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私の名前は水島。

悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。


私は今、戸惑っている。

今、私の目の前に立っているのは、本当に・・・火鳥 莉里羅と言う人間なんだろうか?


火鳥は私の手首を掴んだまま、私をじっと涙目で見つめていた。

その瞳には、悔しさと悲しさが同居しており、一目で火鳥の身に何かあったとしか思えなかった。


城沢グループの入り口から、帰宅する社員達がどっと出てくる。

皆口々に何か話をしているが、そんなの私の耳には届かない。


私と火鳥は、その人ごみの中、止まったままだった。


「アタシじゃ・・・ダメだった・・・!」

「何が・・・一体、何があったんですか?」


訳が分からないまま、火鳥は私の手首を締め上げるだけ。痛い痛い・・・ちょ、マジで痛い!!


「アタシじゃ、ダメなのよ!アンタじゃなきゃ!ダメなの!!」

「だから!一体何が・・・!」


そして、火鳥の口から目の前の人間が火鳥なのか!?と疑りたくなるほどの言葉が放たれた。



「お願い!助けて!水島!!」



「・・・!!」



訳が分からないままだが、私はまた・・・ややこしい事に巻き込まれてしまう事になりそうだ、と思った。





[ 水島さんは救助中。]




私は、人ごみにまぎれて移動した。火鳥をいつもの喫茶店に連れて行く事にした。

火鳥は私の手首を離すまいと、まだしっかりと掴んだままだった。

子供のように押し黙り、ただ私の後を火鳥は付いて来た。

私は、振り返って火鳥の様子を見ようとは思わなかった。きっと、火鳥はそんな事を気にされるよりも私に打ち明けたい事がある筈だから。


高ぶった感情が落ち着いてきたのか、手首を掴む力が弱くなってきて、店の前に来る頃には手は離れていた。


店に入り、一番奥の席に座りコーヒーを2つ頼む。

注文したコーヒーがテーブルに置かれると、火鳥と私は同時に静かに口をつけた。


私は自分から話を切り出そう、とは思わなかった。

火鳥からの言葉を待った。


「・・・・・・・悪かったわ・・・アタシらしくなかったわね・・・。」

「いえ・・・」


それは、それだけの事があったからだろう?と心の中で呟く。

それ以上言わないのは、下手なフォローなど私と火鳥の間には不必要だと思ったからだ。


「力を、貸して欲しいの。」


火鳥は今度は冷静にそう言った。まるで、自分に言い聞かせるようにも見えた。


「というと・・・?」


「アンタに、ある子とアンタとで縁を結んで欲しいの。」

「・・・・・・は?」


私は首をかしげ、間抜けな声を発した。


「そうすれば、その子の運命が・・・変わるの。アンタと縁が出来た事によって、その子の運命が・・・」


至って真剣にどんどん話を進める火鳥だが、私は置いてきぼり状態もいい所だ。


「ちょ、ちょっと待った!確かに、私は縁の力は運命を変えるとは言ったけれど・・・私は・・・そんなに力強くないですよ?」


縁の力で運命は変えられる、確かに私は言った。

だけど、私自身にそんな大それた力があるとは思えない。どちらかというと火鳥の方が力は強いと思うのだが・・・


「・・・忍との縁をアンタはブチ切ったでしょ?アンタには・・・アタシよりも力があるのよ。だから・・・」


なるほど・・・”アタシじゃダメなのよ”という言葉は、そのせいか・・・。

いや、でも、それにしたって、急すぎる話だし・・・。


「いや、そ、そうなんですか?いやいや、それより、自分の女難を増やせとは・・・」


縁を結ぶ、という事は、余計な人間関係が増える、という事だ。

火鳥は、私がそれをどれだけ嫌がっているか、わからない女ではあるまい。


「気が進まないのはわかる。でも、やって欲しいの。・・・協力してくれたら、それなりのお礼は出すわ。」


火鳥は俯いたまま、まるで台本でも読んでいるような口調で、そう言った。


「いや・・・お礼とか、お金の問題じゃないんですけど・・・。」


考えを巡らせ、私の煮え切らない態度に、火鳥は怒った。


「じゃあ!どうしたら引き受けてくれるのよ!?」


「・・・まず・・・どうして、その子の運命を変えたいんです?」


火鳥じゃダメだった、という事は・・・火鳥は既にその子と縁が出来ている、という事になる。

そして、その子の運命を変えようともしたがダメだったから、もう一人の縁の力を持つ私が出てきたという訳だが。

その子の人間関係に関わる事だし、ダメな運命なら、さあ変えましょうとホイホイ縁を切って結んでしまうのは・・・いかがなものだろうか?

