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私は、もう自分の欲求を抑える事が出来なかった。

ここが、どこだろうと関係ない。


思い返せば・・・私の目の前にいる彼女、影山素都子。

その人が、自分の運命の人だと確信してから・・・ここまで長かった気がする。

彼女を随分と待たせてしまったかな・・・とも思う。


反省☆反省☆


「・・・水島、さん?」


黙ったままの私を不思議そうに見つめる彼女こと、素都子。

可愛い声で名前を呼ばれては、私の欲望は益々膨らんでいく一方だ。


早く、早く、彼女が欲しい。

心も身体も、全て私のものにしてしまいたい。


おっと、こんな事を考えていると、このシリーズがいよいよ”ちょいエロ表現あります”とか、このサイト自体が18禁って展開に突入してしまうかな?


ふふふ・・・いや、それでも・・・私は構わないとさえ思っている。

この煮えたぎった熱い想いを遂げられるのなら・・・このシリーズが終わっても構わない。

だけど、その前に・・・私は私のやりたい事をやる。


「水島さん・・・」


愛しい彼女の身体を包むライダースーツ。


黒いソレが邪魔なのだ。

私は、素肌のままの貴女が見たい。貴女が欲しい。


私は黒いライダースーツのファスナーに手をかけ、一気に引き下げた。

思ったとおり。ライダースーツの下は何も着ていない。彼女らしい。

女性らしい身体のラインを、私は掌でやさしくなぞった。


「あ・・・っ!」


彼女が可愛らしく小さな悲鳴を上げる。


「だ、ダメ、こんなところじゃ、ダメよ・・・水島さん・・・小鳥や野良猫や野良陸亀が見てる・・・!」


身をよじる彼女の胸に口付けをしながら、私は笑って言ってやった。


「構わない。いや、むしろ・・・奴らに見せ付けてやろうよ、素都子。女同士の愛の儀式を・・・。」


「あ・・・ああ、水島さ・・・んんっ・・・!」


恥ずかしがりながらも、悶える彼女が愛おしい。・・・こんな一面があっただなんて。

まったく、可愛い子猫ちゃんだ☆


「あ・・・ああ、水島さんが入ってくるぅ・・・入って、来ちゃうのね・・・ッ!?」


私はゆっくりと頷き、微笑む。


「そうだよ、素都子の中に、私が入って、かく乱しちゃうんだ。」

「い、いやぁ・・・かく乱しないでぇ・・・恥ずかしいっ!」


そう言って、彼女は悩ましい身体をくねらせて、わずかな抵抗をする。


「大丈夫だよ、そういう表現は作者が加減して、ぼやかしてくれるから。」

「本当?」


「うん、本当。大体、そんな技術、ここの作者が持ち合わせてる訳ないだろ?」

「それもそうね!わ、わかったわ!水島さん・・・こちとら、ローションの準備はOKよっ!」


準備もぬかりが無いな!さすが、私の素都子だ!


「よしきた!さあ、一緒に18禁SSの扉を開けよう、素都子。」

「・・・ああっ!水島さ








「って、いつまで救い様の無い妄想劇を繰り広げてるんだ!?さっさと作戦会議(後編)を始めろおおおおおおッ!!!」






耐え切れなくなった私は、スト子の背中に蹴りを入れた。


「ふごっ!?」


スト子が現実世界の病院の待合所に突っ伏す。


まったく・・・この女、油断したらSSのナレーションにまで侵入しようとするから、たまったものではない。

誰が、18禁SSの扉を他人なんかと開けるか!!


ちなみに、今の語りこそ、本物の私こと、水島だ!

さっきのは、忘れていただきたい!!


「あ、嗚呼・・・水島さん!今、18禁SSの扉が・・・!」

「開かねえよ!微妙なんだよ!お前の妄想は、なんか作者の妄想SSの内容と、オダギリ○ョーの髪型くらい微妙なんだよ!

オダ○リにいたっては個性的すぎて、もうオシャレなのか、遊○王の主人公になりたいのか、わかんねぇんだよ!って何言わせるんだッ!?」



訳のわからないまま、ツッコミを入れ続ける私を遠くから見ていた火鳥が言った。



「ねえ・・・あんた達、協力する気無いなら、土に還ってくれない?」








[ 水島さんは救助中。後編 ]






