します!勝負は、ここからですよっ!ふう〜っ!!』


『えー・・・はい。会場からもモニターに向かって応援するファン、一緒に水島さんを探して貢献しようとするファンに分かれております!

・・・おっと!?あれは、3番モニターは・・・!』


ふっ・・・所詮は、アイドル・・・ダンスは得意でも、逃げは私の専門領域だ!!

このまま、グダグダになってアイドル達にも諦めムードが流れて、番組的にも、もうどうでもいいや的な感じになるまで、逃げて逃げて逃げまくってやるッ!!


口元に余裕の笑みが浮かんだ、その時・・・私の目の前に、その人が現れた・・・!




「・・・お待ちなさい!この下郎め!・・・なんてね♪」



それは、私を待ち伏せていたのか、私の進行方向に、いとも簡単にスッと立ちはだかった村山葉月だった。


(は・・・葉月さん!!)


この時、私は見つかってしまった、という危機感よりも決め台詞を自分の為に言ってくれた嬉しさの方が勝っていた。


生台詞が嬉しい・・・さっきよりも距離が近いし・・・嬉しい・・・。


だめだ!しっかりしろ!



・・・だが、私は逃げる!!!!



右足を一歩踏み出す・・・が、同時に葉月さんも私の進行方向に足を踏み出す。

右足を引っ込めて、今度は左足を踏み出す・・・が、同時に葉月さんも私の進行方向に足を踏み出す。


・・・よ、読まれている・・・!?私の動きが・・・!!


フェイントをかけまくる私と、その動きを読み、私の進行方向を塞ぐ葉月さんの攻防が続く・・・。

しかも、葉月さんは息一つ乱れていない・・・!


・・・でも、こんな時に限って・・・私というヤツは、心の片隅で思ってはいけないとは思えど、考えてしまう・・・。





”何?コレ。”って・・・!!(泣)


”自分の会社の廊下のど真ん中で憧れの女優と何やってんの?私!”って・・・!!(泣)





「貴女、さっき私を応援してくれた方よね?」


私の進行方向を塞いだままの葉月さんが、ふとそう言った。


「・・・は・・・?」

「声援、とても嬉しかったわ・・・だから、どうしても私は貴女を捕まえたい。」



あ・・・


ああああああああああああああああああ!!ファン冥利に尽きる言葉があああああああああああああああああ!!!

腰が砕けそうになる言葉に、くらりとくる・・・。


だが、その瞬間、私にわずかな隙が出来た。


伸びる手が・・・


「!?」


私に向かって伸びてくる・・・4本の腕!!4本!?


「うわあっ!?」


いつの間にか、TDFK47とSORA時代のメンバーが私の背後に立っていたのだ!


私は咄嗟に身体を逸らし、その腕から逃れる。

別の方向から手が伸びてくるが、私は足を使って、上手くステップを踏み、それを避ける。


か・・・完全に囲まれている・・・!!


『おおっと!村山さん有利かと思えば、ここで三つ巴―ッ!!しかし、水島さん逃げる!避ける!それを追うアイドルと女優の三つ巴!!

なんなんでしょうか!?一人の女性をアイドル皆で捕まえる!このふざけたモンハンのような光景は、一体なんなのか!?不思議な光景です!!』




私は、モンスターじゃないッ!!!(泣)



徐々に私は壁際に追いやられていく・・・誰に捕まってもおかしくは無い・・・!

窓でもあったら、そこから私は迷わず飛び出していただろうが、生憎、後ろは堅い壁だ。


ついに背中が壁についた・・・!


(もうダメだ・・・!!)




私は両目を瞑って、覚悟を決めた。・・・と同時に、女性特有の甘い匂いと柔らかい肌の感触が私を包んだ。





『決着ーッ!!遂に水島さんが捕まりましたーッ!!』




「「「「「「「わああああああああああああああああああああああ!!」」」」」」




会場が沸き立っている頃・・・私はアイドルと葉月さんの腕で固く抱きしめられていた。

色んな方向から色々な力が加わって、とてつもなく苦しい・・・!!



「ぎ、ギブギブ・・・!」


色々な腕を叩いてギブアップ宣言をするが、誰も離してくれない・・・!だ、誰か・・・誰か、助けてッ!!



