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…ソープって…あの風俗の、以外に考えられないわよね…。


朝から、AV見ていたせいか…何か、余計複雑だ…


伊達さんが、泥酔した理由はおそらく、その彼氏にソープに売られたという…恐らく、その事件が原因だろう。

いや、大体…そんなひたすら重い話、何故隣に住んでいる人間にするんだ!?


「あ、ゴメンね。みーちゃん、ご飯食べてんのに。」

「いえ・・・。」


もう、みーちゃん呼ばわりされても、私は訂正させようとする気が起きなかった。


というか、できない。


スルーするには、重すぎる。


「さっきさ、みーちゃん吸ってたタバコと同じの、吸ってたの…カオの彼氏。」


私は、今すぐ、あのタバコを窓から投げ捨てたい衝動に駆られた。

禁煙しようかとも、一瞬考えた。


「…彼氏がさ…圭ちゃんって言うんだけどね…いつも、吸ってたの。

一度、吸ってみたかったんだよね。 あんなに不味くて、煙いなんて思わなかったよ。」


「…ええ、まあ…」


逃げ場が無い上、重い話なので、曖昧な相槌しか打てない。

知ってか知らずか、伊達さんはそのまま話を続ける。


「…圭ちゃんはホストでね…圭ちゃんとは、こっちに出てきてから、出会ったの…優しくて、面白くて…何でも教えてくれた。」


ああ、何かもう…次の展開が、手に取るようにわかるわ…


「圭ちゃんに会う為に、バイト代つぎ込んで…それでもお金足りなくて…それでね、キャバクラで働き始めたの。

圭ちゃんはホストでね、NO.1のホストになりたいって、カオにならせてくれって……初めて、だったんだ。

頼まれたっていうか…頼りにされたの。・・・・・・だから、嬉しくって。」


(やっぱり・・・。)


予想通りの展開に、私は更に気が重くなってきた。

私は、話の重さと気まずさの中で、味噌汁をすすった。


「でも、キャバのお給料でも、お金が足りなくってね…それで圭ちゃんに言ったら…

”良い店知ってるし、今日から働けるから”って言うから、行ったの。


そしたら…ソープだったってワケ。」


「…はあ。」

マヌケな相槌だなと私は思う。もう、ご飯の味もわからない。


一体、どうして休日の朝から、こんなヘビーな話を聞かされなくては、いけないのか。

大体、私に話してどうなるというのか?