約3時間後。


私と火鳥は病院の屋上の手すりに、もたれかかりながら二人して、ぐったりしながらコーヒー牛乳を飲んでいた。

あの後、スト子との作戦会議で散々ツッコミを入れ疲れた所に、婦長さんらしき人に待合所の砂利を掃除するように注意されてしまったのだ。

いい年した大人が怒られ、掃除させられるなんて・・・恥ずかしいったらない。


しかも、そんな時に限って、スト子はちゃっかり跡形もなく消えていた・・・。



「ああ・・・美味しい。」


思わず言葉に出てしまうほど、コーヒー牛乳は美味かった。

コーヒー牛乳の優しい甘みが、心と身体の疲れを癒してくれる、そんな気がして。


「・・・本当に、大丈夫なんでしょうね?あの怪しい女の言う事は・・・。」


火鳥の疑問は、もっともだ。

私だって、あの女の言う事を100%信用はしていないし、私の女難が”どうもご迷惑おかけしました状態”で、”専門家です”と紹介した私だって恥ずかしいのだ。

しかし、他に対抗手段が無い私達にとっては、藁という名のストーカーの助言でも掴まなければ、やってられないのだ。


「・・・やるだけ、やってみるしかないでしょう。」


そうは答えた私だが、一人の少女の命が掛かっているのだ。


「やるからには、結果を出すわよ。水島。」


ふと、火鳥が牛乳瓶を私に向けた。

私は、それを見て「・・・わかってます。」と答え、牛乳瓶をカツンと合わせた。


思えば・・・人嫌いで、女難の呪いにかけられた女二人が揃って、コーヒー牛乳を飲みながら、真剣に人助けの相談をしているなんて、奇跡にも等しい事だ。



だが、やるしかない。


これは、意地だ。

人としての、意地だ。


祟り神に売られた喧嘩を買って・・・あの子の死の運命を変えるのだ。



私達には、それが出来る。



他人との接触なんか面倒臭くて、嫌で嫌でたまらずに、断ってきた私だが

今、自分の出来る事を放棄し、楽な方に逃げた上に後からグダグダ文句を垂れ流すような人間に成り下がりたくは無かった。

人との縁の問題において、私はもう後悔したくなかった。


(忍さん・・・。)


私は心の片隅で、その後悔の中心人物の名を浮かばせた。

飲み終わった瓶を床に置き、私はタバコを取り出し、火をつけようと手すりに背中を預けた。


私は、咥えたタバコから、ふと視線を前に戻した時、口に咥えたタバコを落としそうになった。



そこには、今日、いるはずの無い人物が立っていたからだ。





「・・・忍さん・・・!?」



私の目の前にいたのは、白衣に身を包んだ烏丸忍だった。

今日は、忍さんは病院にいない筈じゃ・・・!と私は火鳥を見た。

火鳥は私に目もくれず、ゆっくり振り返って、忍さんを見た。驚いてはいない様子だった。


「高見蒼の手術日、決まったから。それを知らせに。」

「あ、そう。」


忍さんは驚く私を視界にも入れずに、火鳥の目の前に立って高見蒼の手術日を告げた。

風に煽られてバサバサと忍さんの白衣が舞う。


「出資者の貴女に知らせに来たわ。執刀は私よ。」

「そう。」


蒼ちゃんの手術費用は、火鳥が出したのか・・・。

で、執刀医は忍さんか・・・。


・・・ていうか、完全に私抜きで、シリアスな空気で会話がどんどん進んでいるんですけど・・・。


「・・・父には、無謀だと止められたわ。やるなら、メスを捨てる覚悟でやれって。」

そう言って、忍さんは少し憂鬱そうに髪をかき上げて、笑った。

「命を救うお医者様なら、いつもそのくらいの覚悟でやっていただきたいわね。」

火鳥は、突き放すように答えた。



「それだけ、リスクの高い難しい手術になるのよ。わからない貴女じゃないでしょう?」

「・・・ええ。でも、手術しなければ、遅かれ早かれ死ぬわけよね?だったら、やるべきだわ。」


火鳥は少しも笑う事なく、腕を組んだまま、スッパリといつもの調子で返答していた。


「貴女が他人に対して、そんなにも熱心になるなんて珍しいわね。りりは、本当にいつも私の予想を超える事をやってくれるわ。」

「単に、アタシはしたい事してるだけよ。アタシ、忍ねーさんみたいに、ただのやせ我慢を美徳だとは思ってないの。」


火鳥の一段と挑発的な言葉に、忍さんの髪をかき上げる動作が止まった。

そして、忍さんは私をチラリと一瞬だけ見たが、すぐに火鳥に目線を戻した。


「・・・蒼ちゃんの所に行ってあげて。彼女、不安がってるから。」


忍さんは、話題を逸らした。

触れて欲しくない言葉を火鳥に言われたからだろうか。


「言われなくても、そのつもりよ。」


そう言うと、火鳥はカツカツとヒールの音をさせて、先に屋上から出て行ってしまった。



残されたのは、私と忍さんだった。



ふと風が止み、忍さんはタバコを取り出し、一本咥え火をつけた。

私は咥えたタバコを箱に戻し、私と微妙な距離を取って手すりにもたれかかっている忍さんに声を掛けた。


「あの・・・」


「気にしないで。もう済んだ事よ。」


私のその先の言葉を遮るように、忍さんは棒読みのような言葉で断ち切った。


私は、彼女の想いを知った上で、何も答えず、自分の力を使って、無理矢理その縁を断ち切ったのだ。

火鳥曰く・・・『忍さんの想いに対し、受け止める事無く、私は、ただ逃げた』のだ。

彼女は、私の事を彼女なりに真剣に考えてくれていたのだろう。

それなのに、私は何もせず、ただ逃げた。

それに対しての”ごめんなさい”の一言が・・・今は、言うチャンスすら与えられない。

いや、ごめんなさいという謝罪の気持ちを忍さんに伝えたいのは、許されたいのは、単なる私のエゴイズムなのかもしれない。


こんな気持ちになりたくなくて、人間関係を築くのを避けていたのに。

こんな気持ちで人と話なんかしたくないし、こんな状態なんかでいたくもないのに。

こんなにも・・・こんなにも、面倒臭いのに。







それでも、私は・・・彼女との縁を取り戻したいと思っている。






「私は、もう貴女の女難なんかじゃないわ。医療関係以外で関わる事も、もうないでしょう。」

「それは・・・」



貴女は、確かに女難じゃない。でも、それは私がそう思っていたかったから。



「貴女の望む人間関係になれたんだもの。これで、良かったんでしょう。」

「ち、違います!」



貴女は、私の大事な・・・友達だから。

貴女は、私と違う気持ちを持っているんだとわかった今でも、私は貴女との関係を失いたくない。

きっと・・・それは、私の自分勝手なのだろう。

それが、どんなに都合のいい事なのかも、十分にわかっている。

この苦い気持ちは、きっと貴女の気持ちをないがしろにした、私への報いだ。



でも・・・私は・・・!