「私が捕まえたの・・・ッ!」

「私が捕まえたんだってば・・・ッ!」

「いや、私が・・・」



た、助けてえーッ!!声が出ないーッ!!!



『・・・で、誰が最初に水島さんを捕まえたんですかね?ちょっとカメラをスロー再生してみましょう・・・』


そんな事どうでもいいから、早くアイドル達に終了だと伝えてくれ!どんどん絞まるぅ―ッ!!!



『・・・あー・・・これは・・・どうですか?荻野目さん、判定は・・・?』



『ほぼ同時に見えるっぽいので、ドローですッ!!』



『残念!!第二回戦目もドロー!!』



ど、ドローだと・・・!?・・・く、くそう・・・私の・・・苦労は・・・一体・・・!?


 ※注 水島さんの苦労 = 無駄。



「いや〜お疲れ様でしたー!とっても盛り上がりましたよー!三回戦目の準備まで休憩取っちゃってくださーい!」


ADらしき男の人の声で、ハッと我に返ったアイドル達がやっと私から腕を離してくれた・・・。

私は、陸に打ち揚げられ、しばらく放って置かれた魚のように、ぐったりと床に寝転んでいた。


「ごめんなさい、大丈夫ですかぁ?」

「はい・・・。」


TDFK47の一人が床に寝転んだままの私に声を掛ける。私は力なく答える。


「ごめんなさーい、力とか色々入っちゃってー」

「いいですよ・・・別に・・・。」


SORA時代の一人が床に寝転んだままの私に声を掛ける。私は力なく答える。


「大丈夫?水島さん。」

「は・・・はい・・・」


そう言って、葉月さんが床に寝転んだままの私に向かって手を差し出す。

それを見たアイドル達も笑顔で私に手を差し出し、最終的に皆で私を起こしてくれた。


「あ、ありがとうございます・・・。」


・・・葉月さんに、触った・・・ドサクサに紛れて握手しちゃった・・・!

私・・・頑張った・・・!頑張って良かった・・・!

これは・・・きっと・・・ご褒美だ・・・!

いつも女難にまみれて穢れてしまった私へのご褒美だ・・・!!


アイドル達と葉月さんは爽やかな笑顔を残し、去っていく。

私は、その後姿が見えなくなるまで見送っていた。


一瞬にして幸せ感に包まれる私に向かって、ADらしき男性が、ぽんと肩に手を置いて言った。


「水島さんでしたっけ?・・・じゃ、行きましょうか?」

「・・・・・・はい?」




「出演者全員からのリクエストで、貴女も是非、会場に来て欲しい、との事で。」



「リク、エスト・・・?」



「はい、第3回戦目も是非、参加して下さい!こんなチャンス滅多に無いですよ!」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・”チクンッ”・・・。



ダメだ!行っちゃダメだ―ッ!!!



「あの、私は遠慮させていただいて・・・!」

「はい、行きますよー!!」


体格の良いスタッフが二人やってきて私の両腕を掴み上げる。

連行される!!素人が、テレビジョンの餌食になる!!


「は、離してーッ!・・・あ、お腹!お腹が痛い!!」

「「はいはーい。」」


 ※注 素人の渾身の仮病を見抜くスタッフ。




横暴だ!現代のテレビジョンは、横暴だああああああああああッ!!

そして、作者のこの頃の女難の展開の強引さには頭にくるわああああああああああ!!!!

 ※注 うるさい。



私はそのまま会場に連れ戻され、豪華商品の隣に置いてあるパイプ椅子に、縄で固定された。



(え・・・ちょ、ちょっと・・・縛られてるんですけど?)




え・・・ちょっと、何コレ・・・!?


ちょ・・・ちょっと・・・これ、公開監禁・・・?



スタッフの人、ひそひそ話してるばっかりで、誰も私のこの異常な状況を説明してくれないんだけどッ!!

何故、豪華商品の横に私が固定されてるのッ!?



「あ!来た来た!水島さん!さっきは凄かったですね〜!」

TDFK47の誰だか知らんが、凄いのは、今の私の状況だ!!パイプ椅子に縄で固定されてんだぞ!?


「足速いんですね!素敵でしたー!」

それより先に気にかけるべき事があるだろ!縄とか!!ねえ!TDFK47の誰だか知らない人!!


「水島さーん。お疲れ様でーす♪」

お疲れじゃないよ!SORA時代の人!国際的に見ても異常な状況に置かれてる私を見て!!