・・・だが、火鳥がその縁に対し・・・こんな苦労や私に助けも求めてまで、他人の運命を変えようとするなんて余程の事だ。


自分の利益の為なのか・・・それとも、その子の為なのか・・・大体、その子って誰なのか・・・力を貸すかどうかは、理由次第だ。


私の目を見ていた火鳥は、ふうっと溜息をついて言った。


「・・・分かったわ・・・じゃあ・・・その子のいる場所に案内するわ。」


私はその提案に頷いた。


「・・・分かりました、じゃあ着替えて退社してきますので、30分後にまたここで。」

「ええ。」


そして、私は一旦火鳥と別れ、会社に戻りそそくさと支度をした。

(火鳥は一体、何を考えているんだろう・・・?)


どうにも、いつもの火鳥らしくない。

そもそも、あんな顔を私なんかに向けるような女ではないのだ。

私などに”助け”を求めてきている事も、彼女らしくない。


それだけ・・・いつものあの火鳥が、揺らぐほどの事だというのか・・・。


もしも。



とある他人のせいで、あの火鳥が・・・あんなにも態度が変わってしまったのだとしたら・・・




・・・本当に、人間関係とは心底面倒臭いんだな、と改めて思う私であった。



「あ。」


私が会社の外に出ると、火鳥は、既に我が社の前に堂々と車を停めて待っていてくれた。

というか、そんなにも早く行動したいのか、と言わんばかりに私に向かって”サッサと乗れ”と言った具合に顎で合図をし、さっさと運転席に乗り込んだ。


相変わらず、甘ったるいお菓子の匂いがする車の中。

私も火鳥も無駄な会話は、一切せずに黙っていた。

ここで、アレコレ聞いてもしょうがないのだ。すべては火鳥の言っていた”その子”に会わなくては始まらないのだ。



(・・・あれ?この道は・・・)


街中を走り、見覚えのある道が続いた所で、私はなんとなく、火鳥の目的地がわかってしまった。

やがて、見覚えのある白い建物とそれを囲むように立つ木々が見えてきた。




・・・K病院だ。


(・・・そういえば・・・忍さん・・・)


そう考えかけて、私もまた火鳥と同様、ややこしい人間関係に思考を占領されている人間になっている事に気付く。


以前の自分ならば、こんな状況になるのを最も嫌がっていただろうに。

いざ、その状況に置かれると、不思議なもので、これ以上に嫌な事なんか沢山あったよな、と思ってしまう。


しかし、今、忍さんに出会ってしまったとして・・・私は、どんな事を喋ればいいのだろう。掛けるべき言葉が、全く見つからない。

人間関係をことごとく絶ってきた私にとって、この手の事に対する対処法は無に等しく・・・”貧相”の一言に尽きる。




駐車場に停車すると、火鳥は鍵を抜き取り私に向かって、こう言った。


「安心しなさい。忍は今日は病院にいないわ。」


火鳥は言い終わると、運転席の後ろから何やら紙袋を取り出し、そっと膝の上に乗せた。大事な荷物らしい。


「・・・そ・・・そうですか。」


忍さんがいない、と聞いて気が抜けた。

私の変な緊張感が、火鳥にも伝わってしまったのだろうか。


まあ、忍さんがいないならば、火鳥の問題にも集中しやすいというものだろう。うん。



・・・そう思い、私はどこかホッとしていた。

これで、気まずい思いも、気を遣って頭を悩ませる事もしなくて済む、と。


そして、そう思う自分がまた嫌になっていた。



私は、火鳥の後ろを黙って歩いた。


すると前方を歩いていた看護師が私達に気付き、笑顔で話しかけてきた。


「あら、今日もいらしてたんですね!蒼ちゃん、今日はすごく元気そうで退屈してますよ。」


・・・蒼ちゃん?