私は、忍さんに一歩近づいた。



彼女はタバコの煙に目を細めながら、私を見た。





「忍さん、私は・・・貴女が、好きです。」





ハッキリと、私はそれを口にした。




「その・・・いわゆる、恋愛感情とは違いますけど・・・でも、私は、貴女が・・・好き、です・・・。」



格好悪いのは、重々承知の上だ。

いつもの事だ。

私は、この手の事になると本当にダメなヤツなのだ。



「わ、わかってるんです、縁切って逃げておいて、自分でも都合のいい事言ってるな、って・・・」



だから、自分の頭に浮かんだ言葉、そのまま、ありのままに口に出して伝えるしか出来ない。

オブラートに包むとか、ものの言い方とか、考える心の余裕なんか、今の私には無い。

この人をこれ以上、傷つけるかもしれない可能性は十分あった。


だけど、私は・・・前に進む、という意味で口を開かずにはいられなかった。




「でも、自分の正直な気持ちは・・・その・・・私は、貴女と・・・繋がっていたいんです・・・!」




私が望む、都合のいい未来。

忍さんと友達でいたい。


彼女の気持ちに対し、こんなにも時間をかけて、しかもこんな形でしか応えられないのは、本当に申し訳なく思う。

だが、真剣な想いに対しては、私も正直に真剣な想いで応えるしか、ないのだ。



風の音だけが私の耳に届く。


タバコの火を消して、携帯灰皿に入れた忍さんは口を開いた。



「・・・貴女は、本当に不思議な人ね。追いかけると逃げて、いざという時、現れて。

自分に正直で、自分の思うとおりにしか進めない、不器用で優しい人。

貴女といた時間は、とても・・・そう、とても楽しかったし、面白かった。

私は貴女と話していると、このまま面白い人生が送れるんじゃないかと、つい錯覚しちゃうの。」



「忍さん・・・。」


私は思わず手を伸ばしかけた。



「・・・でも・・・。」


が、それより早く忍さんは、一歩後ろに下がった。



「私は、変わらない。つまらない人間よ。もう、全てを・・・諦めたの。貴女には今まで楽しい時間を貰った・・・もう、それだけで十分。私はもう、望まない。」



そう言って、彼女は笑って白衣を翻し、屋上の出口へ向かって歩いて行った。

そして、私が呼び止めようとした瞬間、ふと足を止め、背中を向けたまま、呟くように、それでもハッキリとこう言った。







「・・・水島さん・・・私、貴女の事、本当に好きだったんだと思うわ・・・だから、ありがとう。さようなら。」




それは、ハッキリと告げられた、別れの言葉だった。

私は、それ以上、彼女にかけるべき言葉が・・・見つからなかった。


やがて、重い鉄の扉が閉まる音がした。


私は、伸ばしかけた手をぎゅっと握って、やがて脱力した。



また、だ・・・。


また、私は・・・友達を、大事な人の手を離してしまった・・・。




その場に座り込み、私はタバコに火を着けて、深く深く吸った。

いやに、煙が目にしみて・・・私は目頭を押さえた。



「・・・はあ・・・。」



人生は、本当にままならない。

上手くいかない。

いや、人生なんか、こんなもんの繰り返しなのかもしれない。


だけど、人間関係は最初から人と関わりさえしなければ、こんな想いなどせずに済んだのだ。


そんなの解りきっているのに、私は、また・・・。


そこまで考えて、私は止めた。

繰り返し考えても、どうにもならない事もあるのだ。


私は、考えるのを・・・止めた。


ふうっと私は夜の空に煙を吐いた。

なんだか、今日のタバコは・・・不味い・・・。











「時間通りね。」


蒼ちゃんの手術の日。時刻は昼。

打ち合わせ通り、私と火鳥は病院で落ち合った。


火鳥と共に女子トイレに入る。


個室のドアを開け、私は火鳥から紙袋を受け取り、個室に入ると鍵を掛けた。

隣の個室に入ったらしき火鳥も同様に鍵を掛けた。

私は着ていた衣服を脱ぎ、紙袋の口を広げ、中の物を取り出す。


「・・・いいのね?水島。」


布のこすれるような音に混ざって、火鳥が確認の意味でそう聞いてきた。


「・・・ここまできて止めませんよ。」


私は火鳥の調達した手術用の衣装に身を包み、きっぱりとそう言った。

自分が、これからどれだけ馬鹿な事をするのかは解り切っていた。



だが、計画を止める気は無かった。

私はこの時少しばかり、祟り神に対して何らかの対抗心があったのかもしれない。

対抗心、というよりも、恨みに近いものかもしれないが。


とにかく、人間の命を、一人の少女の人生を、祟り神の好きにはさせたくない。

人間の事を自分の楽しみの為の道具としか、見ていないあいつに、一泡吹かせてやろう・・・そんな気分だった。


髪を縛り、白いマスク、緑色の帽子を装着し、私は個室を出た。

同時に火鳥も同じ格好で出てきた。これで、私達はどこからどう見ても『医療関係者』にしか見えない。

顔は目だけしか見えないし、正体もバレないだろう。

紙袋に自分の衣服を入れ、誰も開けないだろう掃除用具用の個室に置いた。

私は、火鳥にスト子に貰った諏訪湖の石(握りこぶし大)を預けると、火鳥と目線を合わせた。


火鳥もそれなりの覚悟は出来ているようで、目は真剣だった。

力強く火鳥は石を握り「行くわよ。」と短く言った。私は頷き、火鳥にパーティーグッズコーナーで買ってきた、ヘリウムガスを渡した。


二人で深く深くヘリウムガスを吸い込み、勢い良く女子トイレの扉を開ける。


私達は・・・これから、馬鹿みたいな事をやるが、いたって真剣にそれをやる。



目指すは・・・手術室・・・!