断っておくが、私は、他人を慰めるなんて、高等なコミュニケーション能力なんて持ち合わせていない。



「…みーちゃん、呆れてるでしょ?」

「……。」


はい、と即答も出来ず、私は黙って卵を口に入れた。

柔らかい出し巻き卵を、咀嚼し続けた。

すると、伊達さんはテーブルに肘をついて、溜息混じりに言った。


「…カオもさすがにさ、昨日は…呆れたの。自分のバカさ加減に。」


私は、今…この人を自分の部屋に入れてしまった、自分のバカさ加減に呆れている。


「それでも、やろうって思った。

 でも…服脱げって……言われ……やっぱ…できな…かっ…」


伊達さんは、話の途中からまた泣き始めた。

余程、彼の”裏切り”が辛かったのか、彼女は自分の頭を抱えて泣いた。


「ごめ…みーちゃん…関係ないのに…ごめん…」


ああ、私はなんてバカなんだろう。


他人に…伊達さんに親切にした事に対して、じゃない。

中途半端な気持ちで、他人に接してしまった自分がバカだ、と私は思った。


親切な人、良い人。

そんなモノ、私はなりたくはない。


その行為が親切か、良い事か…それを判断するのは自分じゃない、他人が決める事なのだ。


日本人は察する心、空気を読む事を大事にする習性…いや、そういう文化があるらしいが。


察する事の出来ない人間は、どうなるのだろう。

常識が無いと、蔑まれるのだろうか。


・・・私は、彼女の気持ちを察する事なんて出来ない。


そこまで”圭ちゃん”に入れ込む、彼女が理解できないからだ。



たかが、ホスト、しかも人と接する事を仕事にしている人間だ。

私にとって、そんな人間、信用なんて、出来るわけがない。


理解したとしても、私は伊達さんと同じ事をするかといえば、それは絶対に、無い。


・・・だから、彼女にすべき事、慰めるべき言葉が、見つからない。



おまけに私は、空気も読めない。


だから。


「伊達さん。」

「…ん…?」


「自分のバカな部分に気付いた人は、バカじゃないですよ。

本当のバカは、自分がバカである事に気付きませんし、悩んだりもしません。」



私は、そう言うと、食器を片付けた。

伊達さんは、黙っていた。


・・・うん、私は本当にバカだ。


普通は他人を慰めるべき時に、私は的外れな自論を口にしている。

こんな言葉、何の励ましにもなっていない。



私が食器を流しに置いた瞬間、背中に人の体温を感じた。

伊達さん、だった。


「…みーちゃん…ありがと…」


お礼を言われる筋合いは確かにあるのだが、私はお礼より何より、早く離れてくれないかなと思っていた。



・・・さっきから、私の頭が痛む、からだ。



「みーちゃん…あったかい…」


いつも通り、チクンチクンと痛むからだ。


「…みーちゃん…アイツなんかより、ずっと優しいよ…」


”例の痛み”が!お風呂上がった時からずっとずっとしていたのに!


にも関わらず!!



「…みーちゃんが、お隣でよかった…」


私という大バカは、ホイホイとドアを開けて、女を自室に上げて、ご丁寧にお世話した挙句…!



「みーちゃん、男の人だったら、もう、速攻好きになっちゃうな…


 あ、でも…女でも、いっか♪」




・・・ほーら、またしても、この通〜り!!



「みーちゃんはさ、女の子同士とかアリな方?ナシな方?」

「・・・・・・。」







    嗚呼・・・私の大馬鹿野郎ーーー…ッ!!!





・・・そう。


実は…風呂を出てから、ずっと頭の奥がチクチクとずっと痛み続けていたのだ。


風呂でのぼせているせいだ、と私は自分を誤魔化していたが。


もう、そんな思い込みは、捨てるべき時だった。

チクンという痛みは・・・"女難のサイン"。


「…見るだけなら、アリですけど…自分ではナシです。」

「またまたぁ〜♪みーちゃん、女の人にモテるよ、きっと。」


余計なアドバイスはいいから、帰ってくれ…(泣)


自室に、女と2人きりなんて、危険以外の何モノでもない!


早くなんとか…伊達さんを隣のお部屋にリバースしなければ…


もしくは…



”ピンポーン!”


玄関のチャイムが、鳴り響いた。



・・・グッドタイミング!!

まだ、私は幸運がある!!


「伊達さん、ちょっと、すいません…はーい!今出まーす!」

私は、背中の伊達さんを引き剥がすように、玄関に駆け出していた。


この際、新聞の勧誘でもなんでもいい!

今なら…怪しい浄水器の説明でも何でも聞こう!!


”ガチャ”


扉を開けた瞬間。



・・・私は、また自分のバカさ加減に、呆れる事となる。



「こんにちは、水島さん。近所まで来たものだから、来ちゃった♪」


「ごめんなさいね?突然お邪魔して…あの…私はその…

 この間のお礼どうしても言いたくて…」


「ま、そういう事なんだけど、あたし含めて、3人くらい上がっても大丈夫よね?

 水島の部屋、なんか何にもなさそうなイメージあるんだけど。」



「・・・・・・・・・。」


私の目の前には、”阪野 詩織” ”花崎 翔子” ”城沢 海”


…の美女3人が、笑顔で立っていた。



頭痛がピタリと止んだ。


『はい、これで本日の女難、全て揃いましたー♪』とでも言うように。






「みーちゃん?…あれ?お客さん?」


部屋の奥から、足音が近づいてくる。



(伊達ー!!出てくるなー!!頼む!)




これ以上!ややこしいのはゴメンだーーー!!!