「そうですか。それは良かった。では・・・。」


火鳥は短い会話をこなし、軽く会釈をして、前に進み、とある部屋の前で止まった。


「・・・ここよ。」


私は何気なく、その病室にいる患者の名前を見た。



『高見 蒼』


なるほど・・・ここにいるのが蒼ちゃん、という訳か。

なかなか扉を開けない火鳥は、私をぐっと睨むと言った。


「・・・くれぐれも、余計な事言わないでよね?」

「・・・余計な事、とは?」


薄々わかるものの、一応私は確認の意味も込めて聞き返した。


「馬鹿ね、女難とか縁の力関係の事に決まってるでしょ?あの子は、何も・・・知らないんだから。」

「・・・知られちゃいけない訳ですね。」


私は、てっきり熱湯風呂の前で『押すなよ?絶対押すなよ?』と念を押して置きながら、押さないと『押せよ!』と叫ぶ芸人の姿を思い浮かべたが、火鳥はどうやらマジらしい。

万が一にも私が口を滑らせてしまったからって、女難の女の存在を、おいそれと普通の人が信じるとは思えないが。


「・・・頼むわよ?」


『言うなよ?絶対言うなよ!?・・・・・・・・言えよ!』っていうフリでは・・・ない。よし、了解した。


「はいはい。」


まあ、火鳥がそんなに言うなら、一応、気は遣ってやるとしよう。


 ※注 火鳥さんの弱みに漬け込んで、多少気が大きくなってしまっている小心者の水島さん。



火鳥は、やはり気が進まないようだったが、やがてノックを三回し、室内にいる人物へと声を掛けた。


「・・・あたし。」


・・・・・・うん、分かりやすい。火鳥を知る人間ならば、この一言だけで、ノックをした人物がこの女だとわかる。


「火鳥お姉ちゃん!?」


室内から、嬉しそうな弾みのある声が聞こえた。・・・聞いた感じでは子供っぽい。

扉がゆっくり開くと同時に、火鳥に飛び込む小さい人影が目に飛び込んできた。

それは、身体が小さく、腕は細く、長い髪の毛を二つに結んだ10代の女の子だった。


「来てくれたのね!?火鳥お姉ちゃん!」


少女は満面の笑みで火鳥に抱きつき、頬擦りをしている。

私は、思わず足を止めてじっと二人の様子を見た。


(子供・・・?)


「・・・病人は大人しく寝るのが仕事でしょ。」


そう言って、火鳥が、なだめるように女の子の頭を・・・優しく撫でている!?

あ、あ・・・あの女が!?他人に優しいだと!?他人の顔を踏みつける事も平気でやってそうな、あの女が!?

子供に優しい!?


しょ、衝撃の現場に・・・今、私は立っている!!


「だって・・・会えるの楽しみに待ってたんだもん!」


ダメ・・・ダメよ!そこの少女A!・・・その人間は、他人を笑いながら足蹴に出来る女!地球にも子供にも優しくない女!懐いたらいけない!


「・・・じゃあ、このお土産いらないのね?」


そう言って、火鳥は先程の紙袋を揺らして見せて・・・笑った・・・。


・・・笑った!?口調は少し意地悪な感じを残しつつも、笑っている!あの火鳥が!?

ねえ!こんな所で、キャラ路線変更止めよう!?私と作者の頭がパンクしちゃう!!


「・・・え・・・あ、はーい!」


火鳥のお土産という言葉を聞くと、素直に少女はベッドの上にちょこん、と座った。

「ねえ?今度は、どんなあんかけ?」

・・・あん、かけ?

「和風ハンバーグ。ソースをあんかけにしてあるわ。」


・・・そう言って、火鳥は何かを取り出し、ベッドに備え付けてある机にトン、とその和風ハンバーグの入ったタッパーを置いた。

様々な野菜を小さく切って彩が綺麗なあんかけは、美味しそうで食欲をそそる。そして、小さめの食べやすそうなサイズのハンバーグが2つ入っていた。

だから、そのハンバーグは、すぐに”手作り”だと分かった。


・・・驚いた・・・まさか、あの火鳥が他人の為に料理とは・・・。


ま、まさか・・・!


私は少し、目に力を入れる。

少女と火鳥を繋ぐ・・・少しぼやけた感じの細くて、なんだか弱々しい縁の紐。

こんな紐は初めて見た。しっかり火鳥と少女は繋がっているのだが、どうも紐がぼやけていて存在が弱々しいのだ。

いや・・・こんな風に見えるのは、私の力がまだ弱いせいかもしれない。


だが、これで分かった。やはり、目の前の少女、高見蒼こそ、火鳥のいう”その子”だと私は確信した!


嗚呼・・・でも、火鳥よ・・・。


・・・嗚呼、火鳥・・・でも・・・でも・・・や、やっぱり・・・コレ、問題があるよ・・・!


私は、目の前の光景に寒気を覚えていた。


(感動の再会のところ、大変恐縮なんだけれど・・・マズイよ、火鳥・・・!)


相手は・・・み、未成年というか、子供だし・・・!

私と火鳥は同い年の25歳!火鳥と縁の紐が繋がっている相手は、どう見ても10代前半だ!


どう考えても”犯罪”という文字しか浮かばない。


どう見ても、火鳥の態度や仕草が他の人間に対するものとは、別格だという事は見て分かる。

どう見ても、孫にヴェルタースオリジナルを与えるおじいさんの微笑みとは、全く違う!



か、火鳥ぃ・・・!お前は、人嫌いを通り越して・・・とうとう、そんな人間になってしまったのか―ッ!?



私の心の迷いもよそに、二人は、ほんわかムードで会話している。


「あたしが作ったんだから、ま、味は・・・その・・・当然よ。」


やはり、私が睨んだ通り、ハンバーグは火鳥の手作りだ・・・!