赤いランプが点灯している手術室の前で火鳥は止まり、顎で私にサインを送った。


火鳥の案内で、蒼ちゃんのいる手術室にはすぐに到着した。

中では、もう手術が始まっていた。







・・・はじめよう、私達の・・・私達なりの戦いを・・・!!!














「「♪夢中〜で〜頑張るキミへ〜エールを〜♪」」








私と火鳥は、レオパレスの歌を歌い、阿波踊りをしながら入室した。







まず、お詫びしよう。先程、散々格好つけてすまなかった、と。





歌は、なんでも良かった。何故、レオパレスの歌になったのかは、私達でも解らない。成り行きである。

とにかく、私達2人が知っているお手軽な曲が、たまたまコレだっただけの話だ。

何故阿波踊りを踊っているのか?も歌と同様、2人が知っている共通の踊りが、コレしかなかっただけの話である。


しかし、阿波踊りとレオパレスの歌の合わせ辛い事・・・!

そして、情けない程、私と火鳥は、屈辱的とも言える、馬鹿な事をしている・・・!


ええい、愚痴を言ってる暇はない!今は、とにかく歌って踊るしかないのだ!!


手術室にいた人間は、思わぬ不審人物の不審さ極まる登場に、ぎょっとした。

その内、一人の執刀医だけは、チラリとこちらを見て、すぐに視線を元に戻した。


「な、なんだ!?君達は!?オペ中だぞ!?ヘリウムガスでも吸ったのか!?ともかく、変な声で歌を歌うのと阿波踊りをやめなさい!!」


一人の医療スタッフが駆け寄ってきたが、火鳥は臆する事無く、手にした石を掲げながら、スタッフを睨みつけた。

阿波踊りのステップを踏みながら、ただならぬ殺気を放つ不審人物(火鳥)に医療スタッフはじりじりと後退し、執刀医に助けを求めた。


「か、烏丸先生!一人・・・い、石を・・・凶器を持ってます!!」

「・・・・・・・・・・・。」


執刀医は、何もかも知っているかのように、落ち着いたまま手を動かしていた。


「か、烏丸先生!?」

「今はオペ中よ、集中して。・・・メス。」

「え・・・あ、はい!」


執刀医のきつめの言葉に、医療スタッフは動揺しつつも指示に従い、不審人物2名は手術室侵入に完全に成功した。


「い、一体・・・な、何しに来たんだ!?お前ら!!」


医療スタッフAに、そう聞かれても答えに困る。

とにかく、私は阿波踊りをしながら、ヤツを探しつつ、歌を歌わなくてはならない役目を担っている。

火鳥は石を構えたまま、阿波踊りのステップを踏みながら、無言で手術室を歩き始めた。


「♪それぞ〜れの〜…んふふふ〜んふふふ〜ん♪」

「レオパレスの歌、途中知らねえなら最初から歌うなよ!その変な声で歌うから不愉快極まりないわ!!」


医療スタッフにツッコまれても、わからないんだから仕方ないし、歌を変えようにも思いつかない。

とにかく、私はヤツを見つけなければ・・・



すると、プライバシー保護の為に音声を甲高い声に変えられてしまったような火鳥が、石を構えながら私に聞いた。

「ちょ、ちょっと、み・・・す、助さん!歌はもういいから、奴は、どこら辺にいるわけ!?」


ちなみに”助さん”とは、私の名前がバレない為に、即席で付けたコードネームと考えて欲しい。

私は目に力を入れる。ぼやけてハッキリとは見えないが、確実にヤツはそこにいた。


元・犯罪者のインタビューみたいな野太い声に変わってしまった私は、”格さん”こと、火鳥に指示を出した。

「かと、っと、とと・・格さん!そこだ!執刀医の斜め右!♪夢中〜で頑張る君へ〜エールを〜♪」

何故”格さん”と呼ぶか、と問われたら・・・助さんと言われたら、勿論、もう一方は”格さん”に決まっているのだ。理由はそれだけだ!


「OK!!」


火鳥が一段と甲高い声で、石を振りかざす。


”ごっ”


良い音がした。

だけど、それは・・・


「ぐはっ!?」

「麻酔の榊先生ーッ!!」


ハズレた!!そっちじゃない!それは人間だ!!

医療スタッフが即座に、かわいそうな犠牲者Aに駆け寄る。

そこで、私は自分の指示のミスに気付いた。


「・・・あ。私から見て、右だから・・・ごめん!左だ!格さん!♪夢中〜で〜頑張る君へ〜エールを〜♪(野太い声)」

「だからレオパレスを歌うなっつってんだよ!なんなんだよ!お前達は!!」


シリアスな雰囲気の手術台を挟んで、一方は歌を歌い、一方は石をぶん回している。

だが、私達だって真剣だ!これでも、真剣に踊って歌ってるんだ!

その気迫に押され、医療スタッフはツッコむだけで、私達を見ているだけだった。


「もうっ!しっかりしてよ!助さん!!(甲高い声)」


火鳥が私の指示に沿って、石を振りかざす。


”ごっ!”

良い音がした。

だけど、それは・・・


「もげぇッ!?」

「研修医の阿部君ーッ!!」


阿部君が倒れ、医療スタッフは駆け寄る。


赤いソレは、鈍い動きで移動する。

ソレは、ぼやけてハッキリ見えないまま、私は目がどうしようもなく疲れてきたが、負けるわけにいかない。

踊り、歌いながらも、必死でソレを目で追う。



やがて私の目は、ハッキリとソレこと・・・”寿命の祟り神”を捉えた!



