I love …
―3―
…あれから、いったいどのくらいの日が過ぎたのだろう。
「アルムレディン!」
そう彼の名を叫んでから、今の今まで再び彼に出会う機会は無かった。
自分の魔力も、日に日に上達してきているのが何となく分かる。
それなりの魔力をつけ、キールがある程度の準備をすれば、あとは頃合いを見計らうだけ。
そうしたら、
あたしは、多分、帰れる。
あたしの世界へ……。
胸の奥がひどくうずく。
帰りたかったはず、なのに。
理由は、分かっている。
「もう一度、会いたいよ…」
研究員の小さな窓から、空を見つめ呟いた声は、吹いてきた風にすぐさまかき消された。
「…なんですって!?」
暗闇に染まった研究員の一室に、あたしの声が響き渡った。
キールは顔をしかめて俯く。
「…だから、…話したとうリだ…」
「とおり…って…。 何でディアーナが!? そんなの、ただの政略結婚、人身御供じゃない!?」
「…そうだ。」
あたしがまくし立てて言うと、キールは頭を抱えて言った。
事のおこりは、結構前からだ。
今あたし達のいる、このクライン王国と、隣りの国、ダリス王国の間は次第にきな臭くなっていた。
そして、今、クラインとダリスの争そいを鎮める為に、あろうことかディアーナがダリスの王様の所へ嫁ぐという。
おまりといえばあまりな話だ。
だって、ディアーナには、好きな人がいるんだよ。
もうずっとずっと前から。
前にその話をディアーナに聞いた時は、へぇーって感じだったけど。
今なら分かる。
ディアーナの気持ち。
ずっと、ずっと会えなくても、想い続けていたその気持ちが。
それなのに、
どうして―。
「…仕方、なかったんだ…」
キールは唇をかみ締めながら言った。
何も、できないんだろうか…。
あたしには、何も…。
肩を落としながら、あたしは手近なテーブルにもたれかかった。
ディアーナは、今どうしてるんだろう―。
…、そうだ、当のディアーナは…!
「ディアーナは、ディアーナは今どこにいるの!」
怒鳴る勢いで問いかけると、キールは面食らった顔をして顔を上げた。
「…今朝早く、出発した。 …そろそろ国境あたりだろう」
つまらなそうに、キールは言った。
そっか…。
もう、行っちゃったのか…。
「挨拶くらい…して欲しかったな…」
ぽつりと呟くと、キールは寂しそうに瞳を向けた。
「…友達だと、思ってたのに…」
あたしは思わずキールから視線を外し、また呟く。
「…メイには…言うなと言われていたんだ。 …メイに言ったら、本気でダリスと戦争になっちまうって、な」
言いづらそうに、苦笑まじりに、キールは言った。
あたしは、その言葉に、ただあいまいな微笑を浮かべる事しかできなかった。
「メイ、いますか!?」
数分たったかたたないか。
突然飛び込んできたのはシルフィスだった。
「…どうしたのよ?」
血相変えて息を切らしまくるシルフィスに、思わずあたしは問いかけた。
「…た、大変なんです。 …時間がありません、とにかく一緒に来てください!」
「へ!? 何いきなり、行くってどこに!?」
「……ダリス王国です」
「…イテテテテッ…! あぁもぅ、馬車って乗り心地サイテ〜」
「ただでさえスピード上げているんですから、仕方ありませんよ」
着の身着のまま乗り込んだ馬車に毒づきながら、あたしは訳も分からずシルフィスに同行していた。
事情は良く分からない。
でも、これだけは確かだ。
何か、あったんだ。
ダリス王国との間に。 何か。
「…それで、そろそろ説明してよ」
頃合いを見計らって、あたしはシルフィスに問いかけた。
「…それが、私もさっき聞いたばかりなのですが、どうやらダリスには今の王に反発する勢力があり、それがなんと正当な王家の血筋のものを筆頭にしているそうです」
「…はっ? 王様って…たしか戦争しようとしてる、すっげーやなヤツって…」
「王ではありません。 王子です」
「…王子様…」
なるほど、パターンが読めてきた。
よくファンタジーにありがちなヤツ。
国を追われた王子様ってヤツだ。
シルフィスの説明は淡々と数分にわたって続いていた。
「なんでも、今、表向きには盗賊の首領だそうで…」
「……」
そこまで聞いて、何故か胸がざわついた。
良く分からない。
いやな、予感がする。
「……名前は、…アルムレディン=レイノルド=ダリス陛下です」
………。
シルフィスが何を言ったか理解するのには、時間がかかった。
なんて言った?
今、なんて…。
アルムレディン…。
だってそれじゃ、あいつと同じ名前…。
そういえば、前に感じた事があった。
王子様みたい…って。
でも、
まさか…。
「……もしかして、その王子様って、……金髪で、青い目の……」
あたしは何とか声を絞り出した。
「……え? たしか、そういう外見だと伺いましたが…、メイさん、お会いしたことあるんですか?」
シルフィスは不思議そうに答えた。
次々と記憶の断片が合わさっていく。
アルムレディンが昔あった、女の子。
ディアーナの初恋の王子様。
エピソードも時期も、ピッタリじゃん…。
あたしは、呆然と肩を落としていた。
…なんで、気付かなかったのか…。
気付いていれば、ここまで気持ちが高まる前に、さっさと諦められたかもしれないのに…。
いやだ。
いやだよ。
もう、手遅れだよ…。
ディアーナに、これから、どんな顔して会えっていうの…。
「…アルムレディン…」
あたしは無意識に、その名を呟いていた。
メイ×アルム第3話でした。
…結局、全4話ということになってしまいました(^^;
うーん、前、中、後編にしなくて正解でした!(爆)
切ないメイちゃんって、やはり好きですね〜。
いつもチャッキチャキなだけに、かわいい気がして…。
妄想突っ走りまくりで、書き上げてしまいました☆
ちなみに、ディアーナのイベントのはしばしはかなりなうろ覚えなので、そこかしこ思いっきり怪しいです。(汗)
…メイかシルフィスが密偵行ってくれるイベントって、あったような気もしましたが、よく分からないので触れませんでしたし(汗)
…アルムの設定も合ってるんでしょうか…?
ま、まぁ、そんなわけで、どうぞ寛大に見てやってくださいな♪(爆)
次はラストなわけですが、
ハッピーエンドになるかどうか、今だに悩み中だったりします(汗)
…メイがハッピーということは、ディアは…ということで……。
ではでは。
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