「コレ食べますかー?マシッソヨーですよー。(美味しいですよ〜。)」

だから、なんでSORA時代は、ロケ現場でチゲ鍋(二回目)始めてるんだよ!!足りなかったのか!?どんだけ空腹だったんだよッ!?


たまらず、私は笑顔で私に話しかけるアイドル達に問いただした。



「ちょ、ちょっと・・・これどういう事ですか!?私、素人ですよ!?」



「「「「・・・・・・・・・・。」」」」



なんで一斉に黙ってるの―――――ッ!?



「「「「・・・・・・・・・(ニヤッ)」」」」


なんでニヤッと笑ったの――――――ッ!?



ヤバイ・・・本格的にヤバイ雰囲気がする!!芸能界は、やっぱり暗黒の地だったんだッ!!


 ※注 繰り返しますが、この物語はフィクションです。実際の人物・その他のものには一切関係ございません。悪意も全くございません。


ステージ上には既に第三回戦の準備が進められていた。

階段と丸太のような棒3本がY字状に設置され、丸太のような棒には人がまたがれるようになっている。

スタッフが丸太を回転させたり、棒の下にこれでもかと白い粉を撒く。白い粉塵が舞う。



「準備OKでーす!」

「・・・まもなく、第三回戦始めまーす!出演者の皆さんは準備お願いしまーす!」


は、始まってしまう・・・!私を椅子に縛りつけたまま、何かが始まってしまう・・・!!


「水島さん。」

肩にぽんと手を置かれ、私は顔だけを声の方向に向ける。


その声でわかる。

葉月さんだった・・・。


彼女は極上の笑みを浮かべ、口を開いた。




「宣伝タイムも貴女も、絶対に私が勝ち取るから、安心して頂戴ね♪」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





『第三回戦目!!落ちたら粉まみれ!ソフト棒で落とし合い対決ーッ!!』




は・・・


始めないでええええええええええええええええええ!!!!!!

お願い!この対決を止めてぇええええええええええええええええ!!!!!



『ルールは簡単!回転する丸太の上にまたがり、ソフトな棒をつかって、相手を粉の海に落とすだけ!最後まで丸太の上に乗っていたチームの勝利です!!』

『棒で突き合う姿や落ちた時のアイドル達の白い顔が、たまりませんね!期待しましょう!はああん!!』


もう、あいつらに何かを求めるのは諦めよう・・・。


『さて、荻野目さん、第3回戦目開始の前に・・・先程、活躍された事務課の水島さんが商品の棚の横に座ってますね?これはどういう事でしょうか?』

『えーアイドル達が先程の彼女の活躍を見て、大変感動したと言って、特別に特等席を用意したんですね。羨ましいですなぁ。』


その特等席に素人が無理矢理縛られてるって、どんな扱いなんだよッ!!!


『では・・・この勢いに乗ってー第3回戦目バトルの勝者の商品には、宣伝時間2分+社員の水島さんのキスと言う事でーどうですかー?解説の荻野目さん。』


どうですか?じゃねえよ!どんな勢いに乗ったらそうなるんだよ!!

おかしいだろ!絶対おかしい!!なんで私のキスが商品に加わってるんだよ!司会者、思いっきりカンペ棒読みしてるよ!!


『ふむ、相手は女性ですし、スキャンダル的にも問題無いでしょう。あとはスポンサーの会社さん次第ですが・・・。』



ちょ、ちょっと、荻野目!アイドル大好きなんだろ!?止めろよ!アイドルが女とキスするんだぞ!?止めろよ!!

何、前向きな方向に検討してるんだよ・・・やるなよ・・・本当にやるなよ・・・!?


・・・社長・・・お願い・・・私を提供しないで・・・!真面目に働いてる社員を見捨てないでーッ!!




『はい、只今”スポンサーとして、ご提供しましょう。”という回答をいただきましたーッ!!』




うおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!社長ーッ!!!(泣)



たちまち、アイドル達の間に不穏な空気が流れる。

ステージ上のアイドル達はみな笑顔だが、その奥に潜む感情を私は知っている・・・!

それは・・・女にしかわからない、女の醜き負の部分!!