「わあ!すごい!楽しみ!」


少女・・・高見蒼の目には、もはや火鳥しか見えていないらしく、後ろにいる私には今だ気付く気配もない。


目を合わせ、笑いあう二人を遠目に、遠慮がちに扉の影に隠れて、そっと見ている私。


その空気は、第3者を寄せ付けない程の、初々しいカップルの会話のようで、聞いているだけで・・・恥ずかしいッ!!



・・・まさか、とは思うが、一応確認はしておこう。


「・・・・・・・・・・・・・。」


私は、後ろから火鳥の腕を引っ張り、私は小声で聞いた。


「火鳥さん・・・」

「・・・何よ?」


私の時は、明らかに声が低い。いつもの火鳥だ。

この切り替えの早さ・・・やっぱり・・・。


「もしかして・・・ロリコン?」

「黙れ。この薄給OL。(怒)」


そう言って、私の素朴な疑問に火鳥はギロリと睨み返し、小声で脅し答えた。


だ・・・だって!出会って数秒で、10代の女の子とのイチャイチャとした恥ずかしくて生々しい現場を見せつけられたんだぞ!?

どこから、どう見ても、そう思ってしまうではないか!!

普段の貴女を知っているだけに、余計にそう思ってしまうではないか!!



「・・・あれ?火鳥お姉ちゃん、その人、誰?」


・・・やっと、私の存在に気付いてもらえたようだ。

私は気まずさでいっぱいの心で、へへへと自分でも気味の悪い薄ら笑いを浮かべながら入室し、扉を閉め挨拶をした。


「は、はじめまして。水島と申します。」


年下の子供に対し、妙な緊張感を持って挨拶する私を少女は不思議そうに見て、やがてニッコリ微笑んで聞いた。


「・・・火鳥お姉ちゃんの、お友達?」



その問いに、私と火鳥は声を合わせて、全力で答えた。






「「違います!!」」



 ※注 全力で否定する女難コンビ。





「・・・という訳で、こちら”知り合い”の水島さん。」

棒読み口調で火鳥がそう言った。

「はい、火鳥さんとそれなりに”知り合い”の水島です。」

私も棒読み口調で、繰り返し”知り合い”を強調した。


蒼という名の少女は笑顔で、私と火鳥を交互に見比べて楽しそうに笑っていた。

その笑顔は、とても・・・病人には見えない程で。

笑顔や仕草は、普通の子供とまるで変わらなかった。



ただ、少し違うのは腕が細く、近くで見ると肌の色も青白く・・・紛れも無く、彼女は病人だという事。


「あの、ちなみに・・・どうして、入院してるんですか?・・・いでっ!?」

質問するなり、火鳥が思い切り私の足を踏んづけた。


「〜〜〜〜〜〜〜いッたい!!何するんですか!?」

「アンタね!デリカシー無いわけ!?」

デリカリーも何も、私は蒼ちゃんの事は何も知らないのだ。どうして入院しているか、ぐらい聞いても良いではないか。

連れてきてもらって数分経つが、火鳥と少女の危ない現場しか見ていないのだ。圧倒的に情報不足だ、という事を理解していただきたい。

大体、デリカシーの問題に関して言えば・・・

「あ、貴女に言われたくないんですけど!?」

・・・その一言に尽きる。


「それ、どういう意味よ!?」

「そのままの意味ですよ!オマケに黒いくせに!」


「何よ!年中湿っぽい不景気面のアンタに言われたくないわ!日本の不景気は、アンタが原因じゃないの!?」

「私が年がら年中ヘラヘラして、日本の景気なんかが良くなる訳ないじゃないですか!そういうのは、政治家の仕事ですー!」


「例え話程度で、そんなにムキになって白熱してんじゃないわよ!」

「くっ!そもそも、そっちが先に・・・」


私と火鳥の口論をぽかんと見ていた少女が、やがて吹き出して笑った。


「ぷっ!くくくく・・・・」


「「・・・え!?」」


私達のただの口論に、少女は笑いを堪えきれずに、とうとう大声で笑い始めた。

私と火鳥はお互いの顔をじっと見て、”お前が、笑いのツボなんじゃねえの?”と目でツッコミ合った。

やがて、蒼という名の少女はベッドから起き上がり、笑い涙を掌で拭きながら言った。


「あーおかしい・・・ホント、嬉しい。火鳥お姉ちゃんが、こんな面白い人を連れてきてくれるなんて。」


(面白いって・・・私、何もしてないんですけど・・・。)