「「「み、みーちゃん!?」」」


3人は、綺麗に声を揃え、私を凝視し…

私は、あまりの状況に、魂がスーッと抜けていくような感覚を覚えた。



       現在の水島家の人口分布



  女難の水島さん1名 + 水島さんに好意をよせる女性4名。



    ・・・計 女性 5名・・・以上。



「…えーと…こちら、単なるお隣の、伊達さんです…。」


「伊達 香里(だて かおり)です♪みーちゃんの知り合い?」


単なるお隣さんの伊達さんは、ニコニコと私の腕を取りながら、紹介してよと促した。


私は、チラリと3人の顔をみた。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」



女同士だからこそ、露骨にわかる感情。


空気を読めない私ですら、感じ取る事の出来る・・・殺伐としたこの空気。



私の玄関は、今『戦場』だ。



「…こちらは…あの…会社の知り合い、です。」


私が無難に、紹介をする。



ーと、花崎課長は、私の腕に通った伊達さんの腕を引っ張り、握手をした。


・・・随分、強引で・・・不自然な握手(?)だ。


「花崎です、水島さんとは”同じ”会社で毎日、働いてます。」


・・・何故、強調するかな・・・確かに同じビル内だけど。


続いて、阪野さんが、不自然なくらいの笑顔で挨拶をする。


「会社で水島さんと”親しく”してます、阪野です。」


・・・だから、何故、強調するかな・・・まだ親しくなってないし。


そして、仁王立ちで偉そうに海お嬢様が、口を開いた。


「私は、水島に命を助けられた、そういう”深い関係”の!…城沢よ。」



・・・だから何・・・ああ、もういいや・・・ツッコむの疲れた・・・(泣)





彼女達は、不気味な笑みを浮かべながら、私の部屋で、テーブルを囲んだ。


一人暮らしを始めて、我が家の人口が、こんなに増えた事等、未だかつてない。



「えーと…コーヒーと紅茶・お水、どれになさいますか?」


私は、まるで、喫茶店のウェイトレスのように聞いた。

すると、阪野さんがすばやく片手を軽く挙げて言った。

「あぁ、手伝うわ。水島さん、一人じゃ大変でしょ?」

「え、いや…別に、大丈夫です。」



そして、阪野さんの発言を筆頭に

「じゃ、あたしが」「いえ、私が」

という具合に、ウェイトレスは増殖していった…。


(…ああ、ややこしいなぁ…)


「あの…家の台所、狭いんで…何飲むかだけ聞ければ良いんですけど。」


「じゃ紅茶で」

と海お嬢様。

「コーヒー」「あ、私も」

社会人2名はコーヒー。

「統一した方が良いんじゃない?」

と言ったのは、一番統一から縁遠い伊達さん。


「いや、コーヒー飲めないの」

と海お嬢様。

「私、紅茶苦手で…」

と阪野さん。

「私はどっちでも良いんだけど、気分的に。」

と花崎課長。

「あ、カオ、二日酔いなんだった。みーちゃん、水ね。」


(・・・はい、ご注文繰り返しまーす。)

 ※ 現在 あまりの状況に、水島さんのツッコミ機能は、OFFとなっています。ご了承下さい。


「…えーと…海ちゃんが紅茶で、阪野さんと花崎さんがコーヒー、伊達さんがお水、と。」


私は、ひたすら窮屈な思いで、台所に立ち、やっと”コーヒー”と”紅茶”を入れた。

…普段は使わない数のカップを、並べる。


「水島さん、ケーキとか大丈夫?ロールケーキなんだけど。」

と花崎課長が、箱を手にやって来た。


(…あ、コレ…”ヴィーナス”のフルーツケーキだ。)


私は、この店のケーキは好きだったので、内心嬉しかった。

…そして、美味いのだが、高いのだ。

ここのケーキは。


「あ、すみません。わざわざ、ありがとうございます…皿とフォーク持ってきますね。」

「私も、あるんだけど…。」

と、すかさず阪野さんが私に差し出され、私は困惑した。

(あ…”ヴィーナス”…!)

…か、カブってる…!?

お土産が、カブるというのは、致命的に・・・気まずい。

「ありがとうございます…じゃこれも皿に…」


私は、お礼を言った。

…いや、確かに気まずいけど…ヴィーナスのケーキは、それに見合う美味さだ。


「あら、阪野さん”も”、ヴィーナス行ったの?」

「…クスッ……んーん♪良いの良いの。」

花崎課長の言葉にも、阪野さんは動揺する様子がない。

むしろ、勝ち誇った笑いを浮かべている。


私は、一応、箱を開けた。


あ…フルーツロールケーキより、お値段が高い”フルーツタルト”だ…

(…美味いんだよな…滅多に食べられないけど…)


私はチラリと、2人を見た。


「うふふふふ…花崎さんったら…

 リサーチすれば、何でも事が進むと思ったら、ダメよ?