・・・そして、頭上からは『何故、アイツだけ・・・。』という男性社員の嫉妬の類の痛い視線が飛んでくる・・・。

言っておきますけどね!私ぁ好きでココにいるんじゃないんだからね!!見てわからんのか!?縛られてるんだぞ!!


落ち着け・・・落ち着いて・・・誰が女難かをまず確かめるんだ・・・!

私は目に力を入れて、意識を集中させる・・・すると、そこには恐ろしい光景が広がっていた・・・。



(ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいッ!?)




視界一面真っ赤ッ!!!!!ステージ一面、驚きの赤さッ!!!!!




縁の紐が波打っていらっしゃる!!



全員か!?全員、私を狙っていらっしゃるの!?薄々わかってはいたけれど!!もうやめてッ!!

芸能界にはイケメンが沢山いらっしゃるでしょ!?ここで無理に、ただのOLで手を打たなくてもいいじゃない!!



仕方ない!こうなったら片っ端から、この縁の紐を切れば・・・切れ・・・縛られてるんだったーッ!!!!



それに・・・冷静になって考えろ・・・TVカメラの前で”縁の力”は使えないぞ・・・!!

あれは、動作が不審すぎて、完璧に頭が変な女だと思われる・・・!!



『では、いよいよ対決の時ですっ!!』


「「「「「「わあああああああああああああ!!!」」」」」」

「「「頑張れええええええええええええ!!!」」」


『では、意気込みを!結菜ちゃん!』


『絶対勝つ!水島さんは渡しません!メンバーで仲良く分けます!』


私をどうやって分ける気―――――ッ!?


「「「う、うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」


『では、意気込みを!ウンジェさん!』


『負けません!水島さんを持って帰りまーす!』


私、輸出される―――――ッ!?


「「「う、うおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」


『意気込みをお願いします!村山さん!』

『負ける気がいたしません。勝たせて・・・・・・・いただきます、水島さんを。』


葉月さん!もう”いただきます”の意味が違って聞こえま―――――すッ!!!!


「「「う、うおおおおおおおおおおおおお!!!」」」



嫌だ!どのチームが勝っても嫌だ――――ッ!!私はただの視聴者なんだ―――ッ!!





『では、棒を持って・・・スタンバイ!・・・よーい!スタートッ!!』



私の願い空しく、戦いの火蓋は切って落とされてしまった・・・。

3つ巴の戦いとあって、3人共様子を伺っている。


『荻野目さん、これはどんな戦いになるでしょうか?』

『そうですね〜・・・各アイドル、運動面では一番のメンバーを出してきましたし、村山さんに至ってはスタントもこなしてますからね〜

これは激戦が期待できるでしょう!』


『なるほど〜・・・おっと!皆河が動いた!リーダーが動いたぞッ!』


ソフトな棒、と表現はされているが、あれは太い。あれが当たったら感触はソフトかもしれないが太さと重量のせいでかなりの衝撃が来る筈だ・・・。

”ブンッ”という音の後”ゾンッ”という衝撃音がする。ヘルメットを直しながら、ソフトな棒で殴られたSORA時代が反撃に出る!


”ゾンッゾンッ”という衝撃音がする。棒は激しく動き、TDFK47と葉月さんの頭に当たった。


「行け行けー結ー!!」

「リーダー!!」

「村山さーん!!」


”ゾンッ!ゾンッ!ゾンッ!ゾンッ!”


ま、間近で見ていると怖い・・・!音が・・・音が怖い!!


『さあ!白熱してまいりました!!女優・アイドル・国をも越えた頂上決戦!今、まさにタコ殴り状態!!

各選手共々バランスを上手く取りながら、攻めています!!・・・・おっと!?』


”ボフッ”という音を立てて、3人の持っていたソフトな棒は粉の海に落ちた。


否。落ちた、というより・・・3人がソフトな棒を放棄したのだ・・・。


『落としてしまったーッ!3人共ソフトな棒を!落としてしまったーッ!』


違う!落としたんだよ!ワザと!!

睨み合う3人・・・まさか・・・彼女達は・・・これから・・・!!




「・・・お、オムニーッ!!(お母さん!!)」


”ぱーんッ!!”



ビンタだーッ!!遂に素手が出たーッ!!


 ※注 繰り返しますが、この物語はフィクションです。実際の人物・その他のものには一切関係ございません。悪意も全くございません。



『素手です!ここでK−POPアイドル、SORA時代、素手で応戦!ま、まさかの素手ッ!!』


”まさか”じゃないよ!さっきから不穏な空気立ち込めてたじゃないのよ!スタッフ考慮しなさいよッ!安全な棒を渡せ!