涙を流すほど笑われるような事を私は、したのだろうか?複雑な心境である。

 ※注 まあ、SS内で大抵、皆さんに笑われてますよ。水島さん。 




「お姉ちゃん、こんな楽しいお友達いたんだね・・・私には、何もない。このまま、何も・・・残らないの。」

少女は少し俯き、悲しそうに笑って言った。

「蒼・・・」


火鳥が、すぐに立ち上がり、少女の横に座り、肩に手を掛けた。

少女はクスッと笑って、胸の中央をトントンと指で叩きながら答えてくれた。


「さっきのお姉さんの質問の答え。・・・悪いのはね・・・ココ。」

「心臓・・・?」


少女が指差したのは、心臓だった。


「そう、私ね・・・もう長くないの。」

「・・・・・・!」


ドラマでよく見かける、ありがちな展開。

だけど、目の前でいざ、それが現実となって現れた時・・・私は、言葉を失った。

掛けるべき言葉が、頭の中に浮かんでは消えていく。

”そんな事無い。希望はある”と言えたら良いのだが、会って数分の人間に言われても前向きになれないし、嬉しくもないだろう。

今の私は、上辺だけの言葉しか吐く事しか出来ない、無力で健康な自分だ。


「蒼、そんな事は無いって言ったでしょ?手術すれば、まだ助かる可能性があるって・・・。」


火鳥がそう言って、少女を励ます。・・・・・・この女にしては、真人間のするような事を・・・。

 ※注 聞こえないと思って心の中で失礼極まりない発言をする水島さん。


「でも、成功率は低いんでしょ?・・・ダメな気がする。神様が諦めなさいって言ってる気がする。来るべき時が来たんだわ。私は受け入れる覚悟出来てるよ。」


余程、難しい手術なのだろうか・・・いや、それ以前に少女は、もう諦めているようだった。

だが、火鳥に頭を預け、すがるように抱きつく姿には、とてもその覚悟が出来ているようには見えなかった。



「・・・神、様・・・。」


私は、ぼそりと呟くと火鳥を見た。火鳥は瞼をきつく閉じていた。

少女の細い腕は、火鳥の手に向かって伸び、弱々しくその手を握り締めた。



(・・・・・・・・・。)



・・・『運命を変えたい。』


火鳥のしようとしている事・・・縁の力を強くしようとした理由・・・。

全ては、この少女の為だったのか。

火鳥は、この少女が迎えるだろう”死”という運命から、縁の力を使って、それを変えようとしている。


・・・・・・・この女にしては、真人間のするような事を・・・。

 ※注 聞こえないと思って心の中で失礼極まりない発言をする水島さん。


事情も理由も分かった。

ならば、私のすべき事は決まっているだろう。


やがて、火鳥は瞼をゆっくりと開き、自分と蒼を繋ぐ縁の紐を私に向けて差し出そうとした。


まさか、火鳥は私に・・・今、この少女・・・蒼との縁を結べと言うのか?


(・・・火鳥・・・!)


決意の眼差し。

火鳥は、本気だ。

自分が出来なかった運命の改変を望み・・・私と少女の縁を繋ぎ、少女の運命を変えようとしている。


私は、更に紐を切ろうとしていた火鳥の腕をしっかりと掴んで止めた。


「水島・・・!?」

「・・・まだです。」


私がそう言うと、火鳥は立ち上がり、小声で私に苛立ちの言葉をぶつけた。


「何を言ってるの・・・!事情は、もう十分、分かったでしょう!?何が問題なの!?」

「今は、まだ結論を出すべきではない、と言ってるんです。」


私が小声でそう答えると、イライラしながら私の耳元で火鳥が更に言葉を重ねる。


「・・・人間関係が増えるのを心配しているなら、その分、アンタの女難をアタシがいくらでも消してやるわ!それならどう!?」

「そ、そういう問題じゃありません。」

 ※注 少しだけ心が揺らいだ水島さん。


「じゃあ・・・!」


私達の険悪とも言える空気を読んだのか、少女が不安そうな顔をして聞いてきた。


「どうしたの?二人共・・・。」

「・・・なんでもありません。」


私は、火鳥を軽く押しのけ、少女に質問をした。

大事な質問だ。


「・・・あの・・・貴女は、このドス黒いお姉さんが好きですか?」

「”ドス黒い”は、余計よッ!」


私の質問に少女は少しだけ不思議そうに目を丸くしたが、やがて満面の笑みで答えた。


「うん、大好き!」


「・・・わかりました。」





結論は・・・出た。

私と火鳥は一旦、病室を出る事にした。





「どういうつもり!?お優しい水島さん!?人に優しいのが、アンタのモットーじゃないの!?どうして、とっとと縁を結んでくれないのよ!?助けてやりたいと思わないの!?」


蒼ちゃんの病室から離れた所にある、待合所の椅子に二人で腰掛け、開口一番、やっぱり火鳥は怒りだした。


私は、ゆっくりと立ち上がり、目の前の自販機からコーヒーを買った。

ガタンという音がして、コーヒーの缶が落ちてきた。


「誰も助けない、とは言ってません。・・・その前に。

彼女の言葉をちゃんと聞いてましたか?あの子は、貴女が大好きなんです。貴女もあの子に、少なからず特別な感情を抱いてる。

つまり、貴女は、ロリコンの可能性が・・・」

「黙れっての!いい加減にしないと、本当にぶん殴るわよ・・・っ!?」


ここまで興奮する火鳥は久々だ、と冷静に思いながら私は缶コーヒーの蓋を開けた。


「あーすいません、すいません。(棒読み)