 それを応用する能力がないと。」

「うふふふふ…覚えておくわ、阪野さん。

 でも、それ長時間持ち歩くと、タルトの部分が水気吸って、味が落ちるのよね?

 ご存知?」


一瞬の沈黙。

「うふふふふふふふふふふ…」
「うふふふふふふふふふふ…」



「・・・・・・。」


…こ、怖い…2人の笑顔の向こう側に…虎とか、龍とか…なんかうっすら、見えて怖い…ッ!!


「…ねえ、水島ー」

「な、なんでしょう?海ちゃん…」

今度は、城沢グループの孫娘様、海ちゃん(呼ぶ時は、ちゃん付けで呼ぶように言われた)だ…。


「はい、コレ、さすがのあたしも、手ぶらってワケには、ね。」

「…あ…ありがとうございます。」


私はやけに軽い紙袋を、海お嬢様(だけど、心の中ではお嬢様をつける)から渡された。

これは…おせんべい?

セレブな生活をしているハズのお嬢様から、おせんべいを貰い

私は、彼女は、意外と庶民派なんだなーと思っていた。



しかし、そうじゃなかった。


「…知ってる?”中野宮のえびせん”」

「いえ。」


突如、私の後方の2人の空気が変わった。


「…ま、まさか…あの…宮内庁御用達の…!?」

「…一日、50枚しか焼かないあの…えびせんを…!?」


驚愕の表情を浮かべる、阪野さんと花崎さん。


そして…海お嬢様は、勝ち誇った笑みを浮かべて言った。


「まあ…コレ、いつも食べてるし。

 美味しいものは、高かろうが安かろうが、私なら用意出来る…

 …みたいな……ね?水島♪」

「……は、はあ…。」


「でも…コーヒーにせんべいって…ねえ?花崎さん。」

と、阪野さん。

「そ、そうね…確かに、日本茶の方が合うわね。」

と花崎課長。

・・・どうやらこの2人、(一時的に)『平和協定』を結んだようだ。

「・・・う…そ、それは…。」


「「「う…うふふふふふふふふ…」」」


引きつった笑顔で、笑い合う女達。それを見る、女難の私。


(……この人たちは、一体、家に何をしに来たんだろうか…。)


私は黙々と、コーヒーと紅茶を入れる事に集中した…。


お土産で、ここまで気まずい思いをしたのは、生まれて初めてだ。


…この戦場…悲しきかな…私が最初から白旗を掲げても、狙い撃ちされるのは、私一人だけなのだ。



すると。


「何でも良いじゃなーい。要は、それ、全部美味しいんでしょー?」


伊達さんの”のほほん”とした一言に、3名は固まった。


・・・どーん。


私は、遠くで”地雷”の音を聞いたような感覚に襲われた。

(・・・オイオイ…伊達さぁん・・・)

伊達さん…頼むから、これ以上引っ掻き回さないで下さい…お願いだから…ッ!

そして、地雷娘の伊達さんは、これまた陽気に

「あ、みーちゃん。カオは、お水ボトルのまんまで良いからね。

 洗うのメンドイでしょ?」

と言った。


「・・・・はい。」

(面倒なのは、今、この状況だ…)


…こうして、我が家のテーブルには、並ぶ事のなかった複数のカップと、高級なケーキとおせんべいが、広げられた。



……気まずい。


人口がこれだけ多いのに、部屋には、TVの音だけが響く。


誰もが”何か”を探っている、そういう空気。


私は、一旦戦線を離脱する決意をした。



「…すいません、ちょっと…お手洗いに…」



”バタン”


私はトイレに、閉じこもると頭を抱えた。

家主が、トイレでしか安らぎを感じられない、異常な状況。


…このまま、閉じこもっていようか、迷う。しかし、このままでいる訳にはいかない。


…大きい方しているとか思われたら、ちょっと、恥ずかしいし。

 ※ 意外と乙女な部分も持っている水島さん。



そもそも・・・私の自宅の位置を、何故彼女達が、知っているのだろう。


それに・・・私がヴィーナスのケーキを買っているという情報だって…どこから…





『本日のわん子……17歳♪メス♪』


突然、部屋から聞いた事のある台詞が聞こえてきた。



・・・・・・・・・こ、この音は・・・!!!