「そ、そいやあッ!!」


”ぱーんッ!!”


出したー!!日本も手を出したーッ!!!


『素手です!ここで、J−POPアイドルTDFK47もまさかの素手です!!SORA時代大きくバランスを崩し・・・おおっと立て直した!!』


まさかじゃない!予想済みの黒い未来だよッ!!


「・・・J―POPアイドルを舐めるなッ!!」


『お願い!棒を使ってッ!・・・という我々の配慮むなしく、ソフトな棒は粉の海で沈黙ッ!荻野目さん!どうしましょう!?』

『このまま、試合続行に決まってるでしょう!!ひゃああっほおう!!!!』


・・・ダメだ・・・奴らには、この戦いの本当の意味が見えてない!!


「そいや!そいや!!そいやッ!!」

「・・・なに、当たらなければどうという事はない!!」


『かわしたーッ!K−POPアイドルは3倍の動きでJ−POPアイドルを翻弄します!!あれは、人間の動きなんでしょうか!?』


勝手に白熱してK−POPアイドルが優勢みたいだけど、葉月さんは・・・!?葉月さんは、どう出るんだ!?



「日本人なら・・・お茶漬けだろうが―ッ!!」


”ぱーんッ!”


葉月さんも手を出したーッ!!そして、謎の掛け声が、懐かしすぎるネターッ!!!


『クリーンヒット!!これは痛い!大きくバランスを崩し、先程の勢いがぷっつりと消えたーッ!!危うし!SORA時代ーッ!!』


「うう・・・か、韓国人ですけどっ!?」

「・・・ですよね!!!」


なんじゃ、そのやり取り――ッ!!!


『荻野目さん、今の村山さんとウンジェのやり取りは・・・!?』

『分かる人にしか、わからないネタでしょうねー』


 ※注 すいません。


「・・・し、シングル、”下から鼻フック。”ヨロシクーッ!買って握手しに来てねーッ!!」


”ぱーん!!”


「うッ!?」


さり気無い宣伝入れてきた―ッ!!


 ※注 念入りに繰り返しますが、この物語はフィクションです。実際の人物・その他のものには一切関係ございません。悪意も全くございません。


『皆河、年功序列・芸暦関係なく果敢に村山さんに立ち向かっております!まさに、下克上です!!』


「辻向井映画化アタック!!」


”ぱーんッ!”


「ぐはっ!?」


さり気無い宣伝パート2―ッ!!


”ぱーんっ!ぱーんッ!!”


押し合いというか、もはや叩き合いだ・・・。

ひ、酷い・・・。

観客は引くどころか、更に彼女達を煽り立てている。



『やり返したー!!熱い!熱い女の戦いが繰り広げられております!!』


「「「うおおおおおおおお!!いッけぇ〜!!」」」




自分の憧れの芸能人が、自分のキスを狙って、他のアイドルと殴り合っている・・・。

自分の呪いが招いた事とはいえ、私は、もう限界だった・・・。



(もう・・・もう止めて・・・!見ていられない・・・!!)



私は救いを求めた。

誰かに、だとしたら・・・それは・・・。








「・・・水島。」





瞼をきつく閉じて、力なく俯く私の肩を、その声の持ち主は、がっしりと掴んだ。


「か、火鳥・・・!?」


思わぬ救援に私は驚いた。

一方、火鳥の顔は『アンタ、なにやってんのよ』と言いたげに呆れているようなものだった。


「休日出勤で何やってるのかと思えば、こんな馬鹿祭りにアンタ参加してたのね?」


鼻で笑って、火鳥はステージ上のアイドル達を冷ややかな目で見ていた。


「火鳥!た、助けて!縁の紐を・・・!!」


私の台詞を遮る様に、火鳥は言った。


「言われなくても、もうやってるわ。・・・残りは自分で切りなさい、水島。」


そう言って、火鳥は私をパイプ椅子から解放した。

私は素早くカメラに映らない場所まで移動して・・・


(葉月さん・・・私は、あくまで貴女のファンです・・・これからも、そうです・・・ごめんなさい!)


私は、残された縁の紐を切った。



しかし、これで事態が完全に収拾した訳ではない・・・!