「♪夢中で〜頑張る〜♪・・・あ、移動した!左に移動したよ!格さん!♪君へ〜エールを〜♪(野太い声)」

「どこよっ!!・・・くそっ!!助さん、次は!?(甲高い声)」


私は野太い声のまま、歌で指示を出した。


「♪3歩〜進んだ先に〜いーしを〜♪(野太い声)」

「もうレオパレスの歌はいいよ!出てってくれよっ!!」


訳が分からない不審者に半泣き状態の医療スタッフの心中は察してやりたいが、私達だって、ただで出て行くわけにはいかないのだ!




「そこだ!いけぇ!!格さん!!(野太い声)」

「OKッ!助さん!!(甲高い声)」


”ごっ!!!”



『ぐふぉっ!?』



よし!クリーンヒットだ!!

赤い派手な着物の寿命の祟り神が、仰け反ったのを私は、しっかりとこの眼で見た。

その瞬間、手術室の空気にぴりっと電気のようなものが走った。



”・・・ぱかっ。”


「当たった!当たったよ!格さん!(野太い声)」


私は、野太い歓喜の声と両手を上げた。


「・・・割れた!?(甲高い声)」


火鳥は甲高い声のまま、石を見つめていた。



「そりゃ、人間2人の頭殴れば、石も割れるわ!もうダメだ!誰か警察呼べ!警察ッ!!」



医療スタッフ達が、ようやく不審人物2名に対し、正常な判断を示した所で、私達は撤退を決めた。



「成功だ!ずらかるわよ!格さん!!(野太い声)」

「わ、わかったわ!助さん!!(甲高い声)」



私達は、そそくさと手術室の出口へと走り出した。



「「せーの・・・♪夢中〜で〜頑張るキミへ〜エールを〜♪(野太い声と甲高い声の腹立たしいハーモニー)」」



「お前らのエールなんざ、いらねえから早く出て行けーッ!!」



医療スタッフの罵声を浴びながら、私と火鳥は歌いながら手術室を出た。


”・・・バタンッ”



「・・・くすっ。」


執刀医は、思わず吹き出して笑った。


「なんだったんだ!?とにかく警察を・・・」

「いいえ、それより、オペに集中しましょう。」


「しかし、烏丸先生・・・!」

「患者の状態が安定してきてるわ・・・私達が今すべき事は、患者を救う事よ。」


「わ、わかりました・・・。」



私達は走って、女子トイレに向かう。追っ手は幸い、いなかった。

個室に入り、すぐに白衣を脱ぎ捨て、元の服に着替える。


「・・・ふう。」

「すごい馬鹿げた方法だったけど・・・大丈夫なの?あれで・・・。」


確かに、そうだ。

しかし、専門家曰く・・・。







 ― 話は、数日前のあの日に遡る。 ―





あの日、病院の待合所で、スト子は胸を張って言った。


「なるほど・・・それは、寿命の祟り神で間違いないわね!」


私と火鳥の話を聞いて、断片的な情報だけで、スト子は寿命の祟り神である、と断言した。


「ちょっと、それより、このばら撒いた石なんとかならないの?」

迷惑そうに火鳥が足元の砂利を蹴飛ばした。


「ダメよ、こういう重要な話は、結界内でしなくっちゃ。祟り神に気取られてしまうわ。」


そして、スト子は、花柄のエコバックから次々と例の研究資料を出し始めた。


「さてさて、寿命の祟り神というのは、傍にいるだけで人の寿命を縮めると言われているわ。

人の人生を終わらせる事に異常な執着を示す、厄介な祟り神ね・・・元は、長寿のありがたい神様だった筈だけど・・・あ、あったあった。」


バサリと置かれた資料には、赤い着物の女の絵が描かれていた。

私と火鳥が見た”寿命の祟り神”だった。


「コイツだ!」

「・・・この祟り神の嫌〜な所は、この祟り神に目を付けられたら、最後。悲劇的な死を遂げると言われているわ。」


「で、ヤツをどうにか出来る方法というのはあるんでしょうね?」


険しい表情の火鳥がスト子に、にじり寄った。

しかし、このストーカーはマイペースを崩さない。


「・・・水島さんはどう?聞きたい?」

笑顔で私に向かって聞いてくる。

状況が状況だけに私は精一杯の作り笑顔で答えた。


「・・・・・・・・すんごい聞きたーい。(棒読み)」


私の回答にご機嫌な笑顔でスト子は、答えた。


「はい、ではお教えしましょう。ズバリ・・・石で殴る。」

「すっごい原始的!!」


原始的な対処法は、変わってなかった!