『私、わん子…人間で言うと、17歳…捨て犬なんですぅ…』



(間違いないー!その棒読み具合の音声はーッ!)



私は、その音声を聞きつけると、急いでパンツとズボンを履き、慌ててトイレのドアを開け、走った。


”ガチャ!バタン!ドタタタタタ…!!!”



『今日から、私はアナタの犬です。…ご主人様ぁ…可愛がってねぇん?』

『よしよし、わん子…スキンシップだー』





「ちょっとッ!そのDVDは…!!」


・・・時すでに遅し。

私の部屋では、女子4名によるAV鑑賞会が、催されていた。


そして、私の姿をみるなり、4名は目で笑った。



それは…”貴女の意外な一面、見ちゃった♪”という目で。



「あ、みーちゃん…何か黙ってるの気まずかったからさー。

 面白いね、コレ♪棒読みで。」



……伊達ええええええええぇー!!貴様かあああああああ!!(泣)



「…水島さん、こういうの好きなんだ?」

阪野さんは、私のプレイスタイルか、何かを勘違いしたか、知らないが、口唇に指を当てて笑っている。


「いえ、あの違うんです!…犬がみたくて、勘違いで…ッ!」

(だあああああ落ち着け!私!!)


慌てれば、慌てる程、AVを故意に借りてきてしまったという事を、裏付けてしまう。


『あーん、ご主人様のエッチーぃ』

『あははは…こら、よせよー』



・・・お前ら、ホンッットにぶっ飛ばすぞ!!



「…水島さん、人間…時にはハメを外したい時だってあると思うわ…」

「…だから、違うんですって…」

花崎課長の優しいフォローは、ますます私を追い詰める。


「もう、消しますよッ!?」

私はDVDプレーヤーの電源に手を掛けたのだが

「……待って。」

まさかの”待った”が、掛かった。

海お嬢様が、私の手首をしっかりと掴んでいた。


「・・・え゛?海ちゃん?」

「水島、あたし、コレ観たい。」


(ええええええええええええええええ!?!?)


驚く私の隣で、海お嬢様は、食い入るようにAVを見ている。


……多分初めて見たんだろうな。



「別に良いじゃない、みーちゃん。 滅多にこういうの、女だけで見れないんだしー。」


(お前は黙ってろー!伊達ー!!)


「…確かに、借りる事も観る事もそんなに無いわね。」

「…そうね、たまには良いわね。」

「あ…モザイク入った。」




「「「どれどれ…うわぁ…」」」




「・・・・・・・・・。」



(……なんだ、コレ…なんだよ…もう…)


私の望む休暇は……もう、原型を留めてはいなかった。


とりあえず、私は、ソファに力なく座ると、タバコを吸った。


わん子のAVは、早送りされる事なく、流された。

…AVが終わり、女達は、感想を言い合う。


「やっぱり、女優と俳優の”棒読み”が、気になるわね…」

「AVだから、Hシーン以外は多分どうでも良いんじゃない?Hシーンだけ、妙に長いじゃん。」

「でも一応…最後のシーンは泣かせる演技でしょ?あの調子だと、雰囲気とか掴みづらいわねー…」

「…大体、なんで俳優も女優も、あんなに不細工なの?あたし、それだけが気になる。」

「「「…ああ、確かに。」」」

パーティーというか…ただのAVサミットのようだった。

「水島さんは?ああいうのが好みなの?」

「いえ、男も女も…全然、違いますね…あははは…」

私は、力なく答えると、何故か女達は、安堵の表情を浮かべた。


そして、AVの感想を言うだけ言って、女達は……帰って行った。



夕焼けをぼーっと力なく私は見ていた。


(なんだったんだろう…この休日は…)