戦いはまだ、丸太の上で続いている・・・!!



『・・・おーっと!!落ちたーッ!!』



その声にハッとして、ステージ上を見ると・・・白い粉塵が舞い上がっていた。



『3人共落ちたーッ!!!』

『ドロー!!完全なるドローです!!』



ステージの上で、顔面をしっかりと粉の海につけ、うつぶせ状態の三人の姿がうっすら見えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


しんと静まり返る会場。三人の芸能人は、ゆらりと立ち上がった。


真っ白な粉塗れになって・・・。


まさに・・・真っ白な灰、状態・・・。


その瞬間、地鳴りにも似た歓声が上がった。



『ドローです!まさかのドロー!!映像的にも番組の尺的にも、もはや限界です!白熱したバトルを見せてくれたアイドル達に盛大な拍手をお願いします!』

『我がアイドル道に、一片の悔い無あああああああああああああああああああああああああし!!!!』


”パチパチパチパチ・・・!!”



『それでは、アイドルバトルBAN☆BAN!今週はここまで!司会は私、緑川と解説は荻野目さんでした〜!』

『ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!』



力なく粉塗れの3人が苦笑いを浮かべたまま、カメラに向かって手を振っている。



『また来週〜!!!』






私は思った。





・・・・・・何?この茶番・・・と・・・。










・・・ロケは・・・無事、終わった・・・。


男性社員はまだアイドル達に向かって手を振ったり、声援を送って、熱気は冷めやらない。

私が、パイプ椅子から逃げ出しても誰も気が付く事はなかった。




やはり、芸能人は・・・遠くから見ているくらいがちょうど良い。本当にそう思った。




ロビーの隅っこで溜息をつく私に火鳥は言った。




「・・・水島、気は済んだ?」

「・・・はい・・・行きましょうか・・・。」



そのまま、逃げるように私は一旦、会社の外に出た。

それに続くように、火鳥も黙ってついてきた。


ここで不思議に思ったのは、何故、火鳥がタイミングよく私の前に現れたのか、だ。


何も無いのに、この女が私にわざわざ会いに来るわけが無い。



「・・・あの、何か用だったんですか?」



私がそう聞くと、火鳥は複雑そうな顔をして、黙り込んだ。

しばらく沈黙が続き、ぎりっという歯軋りのような音が聞こえたかと思うと、搾り出したような微かな声が聞こえた。




「・・・・・・アンタの、力を、借りたいの・・・。」

「・・・え・・・?」



それは、とても言いたくない言葉のようで。とても悔しそうに。火鳥は言った。



「ダメなのよ・・・」

「な、何がですか?」


火鳥の様子がおかしい。


「アタシじゃ、ダメなのよ!アンタじゃなきゃ!ダメなの!!」


私は火鳥に手首を掴まれ、火鳥は私を涙目で睨みながら言った。



「お願い!助けて!水島!!」


「・・・!!」




訳が分からないが、私はまた・・・ややこしい事に巻き込まれてしまう事になりそうだ、と思った。





― 水島さんは観覧中。・・・END ―


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あとがき


なんというか・・・まず、ごめんなさい。全体的に神楽の悪ふざけ作品です。

本当に悪意とか、全然無くて。また、芸能界とかアイドルに関する知識も全然無くて。(笑)

私の知ってる情報とおふざけで煮込んでみたら、こんな形に仕上がってしまいました。

作中の人物・団体等は、よく似ているけれど、まったく違う、フィクションなので、あまり気にしないで下さい!お願いだから!!


ちなみに、会社の女難チームですが、彼女達はアイドルに興味はなく通常業務に勤しんでいます。

それに、彼女達は水島さんが村山葉月のファンだという事を知りません。

勿論、社内放送で水島さんがアイドルに追いかけられていると知りますが、彼女達は仕事を抜け出す事は出来ませんでした。

大体、会場は男性社員で溢れかえっていたので、彼女達が水島さんに近づく事は不可能です。

故に、今回彼女達の出番は無かった、という訳です。・・・決して、人数増やしたら面倒臭くなる、とかそんな事、思ってませんよ!(笑)


最後は、火鳥さんについてですが・・・いよいよ、女難コンビ協力&大暴れの回です。

最終章なんで、よく最後、引っ張る感じになってますがご了承くださーい。