「ただ殴るだけ?じゃあ、簡単じゃないの!ちょっと殴ってくるわ!」


そう言って、立ち上がった火鳥をスト子は止めた。


「待って。ただの石じゃダメよ、水島さん、先日あげた諏訪湖の石は持ってる?」

「・・・まあ、持ってるには持ってるけど。これで殴ればいいんですか?」


私はバッグから、石を取り出した。


「げ。持ち歩いてるの?」


火鳥にドン引きされたが、役に立つならと持ち歩いているだけの話だ。頼むから、引いてくれるな。


「OK。武器は、それしかないわ。では、次に、祟り神の動きの封じ込め方を教えるわ。」

「ちょっと待って。ただ、殴れば良いんじゃないの?」


スト子の話に火鳥は待ったをかけた。


「殴るという行為は単純だけど、話はそう単純じゃないわ。

祟り神は、普段私達の目には見えない存在よ。あちらの意思で姿を見せてくれる事もあるけれど、滅多に無いと考えて頂戴。相手は祟り神なんだから。」


「じゃあ、どうすれば良いのよ!?動きを封じ込めても、殴りようが無いじゃない!」

「どうすれば、いいんですか?」


私が聞くと、スト子は自信満々にこう答えた。







「歌って踊るのよ!」





「「・・・・・・・・。」」





火鳥と私は、言葉を失い、冷たい視線でスト子を見つめた。


スト子の”どう?驚いたでしょ?褒めてもいいのよ?と言いたげな顔”を私は、思わず持っている諏訪湖の石で殴りたくなったが、ぐっと抑えた。



「古来、歌や踊りの類は、神を祀る際、行われてきた神聖な儀式の一つ。歌う、踊るという行為は、祟り神の動きを封じ込める効果があるわ。」


「へ、へえ・・・。」


納得しかけた私だが、火鳥が頭を抱えて叫んだ。


「そんな馬鹿な・・・歌って踊りながら、他人には見えない祟り神を石で殴れっていうの!?ただの馬鹿じゃないの!」

「そ、そうだそうだ!」


あ、危ない危ない。納得しかけるところだった・・・私も火鳥と同意見だ。

殴ろうにも肝心の姿が見えないんじゃ、歌おうが殴りかかろうが、無駄だ。


しかし、スト子は、私と火鳥が妙なポーズを取っている写真を取り出した。



「幸い、あなた方には、こんな風に普通の人には見えないものが見える力が備わっているわよね?」


いつの間に・・・また盗撮したんだな、と思いながら、写真を見てみると・・・

・・・どの写真も皆、小指が立っている。

この写真に写っている私達は、皆、縁の紐を切っている所を撮影されたのだ。


「もしかして・・・縁の紐の事、ですか?」


私がそう聞くと、スト子はニッコリ笑って頷いた。


「ええ・・・どうして、そんな事が出来るようになったのかは、今、私が調べている最中だけど。

それに加え、あなた方は、何故か祟り神と何度も接触している上、会話もしている。つまり、祟り神の目視はやろうと思えば出来るのよ。

祟り神を目視出来て、動きも封じ込められたなら、あなた方は祟り神を殴る事が十分可能だわ。

さあ・・・やる?やらない?どうする?」



「・・・う・・・。」


スト子の怒涛の言葉攻めに火鳥は遂に黙った。

それを横で見ていた私は、観念して、口を開いた。




「・・・火鳥・・・何、歌う?何なら踊れる?」

「ま・・・マジで言ってんの?」





 ― 回想終了。 ―





という訳で、私達は歌い、踊りながら、祟り神の動きを封じなければならず。

祟り神の目視は私が引き受け、殴る役目は好戦的な火鳥が引き受けたのだった。

こんな方法で、人の運命が変わるなんて・・・私だって信じられないが、やるだけの事はやった。

やるだけの事をやらかしてしまった、という気もするが・・・まあ、それはいい。


ふと、私は、火鳥の小指の紐を見た。



「・・・火鳥さん。蒼ちゃんの事は、その紐を見てみればわかりますよ。」


「え?・・・あ・・・!」



火鳥の小指についた紐の中でも、一番細くて弱々しい紐の一本が赤い光を帯び、力強く脈打つように動き出していた。



「ほらね。」

「・・・蒼・・・。」


もう大丈夫だろう。これだけ力強く赤々と脈打つ縁の紐を見て、私と火鳥は少し、安心した。

あとは、忍さんが手術を成功させてくれるのを、待つだけだ。



私と火鳥は赤い紐を見ながら、無言でパチンとハイタッチをした。









それから。



数時間後、手術は成功し、その大出術を終えた蒼ちゃんが、急に別の病院に移送される事になった。

突然の事に私も火鳥も少し驚いた。



話を聞くと、不審人物が手術中に入り込んできて大暴れしたので、患者の安全を第一に考え、別の病院に移送される事になったようである。




・・・・・・わ、私達のせいだろうか・・・き、気のせいだろう・・・うん。




救急車に乗せられる蒼ちゃんを火鳥と影から、ちらっと見た。


「・・・待って!」



急に火鳥が走り出し、救急車に乗り込んだ。そして、蒼ちゃんの額に手をあてて微笑みかけ「よく、頑張ったわね」と小さく言った。



(・・・・・・・ロリコン疑惑が、また一段と深まったぞ、火鳥・・・。)