私は、気を遣いすぎたのが、災いしてか、力尽きて、ソファに寝転がっていた。



「みーちゃん。」

「……あぁ…伊達さん、まだいたんですか…」

ソファに横たわる私の顔を、伊達さんは覗き込んでいた。


「食器、洗っといたから。」

「……あ、それは…どーも…。」

「…ねえ、みーちゃん。」

「……水島って呼んで下さい。」


私には、起き上がる元気もない。

伊達さんは、そのまま続けて言った。


「…私、圭ちゃんと別れた。つい、さっき。…『このクソ女!』って言われちゃった。」


そう言うと”あんなの好きだったなんて、ホント情けないわ”と伊達さんは笑った。

子供みたいに無邪気に笑った。


自分の事を”カオ”と呼んでいたのに、”私”に変わっていたのも気になった。

…もしや、男の…圭ちゃんの”趣味”だったのだろうか…?


いや、今となっては、どうでもいいことか…。


「…みーちゃんのおかげだよ。私、バカなのは相変わらずだけどさ。すごく今…スッキリしてる。

 それに…すごく嬉しかったよ、みーちゃんの言葉。」

それは本当に、スッキリとした表情だった。

「……。」

私は、何も言い返さず、黙って彼女の笑顔を見ていた。

(そりゃあ…良かったですね…。)

と心の中で呟いた。


「じゃ、私…帰るね。」

「あ、はい…」


私は、さすがに起き上がって、伊達さんを見送るため、後ろについて歩いた。

玄関のドアに手をかけて、伊達さんは振り返った。


「みーちゃん。」

「…水島ですって。」


それでも、伊達さんはニッコリと笑ったまま言った。


「…みーちゃん、ありがとう。」

その笑顔につられて、私も笑ってしまった。

「…お酒は、ほどほどに。」

私がそう言うと、伊達さんは嬉しそうに返事をした。

「うん♪」


思えば・・・油断していた、といえば、していたのだ。


伊達さんは、小さい体をフルに伸ばして、私の下顎にちょん、とキスをした。


「・・・・!!」


「あ、やっぱ、届かなかった…じゃあね〜」


”タタタタタタ・・・バタン!”


「……。」


私は、ゆっくりとドアを閉めた。


そして、ゆっくりと崩れ落ちた。



(…今日から、隣にも”女難”が増えた…という訳ね…)


こうして、私の休日(1日目)は終わった…。

2日目は、ふて寝と部屋の片付けで、終わり…




とうとう、ろくに休めないまま、月曜日がやってきた。






「水島くぅ〜ん」

オフィスに着くなり、メタボ…いや、近藤係長が私を呼びつけた。

「はい、なんですか?」

「おとといは、いい休日だったかぁい?」

「いいえ。」


私は即答した。

心の底から、あれは休日じゃないと思っている。


「アレェ?花崎さんと阪野さん、キミの家に行かなかったのかなぁ…」



・・・・・・・・・・。



「係長、もしかして…私の自宅の住所、教えたりしました?」

「いやぁ〜羨ましいよ、キミの家にどうしても、届けたいものがあるからって。

 だから、地図書いたんだよ。…で、何貰ったの?」


・・・・・・・・・・・・。


「…いえ、別に。係長…お茶、淹れましょうか?」


私は、笑顔で係長に言った。

嬉しそうに近藤係長は、頼むよと答えた。


私は、給湯室へ向かった。



(…個人情報保護法もクソもあったもんじゃないわね…)


「ああ、引っ越そうかな…」


ポツリと私は、やかんに向かって呟いた。

やかんはそれに”ぴー”と答えた。




そして…近藤係長は、私が淹れた”雑巾の絞り汁入りの緑茶”を実に美味しそうに飲んだ。





ー水島さんは休暇中・・・ENDー








あとがき


AVに始まり、AVでオチ…という、完全に大人向けの作品になってしまいました。

こりゃ、笑えないかな…とか思ってます(苦笑)


3つ巴どころか、4つ巴の乱戦もあったり、なかったり…


”わん子〜”のAVの内容は、私がなんとなくAVなんぞこういう感じだろ、という風に考えたものです。

現実に借りようと思っている方、そんなものありませんからね(殴)


今回は特に登場人物が多いので、ホントに長かったです。

しかし…折角の休暇中だし、このくらいの目に遭ってもらわないと…(ニヤリ)


毎回書き上げてから思うのですが。

『よく水島さん…受け入れられてるなぁ…』としみじみ思います(笑)



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