もとい・・・貴女は、あの子の為に力を尽くそうとしてるし、あの子が一番傍にいて欲しいのは、私じゃなくて、貴女なんです。

貴女だって、出来れば自分が助けてあげたい、そう思ってるから、私に助けを求めた訳でしょう?」

「・・・・・・・。」

「だから、私なんかが、貴女とあの子の間に入り込む余地なんか、無いんです。・・・だって、あの子はそれを望んでなんかいないんですから。」


そう言い切り、私はコーヒーを一口飲んだ。

(あ・・・間違えた。冷たい方を買ってしまった。どおりで、なんか持ちやすいと思ったら・・・ま、いいか。)

 ※注 冷静さを通り越して、緊張感がまるで無い女、水島さん。


「でも、このままじゃ・・・蒼は・・・死ぬわ!あの子の運命を変えられる可能性がある力の持ち主は・・・アンタだけなのよ!?」

私の方が助けられる可能性がある・・・?

力は私の方が弱いと思っているし、自信も無い。だから、不思議に思っていたのだ。

忍さんとの縁を切ったくらいで、私の方が縁の力が強いと言い切るのには、少し無理があるのではないだろうか。


「・・・それ、大体、誰から聞いたんですか?」

「・・・あ、あのババアよ!でも、あのババアの言った事は本当よ!?アタシじゃ、あの子の運命は変えられなかった!」


(・・・あぁ・・・そっか・・・。)


私は、火鳥にも何か飲み物を買って、落ち着かせようと甘そうなココアを買って・・・

「あちちっ・・・熱っ!・・・ふう・・・やっぱり。」

ココアの缶が予想以上に熱かったので、そのまま火鳥に向かって放り投げた。

 ※注 真似しないで下さい。


「な、何が、やっぱりなのよ?・・・あちちっ!?・・・ふう・・・。」


ココアを受け取った火鳥はポカンとした顔から、熱さに慌てふためく顔に変わり、即座にココアは椅子に置かれた。ココアの缶は火鳥にとっても、熱かったのだ。

まあ、それはいいとして。


ここで、言うべき事は言っておかねばなるまい。私は、口を開いた。


「あのオバサンの言葉を信用・・・もとい、踊らされちゃいけません。」

「・・・アンタ・・・」


火鳥の表情が急に険しいものに変わっていく。

私は、一段と声を張って言った。


「祟り神だか、なんだか知りませんが、あの人の言う事なんか、聞く耳持つなって事です。」


・・・だが、せっかくの私の言葉に対し、火鳥の視線は私と何かを見比べているように、定まらない。

・・・人の話をちゃんと聞いているのか?この女は、と私が不思議に思っていると・・・


「いや、水島・・・アンタ、後ろ・・・後ろっ!!」


火鳥が慌てた様子で、指差し、私に後ろを見ろと急かす。

「は?後ろ?」

後ろには自販機しかない筈だが・・・







「それは、困りますねぇ・・・水島さん。私の先日の忠告を無視するおつもりですか?」





「ゥゲッ!?」



私の真後ろにいたのは・・・不敵に微笑む、自称・寿命の神だった・・・!

長く垂れ下がった前髪が揺れ、黒い瞳が私を捉え、またニンマリと笑った。

・・・相変わらず、見た目の派手さと笑顔の中に禍々しく恐ろしいものが渦巻いているヤツだ・・・!

思わず、缶コーヒーを落としそうになった私だったが、瞬時にヤツとの距離を取り、なんとかコーヒーも零さず、無事だった。


いきなり私の背後に立つなんて・・・気持ち悪い!!



「アンタは・・・!」



「どーもどーも。お久しぶりです♪なにやら、不穏な動きをされていますね?お二方。」


そう言うと、自称・寿命の神はゆらりと身体を横にくねらせた。一挙一動が・・・なんとも言えず、不気味だ。


「・・・あ、貴女には・・・か、関係ないでしょう?」


私は驚きと動揺で、早くなっていく心臓の鼓動を少しでも抑えようと、コーヒーを口に含む。

ゴクリと喉を通過すると同時に、自称・寿命の神は言った。


「大いにあります。高見蒼の寿命・・・彼女の命の結末は、私の手の中にあるのです。あなた達如きに邪魔は、出来ませんよ。」


「「・・・・・・!」」


ご、”如き”・・・?