そして、救急隊員の人に「親族の方ですか?」と聞かれたので、火鳥は素直に「ただの、知り合いです」と答え、救急車からさっさと降りた。

身体を伸ばしながら、火鳥は私に向かって言った。


「・・・さぁて、と・・・飲みにでも行く?水島。今日なら薄給OLに奢ってあげるわ。」

「え・・・?」


珍しい事でもあるもんだ、と目を丸くしている私に向かって、火鳥は穏やかに笑っていた。

そんな顔して笑う事もあるんだな、と思いながらも、私が返事をしようとした次の瞬間。




耳を劈くようなブレーキ音と、衝突音がした。




その音の方向をみると、さっき発進した救急車が黒煙を上げていた。

救急車からは、先程の救急隊員が身体を転がすように出てくるのが見えた。




「・・・嘘・・・!嘘だろ・・・!?」

「そ・・・そん、な・・・蒼ッ!!」




走り出す火鳥の後を私も追った。

道路の真ん中で、車のフロント部分が救急車に突っ込み変形し、黒煙を上げていた。

運転手は、俺は悪くないと叫びながら、炎を見ていた。


「蒼!!」

「火鳥!ダメだ!!」



私は、救急車に駆け寄ろうとする火鳥を羽交い絞めで止めた。


炎は、あっという間に救急車を包み、そこから私達が救おうとした少女が出てくる事はなかった・・・。




「・・・・・そんな・・・・・こ、こんなのって・・・!!」

「・・・・・アタシ達のした事って・・・一体なんだったの・・・!」




私と火鳥は、がくんと地面に膝をついた。





「だ〜か〜ら〜、言ったでしょう?人間如きが、何をしても無駄だと。」




後ろから、不快な笑い声がする。

私と火鳥は炎を見つめたまま、振り返る事は無かった。



「・・・これが、結末・・・ですよ。死因・焼死!あっはっはっはっはっは!あっけないもんですねぇ!!」



炎が、白い救急車を黒く黒く染め上げる。



「・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」




「さあ、己の無力と驕りを感じ、後悔なさい。ただの人間のみなさん・・・くくく・・・あっはっはっはっは!!」



私と火鳥はただ、黙って炎を見つめていた。




「あーお腹痛い・・・ま、これでもう、十分わかったでしょう?神の力に逆らう事なんか、ただの人間のあなた達には出来ないってね。


あなた達の目の前で、一つの命が結末を迎えました・・・。あなた方の奮闘のお陰で怪我はしましたが、とても素晴らしいイベントになりましたねぇ♪


いやあ、あなた達はね、そのイベントに参加する事を許された・・・神である私の楽しみの為の”駒”に選ばれただけの存在なんですよ。


例えるなら、ゲームのサブイベントで出てくる村人Aって感じですかね。


それでも、それはそれは名誉な事なんですよ?村人風情のあなた方が、こんな素敵なイベントに参加して、台詞が1,2個増えるってだけでも、特別な事なんです。


あなた達は・・・まったく、良い駒でした♪本当に、ご苦労様です♪」



私と火鳥は、そこでやっと振り返った。

赤い派手な着物に額にガーゼを貼り付けた寿命の祟り神が、笑って立っていた。





それを見て、私は・・・







「ぷっ・・・!!」





私は、遂にたまらず、吹き出してしまった。



「ぷっ!・・・ちょっと、水島・・・ククク、吹き出さないでよ・・・ククク・・・!」



そして、私の吹き出し笑いにつられて、火鳥も吹き出した。



「あ・・・貴女達・・・あまりの衝撃に狂ってしまったんですか?かわいそうに。」



寿命の神は首を傾げ、哀れそうに私達を見た。


だが、私達の笑いは止まらない。


「くくく・・・もうちょっと、引っ張りたかったのに、アンタが先に笑うから、アタシも笑っちゃったじゃないのッ・・・くくくく・・・っ!」


火鳥に肘で突かれながらも、私は堪えきれない笑いを手で必死に隠しながら言い訳をした。


「ご、ごめんなさい・・・くくく・・・だ、だって、あの人・・・”どや顔”で中二病みたいな台詞ペラペラ喋るから、もう・・・おかしくておかしくて・・・!!」


「重症。あれ、きっと重症の方よ。作者に次いで重症の方よ。ノートに暗黒騎士の第3の能力は邪眼って設定とか書いてるわよ、きっと・・・ククク・・・!!」

 ※注 『ほっとけ!!』


火鳥が指差して茶化すので、とうとう私は地面を叩いて笑い出してしまった。


「やめて、火鳥・・・お腹、お腹痛い・・・!ふふふッ・・・くっくっく・・・っ!!」


私と火鳥は顔を見合わせ、そして、同時に寿命の祟り神を指差し、同時に大声で笑い出した。




「くっ・・・あーっはっはっはっはっはっはっは!!」

「あはははははははははははははは!!!」





私達の行動に、何かおかしい、と感じた寿命の祟り神が焦りの表情を見せた。





「な・・・!?な、何がそんなにおかしい!?高見蒼は今、死んだのよ!?お前達は負けたのよ!!」




寿命の祟り神が赤い着物の袖を振って、私達に負けを告げた。

だが、私達の”勝利の笑い”は、止まらない。





「「あはははははははははははははははは!!!」」





とうとう、寿命の祟り神がブチ切れた。




「わ、笑うのを止めろ!!この人間が!!」



これが祟り神の本性か、と私と火鳥は涙を指で拭いながら、笑いの訳を教えてやった。



「ふふふ、馬鹿ね。蒼は、まだK病院の中よ。」



「・・・え・・・?」



「私のストーカーに、たっぷり諏訪湖の石撒いて結界張ってもらってるから、あなたには手出しすら出来ないでしょうけどね。

人形と蒼ちゃんが入れ替わった事も気付けなかったでしょう?」


スト子は、一応、保険をかけようと提案してくれた。(ストーカーにしては、まともな事を言うもんだ、と思った。)


蒼ちゃんの病室に結界を張り、彼女の存在を祟り神から隠し・・・

代わりのプラスチック人形を蒼ちゃんとして、別の病院に移送してもらう事にして、様子をみようという事になり・・・

私達は、人形がさも蒼ちゃんであるかのように演技をしていたのだ。


病院関係者に金を握らせ、根回しをするあたりは、さすが火鳥、と言った所である。(砂利の撒かれた不気味な部屋でよくやるよ、と私は思ったが。)




「つまり、アンタは、アタシ達の三文芝居とプラスチックの人形が焼け焦げる様をみて、得意げになってただけなのよ!」


立ち上がり、火鳥はそう言い切った。


「・・・残念、でした♪」


私も立ち上がり、満面の笑みで言ってやった。



「な・・・な・・・!?」



寿命の祟り神は何が起きているのか、まだわからないらしい。

更に、とどめの一言を私達は、中指を立てて言い放った。








「「ざまあみろ!」」





・・・私達の勝ちだ!