自称・寿命の神は、ふわりとその場で一回転し、派手な赤い着物の袖を振ってみせた。

そして、首を傾け、笑いながらこう言った。、


「ていうか・・・死ぬもんは死ぬんです。まあ、何をしようと無駄ですからね。

人間は人間らしく、そこら辺の地べたで指咥えて、無力な自分に情けなさを感じて惨めに細々と生きて、死ねば良いんですよ。

・・・私の楽しみである、人生の結末が来る、その時までねぇ・・・」




笑顔でスラスラと私達に毒を吐く、自称・寿命の神。

言いたい放題のヤツに、私は沸々と怒りが沸いてきた。





「私が何故、ここまで貴女達を挑発するか分かります?

縁の力を駆使して運命変えようだなんて躍起になってますけど・・・あなた達、特別な力を持って何か勘違いしちゃったんですねぇ?」


怒りを抑える私に対し、火鳥は低い声で、自称・寿命の神に聞いた。

「勘違い、ですって・・・?」


「ええ、そうです。あなた方は”勘違い”をしてるんです♪

今は、ただ影響力を与える程度の能力しか持っていないのに・・・”自分は、他人の運命を変えられる”・・・だなんて、大きな勘違いを、ね。

所詮、あなた方は人間。・・・その人間如きが、何をしても、まったくの無駄ですから♪無・駄♪」




「言わせておけば・・・ッ!!」



遂に、私よりも火鳥が先にキレて、ココアの缶をブン投げた。

だが、ココアの缶は寿命の神には当たらず、突き抜けるように、後ろの自販機に当たった。

鈍い音の後、缶がコロコロと転がる音がして、自称・寿命の神はそれを見て、腹を抱えて笑い始めた。





「あはははははは!!あなた達が彼女を失い、途方も無い喪失感と無力感に包まれる、お涙頂戴の感動的な結末が目に見えるようです!

せいぜい、苦労に苦労を重ね、無駄に足掻いて下さい!そして、失いなさい!!

・・・いやあ、ますます楽しみになって来ましたよ!・・・あの子が死ぬのがね!!くっくっくっく・・・あはははははは!!」





心底、愉快そうに笑い続ける、自称寿命の神。


「このッ・・・!」

「か、火鳥ッ!やめろ!」


私は、興奮して我を忘れ、更に自称・寿命の神に殴りかかろうとする火鳥を羽交い絞めにして全力で止めた。

・・・私達は、”自称・神”達に触れない。どんなに腹が立っても、殴ろうとしても、悔しいが、その手段を私達は持ち合わせていないのだ・・・!

それに、このままでは、火鳥が自販機を壊してしまう・・・ッ!!





「あーっはははははは・・・!!」





嫌な笑い声を残し、自称・寿命の神は私達の目の前から消えた。



「・・・・・・行ったか・・・。」


私がそう言うと、火鳥はみるみる脱力したので、私は火鳥から腕を離した。


その途端!


”ガンッ!”


火鳥が、自販機を思い切り、蹴飛ばし始めた。


”ガンッ!ガンッ!ガン!ビーッ・・・!”

怒りのやり場を失った火鳥は、一心不乱に自販機を蹴り続ける。

私は慌てて、それを止めに入った。


「オイオイオイオイオイオイ!!今、変な音したぞ!?止めろって!火鳥!」

「あんなヤツにッ!あんなヤツに・・・ッ!!」


火鳥の怒りは収まらない。

だが、これでは自称・寿命の神の思うツボだ。アイツは私達のこういう姿を見て、腹を抱えて笑い転げ、喜んでいるに違いない。


”ガンッ!ガンッ!ガン!ビーッビッビッビーッ・・・!”


「気持ちはわかる!わかったから!蹴るのはやめよう!ね!?変な音出てるからッ!!」

自販機壊したら、弁償は誰がするんだ!?私は嫌だ!!


「はあっはあっはあっはあっ・・・!」

「はあはあはあ・・・ふう・・・」


なんとか火鳥をなだめ、落ち着かせた私は、床に転がり凹んで変形したココアを火鳥に手渡し、言った。


「よし・・・ヤツから売られた喧嘩です。・・・買いましょう。」


私だって、あそこまで言われたら腹も立つ。

何様だ!・・・あ、神様か・・・まあ、それは、どうでもいい。


とにかく、これで分かった事がある。


蒼という名の少女の生死には、間違いなく自称・寿命の神が絡んでいる。

もし、自称・寿命の神が『祟り神』ならば・・・いや、ほぼ間違いなく祟り神だと思うが、だとすれば。


私が縁を結んでどうこうする、という他にも・・・対抗手段が出てくる。

対抗手段があるのなら、遠慮は要らない。あんな風に売られた喧嘩を買うまでだ。


「喧嘩を買うって言ったって・・・どうするつもり?」


火鳥がそう聞くので、私は手に持っていたコーヒーを一気に飲み干した後、言った。


「・・・”専門家”を呼びましょう。」

「専門家?」


その専門家に、こうも早く頼る事になるとは思わなかったが、人命がかかっている以上、仕方ない。


「あまり進んで呼びたくはありませんが、こうなっては仕方ありません。」

「それ・・・信頼できるんでしょうね?」


それを聞かれると返答に困る私だったが・・・。



”ザラザラザラザラ・・・”


砂利の落ちる音の方向を私達は、ほぼ同時に見た。



「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」



私達の視線の先には、見るからに怪しい看護師が一人、待合所に砂利を撒いていた。



”ザラザラザラザラ・・・”


「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」


その不審さ極まりない、そのブッ飛んだ行動で、私はその看護師の正体が、悲しきかな・・・一目で解ってしまった。


「よしっ・・・これで結界は完成☆・・・さぁて、呼んだかしらぁ?水島さぁん?」


砂利を撒き終わった・・・もとい、結界を作り終えた看護師は勢いよく、ナース服を脱ぎ、黒いライダースーツ姿になった。

その女こそ、私のいう”専門家”こと・・・”スト子”だった・・・!!


「い、いつの間に・・・!?ていうか、まだ呼んでもいないわっ!!」


私は、まだスト子の”ス”の字も発していないのに、この女・・・心底、恐ろしい・・・。


「あ、アンタは・・・いつぞやの変質者ッ!?ちょっと、水島どういう事よッ!?」


火鳥は、この女を忘れては、いなかった。

そりゃ、そうだ。忘れようたって、この女は・・・インパクトが無駄に強すぎる。


「簡単にご紹介しますと・・・さっき話した・・・”専門家”です・・・。今は、味方と考えて下さい。」

「・・・・・・・・・はあぁ・・・。」


私が言い終わると、火鳥は深い溜息を付いて、片手で顔を覆い、もう片方の手で温くなったであろうココアの蓋を開けた。

気のせいか・・・いや、間違いなく目が淀んでいる。


「わかってる・・・言いたい事はわかってるけど・・・この際、騙されたと思って・・・。」

「・・・・騙されるのは嫌よ・・・・・・・・・はあぁあぁ・・・。」


私の言葉に、自棄ココアを煽る火鳥。

一方、不審者の行動はエスカレートしていく。・・・いつも通り・・・。


「♪夢中〜で〜頑張る私に〜キッスを〜♪」

「しねえよ!奇妙なレオパレスの替え歌を歌うな!!」


くるくる回り、私につま先歩きでちょこちょこと不気味に近づいてくるので、私は距離を取りながらツッコんだ。

不気味さで言えば、自称・寿命の神に対抗できる女がココにいる!それに助言を求めようとしている自分が、今はこんなにも悲しい!!

そして、私のツッコミを聞いて、火鳥は肩を一段と落とし、盛大な溜息をついた。


「・・・・・・・・・・・・・・・はぁあぁあぁぁぁあぁ・・・。」


「わ、わかってる・・・言いたい事はわかってるけど・・・この際、犬に噛まれたと思って・・・。」

「犬どころじゃないわよ・・・コレはトドよ・・・アタシ、トドに噛まれてるんだわ・・・ウフフフ・・・。」


火鳥が薄ら笑いを浮かべながら、ココアを飲みだすので、私は肩を揺すって、気をしっかり持たせようとした。


「火鳥・・・しっかりしろ!火鳥!あと、動物のチョイスがなんか微妙ッ!!」


スト子は胸元から片方の端が偏って割れた割り箸を取り出し、私に見せながら言った。


「割り箸の割れ方がどうも不吉だったから、貴女をつけ回してみれば・・・やっぱり、私が必要になったのね!?水島さん!」

「割り箸の割れ方でストーキングを決行するなッ!それに、よくあるだろ!そういう割れ方!!」


私のツッコミを聞いて、火鳥は、また肩を一段と落とし、盛大な溜息をついた。


「・・・・・・・・・・・・・・・はぁあぁあぁぁ〜ぁあぁぁ・・・。」

「わ、わかってる・・・言いたい事はわかってるけど・・・この際、トドに騙されたんだと思って・・・。」


「普段、騙しもしないトドに騙されたら、ただの阿呆じゃないのよ・・・。」

「う・・・」


そんな下らないやり取りをしている私達に向かって、スト子がパンパンッと手を叩いた。




「さあさ、二人共!遊びは終わりよ!」


「「・・・・・・・・・・・・。」」



お前の方が、散々遊んでいたような気がする、と私は思ったが声が出なかった。



「ここからは、大人の作戦会議と洒落込みましょ♪私にお・ま・か・せ♪」


「「・・・・・・・・・・・・。」」



私達は、今だ信用度0%のスト子を見つめ、押し黙り、心の中で呟いた。



((・・・お前が仕切るなよ・・・。))・・・と。




そして、私達は砂利が撒かれた待合所の真ん中で、ほぼ同時に深い深い溜息をついたのだった。




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