「き、貴様らぁああああああああああ!!!」




激高する寿命の祟り神の肩に、皺のある白い手が乗った。



「お止し、寿命の神。アンタの負けさ。」



そう言って、すうっと出てきたのは・・・縁の祟り神のおばさんだった。

ニヤリと嫌な笑みを浮かべて、私達に向かって拍手を送った。



「なるほど。あんた達ほど、祟り神を馬鹿にした人間もいないだろう・・・正直、驚いたよ。

・・・さすが、あたしが見込んだ人間だ、というべきだね。」


「貴女の見込んだ人間のお陰で、一人結末を見損ないました・・・恨みますよ・・・まったく。」


そう言って、ふて腐れた顔で寿命の祟り神は、すうっと夜の闇に消えていった。



「・・・さて、何か言いたそうだね?二人共。」


私と火鳥は縁の祟り神を睨みつけながら口を開いた。



「そろそろ、本当の目的を言ってくれませんか?私達を呪って、どうしたいんですか?」


私達に降りかかる女難の原因は、全て・・・縁の祟り神のかけた呪いのせいだ。

何故、あんな変な呪いを、私と火鳥にかけたのか、それが知りたかった。


「ただ、人間手玉にとって遊びたいってだけなら・・・アンタの住処の神社を更地にして、ラブホテル建設してやってもいいのよ?」


恐ろしい事をさらっと口にする火鳥。さすがは、火鳥だ。

どこまでいっても、この女は黒さにかけては安定している女だ。



「ふふふ・・・まあ、そうギスギスしなさんな。」



そう言いながら、手をひらひらさせて落ち着くように縁の祟り神は笑っていた。



「冗談じゃありませんよ!私達は、もうこんな日常まっぴらなんですから!」




私のその言葉に、縁の祟り神は満面の不気味な笑みを浮かべて言った。






「じゃあ・・・どうだい?いっそ、あんた達、人間やめてみないかい?」






「「・・・・・・は?」」




私と火鳥は同時に首を傾げた。

それは、何か?白い粉にでも誘おうとしてるのか?やらんぞ!絶対、私はやらんぞ!!



「あんた達を、ややこしい人間関係から解き放つ、とっておきの良い方法さ。

人間をやめて、あたしらの仲間にならないかい?あんた達くらいの力があるなら、その資格が十分にある。」


な、仲間だと?何を言ってるんだ?このババア・・・。


「アタシ達に、祟り神になれ・・・っていうの?」

「え?そ、そんなの・・・」


出来るわけが無い!というか、私はただの、普通の人間として、人と付かず離れず暮らして生きたいだけなのだ!

何度も繰り返すが、私は多くは望んでなどいない!

女難なんかまっぴらゴメンだ!縁の力だって、好きでついた訳じゃない!




縁の祟り神は、一段と声を張り上げ、私達を脅した。




「例え、この先、あんた達が呪いを解いたって、あたしが何度でも何度でも呪いをかけてやる。


この運命から、逃れられはしないよ。あんた達は、もう力を開花させちまったんだ。


なにより・・・このあたしに選ばれたんだ。


これだけは、言っておく。あんた達、人間に、選択権など・・・最初から、無いんだよッ!!」



ビリビリと祟り神の声が、身体中に響く。

かつてない恐怖が一瞬にして、私の心の中に入り込んできた。

思わず、ぶるりと身体が悪寒に包まれる、が。



私は歯を食いしばって、一歩前へ踏み出した。





「ふ、ふざけるな!・・・選択権なんてもんは・・・あるなしの問題じゃない!選択肢は、自分の手で作るもんだ!!」





私の言葉を鼻で笑って、縁の祟り神は言った。




「ふっ・・・人間の中にはねえ、その選択肢を作り出せない人間もいるんだよ?水島。

まあ、アンタが、その選択肢を奪った、とも言えるんだが。」



「・・・は?」




「前に言ったよね?アンタは縁の力が強い。周囲の人間に対して影響力を及ぼすほどに、と。

それは生き死にの問題にも関わる事もあると・・・・・・ああ、今、まさに命を絶とうとしているねえ・・・。」



そう言って、縁の祟り神は不気味な笑みを、K病院の屋上へと向けた。



「ま・・・まさか・・・!?」



火鳥の顔色が、さあっと青くなった。

どうした?と問いかけようとした私の声も聞かずに、火鳥は急に走り出して、K病院の中に入ってしまった。



残された私は、縁の祟り神と見つめ合った。

縁の祟り神は、それは他人事のように、とても楽しそうに、言い放った。








「・・・お前のせいで、烏丸忍は・・・死ぬ。」





どくん、と大きく心臓が脈打つのが解った。

私は目を見開き、K病院の屋上を見上げた。


それは、うっすらと・・・小さく・・・白衣を着た人物が立っているのが・・・




(・・・忍、さん・・・!?)



私は、走り出した。

後ろから、縁の祟り神の低い笑い声が聞こえる。





間に合え・・・!


間に合え・・・!!





私は、何か、不確かなものに祈りながら、走った。





・・・お願い・・・間に合って・・・!!









 ― 水島さんは救助・・・続行中。  END ―





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あとがき。




毎度ラストを引っぱりますが、最終章なので、ご了承下さい。


なんというか、いいキャラこそ、よく死ぬもんだ、という訳で。


一人助けては、また一人・・・と言った具合に、どんどんややこしい事になっていく水島さんの周り。


そして、当初、ただの女難OLの話だったのに、とうとう、人間やめませんか?宣言まで飛び出しました。


果たして、このSSの話の収拾は、つくのでしょうか。・・・まあ、頑張りますので、次回もお楽しみに。